#89 【兄妹演技】作戦開始。
◇◆◇ワプル村【兄妹演技】作戦開始の朝◇◆◇
早朝からモルドーに起こされた俺とメルは、作戦に関する注意事項?というか、注意人物の話を聞かされた後に集合場所である西の森へと向かった。
西の森へ着くと、念には念をとテスタントから何度も確認した作戦の内容を執拗いくらいに刷り込まれることに。
それから解放された後、余った時間で人型になった俺の姿を披露した訳だが、普通の人族と比べて異質な俺の姿に興奮したミハエルに「ほぅ!!耐久力はルベルアのままか!?」と試験的にぶっ叩かれ、吐きそうなくらい痛い思いをさせられた。
人型の時はえぐいくらい痛覚があるから駄目だって言ったのに……。
で、不貞腐れた俺はもうフスカに向かってしまおうと考えたけれど、出発する前にもう一つ確認したいことがあったんだ。
『なぁ、アーマス。ちょっとこっちに』
「ルベルア?わざわざ皆から離れて……まさか、やらしい事ならお断りですよ?」
『するか!別れる前に聞きたいことがあってさ』
「はい?俺に分かる事なら」
『村の子供達は俺の素晴らしさを理解してくれたか?』
俺の事を影で【変態王】と呼んでいた村の子供達。その誤解を解いてもらうべく、アーマスには村の子供達に俺の素晴らしさを教えてやってくれと頼んだのだ。
ところがどうだろう。ここに来るまでの間、未だに村の子供達がヒソヒソと変態王呼ばわりしているのが聞こえたし、俺と目が合いそうになっただけで血相を変えて逃げ出した。
そう、明らかに前より嫌われているのだ。と言うか、俺に対して怯えているのだ。
村の皆も、さっきミハエル達の前で披露した時まで俺の人型と透明化を見たことは無い筈だし、他に村の子供達の様子を変えてしまうような事もしたつもりは無い。
思い当たるのはアーマスだけという訳だ。
「ああ、その事ですか。ちゃんと言い聞かせておきましたよ」
『うん、ありがとう。で、なんて言ったんだ?』
「ルベルアは皆が思っているような者じゃない!その気になれば一瞬でワプル村を更地に変えてしまうくらい凄い力を持っているんだぞ!ってね!」
マジかコイツ。嘘じゃあ無いにしろ、子供達はそんな恐ろしい事を聞かされたのか。この際ウソでも良いから優しい妖精さんだよって言っといて欲しかったわ。
いや、アーマスと俺はまだほとんど付き合いが無い、そんな相手に“俺の事を話してくれ”と頼んだのが間違いだよな。
『それで……子供達はなんて?』
「最初は信じてもらえずに笑われました。ですから、俺のガーディアンフォースとマジックシールドを見せてあげたんです。好きに攻撃してみてくれ!とね」
『ほぅ』
なんの為にそんな事を。
「子供達がヘトヘトに疲れた頃を見計らって言ったんです。堅いだろ!だがな、変態王はこれの何倍も力を込めてある魔法を飴細工を噛み砕くかのように容易く壊したぞ!とね!」
『ほぅ?』
っていうかお前が変態王って言っちゃってる時点で俺の願いが破綻してるんだけど。
「その甲斐もあってか、ルベルアの凄さを理解してくれた子供達は体をゾクゾクと震わせながら興奮してましたよ」
『ほぅ』
それ、ただ単に怖くて震えてただけじゃない?
「終いには“変態王を怒らせると世界が滅ぶ!もう変態王なんかじゃない!変態大魔王だ!”と歓喜して帰っていきましたよ」
『ほ、ほぅ……』
それ、完全に悪化してるねぇ。大魔王になっちゃってるもん。変態的な方向で出世しちゃったよ。
「かなりの手応えでしたからね、俺も一生懸命に話を聞かせた甲斐があったというものですよ!」
『……ほぅ』
そんなに目を煌めかせて言われても、改めてお礼を言う気にはならないんだが。
「いつか兄妹演技作戦に関する秘密も時効を迎えたなら、その時は世界中にルベルアの凄さを教えてあげますよ!そうだ!その為にも文字にして残しておかないと!」
『頼むから止めてくれ』
「えっ?」
『じゃあ俺はメル達の方に戻るけど、他の誰かに変態大魔王の話を聞かせたら、アーマスを飴玉みたいに噛み砕いてやるからな!』
「ハッハハハハ!ナイス!!」
なにが!?
何が面白かったのかは全く分からないが、アーマスが出来そうな顔の割にド天然だという事はよ~く分かった。
以後何かを頼むことがあれば、事前の説明には気を付けるとしよう。
さて、無駄に時間を引き伸ばすとまたアリエスあたりに怒られそうだし、サクッと出発しちゃおうか。
「ルアさぁあああああんっ!!」
俺を呼ぶ声。この衝撃波さながらの大声は、ウチの可愛いメルで間違いないが、俺がなかなか出発しないから急かしてるのかな。
それとも、出発すらしていないのに寂しくなっちゃったのかな?全く、まだまだお子さまなんだから。
そうだ、メルの寂しさを減らす為に分身でも作って持たせてやるか。
まず、お腹の辺りから千切り取った影を、こう、粘土みたいに形作って……と。出来た!移動しながら作業したから少し不恰好になっちゃったけど、まぁ良いだろ。
縫ってないから“ぬいぐるみ”とは呼べないが【ミニミニルアさん】ってやつだ。
メルの周りにはユクスや、テスタントを除いた天使達が集まっており、「耳が消し飛ぶかと思ったぞ!」やら「王が悪い。メルの近くに居るときはいつでも耳を塞げるようにしておくべきだろ」などと言い合っている。
『メル、どうしたんだ?行く前にギュッとして欲しかったのか?』
言いながら、少しばつが悪そうにしていたメルの頭をポンポンと撫でる。それが嬉しかったのか、顔を赤らめ体をくねらせたメル。
「えっとね、さっきレコード・ルーラーさんが来て、早く向かわないと、ベクールからの調査隊が先にフスカに着いてしまいそうだよって」
『なるほど。ちなみにユクスの【千里眼】でも調査隊ってやつらの動きは追えるのか?』
「いえ、妾の能力は前提条件として対象は一定以上の知能を持った生物であり、その対象を一度実際に見る必要がありんす」
『知らない相手には使えないって事か』
「はい。その上で一度に一つの対象しか見られず、会話を聞くこと等も出来ぬので、少し難儀にございんす」
『そうか。十分に凄いスキルだけど、万能って訳じゃ無いんだな』
「例外として、対象の側に居たことで偶然に千里眼の視界に入っていた者ならば、そのままそちらを対象として見る事は可能でありんす」
『例えばどのくらいまでが視界の範囲になるんだ?』
「例えばいまルベルア様を見たならば、メルや天使の皆様は視界に入りんすが、エリス達は範囲外となりんしょう」
エリスの近くにいるのはモルドーや村長、ローグ達にテスタントだ。目測でここから五十メートル弱の位置。そこから考えるに、ユクスが使う【千里眼】の視界範囲の直径は約三十メートルと言ったところか。
「ふむむ。なんとなく分かったよ」
「はい」
『さてと、レコード・ルーラーがどこぞでヤキモキしてるかもしれないし、俺とユクスは調査隊の到着をフスカで待つとするよ』
「うん!ルアさんもユクスさんも気を付けてね!」
『おう!何かあれば強制的に俺の事を引っ張っても良いからな』
「メル達も十分にお気をつけくんなんし」
「二人ともありがとう!でも、ローグの皆やリエルも一緒だから大丈夫だよ!」
リエルは一緒じゃない方が大丈夫だと思うけどな。
それにアーマスは天然だし、レイアは面倒臭がりな感じだし、ミナはお金にしか興味が無さそうだし……って、本当に大丈夫なのか?
んん、まぁ、ヤハスが何とかしてくれるのを期待しよう。
『ああ、そうだ!これを渡しておくよ!』
「うん?なぁに?この黒いの……」
『それはな、メルが寂――』
「あっ!ルアさんの影だね!ありがとう!大切に使うから!」
俺から【ミニミニルアさん】を受け取ったメルは“大切に”と言いながらも、躊躇なく両手で【ミニミニルアさん】を押し潰し、何事もなく華奢な体へと吸収して見せた。
俺の……ミニミニルアさん……。大切に使う、とは一体どういう意味を持つのだろう。
まぁ、どうでも良いか。
『じゃあ、またな!次に会う時は敵としてだぞ!クハハハ!』
「えへへ、もう!」
こうして俺はメル達と別れ、フスカを目指したのである。肩に一羽の小鳥を乗せて。




