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#88 キグ。

 覇王歴千三百九十一年・年の折り返しを過ぎて間もない頃の一日が終えようとしていた。

 ◇


 ◇◆◇伝信翌日の朝。東の大国・ベクール◇◆◇


 ◇

 堀囲いが施された中央高台に堂々と建てられた王城。


 その眼下、高台の周りをドーナツ状に囲んで広がる城下町は同系統の施設ごとに区画がされている訳ではなく、全方位にあらゆる施設が混在して立ち並ぶ。


 そういった街並みから、初めて訪れた旅人や移民達にとっては自分の目的に合う店を探しにくい少々不親切な作りとも言えるが、ベクールでの生活に慣れた後にも、素敵な穴場と出会える新鮮さは醍醐味(だいごみ)の一つとなっている。


 大きな施設には、ベクール総合学園やローグ・ライフのギルド会館、運動公園や闘技場(コロシアム)などベクール王政公認のものや、奴隷オークションや裏(闇)・ギルドなどの非公認、もしくは黙認の施設がある。


 個人経営の各商店など小規模のものになると、さらに多種多様に存在しており、例を上げればキリがない。


 扱っている品物は衣服や食物が主だが、モンスターからのドロップ素材、その中でも希少価値(レアリティ)の高い物を売買している店や、魔石を専門に取り扱う店なんてものまである。


 強大な力を持つ黒き鳥ノ王が近隣で不穏な動きを見せているという情報が入って以来、平時よりは減少したものの、人々の往来も多く、街全体の活気は高く維持されている。


 わいわい、ガヤガヤといった音が耳を打ち、住宅地以外で閑静(かんせい)な場所を探すのが難しいほどだ。


 そんなベクールだが、今朝は各所に点在する掲示板に貼り出された速報の便りに対する話題がそこかしこで持ち上がっている。


 ベクール王政から出された便りの内容は【黒き鳥ノ王の討伐が完了した可能性有り。詳細は確認しだい追って知らせる。】という簡素なものであったが、先日レコード・ルーラーからの声があったことで信憑性に疑いを持つ必要が無かったぶん、人々の関心が集中したのだ。


「おい、黒き鳥ノ王を倒しに向かったのは、たった四人なんだろ?四人で人族の精鋭と呼ばせるなんて凄いよな!」


「知らないのか?【聖神】ヤハス様が参加してるんだから、その時点で人族の精鋭だって。後、あれだろ?ここいらで活躍してる【博芸】と【炎姫】」


「マジか!俺は見たこと無いけど、二人とも美女らしいから、ヤハス様が羨ましいな」


「討伐に向かう馬車を見た人はアーマス様も居たと言っていたわ!あぁ、私も見たかったなぁ」


「お前ら……相手は黒き鳥ノ王だぞ。厳しい戦いになるのが分かってるんだ、どんな美男美女が居ても討伐に行きたがる奴なんて居ないって。羨ましいなんて言うと(ばち)が当たるぞ」


「ヤハス様が居たって、ローグはたったの四人だろ?全員生きてるとは限らないよ」


「そんな不吉な事言わないでよ!」


「お前ら、知らないな?四人の他にもワプル村から討伐隊の応援が向かったらしいぞ」


「ベクールの兵団でさえ動かなかったのに、あんな農村から応援が出たのか?それが本当だとしても戦力なんかにならないだろ」


「どうだろうな。噂じゃワプルにもかなり腕の立つ村人が居るそうだぞ。それにレコード・ルーラーは天使族も共闘したみたいな事を言ってただろ」


「あなた、詳しそうね。もっと聞かせてよ」


 と、このような話が飛び交っているのだ。もちろん王城内部でも情報交換という名目で噂のやり取りが行われており、ベクール王もその例外では無かった。


正午に行われる会議を前に、密談をしていた。相手は側近として仕えている騎士・ムアーカである。


「フスカへ向かわせた調査隊は予定通りに出発したのだろう?まだなんの知らせも無しか?」


「ありません。本来であれば討伐隊がフスカへ到着するのが昨晩、もしくは今朝がたですので」


「だが、レコード・ルーラーの声が聞こえたのも昨晩。何か手を使い早くに到着し、戦闘を行ったのかとも考えたが、やはり難しいか……」


「あまり考えたくはありませんが、ローグ達が到着するより早く、天使族が黒き鳥ノ王の討伐を成功させた可能性も」


 ――ドン!!

「もしそうならばベクールの恥!奴らめ、ワシの顔を泥まみれにするつもりか!」


「そう決めるにはまだ早いですが……所詮はローグ、無責任な連中ですからね」


 慎重なベクール王は討伐隊をフスカへ向かわせた翌日、調査隊に後を追わせていたのだ。


 調査隊がフスカへ到着するには討伐隊が雲海の谷での戦闘に入っている事を見越しての派遣である。そのタイミングで優勢・劣勢を判断出来れば余裕を持って軍を動かす事が出来ると考えたのだ。


 調査隊を任せた兵士には「早くに戦闘が終われば途中で討伐隊のローグと出会う可能性もある。その場合、隊から二人を選び、その知らせを早急に届けさせよ」とも命令してあった。


 それを受け、調査隊を任された兵士はフスカまでの道のりの要所要所(ようしょようしょ)に待機組を作れるように調査隊を編成し、知らせに戻らせる際は駅伝方式で、遅くても三日以内で王城まで戻れる体制を整えている。


 つまり、ベクール王はこう考えたのだ。


 予定到着日よりも早く黒ノ王討伐を匂わすレコード・ルーラーの声があった。


 と言うことは、討伐隊のローグ達は何らかの手を使い、予定よりも早く到着し、討伐戦に加わった。もしくはローグ達が到着するよりも早くに討伐戦が終了した。この二つのどちらかなのだ。


 だが、前者ならば後を追った調査隊が城に向かって知らせを走らせている筈である。それが来ない事から、前者の線はかなり薄い、と。


 実際はと言うと、フスカに向かう途中の道脇で夜営の準備をしていた調査隊は、ローグ達に用済みにされ、帰り路についていた御者(ぎょしゃ)と遭遇した。


 しかし、用済みとなった理由が【炎姫】の馬車嫌いだと聞き、馬車を使わずにフスカを目指すならば予定より日数が掛かると判断。


 仮にローグの脚が馬並みに早かろうとも討伐予定日数は変わらない為、知らせの二人を走出立させるのを翌日と決めたのだ。


 ヤハスのヒールにより休憩なしで走り続けたローグ達が馬車を使うよりもずっと早くフスカへ辿り着くとは露知らず。


 その晩、レコード・ルーラーからの声に青ざめた調査隊隊長は翌朝、大慌てで知らせの二人を王城へ走らせ、先見隊を向かわせたフスカへと、自らも急いだのだった。


 フスカへの先見隊が荒れ地となった村跡を目の当たりにし、知らせの二人が王城へ辿り着くのは、それよりさらに次の朝となるのだが。


「ふん。とにかく情報が必要だ。三流貴族から不満が出ぬよう、各兵団にはいつでも動けるよう準備を怠るなと言っておけ」


「はっ!」


「ムアーカよ。一つ尋ねるが、万一(まんいち)ワプルが力をつけ、天使と手を組みベクールの転覆を狙ったとして、イーストランスならば阻止できるな?」


「勿論です。陛下のご期待通りの働きを約束します」


 ◇


 ◇◆◇


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