#86 都合が良イ。
はてさて、明日からの作戦は上手くいくかな?いかなきゃマズイんだけどね。まぁ、みんなが居るから大丈夫か!
『うし!俺達も帰ろうか』
「まだだよ」
『ん?』
メルはまだ帰りたくないのか?
まさか、ついに俺と一緒に歩くのが恥ずかしいと思う時期に!?反抗期は突然に!?確かに思春期真っ只中で悪魔のお兄ちゃんと歩くのは抵抗があるかもしれないけど、あまりにも急過ぎるだに!!
お兄ちゃん離れなんて、俺はまだ認めないぞ!
『メル、寂しい事を言わないでさ、一緒に帰ろうぜ』
「寂しい事?一体なんの事か分からないけど――」
「ルアさん!」
ん?メルの言葉に被せて俺を呼ぶ声。
目を向けた先には、頬を膨らませたリエルが居る。
なんだこの顔。なぜか怒っている?いや、リエルの事だから木の実でほっぺが膨らんでいるだけか。
『リスの真似か?なかなか可愛いぞ。じゃあ、またな』
「違うよ!怒ってるの!メルはちゃんと話そうとしてくれてるのに、ルアさんは逃げるの!?馬鹿!変態!変態王!」
変態って二回言った!?
『えっ?』
「見えないけどルアさんがいる!とか急いで行かなきゃ!みたいな雰囲気でメルが行っちゃったっきり、ずっと心配してたんだから!」
「ごめんね、今きちんと話すから」
「メルは良いの!アンポンタンはルアさんだよ!」
俺への悪口、バリエーション豊かすぎだろ。でもそうか。そう言えばリエルには後で話すからって言って東の湖に向かったんだったっけか。
まぁ、実際に言ったのは俺じゃなくてメルなんだけど。
アリエス達が宿屋に帰らないのが不思議だったが、天使全員が残ってたのはリエルと一緒に説明を聞く為だった、と。
『悪い、すっかり忘れてた。事情は話すからさ』
「ふんすっ!村の皆が居る前では言いにくいのかな?と思って聞くのを我慢してたのに、帰ろうとか言い出すんだもん!ありえない!本当にありえない!!」
そんなに眼と顔を真っ赤にして、どんだけ怒ってらっしゃるの。まぁ、眼はいつも真っ赤だけれども。
怒っている人を前にして不謹慎とは分かっているけど、相手がリエルなだけに怒った小動物を見てるみたいで面白可愛いから少しにやける。
だが、どういう訳か、俺がにやけると周りの顔が強張るから程々にしておかないと。
『ゴメンって。あの時は焦ってたから説明をする時間が無かったけど、メルやユクスのお陰で解決したから気にしてなかったんだよ』
「もう!次大事なことを忘れたら手足を引き千切って佃煮にしてもらうからね!メルに!」
おい!なんて事を言い出すんだ!メルを一体何だと思ってるんだ!?
「ちょっとリエル!私、そんな事しないよ!」
『ああ、いくらメルでもそこまでしないぞ!』
「ちょっとルアさん!その言い方もやめて!」
『おっとすまねぇ!で、透明になった理由だけど、どうやら元々ラピスラズリと俺が偶然同化していたらしくて、その同化がこれまた偶然解けたのが原因だったみたいでな』
「ふぅん…………えっと、そう?うん、もう解決したなら安心だね!」
あっ!リエル、全然分かってなさそうなのに、面倒になって考えるのを止めたな!?とはいえ、簡潔な説明だけで良しとしてくれたのは幸運だ。
『おう、メルやユクスの助けを借りて解決したよ。この腕輪を外せばまた透明になれるけど、やってみせようか?』
「いい!いい!いい!やらなくていい!変態!!」
『ほう、さてはアリエスに変態王と吹き込んだのはリエルだな?』
「いいや、ルベルア。確かにリエルからも話を聞いたが、お前にぴったりの呼び名はアーマスから詳しく教えて貰ったんだよ」
『やっぱりアーマスが絡んでたか!まぉ、別に良いけどさ』
「良いの!?私、お兄ちゃんが変態王だなんて嫌だよ!?」
「うむ。友人が変態王となれば、余の天使王としての威厳も失われるやもしれぬな」
『なんで変態王が採用される前提なんだよ。俺が“別に良い”って言ったのは、本当は俺が変態じゃないってことを皆が分かってるからって意味だよ』
「変態であろう」
「どうみても変態だろ」
「ルアさんは変態なんです!」
『ああ、はいはい、俺は変態ですよ。じゃあ今度こそ帰るからな!』
これで心置きなく帰れるぞ。と思ったのも束の間、筋肉ゴリゴリで強面のミハエルが、柄にもなく名探偵が如く秀才面で“今度こそ”の帰宅コールを台無しにして話を切り出した。
「まぁ待てルベルアよ。ラピスラズリは元より余が手渡した物。どう原因となったのか、もっと詳しく聞かせてみよ」
少し手間だけど仕方がない。今回の件は相手を変えては同じ説明をしているが、この際だからミハエル達にも一から十まで聞かせておくか。
◇◆◇
『――という訳さ。この腕輪を外せば前みたいに透明な状態になる事も確認済みだよ』
「ふむ、なるほど。一応、嘘では無かったという事か」
『何がだ?』
「この村の生まれであるメルやルベルアにとっては面白くない話だとは思うが……。余がこの村を監視し、テスタントを使者とし差し向けたのは、かつて聞こえたレコード・ルーラーの声が発端だと言ったろう?」
『言ってたっけ?』
「うん、言ってたよ。初めてレコード・ルーラーさんが現れたときに話してたでしょ?」
「うむ。それは大まかに言うなれば、ハールバドムと近づきたければ【ワプルに注目する事】と【ラピスラズリを与える事】を実行せよ、というものだった」
『へぇー。まぁ、俺だって今までの話で、ハールバドムと無関係の存在じゃないって事くらいは理解してるよ。つまり、ミハエルがメルや俺と出会ったのが【ハールバドムと近づいた】って事なんだろ?』
「いいえ、ルベルア様。天使王が言いたいのはそこではありんせん」
「如何にも。早い話、レコード・ルーラーの声は其方らにとって都合が良すぎるのだ。余や黒ノ王を声で唆したのは暇潰しなどでは無く、もっと別の計画を企んでいるからだろう」
「ええっと、ミハエル様?それはつまり、レコード・ルーラーさんはまだ悪いことを考えてるって事ですか?」
「そうでは無い。そうでは無いのだが……」
「今日、妾が感じた違和感も天使王と同じでありんす」
「聞かせてもらおう」
「妾にラピスラズリの加工法を教えたのはケイオス様。かの御方はラピスラズリと縁がなく、透明化する事も無かった故、ラピスラズリが幻魔族に与える効果を実際に見ることはありんせんでしたが、何故か妾にラピスラズリとの関係性と扱い方を教えてくれなんした」
「確かに理由なく教えたのであれば不可解であるな。だが、そうでは無かった」
「はい。現時点で考えると、まるで今までの声は此方側に力を与える為のものとも捉えられんす。別の計画もありんしょう。が、それが此方にとって悪い事かは分かりんせん」
「うーん、頭がこんがらがっちゃいます。けど、何となく分かりました」
『って言うか、気になるなら本人に聞いた方が早くないか?』
「えっ?それは、そうだけど、なんて聞けば良いのかな?」
「実は、ここへ来る前にモルドーやエリスと相談しんしたが、レコード・ルーラーの後ろに黒竜が控えている限り、皆の前で問い詰めるのは危険かもしれないという考えに至りんした」
「なるほど。ならば、黒ノ王が来る頃にはレコード・ルーラーが居なくなっていたから要らぬ心配であった訳か」
「じゃあ、レコード・ルーラーさんが話してくれるまではそっとしておきますか?」
『でも、曖昧なままにしておくのも気持ち悪いんだろ?百聞は一見に如かずっ言うくらいだし、聞いちまおうぜ!』
「それ、使い方が違うよ!?」
「そもそも用事があるからと出ていったのだ。呼び掛けに応じるとは限らぬぞ」
『まぁまぁ。レコード・ルーラー!どっかで聞いてんだろ!?恥ずかしがってないで出てこいよ!』
窓を背にした壁際、ギュッと歪む空間。窓枠や壁も空間と共に歪んだが、何事もなかったかのように傷一つない。
「やれやれ、人が気をつかって退場してたっていうのにさ」




