#85 号令。
「むぅあぁ……あふ。ふぅむ……む!?終わったか!?」
「はい、明日から作戦実行という事で纏まりました」
ちょいとお待ち!ミハエル、寝てたの!?
今日のミハエルはいつにも増して考え事に時間をかけるなと思ってたのに、寝てたの(二回目)!!?
テスタントがやたら話を終わらせたがっていたのは、アラーム代わりにされていたからか。全く、無茶苦茶な王様が居たもんだ。
「うむ!ではメルよ、号令だ!」
「はへっ!?号令、ですか?」
「うむ、ここに集まっているのは皆、我々の頭がメルだからと信頼して力を貸してくれている者達である!だからお主が号令を掛けるのだ!」
「号令と言っても、気合いを入れる為の掛け声と思って大丈夫ですよ。作戦名を言うだけでも問題ないかと」
突如として始まったミハエル節の勢いに、メルは圧倒され気味だ。それを気の毒だと思ったのだろう、助け舟を出すテスタント。
『ってか、そもそも作戦名を考えてないだろ?』
「はん。そんなの変態王討伐作戦で良いだろ」
『何でだよ』
今日のアリエスはやたらと変態王と口にしたがるけど、さては【変態王】ってフレーズを気に入ったな!?
村の子供達に何か聞いたのかな。その件はアーマスがどうにかしてくれた筈なんだけど、そうじゃないのか?
ふむ、後でアーマスを問いただす必要がありそうだ。
「ルアさんは何か良いのある?」
『単純に自作自演作戦ってのは?』
「えー」
「万一ベクール側に知られたら困るのに、自作自演作戦は堂々としすぎじゃないか?」
「トマスの言うとおりだ。もう少し捻った方が良いんじゃないか?」
『親方がそう言うなら別なのにしよう!』
「じゃあさ、仮にもルベルアとメルが戦う訳だから、作戦名は【兄妹演技】なんてどうだろう」
ダサッ!兄妹演技て!もっと格好良いのを考えてくれよ!自作自演と大して変わらんし!
「それは良いな!うむ、そうしよう!さぁメルよ、号令を!」
俺の感想とは裏腹に、モルドーの作戦名案を即採用したミハエル。作戦名を気に入った、というよりも面倒な会議を号令でさっさと締めくくりたい、といった感じだろう。
「自分達には殆んど出番が無いでしょうし、作戦名にこだわりはありませんよ」
ヤハスは子供の癖に本当に対応が大人なんだよな。
「正直、作戦名なんてどうでも良いニャ」
比べてミナは正直過ぎだろ。
俺だって内心はそう思ってるけど、それを言っちゃダメよね。だって、メルは作戦名を全員に向けての号令代わりとして叫ばなくちゃならないんだろ?
「ならば決まりであるな!さぁメルよ!皆の士気の上がる様な一声を頼むぞ!」
その作戦名を“どうでも良い名前”なんて言われたら叫ぶのが恥ずかしくなっちゃうもんな。と言っても、もう手遅れみたいだけど。
「え、ええっと……」
村人、天使、ローグ、集まっている全員が自然とメルに目を向けた。注目の的となっているメルは、緊張なのか恥ずかしさなのか、もしくはその両方か、耳の先まで真っ赤にして眼を泳がせている。
『そんなに気負わなくても大丈夫だよ。作戦名がダサいのはモルドーの所為だし、適当に叫んでくれたら俺達も“オーッ!”て呼応するからさ』
「ダサい!?」
「ルベルア、それを言ってしまうと今一つ締まらぬでは無いか!」
『実際そうだろ?』
「確かに!間違いでは無い!ではメルよ!」
さっきから何回目の“メルよ!”なのだろう。全く、メルも大変な役回りだな。
『ま、これも良い思い出になるだろ』
「えへへ。うん、そうだね。じゃあ、みんなにとって素敵な結果に繋がるように!」
『おうっ!』
「「「オオォーッ!」」」
メルの呼び掛けに応えた全員の声が一つに揃い、空気がドカンと大きく揺れる。集まっている人数は村全体からすると三分の一にも届かないが、それでも十分過ぎるくらいの掛け声が村に響き渡った。
アレ?今のが号令?もう終わったの?
「【兄妹演技】成功させようっ!!」
あっ、ほら!さっきのは号令の前の掛け声じゃん!
『っぉうっ!』
「ッッ!!きょうだ――」
「せいこ!?お、おうっ!」
「えおっ!?」
「ハッスス!」
どんだけバラバラだよ!!逆に凄いよ!!
みんなして、最初の時にやりきった感を出しちゃうからこうなるんだよ。
ミハエルだろ?「ハッスス!」とか言ってたの。号令をしろって言った張本人なのに、全然ダメじゃねぇか。
「え、えへへ……」
メルは熔けてしまいそうなくらいまっ赤っかだ。別にメルの失敗じゃないと思うけど、これは下手にフォローするよりも、敢えて触れない方が優しいかな。
『よし、終わったし帰ろうぜ』
「う、うん。みんなお疲れ様!明日からの為にも、今日はゆっくり休んで下さい!」
「見事にバラバラだったニャ」
おぉい!忘れてあげて!
「うむ。余とした事が、まんまとルベルアに乗せられてしまったな!ガッハハハ!」
え?なんで俺?
「そうねぇ!マーちゃんが変なタイミングで“おうっ!”なんて言うものだから、みんな釣られちゃったのよね!」
エリス?もしかして、そうなのか?号令がバラバラになったのって、俺の所為だった?
「しかも魔王サマ?の声の大きさね。あれは釣られるし」
レイアもそう思う?というか皆がそう思っている?
思い返してみると、確かに皆が叫んだのは俺が合いの手を入れた後。有罪確定でしょうか。
『俺の声、紛らわしかったかな?』
こっそりユクスに聞いてみる。と、ユクスは「はい」とうっすら笑みを浮かべながら小さく返事をした。
やっぱりそうなのね。メル、恥ずかしい思いをさせて悪かったな。どうやら俺の気合いが空回りハリケーンソニックしたみたいだよ。
『うーん。言われてみると、確かにバラバラだったのは俺の所為かも。クハハハ!メル、なんか悪かったな!』
「えっ!?ううん!私は何も思ってなかったよ!」
何も思ってないのに顔が真っ赤っかなら、それはそれで問題なんだけどな。本当に可愛い奴よ、グフフフフ。
「ふはは!良い良い!号令なぞ無くとも、メルとルベルアならば心配は要らんだろう!」
『じゃあ号令しなくても良かったじゃん』
「ノリだ!」
ノリか。ならしゃーねぇな。
「では改めまして皆様、明日からの作戦へのご協力宜しくお願い致します。休憩、準備の為に本日は解散と致しましょう。尚、何かあれば私は此処に居りますので、なんなりとお問い合わせ下さい」
「はい!」
「ふむ!ご苦労様ですじゃ!外はもう暗いからの、皆気を付けて帰っとくれのぅ!」
最後の最後は結局テスタントと村長のジジイが締めるんかい。
集まっていた村人達は腰をあげると、ガヤガヤと周りの人と言葉を交わしながら教会の外へ流れて行く。モルドーとエリスもその人波と共に教会を後にした。
ミハエルとテスタントは教会に残り、他の天使とローグ達は宿屋に戻るのだろう。
個人的にアーマスから聞きたい事があったのだが、他の連中と一言二言話しているうちに、ローグ達は既に居なくなっていた。
まぁ、いつでもいいか。
一つ気になるのは、いつもなら真っ先に宿屋へ帰るアリエス達が、ローグが出ていった後も珍しくまだ居残っている事だ。機嫌が悪くなる前に早く戻れば良いのにさ。
はてさて、明日からの作戦は上手くいくかな?いかなきゃマズイんだけどね。まぁ、みんなが居るから大丈夫か!
『うし!俺達も帰ろうか』
「まだだよ」
『ん?』




