#81 赤の腕輪/青の腕輪。(1)
「お待たせしんした。ではメル、これを」
そう言って差し出されたのは赤い方の腕輪。さっきまでは模様の部分で淡い紫の光が緩やかな点滅をしていたのだが、今は黒い模様となり、光は消えたままだ。
(『完成したみたいだな!ユクス、お疲れさま!って言っても聞こえないのか……』)
「わぁ!凄く、綺麗!ありがとうございます!えっと、普通に触っても大丈夫ですか?」
「心配せずとも何も起こりんせん。メルにとっては魔力を少し増強させる程度の効果しかありんせん」
「分かりました!じゃあ、遠慮なく頂きますね!」
恐る恐る手を伸ばしていたメルだったが、“心配無い”という言葉を聞き、腕輪を受け取るなり早速腕を通した。
「なんだか、暖かいです……。それに、ハッキリとは分からないけど、今ならい~っぱい魔法を使えそうな気がします!」
「ふふ。上手く馴染んだ様でありんすね。では、次はこちらをルベルア様の身にお付けくんなんし」
「大丈夫……ですよね。ええと……」
青い方の腕輪を受け取ったメル。俺の前まで足を運んだところで、じっと此方を見つめたまま動きを止めた。
その顔にはハッキリ【不安】と書いてある。
まぁ、俺が今まであれやこれやと予想外の事態を引き起こしたのは認めるよ。でも、ここまで露骨な顔をしなくても良いじゃないの。メル、心配しなくても大丈夫だよ。今回は透明になった時点でやらかし済みですから!
(『おう、変な事にはならないさ!うん、悪魔の状態だと腕輪ってより、指輪って感じの大きさだな。適当な指にはめとくか』)
「悪魔の状態?」
(『あっ、言ってなかったっけ?それについては後で教えるよ。まずは腕輪を貰おうかな』)
人型ならば腕輪として丁度良い大きさだったと思うけど、そもそも悪魔の状態だと腕が無いのよね。普段は両手とも四本づつ指が有るのだけれど、とりあえず左手の一番左の指にでも付けておこうか。
そう思って指輪を受け取った瞬間、モルドーとエリスが「わっ!」と声を上げた。二人の視線の先は俺。十中八九、俺が急に現れて驚いた!という事で間違いないだろう。
ユクスは無言だったものの、豆鉄砲を喰らったみたいに目をまん丸くしている。もしもユクスがカラスじゃなく、鳩だったなら、驚いて「クルッポー!」と叫んだかもしれない。
ユクスのクルッポー!?絶対可愛いじゃん!グヘヘ!
……って、何考えてんだ俺は。
『ええと、メル以外の人に確認するけど、俺の事は見えてるよな?』
「うん!急に出てきたよ!ヤバい!ギリギリだ!ってなりながらトイレに座った時と同じくらい急に出てきたよ!」
おいコラ、人をう○こで例えるんじゃない。
「私にも見えてる!んんと、んんとね、そうそう!えっ?どこ?肩の所?あっ!本当だ!居たっ!って時と同じくらい見えてるわよ!」
『そ、そう?見えてるなら良かった』
エリスは一体何に例えたのかな?心霊写真?よく分からんけど、まぁ良いか。
「ルベルア様!半信半疑でありんしたが、上手くいってホッとしんした」
『半信半疑だったの!?基本的にメルは本当の事しか言わないぞ。嘘つくのが下手くそだしさ』
「ルアさんっ!失礼なんだから!」
『クハハ!褒めたんだよ』
怒ってるメルも可愛いのぅ。
「ああ、いえ、半信半疑というのは昔聞いた話の事でありんす。勿論メルの事は疑っておりんせん」
昔聞いた話?成功するかどうかは賭けだったの?マジかよ!
『そう……か、成功したみたいで良かったよ』
「はい!」
「それでルアさん、何があったのか教えてくれる?ユクスさんも、腕輪の詳細を教えてくれますか?」
『そうだな。じゃあ、俺から話すよ』
「はぁい!」
『透明になる直前、俺はユクスに魔力の扱い方を習ってたんだ』
「魔力の扱い方?」
『うん。実は俺にも変身魔法というか、変化が出来る特殊スキルがあるんだけど、その特殊スキルを使うための魔力操作が難しいから教えて貰ってたんだ』
「変化?そっか!フスカ村でルアさんが変な姿になってたのも変化のスキルだったんだね!」
『あっ……うん』
「あっ……」
「……フスカ」
「ちょっ!?ま、まぁまぁ!大変な事があったのは知ってるけど、結果的に良い流れに変わったんだから、そんな顔しないで!ね!?」
「そ、そうよ!ほら!これを飲んでリラックスして!」
真新しい嫌な記憶を思い出し、苦虫を噛んだ顔をする三人。
俺達の心情を察したモルドーがすぐに助け船を出して寄越す。丁度お茶を入れてきたエリスも、慌てて湯飲みを配り置いた。
『そ、そうだよな。引きずるのも大概にしないと、嫌がられるもんな。で、人の姿になることは出来たんだけど、その時に副作用で気持ち悪くなったからさ、副作用を無くすために【魔力を隠す】練習を始めたんだ』
「そう言えば、いつも溢れてたルベルアの魔力、今は感じないね」
「本当だ!って事は副作用を無くす練習は成功したんだね!」
魔力を感じない?今は特別な事をしていないんだけども……腕輪の効果かな?自分では今までと違うとは思わないけど、匂いと同じで魔力も自分ではあまり気にならないモノなのかね。
「つまり副作用は治せたのよね?精神が成長すれば姿を変えれるようになるかもしれないと予想してたけど、マーちゃんも大人になったって事ね!偉いね!マーちゃん!」
『ハハ、ありがとう……』
むしろ変化に苦戦してたって事は精神が子供だったからなの!?驚愕の事実だよ!なんやかんやで中身はオッサンなのにさ……。
「えっと、それがどうして透明になっちゃったの?」
『ああ、少し話が反れたけど、【魔力を隠す】練習をしている最中に消えたみたいなんだ。気付いたら核の中に居たって訳ね。いま魔力が隠せているなら、練習の効果があったか、腕輪の力か、のどちらかだな』
「恐らくは、その両方かと思いんす」
『なるほど、両方か』
「核?ルベルアにも核があるのかい?」
「そりゃあ、マーちゃんは魔族だもの、核は有るに決まってるわよねぇ」
「うーん、僕は核が有るのに存在自体を消せる生物なんて聞いたことが無いよ。核の無い下級の精霊や妖精なら話は分かるけどさ」
『そういうもんなのか?レコード・ルーラーは?そういやミナも透明になる魔法を使っていたぞ?』
「本当かい?レコード・ルーラーは少し違う気もするけれど、どちらにせよ極めて稀な存在だと思うよ」
「マーちゃん凄い!」
「妾の視点から言うと、突然ルベルア様が消え、ルベルア様の居た場所には指輪とラピスラズリだけが残されていた、という状況でありんした」
『本当、心配させて悪かったよ。で、状況的に俺の中にラピスラズリが在ったって事なのかな?』
「恐らくは」
「それで、核の中で出会った不思議なルアさんが問題の解決方法を教えてくれたんだよね?」
『ああ、やたらと物知りな【変な俺】からな』
「簡単に纏めると、消えた原因が幻魔族の特性に関係する事と、ラピスラズリをユクスさんに加工して貰って、それを使えば大丈夫、みたいな話だったよね」
『うん、そんな話だった気がする』
「ふぅむ、ラピスラズリもユクス様も普通に考えると身近に在る事自体が奇跡的なのに、都合が良すぎるような……」
モルドーが静かに言葉した一言に、エリスも指を口元に当て何かしらの思いを巡らせた。ユクスも小さく頷き、考え込むモルドーとエリスの顔を窺った。
何を難しく考えてるのか知らないけど、単純な話だろうに。
『つまり、俺は幸運って事だな!』
「へっ?あ、ああ、そうだね。かなり運が良かったって事になるね」
「そ、そうよね!マーちゃんはツイてて羨ましいなぁ!」
「ええっと、じゃあ次はユクスさん、腕輪の効果を教えてくれますか?あっ!少し休憩した方が良いですよね!?」
「フフ、大丈夫、それほど長くはありんせんので、このまま話を続けるとしんしょう」
「ありがとうございます!お願いします!」




