#75 調子こき。
「こうして話し相手をして頂けるだけで妾は幸せでありんすから。夕暮れにはまだ時間がありんすので、存分にお付き合いさせてくんなんし」
『本当?じゃあ、お言葉に甘えるよ』
「はいっ!」
『人化する時の副作用?みたいなものの改善と、悪魔への戻りかたを教えて欲しいんだけど、良いかな?』
「どういった副作用でありんしょう」
『うーん。頭の中がグワングワンすると言うか、息苦しさもあった気がする』
「ふむ。幻魔のお姿への戻り方は、一度変化を成功させた今のルベルア様であれば難しい事では無いかと思いんす。ですが、変化の際の副作用と言うのは妾の知るところではござりんせん」
『そうか。なら、まずは悪魔に戻れるか試してみるよ』
えーと、悪魔に戻る時も無駄に姿を想像したりしなくて良いのかな。だとすれば、人化を解くって考えた方がしっくり来る。
よし!この世界に生まれた時と同じ真の姿、悪魔の姿に戻ってくれ!“人化解除”!
『ぐぅっ……』
眼を閉じたまま歯を食い縛る。自然と力が入ってしまったみたいだ。少し背筋にザワッと寒気が走った。けど、苦しくは無い。
「さて、問題は幻魔のお姿から人へと変わる瞬間でありんすね?」
へっ?何が?ユクスったら、急に喋りかけるんだから。集中が途切れて失敗したら、また面倒な事になっちまうだろ。
と、思いつつ眼を開く。
すると、どうだろう、ほとんど同じ背丈だった筈のユクスは小さく見えるし、重力が無くなってしまったかのように身体も軽い。
もしやと思い、両手を目の前に。俺の意思通りに動き、目前へとやって来たのは、ふわりと浮かぶ異形の両手。
なるほど、ユクスが喋りかけてきた時には、既に悪魔に戻っていたのね。
『あんまり自然に戻れたもんだから、姿が変わったことに気付かなかったよ』
「その感覚にも、すぐに慣れる事でありんしょう」
フスカではあんなに苦労したってのに……あ、あん時はそもそも人化に失敗してたのか。まぁ、戻れたんだし、良いか。となると、やはり人化する際の副作用が気になるところ。
『じゃあ、早速だけど人化してみて副作用が起こるかどうか試してみようかな』
「ルベルア様、ちょいと待ってくりゃれ」
突然のストップで『おっ?』と反応した俺に構わず、ユクスは次の言葉を繋げた。
「幻魔へお戻りになる際には問題がなく、人となる時にだけ副作用が生じる。妾なりの考えですが、ルベルア様の魔力が原因やもしれんせん」
俺の魔力?自分の魔力が原因とか、致命的欠陥じゃねぇか。改善する方法なんて無くない?
悪魔と人の姿を使い分けられるなら、色々と面白い事が出来そうだったのに……残念。
『じゃあ人化は諦めるよ』
「そうで……ハッ?諦めると!?ルベルア様程の御方がそうも容易く諦める等と言ってはいけんせん!!しっかりしてくんなまし!!」
なんか、めっちゃ怒られた。
『でも、自分の魔力が原因で副作用が起きているとするなら、治すのは難しいよな?』
ポンコツ感が満載の俺の質問。少しは自分で考えろよ!と言われるかと思ったが、上目になり、人差し指を下唇に当て、固まるユクス。何かを考えている時のユクスがよくやる仕草だが、文句無しの可愛さだと思う。
多分オオガラスの姿だったとしても、この仕草は可愛いと思う。
「妾の予想にすぎぬので、治るという確証はありんせんが……ルベルア様がそれでも良いと仰るならば、試す価値はあるかと」
『おお!試す試す!で、何を試すんだ?』
「幻魔のお姿のルベルア様は常に魔力が外に溢れ出ている状態、その魔力を内にと留める事が出来れば、何かが変わるかもしれんせん」
『魔力を内に留める?』
「はい。魔力は基本、人の姿では外に出そうとしない限り、内に収まっているものじてん。ですので、幻魔のお姿の時にも人と同じ状態をお作りになれば、あるいは……と」
『なるほど。いつだか忘れたけど、テスタントが言ってたやつかな?魔力を隠すとかなんとかってやつ』
「魔力を隠すとは、他の者の魔力感知を欺ける程に魔力を押し留めた状態でありんす。内よりも更に内に、とでも言いんしょうか。熟練した魔力の扱いが必要となりんす」
つまり、ギュウーッ!っと縮めてググゥッ!と引っ込めてスゥーッ!としとけば良いんだな?楽勝じゃん!!
◇ルベルアは元来、道を尋ねられた時など※以下略◇
『何となく分かったよ。とりあえず魔力を内側に抑えるってのだけをやってみる、それが出来てから人化をしようか』
「はい」
イメージはある。自分が気功の使い手だったなら、というイメージトレーニングは生まれ変わる前から何度も行ってきたんだから。
呼び名が違うだけで気功も魔力も同じようなもの。気功をマスターした俺に魔力が使えない訳は無いんだ!
◇無論、ルベルアが過去に気功を扱えた事実は無い。完全に妄想である◇
感じる、感じるぞ、体の外に溢れる魔力を。
今までだって魔力の流れを探ったり、そこから敵の動きを読んだりしていたのに、自分の魔力はどうして意識したことが無かったんだろう。
匂いと同じで、自分の魔力は意識しておかないと気付きにくいものなのかな?
メルと俺は魔力も似てる筈だから、お互い気にならないとして。他の奴らにしてみれば、だだ漏れ状態の俺の魔力って、不快だったんじゃ……。
んー、それっぽい事を言われたこと無いし、大丈夫か。
◇ルベルアの解釈は、常に自らに都合良く行われている◇
「その調子でありんす」
『おう』
案外、どうでも良いことを考えながらでも出来るもんだな。熟練した魔力の扱いが必要とかって言ってたけど、ビビって損したぜ。
コツは分かったし、このまま魔力を抑えに抑えて、魔力を隠すってところまで行ってやろうじゃないの!
学校の先生が“誰に解いてもらおうかな?”とかほざき始めた時みたいに気配を絶つ!
暴◯団っぽい人の横を通る時みたいに息を殺す!
「凄い!凄いでありんす!こうも早く魔力を隠されるなんて!」
おお、ユクスが興奮している。このまま頑張れば激しく誉めてもらえる事、間違いなしだぜ!激しく……グフフフ。
エレベーターで俺以外の全員が女性だった時みたいに気配を絶つ!
「ルベルア様?様子が!ルベルア様ッ!?」
同じティッシュ配りの人の前を何回も通らなきゃいけない時みたいに息を殺す!!
「ルベルア様ァ!!そんな!触れられない!?ルベルア様ァァ!!」
◇半透明となり、ついには消えてしまったルベルア。その後を追うかのように、ユクスの発した悲痛な声も風に押される湖の波音に消されてしまった。
膝から崩れたユクスの視線には、人型ルベルアにとプレゼントしたばかりの指輪と、深い青色をした不思議な光を放つ小さな宝石が。
指輪と宝石を拾い上げたユクスは、その二つを大切に抱えたまま、静かに眼を閉じた。眼を閉じながら「居ない……」と呟いては首を横に振る。
それを暫く繰り返した後、力なく立ち上がるも、再び膝を折り、その場に踞ってしまった◇
「ルベルア様……何処に……」
◇◆◇
◇初めて出来た彼女に格好いい所を見せたい気持ちでいっぱいのルベルア。小学校低学年と同レベルの思考回路では身に起きた異変にも、ユクスの声にも気付かない◇
グングン気配を消して!!グングン息を殺ぉぉす!!今なら誰も俺の事を見つけられなぁい!!
《お前、久しく見てなかったが、破滅級のアホは変わらずだな》
『んお!?失礼な!破滅級は言い過ぎだろ!ってか誰だお前!ってか……ここ、どこだ?』




