#69 バース。
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と、気を使って早目に家まで戻ってきたってのに、バースの奴は居ないじゃないか。
ここに来る途中でも会わなかったし、こうなると何処に居るかなんて見当も付かないぞ。
そもそも俺はあまりバースと絡んだことが無い。村に危険が迫っている時なんかは見張り台や村を駆け回っている姿を見掛けるけど、それ以外の時は何処で過ごしているのかなんて知らないし、興味も無い!
うーん、どうしようかな。むむむ……あっ!!
『ユクス!近くに居るか!?』
…………。あれ?居ないんかい!!
また俺の後を追いかけて来てるんじゃないかと思ったのに、自意識過剰でした!恥ずかしっ!!
「ルベルア様、どうしんしたか?」
空から颯爽と舞い寄った黒い小鳥。家の前で悩んでいた俺の目の前でふわりと浮くと、たちまち人型へと変貌してみせた。
居るなら早く出て来てくれよ!
『お、おお、居たか』
「ルベルア様の様子を見ていたら、何かお困りのようでしたので、急ぎ飛んで参りんした」
なるほど。近くに居た訳じゃ無いけど、俺の様子は千里眼で見ていたと。村の子供達に変態王なんて呼ばれてる悪魔で良いなら、いくらでも見てくれ。
『そうか。ちょっと頼みたい事が――』
「なんなりと!!」
『おっ、おう。バースという青年を探しているんだけど、ユクスの能力で何処に居るか分からないか?』
「バース……。昨日教会で療養していた青年でありんすね?暫し、お待ちくんなんし」
小さく頷き、瞼を落としたユクス。なんて隙だらけなんだ!今ならちょっとだけ悪戯しても分からないんじゃ……。ちょっとだけ、ちょっとだけね?
「居んした」
ヒッ!
危ない危ない。急に眼を開けるもんだからビックリして変な声を出すところだった。
『バースは何処に?』
「村の中央を走っておりんす。おそらくは、教会に向かっているのかと」
『そうか、ありがとう』
教会に?行き違いか。
俺が中央からここへ来る途中にすれ違わなかったということは、何処か寄り道をしてから教会を目指したんだな。バースの足の速さじゃあ追い付くのは簡単だが……全く、世話のやける奴だ。
「どうしてあの青年を探しているのでありんすか?」
『うん?ああ、俺と話がしたいんだってさ』
「そうでありんすか。では、妾は僭越ながらルベルア様の肩に」
再び小鳥となったユクスが俺の肩(的な部分)に。慕ってくれるのは素直に嬉しいが、どうせついてくるなら人型のまましがみついてくれても良かったのに。
空を飛び、教会へ向かう途中、眼下にアーマスを囲んで盛り上がる子供達を見掛けた。アーマスは律儀に約束を守ってくれたようだ。
それから程なくして教会を視野に入れたが、そこで肩の小鳥から待ったが掛かる。
『どうしたんだ?』
「バースは教会を離れた様でありんす」
村を眺めながらゆっくり飛んで来たのが悪かったかな。
『そうか、何処に行ったか分かるか?』
「教会より西に向かっておりんす」
『西?西にはハイオークに荒らされた林しか無いはずだが……』
西の見張り台が昨日の襲撃で壊れたみたいだから、その復旧か?俺を探すのは諦めたって事かな。まさか、俺の地上絵を直そうとしてるつもりじゃあ……無いか。
「メルと共に歩いて行きんした」
メルと?そうか、教会にはメルが居た。話の相手を俺からメルに切り替えたという事か。
俺に何の用があったのかは分からないが、バースがメルに一途なのは鈍感な俺でも分かる。大切なメルを狙う輩を面白いとは思わないが、憎むほどバースは嫌な奴じゃないのよね。
『少し、邪魔をしに行くか』
「ふふ、ルベルア様の物言いは素敵でありんす」
ワプル西、そこから先は見渡す限りに広がる木、木、木だ。高く大きな木も多く、俺の地上絵があった場所のように開けた場所は数少ない。
ハイオークが低く小さな木や、所々に咲く野花を踏み荒らしてしまった為に、今は少し景観が悪く、僅かばかり独特な異臭が残る。
が、木々の隙間から差す日の光、悩みを受け止めてくれる様な静寂、時折ひょっこりと顔を覗かせる小動物、それらが在るこの林はワプルにおいて、メルが好きな場所のひとつだ。
お、居た!
メルとバースは横並びに歩いているが、二人の間には若干の距離がある。空を飛ぶ俺に気づくことは無いだろうけど、可愛い妹であるメルを遠目から覗く趣味は無い。
「ルアさぁぁあん!どうしたのーっ!?」
気付かれた。相変わらず声がデカイ。横に居るバースの鼓膜は大丈夫だろうか。
そういや俺とメルはお互いの居る大体の位置が分かるんだもんな。
俺が二人の所まで降りると、バースは慌てて二度、三度と頭を下げた。空からだと見落としたが、二人は同じような白い花を一輪ずつ手に持っていた。
どうやら、この場所まで全くの無言で歩いて来たって訳じゃ無さそうだ。
「あ、あの!僕はバースと言います!」
『ん?んん?知ってるよ。何回か会ったことあるだろ?』
急に何を言い出すんだ?俺は透明だった頃からお前の事を知ってるよ。
「ルアさん……と、ユクスさん?」
『おう。ちょっとバースに聞きたい事があってさ。ユクスはバース探しを手伝ってくれてたんだ』
「そうなんだ!」
「ユクス様?って、黒ノ王!?ど、何処に居るのですか!?」
「ふふ、純粋そうな青年でありんすねぇ」
「――――ッ!?」
驚きすぎだろ。面白い顔になってるぞ。まぁ、バースはユクスがオオガラスになった姿を見たこと無い筈だから、小鳥が黒ノ王だなんて言ったら顔芸を披露したくもなるか。
『ところで、アーマスから聞いたんだが、俺に話したいことがあるんだって?』
「そ、そうなのですが……」
ド直球な俺の問いかけに、言葉を詰まらせるバース。あからさまに隣のメルを気にしている。
さては、本当に“メルを僕にください!”とか言うつもりだったとか?ここで言ってしまえば告白になっちゃうもんな。
安心しろ、俺はメルのガードの固さを信じている。お前がフラれたなら盛大に高笑いをしてやるよ。クッククククク。
(ああ、ルベルア様ァ!とても素敵な顔でありんす!)
『どうした?メルが居ると言いにくい事だったか?』
うーん、我ながら嫌な悪魔だ!クハハハハハハ!
「いえ、ルベルアさんに謝りたかったんです」
えっ?告白は?
「ルアさんに?」
『謝りたかった?』
「はい。今までルベルアさんを心から信頼できず避けていた事、前回の魔族襲撃に続き、今回のハイオーク襲撃からも村を助けて頂いたのに、お礼の言葉すら伝えていなかった事。許して貰おうなどと甘い考えは抱いておりませんが、それでも謝らせて下さい!」
嘘だろ?バース、お前が真面目な奴なのは知ってたが、ここまで真面目な奴だとは。なんていうか、もっと気楽にした方が良いと思うよ。
『ん。真剣に悩んでくれたのかもしれないが、俺はそんな事気にした事ないんだから、バースも気にするなよ』
「ルベルアさん……」
『俺が言うのもなんだけど、悪魔と平然と付き合ってる他の連中もどうかと思うけどな。ククッ』
「ふふ。ルアさんが怖いのは見た目だけだからね。じゃあ、これからはバースもルアさんと仲良しさんだね!」
メル、やっぱり見た目は怖いのか……。急に“仲良しさん”は極端な気もするが、可愛いから良しとするか。
「ルベルアさん、ありがとうございます!」
差し出されたバースの右手。
いつの間にこんなにゴツゴツした手になったんだ。以前は畑仕事もロクに手伝ったことの無い様な綺麗な手をしていたと思ったが。俺の知らない所でバースも努力したんだろうな。
『だからお礼なんか要らないっての』
逞しくなった右手を握って応えると、堅かったバースの表情は少し和らいだ。
隣に立つメルの表情も何故か満足気である。
「邪魔する気も失せちまったし、俺はもう行くよ』
「邪魔?」
『こっちの話だ。大丈夫だとは思うが、メルに何かしたら許さないからな?」
「えっ!?」
「もうっ!ルアさん!」
『クク。じゃあ、また後でな』
二人を残して場を後にしたは良いが、教会に行く気分でも無いし、今更トマスとノートの親方を探すのも面倒だ。どうしたもんかな。
「ルベルア様は綺麗でありんす」
うん?そういや肩にユクスがくっ付いてたんだっけ。あんまり大人しいから忘れてたぞ。
『俺が綺麗?』
ぶっちゃけ悪魔になってから一度も風呂に入ったことが無いけどね!
「ええ。宝石の輝きもルベルア様の前には劣りんしょう」
めっちゃ誉めてくれるじゃん。あんまり言われると照れちゃうから、程々にね。
というか、言われて終わりじゃダメだよね?
“こっちが誉めたんだからお前も何か言わんかい!チッ!ドロ団子みてぇな顔しやがって!”とか思われちゃうよね?
そこまでは思われないか?むむ、経験不足の俺には少しハードルが高いが、ここは恋愛ゲーム【かりそめ天国!夜の野獣と101人の乙女!】で鍛えた俺の力を見せてやるか。
『ユク、ユクシュもこの星空よりずっと綺麗だぞ!』
噛んだーっ!チキショー!泣きてぇ!
「――――ッ!?」
(い、今、ルベルア様が、妾を――なんと!?いえ、落ち着かなくては。妾の聞き間違いに違いありんせん!)
ほら、ユクスが黙ったまま空を見つめてる。小鳥の姿だからどんな表情をしているのかも分からんし、怖いくらいの沈黙だよ。
空は、快晴。星なんか何処にも見当たらねぇ。そりゃそうだ、真っ昼間だもん。
迂闊。こんな事になるなら【昼の野獣バージョン】もプレイしとくんだった。
『えっと、一緒に散歩でもするか?』
「はい!」




