#68 探されビト。
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ワプル南東地区に大きく広がる農業地帯。
牛や羊、ニワトリ等の家畜を育てる牧草地と、豆類、トマト、馬鈴薯(イモ)、葉野菜を主軸とした畑地帯で二分されている南東地区。
稲を扱う水田もあるにはあるのだが、他の物に比べ育ちが遅いため、小さな面積となっている。
モルドーの担当は畑地帯。転生前も農業が身近であったため呑み込みが早く、今ではすっかりベテラン農夫として活躍中だ。
四季が無く、一年を通して春~初夏に近い気候を持つこの村では、年数回の収穫が基本であり、ワプル村の収益の殆んども南東地区によって賄われている。
「ふぅ、今回の芋は大収穫ね!もう籠が一杯よ!あなた、私は一旦家に戻るわね」
土で汚れた手を水樽で洗い、パッパと手を払ったエリスが首に掛けたタオルを振ってモルドーに呼び掛けた。
根菜が入れられた多くの籠は綺麗に並べられており、数人の女性が水樽の順番待ちをしている。
「ああ!僕らも区切りの良いところで一旦休むとするよ!気を付けて帰ってね!」
モルドーの声に手を振って応えたエリスは他の女性達とやいやいとお喋りをしながら畑を背にした。
その様子にため息をついたのはロッド。モルドーの同僚である。
普通の人としてのモルドーよりはやや年上だが、黒寄りの茶髪、クッキリとした二重瞼に青い瞳、自然に出る爽やかな笑みが印象的。と、モルドーよりも若々しく見える。
「はぁ、モルドーは良いよな。あんな可愛い奥さんが居てさ」
「ほぉー。ロッドがそう言ってたとマーサに言っておくよ」
「おい!そりゃないだろ!と言っても、うちのマーサの方が綺麗さなら上だからな!」
「なにぃ!?エリスの方が百倍綺麗で可愛いに決まってる!」
「うがっ!?百倍!?マーサの方が――!」
近くで大籠を荷車に乗せていた同僚の男達も、二人のやり取りに呆れ、仕事の手を止めた。
「ははは、お前ら二人とも幸せ者だよ。だが、モルドーもロッドもそこら辺にしといた方が良いぞ?ほら」
同僚の男が送った視線の先は、ひとつ隣の畑との間に設けられた道。複数人の女性達がバラバラと歩く中、一人の女性が男達へと向かって麦わら帽子を振っている。
「ロッドーッ!私らの籠は一杯になったから家に戻るからねー!」
「ッ!!あ、ああ!助かったよ!ありがとう!」
「「「ハハハハハ!」」」
「はぁ。それにしても、無事な畑が多くて安心したよ」
「うん、そうだね」
「なぁ、モルドー?」
「うん?」
「昨日は村を守ってくれてありがとうな。自警団や村長達だけじゃ、今頃ワプルは無くなってたよ」
「何を言ってんだい。僕の方が感謝してもしきれないよ。村長だけじゃない、ロッドや、皆が僕らを受け入れてくれた。それがどんなに嬉しい事か」
「モルドー達と余所余所しくしてた以前の俺達をぶん殴ってやりたいよ。モルドー一家は村の恩人なんだ、もっと偉そうにしたって良いんだぞ?息子も自警団のリーダーとして頑張っちゃあいるが、助けが無ければ命を落としていただろう」
「……僕も色々あったからね。悲しい想いはしたくないし、他の人にもして欲しく無いんだ。だから、誰かを守る為なら悪魔にだって魂を売るつもりさ」
と、モルドーは自分の言葉に身近な悪魔を思い出し、思わず「プッ」と吹き出した。(『モルドーの魂なんか欲しくねぇよ!』)と聞こえた気がしたからだ。
「なんだ?真面目な話をしてるってのに!」
「ごめんごめん。ところで、さっきバースが来てね、僕の家に行ったけど誰も居ませんでした、何処に行ったか分かりますか?って聞かれたんだよ。答えたらすぐに走って行っちゃったけど、一体どうしたと思う?」
「お?ふぅん……なるほど。まぁ、あれだな、そろそろ残った仕事を終わらせようか」
「……。一応言っとくけど、バースがメルと付き合いたいなんて言ったら“俺を倒してからにしろ!”って言うからね?」
「息子を殺す気かよ!」
◇◆◇
「はぁ、はぁ、アーマスさんと話している間にメル達が教会に行くなんて!」
(ううん、メルとも話したいけど、気味悪がってあまり話したことの無かったルベルアさんも村を救う手助けをしてくれた上に、メルのお兄さんだったなんて。
今までの失礼を水に流してはくれないかもしれないけど、居なくなってしまう前にお礼とお詫びをしておかないと!)
◇
バースの思いとは裏腹に、気味悪がられていた事も知らず、水に流す以前にバースに対して腹を立てたことも無いルベルア。
いや、バースが美男であることには腹を立てたことがあるルベルアだが、それは置いておこう。
必死に探されているなど想像もせず、相も変わらず村長の家に侵入していた。
◇
『さて、村長のジジイはまだ教会だし、今のうちに鏡を芸術作品に変えてやるか』
前回来たのはいつだったかな。村長のジジイは趣味だとか娯楽だとかに興味が無いのか、いつ来ても俺が気になる様な面白い物が無い。
長居をしても退屈になるだけだ、さっさと済ませてノートの親方でも探しに行くとしよう。
『トゥントゥントゥティー♪今日は“わかめ”とでも書いといてやるか。トゥントゥ……ひぃあっ!?なんじゃこりゃあ!!』
鏡に“助けて”と書いてある!が、それは別にどうでも良い!犯人は俺ですから!
ってか思ったより鏡に傷がついてたのね!俺の爪の鋭さを甘く見てた!ごめんね!
問題はその隣に貼ってある紙。
“あなたは僕と同じ世界から来たのですか?村長や、この世界の人はこの文字が読めません。もしあなたがこの手紙を読めるのならば、僕が力になりますよ”
怖い怖い怖い!!
何で真面目に返事を書いてんだよ!どう見たってあからさまな悪戯だろ!
この手紙って多分……モルドーだよな。そういや俺やメルはこの世界の字が読めるけど、逆に俺達の書く字をこの世界の人は読めないんだっけか。
モルドーとしては、円の手掛かりになるとでも思ったのかね?だとすれば大正解だな。
まぁ良いや、今日のところは退散してやるよ。
村長のジジイ宅を後にし中央広場に出ると、早朝に見たときよりも随分とモンスターの残骸の片付けや家屋の修繕が進んだ事が分かる。
俺が悪魔としてこの村に誕生した時から比べれば、村の人口もかなり増えたが、人海戦術とは凄いものだ。
さて、トマスとノートの親方は何処に居るのかな。
この前は結局トマスとノートの親方がどこで遊んでいたのか分からなかったが、今回はそうはいかないぞ!
「やぁ!ええと、ルベルアさ――、失礼か。ヘンタ……魔王サマ?しかし、魔王では無いのか……むぅ」
かくれんぼの勝者になろうと意気込んだ俺を、斜め後ろから呼び掛ける声。
一人でぶつくさと考えていないでさ、呼ぶなら早く呼んでくれよ。ってか変態も呼び名候補なの!?
『アーマスか、俺の事はルベルアで良いよ』
「おお!では遠慮なく呼ばせてもらいます!ルベルアは何をしていたので?」
んん……呼び捨てなのに敬語とか、凄く違和感があるが。その前に。
『暇でブラブラしてただけだが、さっき俺の事を変態って呼ぼうとしてなかった?』
「まさか!俺とて騎士ですから、多少の礼儀は弁えてます。ちゃんと変態王と呼ぼうとしてましたよ!」
変態王!?何そのクソヤベェ王様!!
『ちゃんとの意味が分からないんだが……いままでもこれからも、変態の王を名乗るつもりは無いぞ』
「はて、村の子供が変態王がハイオークの群れを倒してくれたみたいだぞ!って話していたので、ワプルではそう呼ばれているのかと思っていました」
マジかよ。
信じたくは無いが、近くに居た少年の一人が“うわ!あの騎士、変態王に教えやがった!”みたいな顔をして逃げて行ったということは、本当なのだろう。
村の子供達、影では俺の事を変態王って呼んでるのか。扱いが酷すぎて逆に微笑ましいわ。
『まぁ、良いや。今後の話が決まったから、後でテスタントから聞いといてくれよな』
「なるほど、分かりました。ところで、バース君はルベルアの所へ来ましたか?」
『バース?来てないけど、どうかした?』
そういやアーマスはバースと一緒に教会を出たとか言ってたもんな。
この様子を見るに、アーマスとバースとの間に桃色の諸事情が発生する事は無かったみたいでひと安心だ。
「今朝早く、教会でバース君から色々な話を聞きましてね。バース君の熱い想いを応援しようと一緒に居たのですが、その時に少し、昨晩の話の内容を教えると“ルベルアさんに話をしなくては!”と、慌てて走って行ってしまったんですよ」
熱い想いを応援、ルベルアに話を……。まさか、メルを僕にください!とか言う訳じゃ無いよな。もしそんな事言ってきたら、宇宙の塵にしてやるけども。
だが、その内容だと俺じゃなく、まず先にモルドーとエリスを探すはず。予想だけじゃモヤモヤするだけだし、バースを探して直接聞いた方が早いな。
『バースが何処へ向かったか分かるか?』
「何処かは分からないですが、向こうへ走って行きましたよ」
アーマスが指差したのは東エリアの方角。モルドーの、俺達の家がある方角だ。間違いない、バースは俺達の家で待っている。
『そうか、分かったよ。じゃあ俺はバースの話を聞いてくるから、アーマスは村の子供達に俺の素晴らしさを話しといてくれよな』
「ルベルアの……ああ!了解!」
一瞬の間が気になるが、アーマスも悪い奴じゃ無さそうだし、大丈夫だろ。
おし、どんな内容かは分からんが、バースの話をサクッと聞いて来るとするか!




