#66 ヤル気はあるのよ。
問いはシンプルに。なんてったって、俺は昔から、話ながら模索をするってのが得意じゃ無いのよね。
『どうして黒竜の所に?』
「えっ?黒竜の所に行っちゃいけなかった?」
「また随分と安直な問い掛けであるな。直接的に問うのであれば、その真意も相手に伝えねば意味があるまい」
あー、確かに。
『えーと、黒竜の所に行ったのは俺達にとって良くない話をしに行ったのかな?と思ってさ』
「ブホッ!!ルベルアよ、お主が人族だったというのは本当か?だとすれば実に愉快な奴であるな!」
「悪魔族って交渉の得意な種族だと文献で読んだことがあるけど、自分の知識は間違ってたみたいだね」
「天使王も聖神も、裏表が無いと言いなんし」
「ガッハハ!良く言えばそうであるな!」
あれ、多分だけど……馬鹿にされたと思うの!
『だって、他に何て聞けば良いんだよ』
「許してやってくれ、レコード・ルーラーよ。友となった其方を疑っている訳では無いのだが、相手が“災悪”とまで呼ばれる神竜とあらば、我らも慎重にならざるを得ないのだ」
最悪?仮にも神様なのに、最悪って言われてんのかよ。
「あぁ、そう言うこと!別に黒ノ王について伝信を使った事とか、昨日の話の内容を伝えに行ったんじゃないよ。ただ、元々私が此処に来たのは黒竜と君達を見ていた時に興味が湧いたのが理由だからね。戻らない方が不自然じゃない?」
「ふむ。其方にとっては黒竜も大切な存在であろうから言いたくなければ構わぬが、黒竜も世界を見通す力を持っておるのか?」
「ううん、聞いた話だから実際はどうか分からないけど、黒竜は見えてる訳じゃ無くて、気配みたいなモノを感じとっているみたい。その範囲はかなり広そうだけどね!」
「そうであったか。余は今の話が真と判断するが、ルベルアはどう思う?」
『うん、俺も嘘じゃないと思う』
何て言うか、俺が聞こうと思ってたのに、なんだかよく分からんうちに話が進んだね!ラッキー!
「信じて貰えたみたいで良かったよ。まぁ、私は嘘をつけないんだけどさ」
そういや、レコード・ルーラーは“話さない”や“言い回しを紛らわしくする”とかは出来ても、嘘をハッキリと言い切る事は出来ないんだっけか。変な呪いだこと。
『で、黒竜は俺達について何か言ってた?』
「んーとね、友達になってくれた!って言ったらゲラゲラと笑ってたよ。それから、白竜の眷族と悪魔王の呪いに宜しくとも言ってた!」
悪魔王の呪い……って俺の事だよなぁ。怖いし!宜しくしたくないわ!
「ほぅ、意外な反応であるな」
『って事は、感じるだけでも結構見えてるんだなぁ。“宜しく”って、まさか首を洗って待っておけ!みたいな話じゃ無いよな?』
「クス。うん、黒竜も友達になってもらえば?って言ったんだけど、“俺は此処で待つ”って言われたよ」
『おいい!!ちゃっかり爆弾放り込んでんじゃないよ!一歩間違えたら黒竜が此処に来るところだったじゃん!』
「ひっ!ごめんごめん!でも、あんなに笑った黒竜を見たのは久しぶりだったから、つい……」
つい。じゃないよ!ったく。
『来られても困るし、待たれても行く気は無いよ』
けど、レコード・ルーラーから聞くイメージだと黒竜ってそんなに悪い奴じゃないのかしら。いやいや、暇潰しで戦争を起こしちゃうクソみたいな奴だ、まともな神経の持ち主じゃないって。
「次からは気を付けるよぅ。でもね、“あの悪魔は呪いの全てを知れば、必ず此処へ来るだろう”って言ってたよ」
『呪いの全て?呪いの全てって何なんだ?』
「聞いたけど、教えてくれなかった!」
『ユクスは知ってるか?』
「申し訳ございんせん。呪いとは一種の特殊なスキルのようなモノ、それを持たぬ妾には知識がありんせん」
「ふぅむ」
『そうか……なんだろうな……?まぁ、心の片隅にでも仕舞っておくよ』
チラリとテスタントの方を向くと、仔犬の様な愛くるしい表情から一変、真面目な顔をして天使達と話している。
レコード・ルーラーの話については、アイツも信用したと言うことだろう。
「ただいまーっ!」
『おう、お帰り!』
元気一杯に教会に飛び込んできたメル。こうして見ると、ごく普通の明るい女の子なのに、戦い続きでちょっと可哀想な思いをさせている。
その上、レコード・ルーラーが黒竜の所に行っていた。なんて聞いたら、メルの事だ、余計な心配をするだろう。結果的に何事も無かったんだし、敢えて言わなくても良いか。
「もごご、もごごぐっぐうっ!!」
『お、おはよう?』
続いて教会に入ってきたのはリエル。走ってきて疲れたのか、口の中が一杯で呼吸がしづらいのか、やたら苦しそうだ。
というか、どうしていつも口一杯に物が入ってるんだろう。
少し呆れて見ていると、その視線に気付いたリエルは頭をポリッと一回だけ掻き、俺の元へと足を運んだ。
何を言うわけでも無く、黒と赤の瞳で俺を見つめるリエル。改めて見つめられると、美少女であることを否応なしに認識させられる。そんなに見つめられたら、ちょっと照れちゃうじゃないか。
『どうした?』
「ん!」
差し出された両手には木の実がひとつずつ乗せられていた。別に木の実が欲しくて見ていた訳じゃ無いんだが、無下にするのも悪いので貰っておく事にしよう。
貰ったカツミを二つとも口に放り込む。と、口の中が渋味で満たされた。それを舌でコロコロと転がしてみると、渋味が甘味へと変化してゆく。
カツミは甘い木の実。ということは知っていたが、なるほど、こういう味だったのか。どこか珈琲と似た安心感がある。
それでいて、奥からじわりと刺す甘さは南国のフルーツを連想させる。この味、何の味だったかな?何かの味に似てるんだけど……思い出せないや。
『ありがとう。旨いな』
クセになる味なのは認めるが、だからといって口一杯に押し込むのはどうかと思うぞ。
「ん!」
俺が軽い礼をすると、リエルは満足気に頷き、ユクスとミハエルにもカツミを渡した後にテスタントを囲う天使の輪へと向かった。
リエルって、実は二歳児とかかな。
っと、ほんわかしてる場合じゃない。開けっ放しの教会のドアから現れたのは、女性陣のお頭、アリエス。
その後ろに続くのはククア、レイア、ミナ。一人でピリピリとした空気を放つアリエスに比べると、眠たそうにあくびをしながら入ってきたレイアとミナは山賊失格だが、ククアはしっかりと付き人感を出している。
俺の勝手な妄想はともかく、これで話し合いに参加する女性陣は揃ったかな。あとは男性陣が揃えば直ぐにでも始めるんだが……。
「で?ルベルア、わざわざ人を早起きさせたくらいなんだ、それなりの話は聞かせて貰えるんだろうな?」
『お、おう。まぁな……多分……はぃ』
空いた椅子もあるのに、天使族用の予備の服なんかが入った木箱の上にドッカリと座り脚を組んだアリエス。早く始めろと言わんばかりに右手でトントンと木箱をクリックし続けている。
アリエスから“ごめんね?待った?”なんて言われたら、その方が怖いかもしれないが。
「王よ、誰かが朝早くからはた迷惑な騒ぎを起こしたらしいんだが?」
そうか……そういや騒ぎに駆けつけた村人の中には宿屋の女将も居たっけな。朝から自分の王をからかうとは……アリエス、恐ろしい子!
ひとつ言わせて貰うと、アリエスからは見えていないだろうが、斜め向こうで村長のジジイも潰れたカエルみたいな顔をしてビクついてるぞ。
「あれはルベルアである」
えっ!ちょっ!ミハエルの奴、丸ごと俺に擦り付けやがった!
『おまっ……!』
「はぁん、またお前か、ルベルア。まぁ良いさ……フッフフ」
うぁーっ!めちゃくちゃ悪い顔してる!!いつか仕返ししてやるからな!って顔に書いてるぞ!
『いや、あれは俺だけの――』
「うおっほん!」
いやいや、うおっほん!じゃなくて!さりげなくウィンクしてんじゃねぇよ!そういうのは俺に利益のある時だけにしてくれよなぁ。
まぁ、メルまで巻き込むのは可哀想だから俺が涙を飲んでやるけどさ。ミハエルと村長のジジイは貸しだからな!
「皆様、だいたいお揃いになった様ですね」
ヌラリとミハエルの横に位置取ったテスタント。何を話していたのか俺の知るところでは無いが、他の天使達との話は一旦終わりとしたらしい。
「ふむ、此処に居らぬのはトマスとノート、アーマスであるが、トマスとノートはあの性格であるからして、居らぬまま話を始めても問題なかろう」
「あー、天使王様とテスタント……様。アーマスも居なくて大丈夫です。居てもろくな事を言わないですから」
ん?今、レイアのテスタントに対する言い方だけ、ちょっと可愛らしかった気がするんだが、気のせいか?
「アーマスなら何を聞いても賛成しかしないニャ」
「うん、自分もそう思います。アーマスには後で聞かせるので、準備が出来たのならどうぞ始めて下さい」
「ふむ、ならば始めてしまおう。手始めにメルとルベルアの案というのに耳を傾けるとしよう」
今まで散々、アホな悪魔みたいに扱われてたからな。ここはビシッと決めてやりますか!
『ああ、じゃあ皆、ひとつの案として聞いてくれ!この作戦に対する皆の賛否が知りたいんだ!』
神々よ!俺のプレゼンに喝采せよ!
「あっ!ルアさん、私が話すね!」
『あ、う、うん。宜しく!』




