#63 朝食。
※誤字編集。
俺とモルドーにエリスも加わり、家の庭先であーだこーだと話し始めて早二時間程が経過した。
――ギィ。
「ふぁ……ぁ、おはようー。三人とも、こんな朝早くからどうしたの?」
『おう!おはよう!』
何とも不思議な思い出大会だったが、メルの起床により俺達は謎の悪魔と幸せ老夫婦という関係に戻ることになった。……のだと思ったが、甘かった。
考えてみれば、この夫婦は子煩悩の塊みたいな存在だ。どうやら本当に、悪魔になった俺を家族として扱ってくれるらしい。
「メル、おはよう!ええっと、簡潔に言うとルベルアも僕とエリスの子供だったんだよ!これからは家族四人で仲良く暮らしていこうじゃないか!」
「メルちゃん、お兄ちゃんが出来て良かったわねっ」
「あ、え、本当?やったぁ!!ルアさんが私の本当のお兄ちゃんだったらなぁって、いつも思ってたの!お父さん、お母さん、ありがとう!」
『ハハ、今までの経緯を話したら快く迎えてくれる気になったみたいで……。メルからすれば今までの状況と変わらないかもしれないけど、これからも宜しくな』
「うん!うん!こちらこそ宜しくお願いします、お兄ちゃん!あぁ、私も一緒に話したかったなぁ」
はうっ!早くも夢が一つ叶ってしまった!
……でも、実際お兄ちゃんと呼ばれてみると、少しこそばゆいのね。
『俺もメルの事は可愛い妹だと思ってるけど、今まで通りに呼んでくれて構わないよ』
「そっか、これからも宜しくね!ルアさん!」
『おう!』
じいちゃん、ばあちゃん、「おめぇの父さん、母さんのとこさやっと行けるわぁ……」なんて言ってたけど、この二人がじいちゃんとばあちゃんの所に行くのはもう少し先の事になりそうかな。
なんていうか、千年以上も良い親のままで待ってくれた究極のお人好しだったよ。
それにさ、小さい頃に兄弟が欲しい!なんて言って困らせちゃったけど、今になって可愛い妹が出来たんだ、あの時は無茶なこと言ってゴメンな。
ただ、モルドーは年柄にもなく徹夜した所為か、目が窪むくらいの酷い隈が出来ている。
あんたにはまだ元気いっぱいで稼いでもらわなきゃ困るんだから健康には気を付けたまえ!
『さてと、そろそろ他の皆も起きたかな?長く話し合いを続けるのも面倒だし、さっさと集まってサクッと決めちゃおうか』
「あー、そのことなんだけどね、僕とエリスはもう考えてあるんだ」
『お?そうなの?』
「あなた、そのお話は朝ごはんを食べながらにしましょう。早くしないとメルちゃんのお腹が怒りだすわよ?」
「そうだね、そうしよう」
言われてみれば確かにメルの腹がキュウキュウ鳴っている。
だが、メルの腹の虫が本気になればこんなもんじゃない。
本気になれば猛獣の唸り声みたいな音を出すからな、こりゃあ急いで餌付けした方が良いぞ。
「マーちゃんも食べてね!お母さんの料理の腕前を分からせてあげるんだから!」
マーちゃん!?ちょ、ちょっとエリスさん!!円って名前はメルの前では隠してねって言ったじゃないの!
はぁーん、これがテレビドラマや日常系漫画で見た“オカンは空気を読まない”の図か!
なるほどね、でも大丈夫さ。
ばあちゃんだって初めて女の子の友達が遊びに来てくれた時、お菓子代わりにキュウリと味噌を出すというミラクルプレイをしてくれたからな。
お陰で次の日には女の子達の間で、深澤・キュウリ男爵とか言うセクシー男優みたいなあだ名で校内・流行語大賞にノミネートされたが、あれに比べれば軽めのミラクルさ!
解決策は既に思い付いているのだよ!クワッ!!
「マーちゃん?お母さん、なんでルアさんがマーちゃんなの?」
『あぁ!悪魔の“マ”らしいよ!』
「え……?どうしてマなの?それならアーちゃんとかのほ――」
「ハハハ!まぁまぁ、細かい事は良いから!早く家の中に入ろうよ!」
モルドー助かったぞ!!お礼と言っては何だが、昔隠したあんたのヘソクリ、今度少しだけ戻しておくから、それでお相子にしようじゃないか。
紙一重のやり取りをしている間に、既に食卓には美味しそうな食べ物が並べられていた。
テーブルに並んだ朝食はほかほか白いご飯と、昨晩多めに作ってあった野菜と肉の煮物、ニワトリの玉子が四つ。
これはまさに神が作り出した究極の一品・T (たまご) K (かけ) G (ごはん)と日本人の心のオアシス・肉じゃがでは無いのか!?
意地を張っていたつもりはでは無いのだが、この体に味覚が有ると認識してからも、結局まともな食事をしてこなかった俺。
そんな俺の目の前に並ぶには、豪華すぎて気を失うレベルの品々だ。
『美味しそうだな!玉子まであるけど、この世界だと高級なんじゃなかったのか?』
「高級って言っても自分達で育ててるニワトリの玉子だからね、売る分を少し減らせば良いだけさ」
「家族が増えた素敵な朝だもん、奮発しちゃった!」
“奮発”とはちょっと違う気がするけど、本当に食欲の増すご馳走だよ、ありがとう!
『嬉しいよ、久しぶりだから上手く箸を使えるか分からないけどな、クク』
「えっ?マーちゃん、まだ箸も上手に使えないって言うの!?ビシバシ教えてあげるからしっかり覚えなさい!」
ヒィッ!冗談だったのに!
「まぁまぁ、折角の料理が冷めるといけないから、いただくとしよう!いただきまーす」
「そうね」
「「『いただきまーす』」」
箸を使う為に指を増やしたのがちょっとキモくて気になる。この体に五本指はちょっと似合わないかも……まぁ、そんな事は置いといて、とりあえず、パクリ!
『はうっ!』
玉子は元の世界の味となんら変わりは無い……筈なのだが、濃厚な味でありながらスルスルと掻き込めるあっさり感、元の世界にも一個2000円とかの高級な玉子があったけど、それに匹敵する旨さ!
安月給だったから高級玉子なんて食べた事ないけどね!
それに醤油を足してご飯にかける。不味い訳がない!想像を遥かに超えた馴染みの一品は俺の涙腺を緩ませた。
肉じゃがも体全体に、心の奥底まで染み渡る旨さだ。ばあちゃんの料理も好きだったが、エリスの料理もこれまた俺の好みにドンピシャである。
『こんな美味しい料理を毎日食べていたなんて、モルドーもメルも幸せ者だな!』
「うん!お母さんの料理は本当に美味しいよね!私も少しずつだけど教えてもらってるんだ!」
「うふふ、美味しそうに食べてくれてお母さんも嬉しいわ。この世界でも料理は大切なのよ?君の料理を毎日食べたい!なんて、お決まりのプロポーズの言葉なんだからっ。マーちゃんだって料理が出来た方がモテるわよ~っ」
『おお、そうか!俺も教えてもらおうかな?この世界には白米だとか醤油だとか俺達の身近にあった食材も多いみたいだしさ』
「ルベルア、聞いて驚くがいい!」
『ん?なにを?』
「この世界に稲作や醤油だとか馴染みの調味料を作り出したのは僕らなんだよ」
『―――――――――ッ!!』
「まぁ、僕はこんな味だった!とか、ちょっと違う気がする!とか言ってただけで、実際に稲や調味料を改良してくれたのはグリムスとシャーゼなんだけどね」
『―――――――――ッ!!』
「エリスは元々料理が得意だったから、二人で旅を始めた時に僕と仲間で作った食材を見せたらすぐに前の世界の料理を再現してくれたよ。僕は感動して泣いたっけな、ハハ」
「あなたったら、フフ、子供みたいにわんわん泣きながら食べていたわね」
「二度と食べられないかも、と思っていた君の手料理を食べる事が出来た!ってのも大きかったからさ」
『―――――――――ッ!!』
「ってルベルア?さっきから凄い顔してるけど、大丈夫?」
千年以上前……言葉にするのはこんなに簡単なのに。
実際それだけ長い時間を生きてきた二人は日本とは全く異なるこの世界で、俺には想像も出来ないような道のりを歩んできたんだ。
今はこうして当たり前に並べられている朝食でさえ、二人の軌跡だってのか、全く、恐れ入るよ。
「ルアさん?」
『ん?』
「あっ、なんか固まってたけど、大丈夫?」
『んああ、ガチで驚いたよ。ビックリしすぎてモルドーとエリスが惚気話をしてる夢を見たよ』
「でへへ、惚気話で悪かったね」
喜ぶなよ、腹立たしい。
『でも、普通に育てられてる家畜だとか作物、そこら中で使われてる調味料まで二人が関係してたなんてな、昨日から驚くことばかりだったけど、これが一番かも』
「ええっ!?ごはんと醤油が一番なの!?」
『ん~、一番だな!尊敬する気になったよ』
「ちょ!」
ガタンと椅子を鳴らして立ち上がったモルドーは、何事かと目を丸くするメルの視線もそっちのけで俺に耳打ちをした。
(ぼ、僕とエリスとの関係が一番でしょ!?あ、あんまり変な事言うとエリスが悲しむじゃないか)
はぁ、冗談ひとつで揺らぐなんて随分と不安定な大黒柱だこと。
もっとドッシリと構えててくれよ。見てみろ、エリスなんて髪をクルクル指に巻きながら欠伸をしてるぞ。
それにしても、朝食ひとつでこんな発見があるなら、いつかこの村を出てメルと旅をするようなことがあれば……二人の歩んだ軌跡を見て回るのも面白いかもな。
『エリスの料理、醤油!その次の次くらいにモルドーを尊敬するよ!』
「ええ~っ、そりゃないよ!」




