#61 ドウシよっか。
ついに言っちゃったか。まぁ、メルはもっと前から打ち明けたかったみたいだし、今まで我慢してくれただけ良しとしよう。
それに、今なら皆もメルの事を理解してくれるだろう。ううん、俺の取り越し苦労だっただけで正直に話していたとしても理解してもらえたのかもしれない。
何せモルドーとエリスは“仮令産まれてくるのが悪魔だったとしても愛す”と随分と昔から決めてたみたいだし。
「ど……どうして今まで言わなかったんだい?も、もしかして……君がマ――」
おっと危ない!
『モルドー待った!』
「どっ!?えっ?」
『秘密にしようと言ったのは俺なんだ。メルは元々十七歳の少女、ある事故が原因で俺達はこの世界に来たんだよ』
「十七歳の……良かったぁぁ!!娘が元は得体の知れないオッサンだったら気まずいとか思っちゃったよぉぉ!ん?というか、今ルベルアさんも転生者と?」
悪いが俺はオッサンだ。悪魔でも愛すって決めてたんなら我が子が悪魔の上にオッサンでも愛してくれよバカヤロー。
俺に対し、メルが意味ありげな視線を向けた。
気遣ってくれるのは有難いが、俺は元よりメルが周りから気持ち悪がられないかを危惧していただけで、俺の素性を話したくなかった訳じゃない。
まぁ、身近な所に思わぬ秘密が隠れていた所為でメルに対する隠し事がひとつ増えちゃったのは不本意なんだけどさ。
俺がカラダ全体を使って頷くと、メルも頷きゆっくりと口を開いた。
「そうだよお父さん、ルアさんも転生者なの」
『黙っててごめんな』
「そうだったんだぁ」
「へぇー」
「ふーん」
「ふぁ……ぁ……」
もはや俺が“転生者”と公表しても誰も驚かないのか。ミハエルなんか眼を瞑って鼻の頭をポリポリ掻いてやがる。
ってか今誰かあくびしてなかった!?
俺の時だけ驚かないってのがちょっと癪に触るけど、まぁ良いや。
「ルアさんは“事故で”と言ってくれたけど、私の秘密を全て話すので聞いてください」
「分かったよ、メルが何を話してもお父さんは驚かないし嫌いになったりするもんか。安心して話してごらん」
「お母さんもよ。メルはメル、私達の大切な子だもの」
良い親だな……。一つ言わせてもらえば(言わないが)モルドーもエリスみたいな超絶キュートな笑顔なら文句なしなのに、どうしてこう小学生の描いた版画みたいな顔して笑うんだ。
「うん……ありがとう、私の全てを話します」
◇◆◇
夜も更け、空には溢れんばかりの星が煌めいている。教会の中は外でシンシンと無く虫の音がより大きく聞こえるまでに静けさを増した。
メルの話は俺が聞いた事の無い内容も多く、想像以上に惨烈であり、話が進むにつれ静聴していた皆も怒りを露にする奴や、メルにつられて涙を滲ませる奴が続出した。
ミナが“なんで家から離れて何処か別の所に逃げなかったニャ?”なんて質問をしたが、行政も絡んだより深い闇を話し始めたので慌ててストップさせるハメに……。
モルドーとエリスに至っては途中からメルの手を強く握って離さなかった。
俺も手を握ってやりたかったが、メルは俺みたいに手を増やせはしないから諦めて頭に両手を置いてみた。が、なんか場違いだったので引っ込めた。
一つ繋がった事と言えばメルが転生した時に聞こえた声ってやつ。
多分初耳だったけど、皆であーだこーだ考えた結果、正体不明の声の主がハールバドムなんじゃね?って事になった。
よく分からんけど、モルドーが言った呪いの話が本当ならば、俺とメルは二人でひとつ、人であり悪魔でもあるって事だったのかな。
とりあえずメルが「今はとても幸せです」って言ってたから良いか。
◇◆◇
「これが私の秘密の全てです」
「ふぅむ……苦労したのだな」
「メルゥゥゥウッ!」
「ちょ、ちょっとお父さ――!」
「メルちゃあああんっ!!」
「わっ!お母さんまで!――本当にありがとう……」
『俺は特に話すことも無い只のオッサンだったよ。これからも宜しくな』
「えっ?私はルアさんの話も聞きたいよ?本当の名前だって知ら――」
「私は別に気にならないぞ。本人も話すことが無いって言ってんだから良いだろ」
「時……の……駄……」
おいっ!俺だって一応訳有りで話さない事にしたんだからね!アリエスとククアの昔話だってどうで……どうでも……。
ちょっとしか気にならないんだからな!
『はぁ……しかしメルの過去がそこまで大変だったなんて知らなかったよ。これからは辛いと思ったら直ぐに言ってくれよな!』
ニカッ!どうだこの爽やかな笑顔!まるで蒼天の下に咲き誇る向日葵の様だろう!?モルドーも見習うが良い!
「ウッ!ル、ルアサンアリガトウ……だから、前世で一人だった私にはレコード・ルーラーさんの気持ちが何となく分かるんです」
『メルの気持ちは良く分かったよ。レコード・ルーラーにも普通の幸せって奴を知ってもらわなきゃな』
「こ、こんな素敵なメル様に嫌がらせしていた自己中で最低で生きてる価値の無いウジ虫みたいな私に……あり、ありがとうござびまずぅぅ……」
レコード・ルーラーの奴、自分の事を随分と酷く言ったもんだ。綺麗な顔立ちが涙と鼻水でぐしゃぐしゃじゃないか。なんかちょっと可哀想に思えてきた。
「うっ、ううん、気にしなくて良いから鼻水どうにかしようよ」
メルはベルトに付けてある小さな鞄から可愛らしいハンカチを取り出しレコード・ルーラーに手渡した。
これは確かバースからプレゼントされたハンカチ……メルがちゃんと持ち歩いてると知ればバースの奴は喜ぶだろうな。
後で見舞いがてら会いに行って教えてやるか。
「あでぃがどうござびまず……ブビィーッ!」
あっ……やっぱり教えるのは止めとこう。
「あの、この錚々たるメンバーの中で自分が発言するのは気が引けるんですが、ちょっと良いですか?」
「どうしたのだ?偉大なる小人族、いや、聖神と呼んだ方が良いか?」
「ヤハスと呼んで下さい。えっと、自分達はベクール王・トーラスからの依頼で今回の作戦に参加したので結果報告もしなければいけないのです。そこで相談なのですが、トーラスになんと報告すればいいでしょうか?」
「あのっ!それってヤハスさん達もレコード・ルーラーさんの事を許してお友達になっても大丈夫って事ですか?」
ヤハスの言葉に思い余って立ち上がったメルは、ハッとした様子で床に膝を付くと少し上目遣いでローグ達四人を見上げ聞き返した。
これは、久しぶりに見るメルのおねだりポーズだろうか。
メルの突然の行動にウトウトしていたレイアも姿勢を正し、腕と脚を組んだ偉そうに座るミナを肘で小突いた。
アーマスは大賛成と言いたげにヤハスに目線を送ると、二度、三度と大きく頷いて見せた。
「ええ、元々自分達は神魔大戦を物語でしか知りませんし、今回の件にしても死者は出ていないそうなのでメル様や村の皆様が納得するなら異論はありませんよ」
「ありがとうございます!村長が大怪我をしちゃったので時間はかかるかも知れませんが、村の皆は私が必ず説得してみせます!」
『ヤハス達が良いならベクールの王様には正直に話せば良いんじゃないのか?ユクスは今後人族と争う気が無いから和解したってさ』
「あー、村長の腕は自分の魔力が戻れば治せるよ。普通のお年寄りより生命力が高いみたいだし」
『「ええっ!?」』
「ええーっっ!!?本当ですか!?ヤハス様!!ああ、良かった……本当に良かった!」
うおっビックリした!ミルザの奴、全然元気無いし暗い顔してると思ってたけど急に叫ぶのね。まぁ、村長とは仲が良いみたいだからそりゃ心配で暗くもなるか。
にしても、さらっと言ったけど無くなった腕を治せるって本当かよ!
「そのくらい出来なきゃ聖神なんて呼ばれないよ」
「とても信じられない話だけど……ヤハス様が言うなら信じます!それなら村の皆の説得は難しくないですっ」
『じゃあ問題解決だな』
「えっとね、ありのままを伝えてもベクール王・トーラスの性格を考えると面倒な事になると思うんだ。だからどう報告したら良いかと思って」
「む?と言うと、ベクール王は黒ノ王との和解を快く思わないという事であるか?」
「はい、予想ですが当初の目的を果たさなかった自分達を役立たずと罵って黒ノ王討伐の部隊を編成するかと」
『なら嘘つけば良いじゃん。黒ノ王を倒したことにすれば問題無いだろ』
「え……ちょっとルアさん……?」
「嘘で解決なんてロクデナシニャ!けど僕は賛成ニャ!倒したことにすれば王から……なんでも無いニャ!」
「おっ?ミナは賛成か。俺も別に意味のある嘘なら構わないぞ!なんてったって天使王だけでなく黒ノ王とレコード・ルーラーとまで秘密を共有する仲になれるのだからな!」
「ハァ、ミナもアーマスも欲望の塊じゃん。あたしも面倒になるよりは良いと思うけど……」
「でも……人としてどうなのかな?自分は一応聖神なんだけど……」
『俺は悪魔だもん、気にすんなって。ユクスもそれで良いよな?』
「もうっ、ルアさんは強引なんだから」
「ルベルア様の考えなら妾は喜んで従いんす」
「そう……でも信じてもらえるかな?トーラスは疑い深いからね」
「言葉だけでは信憑性が足りぬと言うなら妾の首を模した物を作っても良し。それを持っていってくんなんし」
「うっ、いえ、首は要らないです。では羽を一枚頂けますか?」
「あのぅ、そういう事なら私にもお手伝い出来ると思うんですけど……」
おっ?レコード・ルーラー、お前まさかベクールの王様の所に忍び込んでドレイクでも出すつもりじゃ!?信じるか分からないからって殺すのはいくらなんでもやり過ぎだろ!
『おい!さっき言っただろ!人の命をなんだと思っ――!』
「なるほど、その手があったか!しかし、黒竜はお主の事を知っておるのであろう?我らの為にお主が力を使ったと知れば介入して来ぬか?」
「その心配はありません、私の力は相手を選ぶことが出来ますから」
えっ?何言ってんのミハエルの奴もレコード・ルーラーも。ダメに決まってんだろ!
『王様をドレイクに喰わせるなんて俺は反対だぞ!』
「そそそそんな事しませんよ!ドレイクの召喚宝珠は一度使えば壊れますし、ひとつ作るのに何百年も必要です。それに私が手伝えると言ったのは声の事です!」
『ん?声?』
「なんと……つくづく呆れた奴だ。ルベルア、お主は話を聞いていなかったのか?レコード・ルーラーは世界に声を届ける力を持つと言ったろう。相手を選べるなら黒竜には聞こえぬように発信出来るという訳か?」
そういえば言ってた気がする!
「はい、黒竜以外の全ての生きる者に声を届けましょう」
「ほぅ、お主の声となれば信憑性も十分であるな!」
「確かにレコード・ルーラー様の声ならトーラスも信じるしかありませんね。自分達からもお願いします」
「友達の為です!任せてください!」
友達の為って言うか、元を辿ればお前の所為でもあるんだけどな。調子の良い奴だこと。
レコード・ルーラーは歪に潰れた白のシルクハットを手で直し、その中から不思議な本を取り出した。
本は風に吹かれたかの様にパラパラと自然に捲れると、真っ白なページの所でピタリと動きを止めた。
レコード・ルーラーはいつの間にか持っていた淡く光るペンを握ると、スラスラと何かを書き込みパタンと本を閉じた。
「じゃあ、やるね」
◇かくして、夜も更け世界には既に夢の中へと入り込んでいる者も多く居る中、レコード・ルーラーの声が発信されたのだった◇




