#60 ソレぞれの。
◇複雑に複雑が絡み、混乱に混乱を重ねた教会の一室では世界に名だたる強者も意味をなさず、ただオロオロと頭の整理に勤しんだ。
その中でも生まれの事情から多少の混乱耐性(仮)を持つ少女・メルが状況打開の糸口を探るべく口火を切った◇
「ルアさんは一旦冷静に!」
『お……おう』
「あなたがレコード・ルーラーだという事は分かりました。その……ワプル村にモンスターの群れを嗾けたりドレイクを出したのもあなたですか?」
「ふぇ……うん、私だよ?」
『やっぱりお前の仕業じゃねぇか!』
「ルアさん!!」
ダブルゲンコツアタックとして発射された俺の両手はレコード・ルーラーの脳天に到達する直前、メルによりあっさりと捕獲され、窓から投げ捨てられた。
『おおっふ……』
なにも外に捨てること無いだろ。
「えっと……そう……なんですか。どうしてこんな事を?」
「ぅぅ……だって、意味もなく生きるだけなんて嫌なんだもん……」
「意味もなく生きるだけ……?」
こんな幼い顔をした子を泣かせてるなんて罪悪感を覚えちまうが、最低でも千と数百年以上は生きてるって事だろ?
長い時の中で間違いに気付ける機会はあったはずなんだ、それでも生き方を変えず、今日こうしてまた一つの村を危機に晒した。
それは絶対に許される行為では無く、許すべきでは無いと思うんだが……。
『何を言ったってコイツの所為で今まで沢山の人が苦しめられた事は変わらない。でも倒すことは出来ないんだろ?ならこれから先だけでも同じ事を繰り返させないようにするべきだ!』
「ルベルア様の言い分は少なくとも私の中では間違っておりません。ただし、多かれ少なかれ我々は間違いを起こす生き物であり、我が主でさえ幾度と無く間違いを犯してきました」
「……うむ、確かに余も多くの間違いの上に今を生きておる。しかしテスタントよ、お前は何を言わんとしておる?」
「レコード・ルーラー様に変わって頂きたい、というのであれば変化を強いるのではなく、経緯を聞いた上で共に協力する事が必要……とメル様は言いたいのだと思います!」
「えっ?」
絵に描いた様な素晴らしいキメ顔で断言するテスタント。コイツがキメ顔をする時は決まってロクな内容じゃないというのが俺の持つ印象なんだが、今の代弁は的を射ている……気がする。
ただちょっとメル本人の反応が気になるのだけど。
『うーん……そうなのか?メル』
「へっ?……ええ……と、うん!今回のワプル村での事はともかく、歴史上に戦争が起きたのはレコード・ルーラーさんだけの所為じゃ無いだろうし、話を聴くのは大切だと思うよ」
さっき一瞬メルがキョトンとした顔に見えたけど……まぁ、良いや。
確かにメルの言い分は正しい、戦争を一人の責任とするには無理があるし、無理強いじゃ人の性格は治らない――のかも。
それに、考えてみたら俺も自分の都合で暴れた記憶が新しすぎるんだよなぁ……偉そうな事は言えないか。
『分かったよ。詳しく聞かせてもらっても良いかな?』
「……私は生まれた時から一人でした。今と変わらぬ姿で生まれたのですが、誰にも姿が見えず、声も聞こえない孤独な存在として。
長い時間をかけ姿と声を伝える術を身に付けると、今度は触れられない奇怪な存在として忌み嫌われました。
だから、今度は私から世間との距離を置き一人で世界を旅しました。
世界はとても綺麗で、感動的で、暖かいモノで、でも一度自分が居る意味を考えると、急に世界が冷たく残酷なモノに感じて胸が苦しくなりました」
「レコード・ルーラーさん……」
「それを繰り返し、疲れ果てた私は人界から遠く離れた浮遊の大地で眠りにつく事に決めました。ですが、そこには既に主が居たんです」
「人界から遠く離れた浮遊の大地に住まう主?もしや――」
「はい、黒竜です。圧倒的な魔力を目の当たりにした私は、彼ならば私を殺せるのではと思い、全てを伝えて頼み込みました。しかし、死を望む私を前に黒竜は“俺がお前を価値ある者として有意義に使ってやろう”と言いました」
「それが幼き頃の余にも覚えがある“神竜が一人・黒竜が白狼族の里に降臨す、白狼の民は偉大なる神に最大の抵抗と命を捧げよ”というレコード・ルーラーによる初めての世界伝信に繋がったと……」
「結論から言うとそうです。黒竜は私に“お前は星渡りの一族だ”と教え、長い年月をかけ世界を見透す力と言葉を届ける力が備わるのを待ち、神魔大戦の火蓋となった白狼族強襲を決行しました」
うーむ、戦う力を持たないとはいえレコード・ルーラーにも罪はあるが、真に罪深きは“暇潰し”という馬鹿げた私欲の為に大戦を引き起こした黒竜だったと言えるか。
「黒竜の側に居た其方はその強襲で起こりうる事態を予想しなかったのでありんすか?」
「勿論、想像しました。それでも……それでも一人ぼっちの自分に居場所と役割をくれた黒竜には今でも感謝していますし、私を嫌った世界よりも彼の方が大切に思えました」
「そぅ…………状況は少し違いんすが、妾には少し分かりんす」
「ユクスさん……。私も、私も少し分かります」
『メル?』
「あのね、私も同じ状況だったら黒竜さんに縋ってしまうかも。助けてくれたのが、この世界で一緒に居てくれたのがルアさんだったから、パパやママ、皆が居てくれたから今の私がいる。
でももし私が一人ぼっちで、初めて手を差し伸べてくれた相手が黒竜さんだったら、悪者と分かっていても一緒に居たいと思うかもしれない……」
「妾も絶望から救ってくれたケイオス様の為なら命すら投げ出して良いと考えておりんした」
『メル……ユクス……』
それでも……いや、考えてみれば俺も大して黒竜やレコード・ルーラーと変わらないのかもしれない。
モンスターや魔族を倒した時、理由はあれど相手の事なんて考えていなかった。
話し合いをする気も無ければ平和的解決法を模索する訳でもない。これからも敵対する奴等には容赦無く攻撃をするだろう。
理由だって人種族寄りの片寄った考えでしかないし、言ってしまえばエゴだ。
ああ、俺も変わらないじゃないか……。
「ルアさん、難しい顔してる……。やっぱり、私の考えって変だよね?」
『いや、全然変じゃないって。じゃあレコード・ルーラー、俺が友達になってやるからもう悪いことすんなよ?』
「エエーッ!?い、いきなり?そそそそんな簡単にゆゆ許しちゃって良いの!?黒竜まで絡むむむ難しい問題だよ?もももっと具体的に話した方が良いんじゃない!?」
急にあっけらかんと開き直った俺の言葉に驚いたヤハス、少年みたいに小さな体は仔猫みたいにビクンとして宙に跳ねあがった。
『まぁ良いや、なんつーか色々言っても無駄だって事に気づいたしさ、一人が寂しくて黒竜に従ってるなら、俺が……俺達が友達になれば万事解決だろ?』
「とっ友達?私と友達に?そんなこと言われたこと無いよ。本当に良いの?」
『良いって言ってんだろ。皆も反対しないよな?』
「そそそれは平和的に済むならここ越したことは無いけど……」
『ところでヤハスは何でそんなに緊張してるんだ?こっちまで調子が狂うよ』
「だだ、だって、お伽噺に出てくるええ英雄が目の前に居るんだもん、きき緊張するに決まってる」
『なんだ……モルドーに緊張してたのかよ。昔は知らないけど、今はただの農夫なんだから緊張する事無いだろ』
「わはっ!ええ、ルベルアさんの言うとおりお伽噺の英雄はもう居なくなりましたよ。どうぞ普通に接して下さい」
「はすすっすいません、ありがとうございます!」
『んでレコード・ルーラー、友達の件はどうなんだ?』
「本当に友達になってくれるなら……嬉しいけど……この村にモンスターを呼び寄せてたのもドレイクを出したのも私なんだよ?」
『面倒くせぇなぁ、さっきも聞いたよ。自分のやった事を理解してんなら明日にでも皆に謝ればいいさ。ここに居る皆もそれで良いか?』
嬉しそうな顔しやがって。そんなに照れながら言われたら今更“やっぱり懲らしめよう”なんて言えないぞ。
「あ?何で急にルベルアが仕切りだしたのかは分からんが、私らは王の判断に従うだけさ」
迂闊に触れるとザックリと切れてしまいそうな眼で、ごもっともな事を述べるアリエス。
切れ味抜群の一睨み、俺が真の変態に目覚めた後だったならば、仰向けに寝転がり“どうか踏みつけて下さい!アリエス様ァ!”なんて叫んだかも知れない。
だが、不幸にも俺はそこまでの欲しがりでは無いので冷静に分析すると、アリエスが今みたいにニヤリと笑う時は了承の証。
他の天使が何か口にする前に言って見せたのはアリエスなりの優しさなのだろう。
『ありがとうな、アリエス。存分に踏みつけてくれ!』
「はぁ!?貴様は急に何を!?」
『なぁ。ミハエルはレコード・ルーラーとの友好関係を難しいと思うか?』
「ふっはは、余は得体の知れぬ悪魔と友好関係を結ぶ様な王であるぞ。今更何を言うか」
『クク、そうだな、助かるよ。ローグの皆も良いかな?』
「自分は争いが嫌いだからね、平和に繋がる事なら良いと思うけど、世間にはあまり言わない方が良いと思う」
「俺は大賛成だ!あのレコード・ルーラーと友達になるなんて最高の自慢話が出来るではないか!」
「いやだからさ、周りには言い触らさない方が良いってヤハス様が言ったじゃん。本当アーマスって頭が残念よね」
「友達上等ニャ。僕の心配は黒ノ王を倒してなくても金貨が貰えるかどうかってことニャ」
『ん……金貨?』
「そうニャ。黒ノ王の討伐に成功すればベクール王から金貨二十五枚が貰える事になってるニャ」
「金貨二十五枚だって!?そりゃ凄い!!」
あー、ユクスを倒した訳じゃないから期待は薄いな。そもそも金貨の価値が分かんないんだけど、モルドーが立て替えてくれないかな。
まぁ、トマスの反応を見る限り大金っぽいから無理か。
「前金で二十五枚貰ったんだから十分でしょ」
「十分じゃないニャ」
「何だって!?じゃあ合計五十枚も金貨を貰えるって事か!!王よ、我らには貰えないのですか!?」
「ふっはは、お前達には生活に困らないだけの金は渡しておるだろう」
「はぁ……そう……ですね……」
うわぁ、可哀想に……相当安い給料なんだろうなぁ。天使なのにブラック企業かよ。
「あの、私もレコード・ルーラーさんとお友達になる事には大賛成です」
「メル様、ありがとうございます。……双竜星と共に現れたあなたが周りに愛されているのを見て、羨ましくて沢山嫌がらせをしてしまいました……本当にごめんなさい」
『双竜星?』
「双竜星とは珍しい星で、星渡りの一族が星を渡る際にも起きる現象と黒竜から教えられました」
ってことはつまり……アレか、えーとアレ?双竜星は関係無くね?
「なるほど、つまりあなたと同じく双竜星と共に生まれたメル様があなたとは違い周りから愛されているのを見て妬ましく思ってしまった、という事ですね」
あーそうそう!そうだよテトソン君!君に言われるまでもなく俺は秒で分かってたけどね!
「はい……本当に本当にごめんなさい」
「ううん、私も気持ちは分かるよ。それに私もお父さん、お母さん、皆に話したい事があるの」
『メ――』
「ずっと隠しててごめんなさい、私も転生者なんです」
「「「――――ッ!」」」




