#56 ワプル村。
ユクスの背に乗り飛んできた間に俺の魔力もかなり回復させることができた。しきりにスゥハァする俺をレイアが気持ち悪そうに見ていたが、魔力吸収の影響を一番受けていたユクスが“こそばゆいでありんす”とか言うくらいで済んだのは何よりだ。
ミハエルも、途中で目を覚ましたヤハスも疲れが酷そうだけど、到着はもうすぐだし村に着いてからゆっくり休んでもらうとしよう。
「もシ、ルベルア様?」
『うん?』
「その……妾が言うのもどうかと思いんすガ、このままワプル村に行くと混乱になりんせンか?」
『…………それもそうだな。俺が先に村へ行って事情を説明してくるよ』
そう言われれば……考えて無かったけど、事情の知らない村の人達が突然ユクスの姿を見たら大パニックになる可能性は高いのか。
下手したらワプル村常駐の天使にモルドーまで加わって攻撃してくるかもしれないし……その場合何となくの予想だけど、俺ばかり集中的な攻撃を受けそうだし。
俺が精神的ダメージを受ける前に知らせに行くとしよう。
「あっ、それなら私も行く!」
「確かにメルがついていった方が安心だ。ルベルアに任せれば絶対ややこしい事になるだろうからな」
『だ、大丈夫だってば。メルが来てくれた方が心強いのは確かだけどさ』
くっそー、自信をもって言い返せないのが悔しいぜ。いつかアリエスにも俺の素晴らしさを分からせてやるから覚悟しておけよ!
「ふふ、私も村の皆に早く会いたいしさ。一緒に行こうね」
『おう、乗ってくれ』
「ううん、ルアさんに貰った翼で飛べるから大丈夫だよ」
『お……おお、そうか。それじゃあ行くとするか』
メルにあげたつもりじゃ無かったんだが、翼君はすっかり馴染んだみたいだな。一体どういう原理になってるんだろう。
メルは元々人間離れした身体能力だけど、益々拍車がかかってきたのは俺の所為なのかな?気を付けないと……。
ワプルを目指して数分で村の西エリアの防風林へ着いた俺達は、直ぐに異変に気が付いた。
「ねぇルアさん、ここって出発した時はルアさんの絵が描かれてた所だよね?」
『ああ、出発した時って言うか、昨日までは俺が手入れしてたから綺麗に残ってたぞ』
「たった一日で無くなっちゃうものなのかな?」
『いや、様子が変だ。降りてみよう』
「うん」
地上絵があった場所に降りると、周りの木は乱雑に薙ぎ倒され、地面はグチャグチャに踏み荒らされていた。それだけでなく、強い異臭まで漂っている。
『これはモンスターの仕業か?大変だ、村に急ぐぞ!』
「――――ッ!!」
◇◆◇ワプル村中央北・教会内部◇◆◇
「ミルザ!負傷した天使達の容体はどうじゃ!?」
「ワソット、今すぐ彼らを全快させるのは無理……だけど命は無事よ。でも、このまま教会に踏み込まれれば地下に避難した人達も残らず殺されてしまうわ。いっそ地下への入り口を塞いでしまえば村の皆は助かるかもしれないけど……」
「それは出来ん!誰が塞がれた入り口を開きに来れる?籠城するほどの蓄えは地下に無いんじゃ、結局村の連中は助からんじゃろう。しかし、何という事じゃ……ワシらに昔の力さえあれば……!」
「あなたは人族なんだから、早く歳を取るのは仕方のない事よ。ゲインもそろそろ地下から戻ってくると思うし、浮遊城からの応援が来るまで持ちこたえられれば良いんだけど……」
「スーザ殿が浮遊城に向かってからそれほど時間は経っておらんからな。応援が来るまでモルドーとエリスにワシとゲインが加わったとしてもハイオークの群れは凌ぎきれんじゃろう。だが諦めてなるものか!ここはお前達と築いた大切な村じゃからな!!」
「ワソット……気を付けて。この者に光の加護を!ホーリープロテクション!!」
◇◆◇ワプル村・教会前◇◆◇
◇淀んだ空気の場所や、動物等の死体を媒介にして生まれる人型のモンスター・オーク。教会前にはそれの上位個体であるハイオークが気味の悪いうめき声と異臭を撒き散らせて押し寄せていた◇
「ダークジャベリン!ハァ、ハァ、モンスターの数が多すぎてキリが無いわね」
「たぁっ!!くっ、はぁっ!!ゼェ、ゼェ、ああ、エリスも魔力を使いすぎるなよ。ここで気絶なんかしたら一巻の終わりだからな」
「ええ。あなたも無茶はやめてね?ずっと訓練もしてなかったんだから」
「分かってるさ!あの悪魔を倒してメルの仇を取るまでは死ぬわけにはいかないからな!この地獄の亡者共もどうせ奴の差金だろう、村まで消されてたまるか!セアァッ!」
◇夕刻前、突如としてワプル村に進行してきたハイオークの軍勢。家屋には目もくれずに村人を狙い襲ってきたモンスター達から、犠牲者を出さずに避難を完了できたのは天使と村長ら元ローグの齎した奇跡とよべるだろう。
しかし、全住民を教会内部に避難させたことにより、教会はハイオークの軍勢に取り囲まれていた。今はまだミルザが張った結界の効果により一ヵ所からの侵攻に留めることが出来ているが、結界は数の暴力にギシギシと悲鳴を上げていた。
その上、唯一の入口となっている結界の切れ目を守るモルドーとエリスの体力と魔力は殆ど残っておらず、気力を奮い粘るものの圧倒的な数のモンスターを前に、絶体絶命の窮地は変わらなかった◇
「ハァ、ハァ、一体何処から涌いてくるんだ!」
「あなた……ごめんなさい……もう、魔力が……」
「グルルルルゥ……」
「ハァッ!くっ……エリス、本当に……本当に長い間君と過ごしたね。辛いことも沢山あったけど僕は幸せだったよ。ありがとう……もしまた生まれ変わる事があったらもう一度君を探すよ」
「…………私も幸せだったわよ。私達ならきっともう一度会えるわね。次は普通の人になれると良いな……」
「ああ、きっとなれるさ。僕らの横には円もメルも居る幸せな暮らしが待ってるんだ」
「そう……ね」
「グルル……ガァッ!」
◇モルドーとエリスが築き上げたモンスターの残骸の山を踏み越えて、一際大型のハイオークが雑な造りの石斧を振り上げた。しかし、二人は絶望とは程遠い安らかな顔で眼を閉じた。お互いの手をしっかりと繋いだままに◇
「「また会う日まで……」」




