#51 狙いウチ。
『目覚めし暴食の王』
詠唱により、俺の体に溜め込まレた魔力は密度を高め、濃く纏わり付く様な嫌な気配となって溢れだす。本当に黒くて気持ちの悪い気配だ。だが、コレで良イ。
「この魔力……!ルベルア様!?なんて力強く底の見えぬ魔力……やはりあの娘が封印を解く為の鍵でしたカ。あの日から眼を付けておいて正解でありんシた」
「いかんっ!皆の者、ローグ達も一旦距離をとれ!!テスタントはリエルを!!」
「はっ!」
「嫌でずっ!私はメルと居だいでず!」
決して離れまいと、必死にメルの足へとしがみつくリエル。しかし、一刻を争う事態にテスタントも手段を選ばない。
――ドッ!「うっ!……」
「貴方の為です、ご容赦下さい」
「流石にここに置いておく訳にはいかんな。友として、せめて手厚く弔うとしよう。今は乱暴に扱うが許せ……!!」
気絶させたリエルを担ぎ、槍の間を器用にすり抜け、その場から離れるテスタント。ミハエルは既に呼吸を止めてしまったメルを強引に持ち上げ槍から引き抜くと、大切そうに抱え、テスタントの後を追ってゆく。
メルを何処に連れて行くんダ……。
嫌な気配となり、辺りを覆っていた魔力。それが黒い霧となって急激に広がり、周囲一帯を深い闇へと染め上げた。
「何も見えないぞ、メルは!?王よ!一体何が起きた!」
「アリエスか!?この霧がひとつに集まれば、鋭い爪に大きな翼と大蛇の尾を持ったルベルアが現れる筈なのだ。今、奴はメルの死で混乱しておる、叩いて正気に戻してやらねばならん!」
「メルが……死……?そんな……ダメだったのか……クソッ!!……了解だよ、王。ここらは少しだが広くしといた。ただ、テスタント様がドラゴフォームを使うには狭いかもしれない」
「構わん。テスタントはそのまま戦うが良い。他の者は霧が消え次第ドラゴンナイトとなり戦闘に備えよ」
「「「「「ハッ!!」」」」
◇
暗闇の中で覚悟を決めた天使達。
メルの死は生活を共にしたアリエスら戦士達にも強い悲しみを与えたが、そこは歴戦の戦士達、今が悲しみに打ちひしがれるべき場合じゃないという事は言われずとも踏まえている。
鋭くなった六人の眼は、一番多くの魔力を感じる場所を睨み付けた。ルベルアが居るであろう場所を。
◇
『フシュウウ……』
音も立てずにジリジリと俺の元に集まった黒霧。これを身に纏った姿は元の十倍程の大きさになっただろうか。
“アウォーク・ベルゼブブ”
俺の魔力吸収能力を極限まで特化させる魔法。体は浮くことなく黒のインクを溢した様に地面に染み広がり、背中から伸びる六本の触手に付いた口はガチガチと歯を鳴らす。
怪物だよな。見映えも悪い。が、そんな事はどうだって良イ。全てヲ飲み込むには丁度良い魔法だかラな。クク……クククク……。
「なんだあの姿は!アレが魔王の真の姿だってのか!?尋常な魔力じゃないぞ!いくらヤハス様が居ても、この人数でアレを相手にするのは危険過ぎでは!?」
魔王の変化に声を荒げたのはガーディアンのアーマス。
「落ち着いて、弱気は冷静さを失わせるよ。でも、そうだね。優先順位は変えよう、黒ノ王より魔王の方が断然危険みたいだ」
狼狽えるアーマスを諭すように言うヤハスの顔は俺に見せた冷たい表情と違い、真剣である事を窺わせる。
「分かりました、アレをこのまま放っとくのは確かにマズイですね。ベクールに向かわない保証も無い……よな。よし、防御強化!魔防強化!いつでも行けます!」
「うん、相手は見ての通りの化け物だ。自分も皆を気遣う余裕は無くなると思うから。レイアとミナの事は宜しく頼むね」
アーマスの体を、青く薄い膜が二重に覆う。その後ろに入ったレイアからも面倒そうな表情は払拭され、杖を両手に構えたまま集中状態に入っている。
ミハエルら天使達やローグの四人と明らかに違う反応を見せたのは俺に対して絶対的な信頼を寄せているであろうユクスただ一人。無論、信頼を寄せられていたとしても俺のこの感情が消えることは無い。
「なんと素晴らしき魔力……。妾も微力ではありんすが、ルベルア様に手を貸すことをお許し下さイ。黒き怒りは大地を穿つ、ダークジャベリン!」
ユクスの周りを浮かんでいた黒い炎の鳥達が、再度一様に黒槍へと形を変えてゆく。まるでデジャヴの様なその光景が俺の中の黒い感情を強く刺激した。
ソノ槍の所為で……メルは……メルは死んだンだぞ!!
『喰らい尽くせ!“ダークイーター”!』
俺の詠唱に応えた六の触手は大口を開け、縦横無尽に暴れだす。真っ先にそれの餌食とさせたのは空に浮かぶ黒槍。
「――!!ルベルア様!?どうして妾の魔法を!!?」
決して脆くなどない黒槍数本をバキバキと一瞬の内に平らげては次の槍へと喰らいつき、ユクスが驚き固まっている間に空を覆っていた槍はひと欠片も残らずに消滅した。
『もっと……もっとダ!!』
次にダークイーターの矛先を向けたのは地上に所狭しと刺さっている黒槍。地を這うように何本もの槍をなぎ倒しては喰らい、喰らってはなぎ倒して。
――バチッ!
「……っう、ううん……。ハッ……!!メル!?」
――バチバチィッ!
「えっ……!?」
「王よ……。王の言った見た目とは違うぞ。槍を……喰ってやがる」
「馬鹿な、あの強靭な槍をいとも容易く噛み砕くとは……。確かに、余の知る姿では無い」
「我が主、それだけではありません。ルベルア様の魔力が……」
「うむ。喰らう程に魔力を回復させておるな。これは早い内に正気に戻さなければ取り返しのつかぬ事になるぞ」
◇
ルベルアを知る天使達が知人の変貌ぶりに唖然とする中、逆に面識の無いローグ達の臨戦態勢は揺るがなかった。
◇
「これでは迂闊に近づけんぞ!レイア、あれの動きを封じられそうな魔法は無いのか!?」
「あんなの止められるわけないでしょ!」
「僕に作戦があるニャ」
ゴニョゴニョ、ゴニョゴニョ、ゴニャ。
「うん、それなら確かに動きくらいは止められるかもね。けど、かなり危険だよ……大丈夫かい?」
「任せてくれて大丈夫ニャ」
そう言うと、ミナは腰に付けた鞄から数本の筒を取り出し、地面に突き刺さっている槍と暴れ狂う触手を回避しつつ、疾風の如く目標へと接近した。
ミナの後を追い、アーマスも駆け出す。更にその後ろからレイアが追従する。
「うぉぉぉぉおお!!魔法の盾!」
『クク、そんな盾でダークイーターを止めるつもりか?』
――ガギィィッ、バギギッ!
触手をいなす様に魔法で作り出された盾。接触と同時にあっさりとダークイーターが噛み砕いた。
だが、それはアーマスも予想通りと言ったところか。ダークイーターがマジックシールドを噛み砕く僅かな隙に新たな盾を作り出し、前進してくる。
何度同じ手を使うつもりか知らないが、どうせ直ぐに魔力切れを起こすダロウ。
『諦めろよ。そんな盾じゃ、ダークイーターの餌になるだけダゾ』
「安心しろよ、魔王。これ以上は近づかないさ」
意味ありげな事を言い、ピタリと歩みを止めたアーマス。
『……。何を企んでいるのか知らんが、諦めたならそれでも良イ』
あらかた地面の槍も喰い尽くした。
ダークイーターは六本ある。
ミハエル達、ユクス、ローグ達にそれぞれ二本ずつ当てて終わりだ。
悪魔として生まれたこの世界、メルと共に生きられないのなら望み通り悪魔として、“悪魔らしく”生きてやるよ。
『やれ、ダークイーター』
二本のダークイーターが牙をギラリと黒く光らせ、獲物を我が物にせんとアーマスに襲いかかる。
「邪魔は得意だって言ってるニャ!」
――!?ジュアアッ!!
『うがッ!何をッ!?俺の目に何をシたァッ!!』
「目薬を差してあげたニャ。しかもヤハス様に準備してもらってた特別製だニャ!ニャハハッ!」
ヤハスに……って事は聖水の類いか!?チィッ。眼が熱イ……が、全く見えないって訳じゃナいぞ。朧気だが、見える!
『悪いな、俺の視力を完全に奪う程の威力は無かったみたいだぞ。ダークイーター!このモフッ娘からだ!』
「モフッ娘?って何だニャ!?透化!!」
なっ!消えた!?こんな魔法もあるのか。魔力の流れを探っても何処に居るのか分からないとは。
自信満々に人の目の前に出てくる訳だ。魔法解除を使えば……。いや、あれは自分にまで影響する時があるから使わないでおこう。
「ニャハハ。ビックリしたニャ?僕が考えた魔法ニャ、凄いニャ?ふりかけ、ふりかけ、楽しいニャン♪」
声は聞こえるのに、本当に何処に居るのか分からん!フリカケ?何言ってるのかも分からん。手当たり次第にダークイーターを振り回すか?いや、それは他の奴等に対して隙が多過ぎてダメだな。
『確かに驚いたよ。けどな、相手にしなきゃ良いだけダろ。俺を倒せるような技があるならもう使ってる筈だからナ』
「離れたニャ!!」
「よしっ!ガーディアンフォース!!」
少し遠くから聞こえたミナの声。それに応えアーマスが既に魔力を溜め終わっていた剣を振り、大きな魔法壁を作り出した。ユクスの槍に対して作った壁よりもずっと大きく厚い。
かなりの魔力だが、どうして防御魔法に全魔力を注ぎ込んだんだ?確かにあの厚さはダークイーターでもひと噛みって訳にはいかないだろうが、何を狙ってる?ユクスに動きは無さそうだ。
ミハエル達にも大きな動きは無い。ヤハスがミハエル達に近づいているみたいだが、攻撃してくる様子は無い。
アーマスの作った壁だけがギンギンに魔力を発しているが……。違う!アーマスの後ろにもデカい魔力がある!その為の目眩ましかっ!俺の視力を下げ、魔力の読みはアーマスの魔法壁で誤魔化す、狙いはレイアの極大魔法だったのか!
チッ。レイアがアーマスの後ろに隠れていたのは知っていたのに、大して気にしていなかったのが失敗だった。
『俺を包み込め!ダークイーター!』
「爆炎昇華!エクスプロージョン!!」
――チリッ。ッッドッ―――――――ッッオォンッ!!




