#52 友。
一瞬眼が眩むような赤い光が走り、巨大な爆炎が俺の体に牙を剥く。熱や寒さを感じない体とはいえ、その衝撃は凄まじく、俺を囲んだ“ダークイーター”は六本全てが木っ端微塵に吹き飛ばされた。
『グゥッ!!……。まさか、ダークイーターを根こそぎ消し飛ばす程の威力だトは!ククク、クハハハッ!!恐れ入ッたよ』
「……ッ、ハァッ、ハァッ。そんな、今ので倒れないとか……ハァッ、ハァッ、頭おかしいんじゃないの?」
『いやぁ、確かに凄まじい魔法だったゾ。外側からだけじゃなく、内側からも爆発するとハ。予想を越えた威力ダ』
「作戦失敗、こんちくしょーだニャ。内側の爆発は僕の仕込んどいた炎樹液の効果だけどね、もう一回使う分のストックなんて持ってないニャ。悪いけど今のでダメなら僕の手持ちの道具と魔法じゃ歯が立たないニャ」
「あたしだってもう一回分の魔力なんて残ってないし……。アーマスもでしょ?」
「悔しいが、その通りだ。もう暫くガーディアンフォースはどうにか維持するから、その間に二人は離れてくれ」
エンジュエキ?“フリカケ”とか言ってたアレか。それが体に掛けられてた所為で、ダークイーターの内側からも爆発シたって事か。
見ると、ミハエル達の前にはユクスの攻撃の時と同じように光の膜が張られている。ヤハスの仕業で間違い無いだろう。
『“魔王”ってのは簡単にオマエ達を逃がす様な存在なのか?そう思うなら試してみろよ……。ダークイーター!』
再び辺りを覆う黒い霧。
それに包まれた皆の動きは 手に取るように分かる。固まるアーマス等三人、力を溜めたまま機会を窺うミハエル達、どうして良いか分からず放心状態のユクス、魔力を集中させるヤハス。
今すぐ何かを仕掛けて来そうなのはヤハスだけ、何をするつもりかは分からないが、先にダークイーターを発動させてやる!
「闇の者を束縛せよ、ホーリーソード!!」
『遅い!』
――ドウッ!
広がった黒い霧を急ぎ体に集め、ヤハスの魔法よりも早く俺のダークイーターが完成する。と同時に、俺の前に居る三人の顔が絶望色へと変わった。
死に物狂いで吹き飛ばしたダークイーターがこうも簡単に復活するのを目の当たりにしたんだ、その反応は正解だろうよ。
『俺を“魔王”にしたのはオマエラだ。この力、存分に味わうがイイ』
――ッドドドドドッ!!
ヤハスの杖から出た光が螺旋状に弧を描き、やがて弾けた光は十本の光の剣となって、地面に染み広がった俺の体に突き立てられた。
円陣となって周りを囲んだ光の剣は、さながら光の檻と言ったところ。
剣の上部はがら空きだが、ダークイーターを伸ばすとパチパチと電気に似た光が走る。結界……か。
「悪いけど、動きは封じさせてもらうよ。同じ戦場の仲間を死なせないのが自分の仕事だからね。今のうちだよ!三人共早く逃げて!」
『ダレモ死なせないのが仕事……だと?ナラバ、ならばどうしてメルの事は助けなかったンだ?仲間だとは思わなかったのか?メルがオマエラに何かしたのか?……俺が近くに居たからか?…………俺が近くに居たカラかぁっ!?』
――バチチィッ!
鬱陶しい結界だが、ダークイーターで押し切れぬ程の強度は無さソうだ。薄っぺらいベニヤ板でも押してる気分だ、破壊出来るまでに時間はかからないだろウ。
◇◆◇
「むぅ、ルベルアめ。あんな辛そうな顔をする魔王が居るわけが無かろうに……馬鹿者が」
「しかし我が主、早く止めねばローグ達はもう長く持たないかと。ルベルア様を力ずくで止めるのであれば、今すぐ加勢するべきです」
「テスタントよ、戦闘準備させておいてすまぬが作戦変更だ。お前は他の者とローグの保護を優先せよ。ローグを保護した後は速やかに戦場を離れるのだ。無論、メルとリエルの事も忘れるな」
「なるほど。一度ルベルア様の事は諦め立て直すという事ですね。分かりました」
「そうではない。ルベルアの奴は余が一人で叩く。お前には後の事を任す」
「――ッ!?我が主!何を仰いますか!!お言葉ですが、主一人では今のルベルア様を止められないかと!」
「奥の手を使えば話は別であろう」
「……奥の手?まさかっ!?お考え直し下さい!主は我ら天使の導き手、主の力はこれから先も天使族にとって必要不可欠なのですから!」
「勘違いするでない。あの力を使えば余は暫くの休養を必要とするゆえに後を任すと言っておるのだ。死ぬつもりも人を辞めるつもりも毛頭無いわ」
「で、ですが!……いいえ、主は言い出したら止まらぬ御方。必ず、必ず生きて下さい!アリエス!!トマス!!これより全力でローグの保護に入れ!!保護ができ次第全速で退避、東へ飛べ!!」
◇◆◇
「なっ。魔族がホーリーソードに触れて無事に済むわけが……。どうして平然としている!大人しく地獄に戻りなよ!」
「アーマス!早く走るニャ!」
「それが出来れば……やってるさ……。俺の事は良いから、二人だけでも先に逃げろって」
「もうっ!置いて逃げたら後味最悪じゃん。早く!肩貸すからっ」
『どうした?コノ結界はもう破れるぞ?結局逃げないのか、クッククク』
「させないって言ってるよね。天照女神の怒りと嘆きは断罪の矢となりて、邪悪を討ち滅ぼす力とならん……聖光の一矢!!」
――カッ!
眩い光が巨大な一筋の柱となって空から俺の体に降り注ぐ。
『グッ……。キサマの魔法は結界を素通りするノか……』
これの何処が矢だってんダ。滝か何かの間違いダロウガ。
「ヤハス様、こんな凄い魔法を使えたならもっと早く使ってくれれば良かったのに……」
「同感ニャ」
「あ……ああ……。これなら魔王と言えど一溜まりもないだろ」
『ダークイーター!!』
――バリィッ!!
「キャアッ!!」「ぐあっ!」「フニャアッ!」
ダークイーターが不用心に足を止めていた三人のローグを絡み捕り、ギュウギュウと締め上げた。
『今のは効いたゾ。この体でここまでの痛みを感じたのは初めてだ、精鋭ってのは本当らシイな。まぁ、結局キサマの“仲間”はこの様だガな』
「ッハァ、ハァ。そ、そんな……。セイントアローが効かないなんて……馬鹿げてる……。ハァ、ハァ。今更我が儘を聴いてくれるとは思えないけど、殺るなら自分だけにしてくれないか……?ハァ、ハァ。あんた……いや、貴方が恨んでるのは自分だろ?」
「ぐ……ヤハ……ス様……。貴方は……俺達四人の中で……一番ベクールに必要な……人だ……。いつか……俺達の仇を取ってくれれば……それで良い……」
「フンムッ!!」――ザンッ!!
『――ッ!!』
油断していたつもりは無い。咄嗟に作ったとはいえ、いつもより強度が劣るわけでも無い。
だというのに、ローグ達を拘束していたダークイーターが突然の閃光と共に俺の体からあっさりと斬り離された。
「何を言っておるか。お前達は余の書状にて駆けつけた応援。むざむざ死体で帰すわけにはいかぬであろう」
――ガガッ!
「嬢ちゃんら二人はこっちに乗りな!しっかり捕まれよ!って言ってもそんな力は残って無さそうだね。ククア、落とさないように全速だ」
「キュイッ!」
――ガシッ!
「あんたの身は俺達が預かろう。ノート、離脱だ!」
「ガアッ!」
「ハァ、ハァ。天使族の……皆様を怪しんで勝手に仕掛けたのは自分の独断です。ですから、あの三人の事はお願いします。自分は命を捨ててでもコイツを食い止めますので」
「我が主は貴方の事も生かすと決めております。さぁ、体を預けて下さい」
「いや!でも自分はっ!!」
「テス――」
「失礼」――ドッ!!「うぐっ!!」
「あっ。う、うむ。それで良い」
「では我らは主のお帰りをお待ちしておりますので……。必ずお戻り下さい」
………………。
『ダークイーターを力任せに切り落とすトハ、流石だなミハエル。だが、斬り落とシただけじゃ直ぐに復活するゾ』
ミハエルの言葉を待たずに、切り落とされた三本のダークイーターは元通りに戻ってゆく。
「黒ノ王!ユクスと言ったな。ルベルアと余の戦いへの介入は許さんぞ!男と男のぶつかり合いだ、お前はそこで全てを見届けよ。余の目的はルベルアを正気に戻す事のみ、命まで取りはせん」
『何を言っている?俺ハ正気になったんだよ。人間臭い悪魔を辞めるダケダ』
「ニンゲン臭い……?天使王……。妾ハ、ルベルア様の為に……シカシ、妾の攻撃をルベルア様は喜ばヌ。もう、どうして良いのか分からぬのダ」
「黙って見届けよと言っておろう。魔王ハールバドムが三英雄との決闘の時、お前は邪魔をしたか?ハールバドムはそれをさせなかった筈だ。我が父の仇とは言え、奴も男だったからな。そう……だな、一つ願うとすれば余が負けた場合もここら一体から身を引くと約束してくれぬか?黒ノ王とて虐殺が趣味では無かろう」
「……分かりんした。妾はルベルア様と共に歩めるならば場所など選ばぬ。ルベルア様と天使王の一騎討ち、見届けさせておくんなんし」
そう言うと、数十メートルは離れているだろう場所にある岩へと降り立ち、人型へと姿を変えたユクス。いつもより小さく見えるが、巨大だった鳥の姿とのギャップの所為だろうか。
『ククク。勝手に話を進めているが、俺が条件を呑む確証はあるのか?』
「呑むであろう。いくら魔王ぶっても、おぬしは優しい奴であるからな。さて、長く皆を待たせては心配をかける、始めるとしようぞ」
秘剣を中段に構え、腰を落とすミハエル。鋭い目付きで俺を睨み付けるが、神経はダークイーター六本全ての動きにも向けられているのがヒシヒシと伝わってくる。
俺とて馬鹿なことをしてるのは分かってるさ。
けど、もう決めたンだ……もう後には引かない。恩を仇で返す事になるが、ミハエルをぶっ倒して魔王としての狼煙をあげてやる。
『かかっテこいよ』




