#44 意外なヒト。
メルの救援により空の戦いを制した先陣組、鳥型モンスターの数はまだ多いとはいえ飛行型モンスター達の指揮官と思しきレッドホークを討伐した戦果は大きく、ホッと胸を撫で下ろすに至った。
「癒しの光、グラン・ヒール!」
魔法が苦手なメルの使える数少ない魔法である回復魔法の効果は素晴らしく、トマスとノートドラゴンの傷が忽ち塞がってゆく。
「ありがとう、助かったよ。ところでメル、その翼はメルの魔法か?」
トマスに問われ、墜ちるアリエス達を見つけどうして良いか分からなくなった事や、ギリギリの所で自分の中からルベルアの翼が現れた事等を説明したメル、もちろん“転生”に絡む内容は伏せて。
「なるほど、ルベルアが強いのは分かっていたが……正直言ってメルに取りついた変態悪魔っていう認識だったよ。メルがルベルアの力を使えなかったら俺達は殺られてたかも知れないな」
「ふふ、それ本人が聞いたらショック受けると思うから言わないでね。ルアさんは私の大切な人だよ」
納得し頷くトマスの言葉に、つい笑ってしまったメルは自分のヒーローが落ち込む姿を想像し釘をさす。
「メルの話だとずっと手前で王が陸のモンスター共を待ち構えてるんだろ?なら私らもそろそろ移動するとしようか、空の敵も結構な数が飛んでいったし」
そう言いながらククアドラゴンの口に干し肉を突っ込み、自らも干し肉をかじるアリエス。
それは最後に通過した鳥型モンスターの姿がすっかり見えなくなり、代わりに陸を走るモンスターの行軍が真下を通って暫く経ってからのこと。
「はいっ、早く戻ってミハエル様と合流しなきゃですよね!」
「王とテスタント様が待ち構えてるならそんなに急がなくても良いだろうけどな、一応戻るとするか」
「そうだな、下手をすると邪魔者扱いされるぞ」
そわそわと落ち着かないメルをよそにゆっくりと干し肉を平らげたアリエス、普段の言動から二人を敬っているという感じは見受けられないが信頼は厚いようだ。
フスカ方向を目指して移動を始めた五人は程無くして一人の天使を発見した。
その天使はひっきりなしに何かを頬張り、キョロキョロと上を見たり下を見たりと忙しそうにしている。
「リエル!無事で良かった、置いていってごめんね」
メルの突然の呼び掛けに分かり易く驚いたリエル。咄嗟に構えた杖から火球が飛び出さなかったのは称賛に値するだろう。
「ふんごっ、むんんぐもがっ!」
その言葉はメルの持つ特殊スキル“転生者の言語理解”をもってしても到底翻訳できるモノでは無く、ここでリエルの口の中が空くまで待つ時間は惜しいからと、フスカ村の方角をチョイと指差し再び移動を始めた一行。
地上には走るモンスターの最後尾が見えており、先頭集団がミハエルの元へとたどり着くのはそろそろと言ったところか。
が、たどり着いた時にメルは自分の心配が徒労だった事を知ることになるのだが。
◇◆◇フスカ村北部の大地◇◆◇
「のう、テスタントよ。余は待ちくたびれたぞ、早くモンスター共を連れて参れ」
「我が主、大群が大地を駆ける音は近づいております故、もう少々の辛抱かと」
聞き分けのない子供の様なミハエル、聴力の高いテスタントは歩み寄るモンスターの音に緊張よりも、むしろ安堵を覚えた。
「大群であるか……ふふふ……ガッハハハ!良いぞ、わざわざ浮遊城を抜け出してきた甲斐があったというものだ」
意気込み剣の腹を肩に掛けるミハエルの横で静かに瞑想を始めるテスタント、その高められた魔力がヒシヒシと伝わりミハエルの闘争意欲が更に高められてゆく。
高ぶる天使が居ることなど知る由もないゴブリンの群れが遂に二人の待ち構える場所へと差し掛かった。
「来おったかぁっ!ふんぬっ!!」
ミハエルの大振りの一閃は空を裂きキィィンッと音を立てゴブリンの先頭集団を両断、幸いにも一撃を逃れた後続のモンスター達が押し寄せるが、目にも止まらぬ早さで動くテスタントを捉える事が出来ずに悲鳴を上げる間もなく一体、また一体と撃破される。
数体を片付けては一旦引くテスタント、そこにミハエルの斬擊と反撃の余地すら与えぬ二人の攻撃に、一定の距離を置いたままゴブリンの足が止まった。
(なんだコイツらハ!)
(こんな奴らが居るなんて聞いてないゾ!)
(空の仲間は何処に行ったんダ!話がチガウぞ!)
ギャアギャアと喚くゴブリンの理解不能な言葉に興味を示すこともなく、斬擊の届く位置まで近づいては剣を振るミハエル。
これほど手応えの薄い相手ならば、せめてミハエルが存分に暴れられるようにと、離れた所から回り込もうとするゴブリンだけに的を絞るテスタント。
やがて、二人を恐れ足を止める邪魔なゴブリン達を蹴散らしながら姿を現したオークの群れと数体のトロール、小さな村からすれば大災害とも呼べる中・上位のモンスターの群れに嬉々として襲いかかるミハエルの姿、ゴブリンの眼にはそれこそが“大災害”として映った事であろう。
「我が主、どうやら陸から攻めてきたモンスターの中には魔族の姿がアアッーッ!主、私ですっテスタントです!」
暴れるミハエルにそっと近づき耳打ちをしようとしたところに巨大な剣が振り下ろされ、あわやゴブリン達と同様に真っ二つになる寸前、飛び退きそれを逃れたテスタント。
その鋭い剣閃は、しっかりと温まった体が嘘だったのかと思えるほど背筋を冷たくさせた。
「おお、テスタントか。すまぬ」
「い、いえ……お気になさらず。どうやら陸から攻めてきたモンスターの中には魔族の姿が見えない様です。これほどの大群が指揮官も無しに集まるとは思えないので、恐らくは……」
「ふむ、では空からの敵襲の中に魔族が居たということか。余はハズレを引いた訳であるな」
改めて状況説明をするテスタントの声に、何をもって“ハズレ”と呼ぶのかは別として、少ししょんぼりするミハエル。
◇◆◇ワプル村西エリア◇◆◇
◇
フスカ北西での戦闘も終盤に差し掛かった頃、ワプル村に向かったルベルアはというと、一人せっせと草むしりの最中であった。
ここは村人達がルベルアの為にと作ってくれた地上絵の一部分、毎日の日課としてフスカとワプルを行き来するようになったルベルアだが、殆どモンスターと鉢合わせる事も無く、日がな一日地上絵のお手入れをして過ごしていた。
そこにはモンスターどころか村人達の姿も無く、チマチマ草をむしり鼻歌を陽気に奏でる悪魔が一人、ワプル村の守護神の活躍とは大したものである。
◇
「ふぅいー、結局モンスターは居なかったし今日も平和だなぁ。ルールルー」
「ルベルア様、少し良いですか?」
『るーるるールヒィァッ!』
うぉーっ、ビックリしたーっ!誰も居ないと思って油断してたっ、恥ずかすぃ!
振り向くと、意外な事にエリスとミルザがそこに居た。
『ああ、エリスに……ミルザ。もしかして俺のことを退治しに来たのか?』
そんな様子には見えないが、念のため聞いておこう。なにせミルザと言えば隙あらば俺のことを成仏させようとしてくる奴だからな。
「えっ?そんなつもり無いですよ、実はルベルア様にお願いしたいことがあって」
「私はオマエがエリスに変なことをしないようについてきただけです」
あっ、ミルザはやっぱり俺のことを嫌いなのか、ちょいちょい傷つくからもうちょいソフトに嫌って欲しいぞ。
『頼み?俺に出来ることなら構わないけど』
「ありがとうございます、頼みと言うのは――」
「あら、先に相手を取られてしまいましたのね。そちらのご用が済みましたら私の相手もお願いしたく思いますが宜しいですか?」
エリスが言い切る前に、誰かが割って話しかけてきた、ふと声のした方に視線をやるとエリスとミルザ以上に意外な人物がそこに立っていた。
黒髪に黒い瞳、柔らかそうな生地のワンピースドレスを身に纏うその女性は俺の思うところの“大和撫子”
『君は……ユクスじゃないか!』




