#41 フスカ四日目の朝。
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フスカ村に到着してからの生活は、思っていたよりもずっと穏やかであり、下位の魔物が数体襲ってきただけで殆どを建物の強化をしながら過ごしていた。
毎日、俺がワプルの状況を確かめに行っているが、そちらから得た情報でも浮遊城周辺やワプル村にギャザンやドレオン程の敵が現れたという報告はない。
当初の予想に反して多くのモンスターが現れないのは幸いだったが、ミハエルの性格を考えると少ない戦闘に不満を述べる頃でもある。
皆はそれを危惧していたが、思いの外楽しそうに建物強化に励むミハエルの姿に一同はホッと胸を撫で下ろしていた。
恐らくは二日目に俺がテキパキと補強してみせた建物を、皆が「こんな才能があったんだな」と誉めた事でミハエルの何かに火がついたのだろう。
◇フスカ村に到着し、四日目の夜が明けた朝◇
朝日が昇る少し前、寝間着姿で起きてきたメルは外の警戒をしていた俺を見つけ、バレバレだというのに意味も無く忍び足で近づいてきた。
「ルアさん、おはよっ」
『今日も早いな、おはよう。良く眠れたか?』
「うん、毎日みんなと寝てたら修学旅行ってこんな感じなのかな?って思うよ。私、修学旅行に行ったこと無かったから少し嬉しいな」
転生前の家庭の事情ってやつか。
日本人だった頃のメルの歳なら小、中、高の学校で修学旅行を経験してても良い筈なのに、行けて無いのはお金の問題だけじやなかったんだろうな。
『そっか、確かに修学旅行に似てるかもな。俺もモンスターの動きが無かったから静かな夜を過ごせたぞ。夜のうちにありったけ魔素を吸収したし、ミハエル達が起きたらワプルも見に行ってみるさ』
「おはよう!メル、もう起きてたのだな!ルベルアもおはよう!夜通しの見張りお疲れ様!今日も何事も無かったみたいで良かったよ!」
早朝から元気いっぱいのトマスが姿を現す。見たところ、メルより先に起きてどこかで一汗流してきたのだろう。戦闘用の装備を身に纏い、爽やかな汗を朝日に煌めかせて大きく深呼吸している。
「おはよう、トマスさん。また鍛練してたんですね」
『おはよう、ってか朝から大きな声を出したらアリエスあたりに怒られるぞ?きっとまだ寝てるだろ』
「うははは!確かに怒られそうだな!だが心配するな、王のイビキの方がうるさいからな、外の声など聞こえんはずだ!」
『そ、そうか』
こっちに来てからというもの、早起きの苦手なメルがこんな時間に起きてくるのが不思議だったが、理由が分かった気がする。
――ギィ……。「トマス……黙れ!」……バタン――
鬼エスが現れ、消えた。
「う……聞こえてた……みたいだ……」
トマスの汗は爽やかなモノからじっとりとしたモノに変わり、今にも消えてしまいそうな声を出す。あんな恐ろしい顔を見せられたら、寝起きドッキリのバズーカ砲も不発に終わるだろう。
『あ、ああ。あれは恐いな。けど、一応アリエスも起きてるみたいだし俺はワプルが襲われてないか見てくるよ、東に向かうモンスターを見てないから大丈夫だと思うけどな』
とは言っても雲海の谷からは距離があるから、視力強化を使ってても見えない所から移動されれば分からない。
「そうだね、もし強いモンスターとか魔族に襲われてたら自警団だけじゃ心配だもんね」
朝日を眩しそうに手で傘をしながら心配するメルの顔が可愛い、俺的には雲海の谷に近い此処の方が心配なんだけど、村を見てからすぐ戻ってくれば大丈夫か。
『ああ、大丈夫そうならすぐ戻ってくるから、メルも気を付けてな』
「うん、私は皆が居るから大丈夫」
「俺はノートと一緒に少し高いところでモンスターの動きを注意するとしよう。まぁ、今日もモンスターが現れないって可能性は高いがな」
何の根拠があるのか自信たっぷりに言うトマス。できれば、そういうフラグになりそうなセリフは心の中にしまっておいて頂きたい。
『じゃ、ちょっと行ってくるわ』
「うん!行ってらっしゃい!」
――フワァッ!
んーっ!今日も良い風が吹いてる!
俺の新しい日課になったフスカとワプルの往復、片道にかかる時間は三十分程度と、少し離れた店にでも行く感覚で二つの村を行き来している。
よし、行くか。――ググッ、ッヒュンッ!!
「速っ、もう見えなくなっちゃったね。トマスさんはノートさんと朝の鍛練してたの?」
「そうさ、ノートと一緒でなくては意味がないからな。今回みたいな事もあるから俺達はもっと強くならなくてはいけないんだ」
――ギッ!突然宿舎のドアが開けられ、リエルが叫んだ。
「メル!嫌な予感がする!」
「えっ!?何が………っ!!」
メルが聞き返すのを待たずに北西から押し寄せる無数の黒い影、宿舎からミハエル、テスタント、ノートが飛び出し北西の空を見上げた。
「モンスターかっ、ノート頼む!」
「ああっ、ドラゴフォーム」
トマスの声に応じて駆け出しながらドラゴンへと姿を変えたノート、それに颯爽と飛び乗るトマス。
「やっと群れで来おったか、これで少しは運動不足が解消されるというものだな!」
「我が主の翼とならん、ドラゴフォーム」
テスタントドラゴンは他の天使族が変化するモノよりも体格が大きい、それ故に決め事のようにミハエルは広い場所で身構え、テスタントのドラゴン化を待つ。
「存分にお力をお出しください、我が主」
「ふはははは!良いぞ!余の力を存分に見せてやろう!」
見ると槍を構えたアリアスが既にククアドラゴンに跨がり空へと駆け上がっていた。
リエルが叫ぶより先に宿舎の裏口から飛び出して臨戦態勢に入っていたのだろう。
「メル!私たちもドラゴンナイトで行こう!」
珍しく真剣な表情のリエルは、急なモンスターの出現で動揺するメルに剣と服を渡すと、腕を引き宿舎前の広場へと走った。
「うん、ありがとう。でも、なんで急に……ルアさんが出発したばかりなのにタイミングが悪すぎるよ!」
「多分、三日間で私たちの行動パターンを覚えたんだと思う、黒ノ王はきっと千里眼なんだよ」
(千里眼って、離れた場所からでも目視してるみたいに景色が見える事だっけ?そんな力が実際にあるなんて……)
耳慣れぬ敵の能力に驚きながらも素早く着替えを済ませるメル、その足元には畳まれる事もなく放り投げられた寝間着が落ちている。
――ドッォオン!
「キャッ!」「ヒャアッ!」
突然の轟音に思わず悲鳴を上げた二人、音の先には意気揚々と飛び立った筈のミハエルとテスタントドラゴンの姿があった。
二人が不思議そうに見守る中、ミハエルは渋い顔をしてテスタントドラゴンから飛び、地面に降り立った。
「テスタント、人型に戻るが良い。その方が戦い易いだろう」
「はい、フォームアウト」
ミハエルの言葉を受けて人型へと戻るテスタント、普段モンスターの群れに相対する場合ドラゴンナイトで応戦するのが天使のスタイルだというのに、何故かそれをやめた二人。
「ミハエル様、どうしたんですか!?」
「空は任せたぞ」
「えっ?」
「そういう事ですか……」
率直に疑問を聞くメルとは違って、何かに納得した様子のリエル。
「其方はリエルと共にアリエスらと空のモンスターを相手とするのだ。陸から来るモンスター共は余とテスタントが受け持つとしよう」
「メル様、空から確認できたのですが、陸から大群のゴブリンにオーク、数体のトロールがフスカを目指して進行していました。私と主はそれを相手しますが、空のモンスターも数が多いのでアリエス達だけでは心配です」
ザックリしたミハエルの言葉にテスタントが付け足した。
◇人種族の死体から生まれるというオークに、超大型のゴブリンといった見た目のトロール、どちらもゴブリンに比べるとずっと強い種のモンスターである。
どうしてそんなモンスター達が結託してフスカを目指しているのかは感知に優れたリエルにも分からない。
しかし、ワプル村へと向かったルベルアの知らぬ所で激戦が始まろうとしているのは紛れもない事実であった◇




