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#39 4/5の精鋭達。

 ◇◆◇エンドルゼア東の大国・ベクール◇◆◇


 ◇


 メル達がフスカ村へとたどり着いた頃、この国のローグ協会により召集命令を受けた五名の内、四名が王に謁見するために城に集まっていた。


 四名は【ベクール王】トーラス・ドラフォイ との謁見をいまかいまかと待っている。


 いまかいまか、といっても謁見の中身に期待し胸を踊らせている訳ではなく、どちらか言えば“早くしろよ、こっちだって暇じゃ無いんだから”といった様子である。


 四名のローグは全員が異名持ちであり、長年存在を消していた天使族からの【黒き鳥ノ王討伐】という火急の提案に対し、ベクールは真摯に応えるという意思を表していた。


 突如としてベクール領界隈に現れた伝説の一角である強大な存在。今はまだ人的被害が出ていないが、本気で襲ってきたらどうなるかは分からない。


 実際、この問題にベクールも頭を抱えていた矢先の天使王からの手紙だったのであろう。


 火急の召集に応じた四人とは――


 白銀の鎧に身を包んだ屈強な男性“鉄壁の守護者 アーマス”


 守護騎士(ガーディアン)であり、若干暑苦しい性格の持ち主。二十三歳と若いながらも、大きくがっしりとした体にキリッとした男らしい顔立ち、ブロンドの長髪は天然とは思えない緩やかなウェーブを見せる。


 そこに実力も兼ね備えているアーマスは、ローグ協会ベクール支部【私を守ってくれそうな騎士ランキング】では三年前から不動の一位であり、ベクールに住む女性から絶大な支持を受けている。


「王の謁見を終えたらすぐに準備を終えなければな、天使族と共闘できるなど後に語るには困らない事だ、万全で臨むぞ」


 それをウンザリした顔で見ているのは“炎姫(えんき)レイア“


 十八歳の魔法士(ソーサラー)。真っ赤なショートボブに赤い瞳、やや小生意気な目付きは挑発的で、魔法衣には見えないセクシーな服を着た、目立つ女性だ。


 しかし、見た目とは裏腹に面倒臭がりな内面を持つ。


 小柄ながら炎に特化したソーサラーであり、ベクール総合学園の一年生。希少なソーサラーである上に実力も稀に見る天才と言われており、学外でのローグ活動を許された腕利きである。


「王様の謁見も討伐隊参加も面倒なだけじゃん……どうせ脳ミソまで筋肉ゴリゴリの天使しか集まって無いと思うし……。天使王はカッコ良さそうだからちょっと見てみたいけどさ」


 その天使王が筋肉ゴリゴリのむさ苦しい奴だということをレイアはまだ知らない。


「そう?僕は命令されれば行くだけだからニャ。お礼にお金が沢山貰えるならそれで良いニャ!」


 そう語るのは水色と白を基調としたローブのフードから白毛の耳をピョコッと出した可愛らしい顔つきをした猫の獣人の女の子“博芸のミナ”


 十九歳の暗殺者(アサシン)であるが、暗殺者といっても裏・職業組合(ギルド)に所属しているわけでは無いので人を殺める事はしない。


 ミナは過去に二体の指名手配モンスターの討伐に成功したことで、ベクールにおける知名度を高めた。多彩な動きで敵を翻弄する姿から“博芸”と呼ばれている。


 そんな三人の横で、謁見を前にした緊張で押し潰されているのは、年季の入った薄茶色のローブを纏った小人族の青年ヤハス。


 濃い黄色の髪に、キョトンとした黒い眼、身長百十センチ程で四頭身程の小さな体は緊張からなのかプルプルしており、可愛いが頼りない見た目と言える。が、その歳は百十八才と、此所に居る四人の中においてずば抜けて高い。


 百十八とはいえ、長寿の小人族故に“青年”には違いないのだが。


「な何度やっても謁見ってき緊張します。トーラスはな何考えてるのか、わ分からないし、はは腹黒だし、ままま回りくどいし、自分もこ来なければ良かったです」


 緊張するヤハスは故意か天然か、好き放題口にする。


「あなた程の方でも緊張するのですか、ヤハス様」


 “これは意外”といった表情でアーマスが尋ねた。


「じ自分など、経験が多いだけの平凡な者ですよ。それにあ相手は性格のねじ曲がったトーラスですし……い今からでも会わずに出発してしまいましょうよ。どうせ一人来ていないのですし……」


 緊張しっぱなしのヤハスの口ぶりに、脇に立つ兵士も聞かぬふりをするのが大変といった様子だ。


「ヤハス様の謙遜はあたし達に失礼だと思うんですけど……。まぁ、良いや、此所で王様の事をあんな風に言える時点で平凡じゃないし……」


 ヤハスの言葉に、ソファの肘掛けに腕を置き顔を突っ伏していたレイアが顔を上げた。が、一言述べてまた顔を突っ伏した。


「僕は王様に会ってからじゃないと行きたくないニャ、勝手に行ってお金が貰えなくなったら困るニャ」


 そう言う割りに、待つのに飽きたミナは落ち着き無く謁見控室の中を動き回り、置いてある壺を見ては「高そうだニャ」とか呟いたりしている。


 ――コンコン


「ドラフォイ陛下との謁見の準備が整いました。皆様、謁見の間への移動をお願い致します」


 その声に四人と共に部屋に居た兵士は安堵した。


 謁見など“ついで”の事と思っている騎士、謁見を前にだらしなくする魔法士、部屋の物をペタペタ触って物色する獣人、自分の仕える王の事を好き放題言う小人族、そんな自分勝手な四人。


 かといって“黒き鳥ノ王討伐”という大任務を背負った四人を叱りつける訳にもいかず、もどかしさと戦っていたのだから兵士の気持ちも、なるほど納得である。


「お、やっと呼ばれたか。さっさと済ませて出発しなければな」


「うー、待ち疲れた……もう面倒臭くなったじゃん……」


「出発の餞別にお金くれないかニャ」


「あわわ、トーラスの顔をそ想像しただけで吐き気が!」


 (いいから早く行ってくれよ!!)


 兵士は心中で泣き叫んでいた。


 四人が部屋から出ると、そこには他の兵士とは違い、兜を被っていない騎士が立つ。


 白銀の長髪をサラリと肩に掛け、整った顔立ちをしたその騎士、落ち着いた様子でスッと軽く頭を下げ、四人を見た。


「長らくお待たせして申し訳ありません。私に続き陛下の御前へお進み下さいませ」


 長髪の騎士が謁見の間の扉を開けると、多くの装飾に彩られた五十畳程の大きな空間に化粧柱が立ち並び、星降りをモチーフとしたベクールの国旗が、玉座までの赤絨毯の上に張られた綱に掛かっていた。


 まさに“壮観”と言える部屋の中央を長髪の騎士の後ろについて歩き、ベクール王の御前に立った四人。


 玉座に座るはベクール王トーラス・ドラフォイ。


 白髪の長い髪をそのままに垂らし、目の下から頬にかけて傷のある顔、切れ長の眼で睨み付けるようにじっと四人を見つめた。


 年齢を感じさせる見た目であるが、過去には腕に自信のある騎士だったのだろう風格が窺える。


 ヤハスを除いた三人はその豪華な部屋に、王を前にしているにも関わらずうっかり口を開けたままとなり、ミナにいたってはヨダレを溢しそうだ。


 ――ガシャ

 長髪の騎士が跪き、王に頭を垂れる。


 それを見習い、長髪の騎士と同じ格好をするアーマスとレイア。


 しかし、レイアはミニ丈のワンピース魔法衣を着用していた為に下着が(あらわ)となり、慌ててそれを手で隠す。


 猫の獣人であるミナは忠義を示す作法が違うのか、脚を交差させて立ったまま両手を万歳のように上げ、それから腰を折り足元に両手をペタリと付けた。最後に腰を落とし頭を下げた。


 ヤハスは片腕を腹の前に、もう片腕を腰の後ろに回し腰を軽く曲げ王の言葉を待つ。


 小さいヤハスだけは立ったままだが、四人が頭を下げたのを確認し、ベクール王が煩わしそうに口を開く。


「一人足りないな。所詮、少し名の売れた程度のローグか。国の期待にも添えんとは一体何の為にローグをやっているんだか。ヤハス……殿(どの)がこの場に来るのは意外だがな」


 王の第一声は労いでも鼓舞でも無い、単なる愚痴のようなモノ。


 三名のローグは、その言葉に疑問を感じ、思わず眉をしかめたが、ヤハスだけは“はぁ、始まった”と肩を落とした。



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