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#38 密かな期待。

 ◇◆◇フスカ村到着から約一時間◇◆◇


◇ルベルアがミハエルら天使族やメルと荷物の整理を終えた頃、静寂を取り戻したフスカ村に豪快な笑い声が響いていた◇


「ガッハッハ!それはルベルアが悪いな!余計な事を口にするから余計な誤解を生むのだ!まぁ、こやつは悪魔、悪魔とは余計な事を言うものだ。深く気にするだけ損であるぞ!」


 ミハエルがむくれるメルの頭をガシガシと撫でながら、他人事の様に笑う。しかし、メルの不満顔は晴れるどころか影を増した。


「そう、ですか。私はルアさんが皆の為にモンスターを倒してくれてたのかな?って思ったから、お礼を言おうと思ってたのに…………なのにルアさんが変なこと言うから……」


「メル、元気だして?多分ルアさんに悪気は無いんだよ。根っからの変態だから変なこと言っちゃっただけなんだよ」


 ◇誰かをフォローし、誰かを蔑むリエル◇


『だから誤解なんだって!丁度聞かれたタイミングが悪かったと言うか、なんと言うか……。モンスターを退治してたのは本当だぞ。あっ!聞いてくれよ!ゴブリンが居たんだよ!本物のゴブリンが!!』


 言い訳の途中で閃いた俺は、ゴブリンの話題にすり変えた。だが、それに対する皆の反応は酷いモノだった。


「だからどうした?ゴブリンなど何処にでもいるだろ」


 人相の悪いアルパカの様に、唾でも吐きそうな顔で言うアリエス。


「ああ、ゴブリンは普通に居るな」


 鼻をほじりながら言うトマス。


 あ、ほじってなかった。


「そうだな。興奮する意味が分からない、ゴブリンといえど罪の無い人に害を為すモンスターだ」


 優しいノートの親方まで俺に同調する気は微塵も感じられない。



 はぁ、この世界の住人には俺の感動は伝わらないか。



「本物のゴブリンって、偽物のゴブリンなんて居ないでしょ」


 メルが舌でショートソードの刃を舐め、唾を吐いた。



 いや、もちろんそんな事はしていないが、俺の眼にはそれと同じくらい冷たい反応に見えた。


 メルも分かんないのかよ!ゲームとかやらなかったのかな、くっそー!



「全く、お(ぬし)一人で楽しみおって。余がテスタントの上でどれ程 暇をしていたと思うのだ!半分位は倒さず残しておけば良いものを」


 ミハエルだけは他の連中とは論点が違うようだ。


「ところでルアさん、その女の人は何処にいるの?用を足すにしても、こんなに時間はかからないよね?」


 メルの一言に、皆が辺りを見渡す。が、女性はおろか自分達以外の人影など存在しない。


「皆様、ルベルア様の見た女性の事も心配ですが、もうじき日が暮れます。急ぎ、寝床を造りましょう」


 そう言うとテスタントはフスカの村長の家なのであろう、先ほど荷物を運んだ一番大きな建物へと向かう。


 フスカ村長の家は大きい平屋ではあるけど、俺の知識の中の建築技術から見ればデカイ掘っ建て小屋と言ったところか。


 村全体を見ても立派とは言い難い家がチラホラあるだけなので、ワプルに比べて村としてのレベルが低い事は間違いない。


 フスカ村長の家に集めた荷物を整理し、日が殆んど沈む頃に寝食するための準備を終えた一行は、そこで再び俺の見た女性の事を気にかける。


「ルアさん、本当にその人はローグだって言ってたんだよね?私、ちょっとその人が向かった方を見てこようかな」


 落ち着かず、心配そうにするメルは女性が向かったという西の方を頻りに見ている。


『確かに言ってたよ。心配なのは分かるけど、もしローグがやられるような敵が居たとしたら危ないから、俺が見に行くよ』


「むう!お主、また一人で楽しもうとしているな!?」


「それか………変な期待………………かもね」


 人が本気で心配してる時に、戦闘狂(ミハエル)小声女(ククア)は好き勝手言いやがって。


 ベクールからのローグって時点でもう俺達の仲間なんだから、何かあったらヤバいだろ。


 そういえば、この世界のローグってやつはどれくらいの強さなんだろう。メルより強いのかな?いや、今はそんな事を気にしてる場合じゃないか!


「その女の人を心配する必要は無いよ、私達から見えないだけで向こうは見えてるみたいだから」


 焦るメルと俺の事をそっちのけにし、当たり前の事のように淡々と話すリエルの様子はいつもと何かが違う。



 ん?どしたの?この子。頭の中に木の実でも入っちゃったのかな?



 首を傾げたのは俺だけで、ミハエルら天使の連中はお互い顔を見合わせたが、リエルに突っ込む事も無く頷いた。


『すまん、リエルが何を言ってるのか、俺だけ分かってないんだけど』


「私も分かってないです!」


 ピシーッと95°くらいのお辞儀をするリエル。



 ええーっ……。



『なぁ、リエルは何であんなこと言ったんだ?』


 仕方なく俺が聞くと、メルが小声で返事をしてくれた。


「あー、うん。リエルはね、少し変なの。だけど、リエルがああ言うってことは女の人の事は探さなくても良いみたい」



 まぁ、リエルが変な子だってのは知ってるけど……。



「小さな事をいつまでも気にするでない!リエルは余の持つ秘宝の一つを誤って喰った時からその調子だ!そやつの親は“感知”の能力に長けた天使だったからな、それも相まって何か感じる事があるのだろうな!」


 ミハエルはそう言うと、革や布を包んだ荷物の上にドッカリと腰を下ろした。



 あー、不思議ちゃんってことで納得しとけば良いのか。ってか秘宝食べちゃったんかい!俺の知らない事情が色々あるみたいだけど、まぁ良いか。



「コホン…。ではそろそろ、(あるじ)に代わり明日からの説明をさせていただきます」


 テスタントは決まり文句でそう言うと、赤と黒を基調とした服の襟元をキュッと整えた。



 あれ?この感じはまさか……!テスタント先生のご登場か!?前回は集中出来なかったからな、今回はちゃんと聞いとくか。俺だって小学校から高校まで一応……授業を受けていた身だし、底力ってやつを見せてやるよ!



「まず、近年の状況から考えるに鳥型のモンスターは朝方から動き出す筈です。ですので、(あるじ)と皆様は朝方からモンスターの動きに警戒していただきます。モンスターが出た場合にはそれを駆逐、出なかった場合には建物の強化に時間を使いましょう」


「強化するための資材はどうするんだ?」


 意外にもノートの親方が口を挟む。


「はい、強化には周りの木や岩を使いたいと思います」


 テスタントは用意してあったかのように、簡潔に答えを返す。



 さすが親方!建物の強化と聞いて食い付いた!うーむ……俺もなんか質問したいなー、なんかないかなー。



「では続けますね。ベクールのローグが到着するのは手紙の返事によると早くても一週間はかかるでしょう。ルベルア様の見た女性のことも気になりますが、本当にベクールを拠点としたローグだったとしても、たまたま居合わせた方だと思われます」


『いや、確かに俺の事を知ってるって言ってたぞ』


「そうですか。では続けますね――」



 あれーっ?俺、相手にされてないんじゃね?



「――ローグの方々と合流後は作戦を決めた(のち)、敵に気づかれる前にそれを実行に移す事にしましょう。黒き鳥ノ王は古くから存在する伝説の一角ですが、我が主とメル様にルベルア様。そしてベクールから来る腕利きのローグが手を組めば勝てない相手では無い筈ですが――


 ◆

 伝説の一角!?そんな奴が相手だったのかよ!


 それにベクールからの応援は早くて一週間かぁ、ん?てことは暫くはこの部屋でみんなで寝泊まりするのか。美女二人に美少女二人、男が四人居なければハーレム成立だったのに、惜しかったなぁ。


 でも、ドキドキ要素は期待できるんじゃないのか……!?

 ◆


 ――ますのでお願いします。とりあえず今日の説明はこんな所でいいでしょう。質問が無ければ今日は早めに休んで明日に備えましょう」


『はい質問!部屋の中での俺の場所はメルの横で良いのですか!?』


 俺は威勢良く右手を浮かせ、輝いた顔(実際はどす黒くボヤッとした顔)でテスタントに質問をした。


 ◇

 ルベルアの提案した“メルの横”というのには裏があった。


 もし“メルの横”というのが受理されたとなれば【リエル、メル、ルベルア、アリエス、ククア】という配置になる。


 つまり変態悪魔はあろうことか、皆の前で堂々と“ちょっとでもハーレム気分計画”を実行に取りかかったのだ。

 ◇


「ルベルア様は念のために、外の警戒とワプル村の防衛をお願いしますと言ったばかりですが。お休みになりたいときはミハエル様の隣が一番広いので、そこでお願い致します」



 俺の要望はあっさりと却下された。それに、そんなの初耳だぞ!はぁ、ウキウキしたかったぁ……。



 結局、俺は悲しい気持ちのまま一晩外での見張りをする事となり、フスカ村での初夜は何のドキドキイベントも起こらないまま過ぎていくのであった。


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