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#29 オーバーキル。

「カッ!我の首がそう簡単に取れるとは思うなヨ、ニンゲンが!」


「そうだね」


 ギギ……ギギギ……。

 猛るドレオンの怒号とは裏腹に、剣と爪がせめぎ合う鈍い音は力の拮抗を物語っている。これだけ強化されたメルと互角の力を持つのだからコイツは実際大したものだ。だが、向こうは一体、数の優位は此方(こちら)にある。


『支援するから、このまま終わらせよう!』


「お願い!」


「私達もやるぞ!」


「分かってる!」


 ヒュッ!ヒュンッ!

 俺は伸ばした二本の影を刃と化し、挟み込むようにドレオンの頭部を狙うと、それに乗じてアリエスとトマスはドレオンの後ろへ回り込み、それぞれが片翼に斬りかかった。


「やらせるカッ!ウィンドショック!」


『うおっ!?』


 ドレオンの体を中心として衝撃波が巻き起こり、まるで水の塊が押し寄せたかの様にドッパァッン!と音を立てて俺達は吹き飛ばされた。不意討ち気味に真正面から受けた所為で大きく体勢が崩れ、慌ててそれを立て直そうと試みるも、ドレオンが立て続けに魔法詠唱の構えをとっている。


「ウィンドスラッシュ!」


「ルアさんっ!」


『くっ、防壁陣(ウォード)!』


 発生した無数の風刃がドレオンだけを避けて上空から降り注いだが、焦って唱えた防御魔法が間一髪の所で皆を包み込んだ。が、先程のお返しと言わんばかりにドレオンが素早く防壁陣(ウォード)の裏へと回り込み、アリエスが蹴り飛ばされてしまった。


「がはぁっ!クク……ア頼ん……!」


「キュイッ!」


 蹴りを受けた際に鋭い爪も刺さったのであろう、アリエスが出血しながら落ちて行く。ククアドラゴンはすぐにそれを追ったが、ドレオンが尻尾を掴みニヤリと笑った。


「行かセるかヨ」


「ククアさんを離せっ!」『このっ!』


「アリエスをよくも!くたばれっ!」


 いち早く体勢を立て直したメルがドレオンの腕を狙い、俺とトマスも続いて攻撃を仕掛けたが、極僅かな動きだけで躱されてしまった。


「エエい!鬱陶シいワッ!」


「ガグアッ!」「うぐぅっ!」


 苛立つドレオンが力任せにククアドラゴンを振り回し、放り投げた。トマスとノートドラゴンはもろに投げ飛ばされたククアドラゴンに当たってしまい、アリエスと同様に木の枝を折りながら落下して行く。枝がクッションになってはいるがかなりの高さ、なんとか軽傷で済めば良いんだが、心配だからといってこのまま追いかけたんじゃ、ドレオンまで引き連れて行く事になるし……ん?


「カッカカ!残るは貴様らだけダゾ」


「ハァ、ハァ、みんなが!」


『メル、大丈夫か?俺の姿が見えなければ、もっと楽に攻撃を当てれたんだけどな』


「ルアさん、こんな時に何を……えっ……下?あっ、なるほど」



 ドレオンに気付かれぬ様に下をちょいと指差すとメルも理解し、ドレオンに剣を向け直した。しかし、息が切れ始めているところを見ると、身体強化(リヴァンプ)を使ってるとはいえ限界突破(オーバースペック)が体に与える負担は大きい様だ。俺の三大魔法をここで使うには村が近すぎるし、もっと遠くまで誘導するしかないか?



「あーあ、地上戦なら勝てるんだけどなぁ」


『……?』



 分りやすい挑発だがコイツが簡単に受けるとは思わない。いや、それが分かってるから下に注意を向けない様に敢えて言ったのか?うーん、分かんないからとりあえず頷いておこう。



「地上に降りたけれバ勝手に降りるが良い。どうせなラあの村にでも降りて戦うカ?カッカッカッ!貴様らの実力は理解シタ、心配せずとも直ぐに切り刻んでくれるハ!」


「くっ……」



 予想通りドレオンは挑発に乗ること無く嫌味で返した。正真正銘の鳥頭なのに馬鹿じゃ無いみたいだし、優位な空中戦をやめるわけも無いよな。結局メルの狙いは分からなかったけど、作戦失敗することもあるさ、ドンマイ。



 自然を装い近づいてきたメルが、呆れ顔をする俺の耳元でボソリと囁いた。



 マジか!考えもしなかった!馬鹿なのは俺か!!ええ、そうですよ。どうせ俺は脳筋のクソ虫ですよ!あっ、そこまで言われて無かった。



「じゃあ仕方ない、全力で行くね!烈風刃(れっぷうじん)!!」


 メルは温存してあった力を解放し、剣士の技を繰り出した。四つの斬擊がメルの剣から放たれ、空を切り裂きながらドレオン目掛け飛んでゆく。



 この技は…!村長のジジイ直伝の!?かつて髭おじちゃんの腕を粉砕したあの修行の成果が今ここに!?髭おじちゃん、ありがとう!



 ッ――ヒュヒュッ!ビシュッ!ッスパァッ!


 メルの斬擊のうち二つは上手く避けられてしまったが、一つは左の翼を掠め、一つは右腕を深く切り裂き、腕がダラリと下がったドレオンから余裕の表情が消え失せた。


「グ…カッ!ぐぅ…、まだ力を隠していたカ!」


『俺も行くぞ、ダークハンド!』


「これシきッ!ウィンドショック!!」


『うおっと』


「ハァ、ハァ、烈風刃っ!」


「オノレ、たかが人族の分際で!」


 無数の影の手が六方からドレオンへと掴みかかったが、ダークハンドはあっけなく衝撃波で弾き飛ばされた。メルも続けざまに剣技を繰り出したが、斬擊を察知したドレオンが上に飛びそれを回避し、俺達を見下ろす形となって魔法を詠唱し始めた。


「ゼェ、ゼェ、何処まデも降り注げ!ウィンド――」



 ―――来た!!



「ルアさんっ!!」



 ああ、任せとけ!カッチカチの壁を作ってやるよ!



防壁陣(ウォード)!』


「――スラッシュ!アガッ、なニィッ!?」


 ドレオンが詠唱を終え魔法が発動したが、時は既に遅い。ドレオンの魔法が発動するよりも速く、俺の得意魔法・防壁陣(ウォード)が発動した。


防壁陣(ウォード)は綺麗な球体となって、放たれる()だった魔法ごとドレオンを包み込んだ。


『ドレオン、自分の魔法の威力はどうだ?』


「ぃ良しっ!!ナイスだよルアさんっ!」


 ドレオンを包んで張られた防壁陣(ウォード)の中で、無慈悲に発動した風魔法。自ら発動した魔法とはいえ、それを狭い中で回避するのは不可能だろう。


 ギャリリリィリリッ!!


「グがっアアアアッ!」


 防壁陣(ウォード)の中でドレオンの魔法は何度も跳ね返り、酷い音を立てている。聞こえる悲鳴、防壁陣(ウォード)の隙間からダラダラと流れだす血。空中ならドレオンの風魔法の方が分があると思わせた作戦は成功したらしい。まぁ、俺の考えた作戦じゃないんだけれど。



『そろそろ防壁陣(ウォード)の効果が切れるな』


「ハァ、ハァ、ルアさんラスト宜しく!私は……ハァ、もう強化魔法解くね」


『おう、これなら避けようが無いからな。脳筋の(パワー)を見せてやるぜ!』


 魔法解除したメルが膝に手を当て、しんどそう(・・・・・)に背中を揺らしている。残りの体力は翼の操作で精一杯といった様子だが、もう少しの辛抱だから頑張ってくれ。

 大きく息を吸い込み、ドレオンを包んでいる防壁陣(ウォード)の上へ移動した俺は右手を巨大に変化させた。


 巨大化させた右手に力を溜める。溜める。溜める。溜める。溜める。限界まで溜める!!


『ウオオオオオオオオオオオッ!!』


 溜めに溜めた全ての力を解放した右手を真下へと振り下ろすと、大砲の如く、爆発音と共に巨大な右手が超速度で“発射”された。


 予定通りのタイミングで、パッと防壁陣(ウォード)が消え―――――ッ!!?中からグロテスクな物体(・・)と化したドレオン(だったモノ)が姿を見せた。


『ヒャッ!!』


「ヒィィィィィィィィィイッ!」


 思わず女の子みたいな声が出たが、斜め下から見ていたメルも顔を歪めて大絶叫している。トドメの一撃など必要無いことは一目で分かったが、巨大な右手は止まらない。


『アワワワワ!!』


「うわわわわわわぁああぁぁぁあ!」


 両手で顔を覆ったまま絶叫し続けるメル、俺はギュッと眼を閉じた。



 ――ピッシャァッン!…………………。



 二人だけが残ったこの場に異様な沈黙が流れる。俺は手に残った感触を忘れようと、大好きだったアニメのキャラを思い浮かべ、メルは力無く翼をパタパタとさせたまま、膝を震わせ歯をカチカチとならしている。



『この事は忘れような、メル』


「カチカチカチカチ……うん……カチカチカチカチ」


 俺達は見てしまった。日本育ちとしてはモザイクを付けなければ見てはいけないモノを。今までも沢山モンスターは倒してきたけど、そんな次元じゃ無かったんだ。帰ろう……村へ帰ろう……。俺はメルをそっと抱き上げ降下を始めた。


 下へ降りると、大きな木の陰で横になっているトマスとノートを見つけた。


『アリエス達が居ないな、リエルの姿も見えないし』


「うん、ルアさん……もう大丈夫だから降ろして」


 チワワの様に震えていたメルが、俺の手から降りてトマスとノートの元へ歩み寄る。二人には大きな外傷は見られないが、横になったまま動かないところを見ると気絶しているようだ。


「癒しの光、グラン・ヒール」


 メルが回復魔法を唱えると、俺の中の魔力も少し減ったのが分かった。あれ?そういえば俺の翼くんは何処に行ったんだ?


『メル、どこにも見えないけど翼ってどうなった?』


「えっ?ルアさんが回収したんじゃないの?」


 俺の問いにキョトンとした顔で返すメル。本当に分からないみたいだけど、じゃあ一体何処に?翼くんは海外遠征に行ってしまったのだろうか。


 ――ガサ……ガサガサ、ザッ!木陰の奥から、ククアが大量の草を抱えて現れた。


『おっ、ククア!それは薬草か?』


「…………あっ………二人共…………無事で良かった。あいつは……倒せたのね」


「ククアさんも無事で良かったです!アリエス様とリエルは何処ですか?」


「アリエスは……落ちてる途中でリエルが………自警団のリーダーが来て………行った……無駄になったみたい」


 草を足元に置いたククアが、あっちを指差したり、そっちを指差したりとしながら、ボソボソと事の顛末(てんまつ)を話してくれたが……ごめん、全然言いたいことが分からないッス。ハッキリと喋ってくれないかしら。


「そうだったんですね、バースが案内してくれたんだ。うん、それならきっと大丈夫ですね!」


 メルは暗号ともとれるククアの言葉を、さも当たり前のように頷くと、納得して言った。


『……メル、ちょっと良いか?』


「ん?なぁに?」



 アリエスの落下を受け止めたリエルが、他の三人もドラゴン化を使って受け止め介抱をしていたら、遠くから様子を見ていたバースが事態の異変に気付き駆けつけ、アリエスの酷い怪我を見るなり回復魔法の使えるミルザの元まで案内すると言い出した。

 そこでリエルが再びドラゴンとなってアリエスとバースを乗せて村へ向かい、この場に残ったククアは気絶したままのトマスとノートの為に薬草を集めていた。

 しかし、メルが二人を回復してくれたので薬草は必要無くなった……という事を言っていたのか。



『…………うん、なるほど。って分かる訳ねぇだろ!』


「ふふ、慣れると普通だよ」


「二人共……し……の?」


『とりあえず、俺達も村へ戻ろうか。メルとククアは背中に乗ってくれ』


「うん、戻ろう」「………お願い」


 トマスとノートを雑に抱え、メルとククアは背に乗せた。ん~、背中に感じる柔らかい感触……良きかな!


「ルアさん?変な事考えてるでしょ」


「……最低」



 あっ、ハッキリ聞き取れた。 



『誤解だよ』


 何とか全員無事で村へ帰ることが出来そうだ。初めての上位魔族相手にちょっと苦戦しちゃったけど、ワプル村防衛戦は終わったって事で良いんだよな。



 あー、さすがに疲れたぁ!

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