#28 予想外。
「クソッッ、来るぞ!!」
『俺の後ろに!防壁陣!!』
高い木の枝をものともせずに突っ込んできた新手の魔族はギラリとした眼光でこちらを狙ってきた。
まるで流星群が墜ちてきたかの様な攻撃を間一髪で防いだが、皆の緊張で周りの空気が張り詰める。
「無事かっ!?」
「こっちは大丈夫!!」「ああ、問題無い!」
アリエスの声が揺れる木々の間に響き渡った。
メルとトマスは手をあげて“無事だ”と合図を送ったが、再び上空に舞い上がって行った五体の鳥人型魔族はまたいつ襲って来るか分からない。
攻めるべきか退くべきか、どちらにせよ早く動いた方が良いだろう。
ただ、俺達より下に居たリエルは襲撃の対象にはならなかった様で、一人で太い木の幹に隠れながら俺達の無事を視認すると、ササッ!と身を隠し直した。
そのリスみたいな動きに、見ていて思わずほっこりする。
「どうする?ここに居てもまた同じ攻撃が来るぞ。ノートは体が大きいからここじゃ回避するのも限界があるし、こっちから攻めるか?」
「どうかな、敵が五体揃って動いているうちは真正面から挑むのは危険だと思うが……。私とククアなら木々の間も自由に飛べるから囮になって奴等をバラけさせるとしよう」
『俺は自分から離れた所に魔法を使うのが苦手だから、バラけられてるといざって時にさっきの魔法で守れないけど大丈夫か?』
「うーむ、ならばいっそ私達は一旦引いてリエルに魔法を乱射させるか……。上手くいけば一掃できるぞ」
「確かに強力だが、リエルは上位魔族相手に魔法を当てられるかな?全部避けられて……なんて事にならなきゃいいが」
安易に動けない状況なのは分かるが、早くしないと本当に追い詰められるぞ。
今この場において防御面に一番優れているのは間違いなく俺だろう。その俺が単身であいつらを撹乱すれば……としてもメルはどうすれば……。
とりあえずトマスと一緒にノートに乗せてもらう?それかリエルに?うーむ、スペックの低い頭じゃ大した作戦は思いつかないし、コレで行くか。
「ルアさん、私を抱いたまま翼無しで飛んだら魔力が持たない?」
『おっ?翼無しか……』
メルを抱いたまま翼無しで飛ぶと小回りが利かない上に浮力維持に使う魔力が多いんだよな。
真っ直ぐ飛ぶだけならともかく、複雑な動きならなおさらだ。
昨日、ここら一帯の魔力を吸収したから余裕はあるはずだけど敵の数を考えると厳しいかも……。
敵の強さも分からないし、俺の最大の弱点である魔力切れも避けなきゃならない。回避力が落ちてメルが危険な目に合う事は特に、一番、絶対に、ダメだ。
「厳しい?」
『素早そうな敵だから小回りが出来なくなるのは危ないぞ』
「うー。じゃあさ、昔は失敗しちゃったけどアレ試してみる?アレならルアさんは私に気を使わなくて良いしさ」
『アレか……』
「アレって何だよ」
随分前に試したっけな、俺の影の一部をメルに付けて魔力操作もすべて任せるってやつ。
あの頃は何度試してみても成功しなかったけど、今なら出来るんだろうか。
◇ルベルアの影は想像力のようなモノで動かしている魔力体なので、ルベルアが一人で翼・防御・攻撃などをするよりは分担した方が無駄な動きが減り、ずっと魔力持ちが良い筈なのだ。
元々ルベルアと繋がっており、道理的にはメルにも影の操作が出来ても良いのだが、盛大に失敗した過去がある。
その失敗が初めてワプルの村人達にメルが特別な子だとバレた時であり、加えて言うと大工・ゲインに大量の仕事をもたらした一件だ。
その後、初めてテスタントがワプル村に訪れた際に魔力回路も繋がった二人だが、過去のトラウマと時間の少なさから練習を試みる事は無かったのである◇
『この場面で試すのも危険な気がするけど、試すのか?』
「うん!やってみようよ!今なら私の中にルアさんの魔力回路もあるし、もし失敗してもフォローしてくれるでしょ?周りに家もないしさ……」
キィィィィイイン――!!
「気をつけろ!奴らが来るぞ!」
「メル、ルベルア、何か作戦を考えているなら急いだ方が良さそうだぞ。俺達は引き付けてから左に躱すからアリエス達は右に、奴等に合わせてカウンターを喰らわせてやろうぜ」
「ああ、一体でも削ってやろう。ククア、頼んだぞ?私たちは引き付けてから右だ」
「キュイッ!」
『すまない、試したいことがあるんだ。だから、少しの間だけ戦闘から離れるよ』
「分かった。ここは私達とトマス達に任せて早く試してこい」
嫌な音はどんどん近づいて来ている。本当に早くした方が良さそうだ。
『メル、準備は良いか?翼の操作を任せるぞ』
「オッケー、渡して!!」
俺が納得する前から集中を始めていたメルの右目は既に淡く光り始めている。
翼だけをメルの背に移し、自分の影から切り離すと、途端にガクンッと傾きメルが落下していった。
成功する確率は相当低いだろう、念の為に落下に合わせてついていこう。
「んんんっ!動い……てぇっ!」
気合い虚しく翼はしょんぼりしている。パキパキと小さな枝を折りながら落下して行くメル、その顔はまさに鬼気迫るといった表情だ。
「うぅっ!動きな……さぁぁいっ!!」
気合が届いたのか、翼が僅かに動きを見せた。翼と言っても要は魔力体、つまり魔法のようなモノなので少し動くだけでも動き以上の浮力は生まれる。
『良いぞ!今、少しだけ動いたぞ!』
イケる……!頑張れ、メル!!頑張れ、翼!
ピュンッ!――バキッバキキッ!!
翼の操作を誤り不意に横へ移動してしまったメルが、ビッシリと葉のついた木の枝へと突っ込んで行く。
速さは増し、メルの腕と顔には小さな擦り傷と切り傷が作られた。
『大丈夫か!?』
「あっん……!こっ、これしきっ!」
枝を折り進みながらも、メルの心は折れていない。
翼しっかりしろ!いつもと違うメルの魔力操作だからってへこたれてしまうのか!!風はトモダチ、それを俺に教えてくれたのは翼だったじゃないか!
「ちゃんと動いてよっ!」
『おおっ!やったか!?』
メルの精神が勝ったのか、本格的に動きだした翼。なんとか制御に成功したようで、暴走は無事止まった。
凄い、正直無理だと思ってたのに成功するなんて!つ、翼くぅぅぅぅぅぅぅぅん!!ってあれ?何考えてンだ俺。
「あのさ、ルアさん。私が頑張ってるのにくだらないこと考えてたでしょ!何となく分かるんだからね!」
右目を紫に光らせながら睨み付けてくるメル。“怒った顔も可愛いよ”とか言ってやりたいけど、ガチで叩っ斬られそうだから止めておこう。
『な、何言ってんだ!応援してたんだよ(翼君を)。成功できたな!そのまま戦えそうか?』
「うん、もう大丈夫。一回使えればもう、私の物だよ!」
心配する俺の言葉に力強く返すメルだが、一応翼君も俺の一部だし、戦いが終わったら返して頂きたいなぁ。
といっても、嫌でも俺の元に戻ってくるだろうけど。
「ぐああっ!」
――ッ!!今のはトマスの叫び声!?
『ヤバい!やられてそうだぞ!?急ごう!』
「分かった!でも敵の所に行く前に強化して欲しいかも!」
あっ、確かに!あいつらは強い、戦い始めてからじゃ強化する隙が無いかもしれないよな。
『分かった、どうせならフルコースで行こう!身体強化!視覚強化!再生強化!限界突破!ククク、やり過ぎか?』
メルは俺が今までに感じたことのない程の、力の揺らぎを発している。髪の毛が金色に変化して逆立つまでには至らなかったけど、十分に期待を持てそうだ。
「ありがとう!トマスさん達が心配だから急ごうっ!」
『おう!』
メルは完全に翼を使いこなし、一気に敵の元へ飛んでいった。
コツを掴めばあんなに簡単に動かせるものなのか、俺より良い動きなんじゃ……。
『うしっ、俺も負けていられないな!』
単身となった俺もメルの後を追い、敵の元へ向かった。思った通り戦況は悪いみたいだ。一際デカいのが真ん中で威張り、レッドホークが周りで不気味に笑ってやがる。
どうやら鳥人型魔族ってのは偉そうな奴が多いみたいだな。
「カカカッ、貴様ラも甚振ってヤろう。この弱虫共と同じようにナ!」
「「「「ギャギャギャギャギャ!」」」」
『まぁ、ちょっと待っとけ』
「アリエス様、ククアさん、トマスさん、ノートさん、遅れてしまってごめんなさい。いますぐ回復を、グラン・ヒール」
「メ、メル……助かったぞ。はぁ……はぁ、その姿は?」
アリエス自身もボロボロになりながら怪我をしたトマス達を庇っていたのだろう、随分と消耗している様子だ。
上位魔族ってのはこの世界でも強い存在で間違いないって事か。しかし、意外にも目の前で回復を始めた隙だらけのメルを襲ってくる気配が無い。
それどころか、威勢の良い言葉の割に、表情は少しメルを恐れている様にも見える。
「カッ……キサマだな?ギャザンを葬ったのハ」
リーダーと思われる、黒い鳥人型魔族が身構えながらボソリと呟いた。
メルは光る眼光でそいつを睨みつけ、牽制している。メルの迫力もさることながら、コイツも確かにギャザンとは比較にならないような威圧感だ……これが黒ノ王か。
「もう大丈夫だ。知らぬ間に見違えたな、ふふ。正直言って私もトマスも赤いの一体づつで手一杯さ。他は任せても良いか?」
「はい!」
アリエスもメルの力の揺らぎを感じたのであろう、不本意そうに笑いながら歯痒そうな顔をしている。
大きく頷いたメルはトマスとも力強く手を合わせ、腰のショートソードを抜き放った。
「助かったよ、ありがとうメル。俺達は赤いのを一体受け持てば良いんだな!ノート、頼む!」
「ガアァッ!」
『さて、俺はルベルアで彼女の名はメル……お前を倒す者だ。一応、名前を聞いても良いか?』
「カッ。我が名はドレオン、キサマ等が舐めて良い存在では無いゾ!ウィンドスラッシュ!」
名乗るなり此方の不意を突くように魔法を唱えたドレオン。
風が幾つもの線となり、舞っている木葉を切り刻みながら飛んで来る。これは、真空波ってやつか!?
『防壁陣!!』
ギィギィンキキッキィン!!
まるで金属と金属がぶつかり合うような音が響く。と、音が鳴り止むと同時にメルが防壁陣の陰から素早く飛び出した。
それを察知したレッドホークが散開を始めたが、メルは止まらず剣を振った。
――ッヒュカッ!!
翼を使いこなし、強化もされているメルの速さは尋常では無く、一番近くに居た赤い魔族は反応出来ずに深く斬りつけられ、絶命。
しかし、メルの攻撃はその一体に留まらなかった。
――ッヒュカカカシュッ!!
まさに電光石火。高速で動くメルは右眼の紫の光だけを残像とし、一瞬で残り三体の赤い魔族を斬り伏せた。
それでも止まらず、ショートソードの剣先はドレオンの首元へ向かった。が、ドレオンは寸前の所でそれを防いだ。
「カッ、まさか、これ程とは!ギャザンでは話にならぬ訳だ!」
いや、俺もビックリしたわ!!今のメルに最大の強化魔法使うとここまで強くなるんかい!こんなに強いならギャザンの時も出し惜しみなしに使えば良かったよ。
アリエスとトマスも同様に口を開けたままポカンとしている。
ぶつかり合うメルの剣とドレオンの爪だけがギチギチと鈍く不快な音を立て続けている。にも関わらず、メルはあどけない顔をして首を少し傾けた。
「うーん、油断してたからイケると思ったんだけど、そう簡単にはいかないかっ」




