#27 勝利ノ余韻。
「カッ!どうなってイルんダ!!貴様ラは仲間ジャナイのカ!?イッタイ何者ダ!?」
「キャアッァァァァァァ!」
混乱する敵、叫ぶリエル……って何でお前が叫んでるんだよ、これは紛れもなくお前の仕業だろ。
『おいおい、大丈夫なのか?』
二人の元へと急降下すると、表面は煤けて黒くなってはいるものの、何とか息はしている事が分かった。今すぐ回復すれば大丈夫だとは思うが、魔族からすれば俺とメルの接近は確実に阻止すべき事柄の筈だったのに眼をキョロキョロするばかりで何かをしてくる様子は無い。
余程混乱しているって事なのだろうか。リエルの魔法が敵の混乱を引き起こす為のモノだったとしたら大成功である。といってもデメリットの方が多いのだが。
「もう!あんなに気を付けてって言ったのにまたやったの!?トマスさん達を回復するからルアさんの魔力も貸してっ」
『それは勿論良いけど……』
“またやっちゃった”って事は……前科があるのだろうか。あれ?息はしてると思ったけど、ピクリとも動かないぞ?
『し……死んでる?トマス……ノート……お前達の事は絶対に忘れないからな!』
「ちょ、まだ生きてるよ!私が治してる間、守っててねルアさん!」
『おう!』
警戒だけなら任せとけ。それにしても、この敵は全身赤い羽で覆われたド派手な野郎だよな。
頭は鷹の顔そのものだし、翼があるのに手足もある。鳥人間ってとこかな、とりあえず雑魚じゃあ無さそうだ。
「癒しの光、グラン・ヒール!!」
メルが魔法を唱えると同時に、俺の中の魔力が引き出されていくのを感じる。自然と二人の魔力が合わさって回復魔法がより強大な力へと高められているようだ。
以前、故意的に似た事をしたときは辺り一面に広がった緑の光だが、今回の光はトマスとノートがいる場所へと、濃く集中している。きっとメルの魔力の扱いが以前よりも上がったという事なのだろう。
「クァーカッ!待て待て貴様ラ!何があったのか知らんが、敵の目の前で仲間を回復するとは舐めてくれるじゃナイカ!」
「なぁアンタ!見たところただの雑魚じゃ無いようだね、何者だ?名乗ってくれても良いだろ」
鳥人間が全身を毛羽立てて怒りだしている。どうやら混乱が収まったみたいだな。アリエスが魔族へ横槍を入れたのは回復が終わるまでの時間稼ぎだろう。
「カッカッ!ふん、良いダロウ!俺の名はレッドホークのギャザンだ!覚えておきな。まぁ、何をしようとお前達はここで死ぬんだガな!クァーカッ、カッ、カッ!」
ギャザンはそう言い“ヒュッ!”と風切り音を残して上空へと舞い上がっていった。
ぽい……!なんだこの気持ちは!まさに敵役っぽいセリフじゃないか!くぅー、燃えるぜー!!俺のヒーローになりたい魂に火がついた!もしくは中二病が悪化したとでも言うべきか。
「トマスとノートは無事か!?」
「ああ、大丈夫だよ。ノートが庇ってくれたから……ありがとう、ノート、メル!」
「俺も大丈夫だ、慣れてるからな。助かったぞメル」
復活したトマスに肩を叩かれ笑みを浮かべたノートが、まるで何事も無かったようにメルの頭をポンポンと撫でた。復活したトマスとノートを見るに、戦闘に支障は無さそうである。
「ううん、治せて良かった!……ふぅ。それにしても……リ・エ・ルーッ!?」
「ひぃぃん、ごめんなさい!!そんなつもりじゃ無かったの!!許して下さいー!」
「もうっ!だから、もう少し上手になるまでは、仲間のいる方へ向けて攻撃魔法を撃っちゃダメって言ったでしょ!」
メルは腰に手を当ててプンスカと怒り、リエルは哀れな程に小さくなっている。さっきの“リエルはあれで良いの”ってもしかして危ないから何もしないでって事だったのか?
「まぁ、いつもの事だ。あまり責めてやるな」
縮こまるリエルを見たノートの優しい言葉。厳つい顔して優しすぎるぞ“ピャギィィィィィィィイ!!!”とか言ってたのに……俺の仕事の親方もこのくらい優しかったら良かったのに。
そうだ、ノートの事は親方と呼ぼう。
「トマス、ノート、行けそうか?私とメルが仕掛けるから大丈夫そうなら来てくれ」
「ああ、大丈夫だ。少し息を整えたら加勢するよ」
「問題無い、ドラゴフォーム」
鋭い目付きで上を見上げたアリエス。敵はまだ仕掛けてくる様子がない、余程腕に自信があるのだろう。
トマスが顔つきを変えてボロボロになってしまった服をキュッと正すと、ノートの親方は気合い十分といった様子で再びドラゴンへと姿を変えてゆく。
『皆カッコいいなぁ、俺も見習わなくちゃ。よし、先に行くとするか』
「うん!行こう!リエルは敵が離れたときに魔法で支援して!」
俺は翼を大きく羽ばたかせ、メルと共に敵の待つ上空を目指した。一体の魔族相手に多勢で挑む訳だが、気にする事は無いだろう。
だって、皆で行った方が安心だもん。
「はい!分かりました!!」
下の方からやたらと礼儀正しい返事が聞こえる。きっと深々とお辞儀をしてるんだろうなぁ。
さてと、コイツの実力はどんなもんかな。
「クァカッカッカッ!やっと上がって来たカ、待ちくたびれたゾ。黒ノ王が言っていたのはお前達の事ダロウ。一目で分かったぞ!」
『なぁ、少し聞いても良いか?なんで執拗に村を襲うんだ?無駄に争わなくても良いだろ』
「カッ!黒ノ王はとても賢いお方だ!将来、お前達が力を付けたときの驚異を見越して、そうなる前に叩くおつもりダロウ!」
俺の質問に、ギャザンがフンッとトガッた嘴をさらに尖らせて答えた。つまりは俺達“転生者”の存在に気付いて潰しに来たって事か、
全く迷惑な話だよ。
「デハ、死んでもらうゾ!」
――ヒュッ!
ギャザンは体を捻り翼で空を叩く――と、その反動を利用し“後ろ回し蹴り”のような格好で攻撃をしてきた。
俺もそれに反応し、ギャザンの左足の爪がメルの首に届く前に横へ飛んだ。
しかし、ギャザンは一撃目の攻撃が避けられる事を察知し、すぐにもう一方の右足の爪を振りかざしてきた。翼で自由に動ける分、人間よりずっと攻撃に隙が無い。
ギィン!――
ギャザンの二擊目をメルが上手く剣で受け払うと、反撃のチャンスとばかりに、払った剣を返しギャザンの胴を狙った。
ガギッ!――「カッ!甘く見るナ!」
メルの剣に臆すること無く、刀身を左手の爪で受け流した鳥人間が不敵に笑う。魔力を使い切ってしまったミハエル戦の反省を生かして魔力を温存していたのだが、失敗だったかもしれない。
『先に身体強化しとけば良かったか?』
「ううん、このくらいのスピードならついていけるから大丈夫。ルアさん、避けながら攻撃もできる?」
『うーむ、避けるのが最優先だけど一応狙ってみるよ』
「カッカッ!相談か?せいぜい楽しませてくれよナ!クァッカッカ!」
あ、今いけんじゃね?――ヒュヒュン!!
俺は高速で二本の影を刃に変え、ギャザン目掛けて突き出した。
「ナッ!?」
――サッ!ビシュッ!
俺の奇襲に対しギャザンは咄嗟に反応し、一本目の影を避けた。が、二本目の影は左瞼を掠めた。不意打ちとしては上出来、一瞬の隙が生まれたことでギャザンへの急接近に成功した。
『チィッ』
「カッ!キサマ!」
「たぁっ!」
ギャザンは体勢を立て直そうとしたが、立て直すより早くメルが横一文字に剣を振った。
――ギャリィッ!硬い爪と剣がぶつかり火花が散り、剣を弾いたギャザンの右足がそのままメルの顔目掛けて振り下ろされた。
ザシュッ!!――舞う血飛沫。
攻撃を受けたのはメルではなく、ギャザンの方。
メルが弾かれた剣を素早く逆手に握り変え、縦一閃に振り抜いたのだ。その斬擊がギャザンの右脚を見事に両断した。
「ッッッギャ!!ガァァア!クソッたれが、キッサマらぁぁ!皆殺しにしてやるゾ!!」
堪らず後方へ飛んで距離をとるギャザンが息を荒くし、眼をぎらつかせて激昂している。
しかし、どうみても此方が優勢だ。勝利を確信したのか、メルがパチンと下へ目配せした。
―――バサァッ!!
気づくと後ろに浮上していたアリエスとトマスが、右脚を失くし激昂する魔族を見て目をパチクリさせた。
「ヒュー!やるじゃないか、私らの出番は無かったか?」
「まさか魔族をここまで追い詰めていたとは、凄いじゃないか」
軽口を叩くアリエスだが、口調とは裏腹に鋭い眼光でギャザンを見据えて剣を構えている。
トマスも同様に油断している様子は無い。
「カッ……ハァ……ハァ……。今に見て――ドスッ!――グハァァッ!!」
まだ粘ろうとするギャザンの胴体を、突如として鋭利な氷の刃が突き刺さった。
なんと、リエルがメルからの合図を受け、氷魔法“アイスエッジ”を放っていたのだ。
ギャザンの眼から光が失われ、力無く墜落して行く。
「ナーイス!リエル!」
「はい!お陰さまです!!」
リエルに魔法を使わせる余裕が出来たのは、結果的にギャザンが俺達から距離をとったのが失敗だったという事だろう。
と言ってもあの場合は離れるしかなかっただろうが。
「うっし!怪我人も出ずに片付けられて良かったな!」
「はい!」
『そ、そう……だな』
「戻って昼飯にするか」
アリエスがククアドラゴンの背を優しく撫でる。でも、実際は怪我人どころか、死人が出るところだったんだよなぁ……。
次からは敵だけじゃなくリエルの魔法にも気をつけておこう。
―――キィィィィイイン!!
『なっ!何か来るぞぉっ!!』
「わっ!さっきより大きいのも居るよっ!?」
一同がホッとしたのも束の間、幾つかの風切り音が重なり空気を揺らした。レッドホークが群れが……いや、先頭に居る奴はギャザンよりもかなりデカいから別の種族か。
「嘘だろ?」
「ククアッ横に飛べ!みんな、避けろーっ!!」
大きな黒い個体を筆頭に、四体のレッドホークが流星群の様な速さで突っ込んで来る。
俺達七人は嫌な流れを感じた。




