#26 ココロ強い仲間。
『なぁ、一つ聞いてもいいか?』
「なぁにぃー!?」
見張り台に向かう中で俺はどうしても気になる事があった。風の音で良く聞こえないのか、メルの声が自然と大きくなる。
『昨日、俺があんなに村周辺の魔素を吸収したのに、何でモンスターの群れが発生したんだ?』
以前なら俺がここら一帯の魔素を喰い散らかしてた所為で、村の周りにモンスターが発生することはなかったのに……。
モンスターが発生するには魔素が必要なんじゃなかったっけ?
「あー!えーっとねーっ!!何年か前にこっちの地方に“黒き鳥ノ王”ってのが来たみたいでねー!その黒ノ王ってのが遠くから鳥型のモンスターを連れてきたんだってー!!」
中年オヤジのくしゃみと同じくらい大きい声だな。
これが団地のマンションだったらご近所問題になるとこだぞ。
『なんかヤバそうなのが来たんだな』
メルの声のデカさはさておき、理由は分かった。
もともと存在していたモンスターを連れてきたなら自然発生とは関係の無い話だよな。
でも、手下を引き連れてくるようなモンスターってことはもしかして上位魔族?
名前も強そうだし一筋縄で勝てるような相手じゃないだろうなぁ。
触らぬ神に祟り無しっていうけど向こうから来るんじゃどうしようもねぇじゃん。
「メル、声デカすぎっ!」
耳を塞ぎながら文句を言うリエル。
村の西側にある見張り台の広場が見えてきた。
天使達が居り、既に十数体のモンスターが倒された形跡がある。
どうやら既に一戦を終えた後らしい。
「アリエス様!モンスターの群れが向かってるって聞いて来ました!」
「おう、来たか!とりあえずは一段落さ、バースと言ったかな?村の自警団長に聞いたら、メルが居る大体の場所は予想出来ると言うから、敵の二陣が来る前に呼びに行ってもらったんだ」
バース?あのバースが自警団のリーダーなのか!
頑張って強くなったんだなぁ……。
ん?何か気になる事でも見つけたのか、メルとリエルが揃って辺りをキョロキョロと見渡している。
「ねぇ、アリエス様。他のみんなは何処ですか?」
リエルの言葉を聞き周りを見渡してみると、確かに天使の数が全然足らない。
リエルを合わせてもたったの五人だ。
「んあ?ああ、私とククア、トマスとノートのペア以外は浮遊城に帰したよ。ここ数日のモンスター共の動きが活発すぎるから浮遊城の守りを増やすついでに王に報告に行かせたんだ」
リエルの質問に答えながらも固そうな干し肉を齧っているアリエスは、綺麗な顔をしながらも盗賊の親玉みたいな雰囲気を漂わせている。
「皆を戻したんですか?敵が来るかも知れないのに?」
リエルが続けざまに質問を投げ掛けたが、それは俺も気になった。
メルも気にしている様子で食い入るように返答を待っている。
アリエスはそんな俺達をよそに、けろっとした顔をして干し肉を食べ終えた。
「ん、だってルベルアが居れば何が来ても大丈夫なんだろ?まぁ、私達も居るしな」
予想外のアリエスの言葉、俺に緊張が走る。
チワワに転生したのに羊を追いかけろと言われるくらいの無茶振りだ!……いや、そこまで無茶では無いか。
しっかし、さらっとプレッシャーかけてきたな、鬼か!みなさーん!ここに鬼が居ますよー!
「あ、う……うん。大丈夫……だよね?ルアさん」
『だっだ、大丈夫さ!まま任せとけ!』
くっそ噛んだ!ビビるな俺!とりあえず、親指 (っぽい指)を“グッ”と立てて笑っといたけど、足があったらガクガク震えてるとこだぞ!以後、気をつけたまえ!
強い敵が来ませんよーに!来ませんよーに!
「ふっ。まぁ、期待してるよ」
アリエスはニヤリと笑い親指を立てた。
「おーい!来たぞー!!」
見張り台にいた自警団が叫んだ。それと同時に見張り台の鐘の音がけたたましく鳴り響いた。
「来たか!ククア、行くぞ!」
「うん…………ドラゴフォーム」
ククアとはアリエスの相棒の天使であり、天使族の女性には珍しいショートカットの髪型をした女性である。
ついでに言うと、昨日話しかけた時は無視された。
綺麗な白色のドラゴンへと変化したククアにアリエスが跨がり颯爽と空へ上がって行く。
ククアの声は始めて聞いたけど、かなり小さい声なのね。きっとツンデレキャラに違いない。
「遅れるな!行くぞノート!」
「おう、ドラゴフォーム!」
アリエス達と略同じタイミングでトマスが叫んだ。
トマスは昨日俺の言葉に謎の翻訳をしていた勘違い野郎で、話してみると意外と爽やかな男だった。
が、童顔な顔に似合わず体はムキムキしている。さては脳筋野郎だな?プププーッ(笑)
厳つい白竜へと姿を変えたノートは無口と言うよりは“頑固そう”といった印象だ。俺が人間だった頃の仕事の親方を思い出させる。
『よし、俺達も行くか!リエルは乗らなくても良いんだよな?』
「うん、お願い!リエルはペアが居なくても戦えるから大丈夫!」
「はい、私は自分で飛べるから大丈夫。白ノ翼!」
翼を作り出した俺は“メルの翼”となる為に自分の影をメルの手足に絡み付けた。
ふと、リエルに目をやると背中に白鳥のように綺麗な白い翼が現れているじゃないか……まさに天使だ。
『おおお!そんなことも出来たのか!それが出来るなら、皆そうした方が良いんじゃないのか?』
初めてテスタントと逢った時も、この白い翼を纏った姿で来てくれたなら、第一印象で天使と分かったかもしれないのに。
「それが出来ないから、天使の戦士は二人一組でドラゴンナイトをしてるんだよ。リエルは天使の中でも特に魔法が得意な部類なの!」
ただの食いしん坊じゃなかったのか。
『そうなのか……竜に変身する方が難しそうだけどな』
「それはね、天使族の中には竜の血が流れてるからだってミハエル様が―――」
「いつまでお喋りしているつもりだ!敵が来たぞ!村を守れ!」
メルの言葉を遮り叫んだアリエス。
いつの間にかホーンバードとブルームヘッドの群れが戦闘圏内へと入っていたのだ。
ビュンビュンと頭の角を槍の様に突き出したまま、此方へ向かって飛んでくる。
交差する様に飛ぶ二種のモンスター、ホーンバードが飛び抜けた間を縫って、ブルームヘッドが鉤爪で攻撃を仕掛けてくるらしい。
昨日聞いた通りの敵の動きだが、話に聞くよりもずっと厄介な波状攻撃だ。
ククアドラゴンとノートドラゴンはそれを巧みに避け、隙を見つけてはアリエスとトマスが敵を斬りつけている。
モンスターの連携も然る事乍ら、天使族の竜騎士も良く出来た連携だ。
『メル、敵の流れに合わせて飛ぶぞ。準備は良いか?』
鳥型のモンスターの動きを魔力の流れで把握するために、一度動きを止めた。
が、動きを止めた隙を狙ったのか、二体のモンスターが背後から飛びかかってきた。
といっても、幸い早くから気付いていた俺は、影を刃に変えて難なく撃墜することに成功。
「良いよ!これ以上増える前に叩こう!」
メルがショートソードを両手で握り構える。俺の知らない八年でメルは相当な修行をしたのだろう、以前とは纏っているオーラが違う。
可愛いだけではなく、頼もしい相棒となった様だ。
迫るホーンバードの滑空攻撃、それを自分の羽ばたきの反動で後ろへ移動して避け、次の羽ばたきでホーンバードの後を追うように一気に加速。
ホーンバードに追い付くとメルが透かさず剣を振る。
一匹を屠った俺達を狙って二体のブルームヘッドが爪を立て急降下してきた。
「クァアアア!」「ガァァアア!」
チャキッ――!二体の動きに合わせ、メルが剣を持ちなおす。
「ルアさん!真っ直ぐ上に!」
『おうっ!』
ヒュッ!――ザシュッ!スパァッ!
急降下してきた二体が風の抵抗を受けた隙を狙って二体の間を飛び抜けると、その一瞬でメルがきっちりと二体に致命傷を与えた。
その勢いで上空まで上がり滞空すると、下の戦況と仲間の動きの良さがよく見える。
アリエスもトマスも敵からの攻撃を受けることなく、確実に一体ずつ仕留めている。
動きに無駄がない、さすが戦闘慣れしてるだけあるな。そういえばリエルは何処に居るんだ?
……あっ、いた。え?ええーっ?あんな所で何か食べてる!マジかよ!あの子、食いしん坊のお馬鹿さんキャラなのか!?
皆があんなに自慢気に語ってたのに!戦闘前にあんなにハードル上げられてたのに!ハードルの下、潜っちゃったよ!!
けど、他のみんなの頑張りで敵の数は少なくなってきてるな、俺が居なくても全然楽勝じゃないか。
『なぁ、リエルがまた何か食べてるぞ?』
「うん、リエルはあれで良いの」
俺の密告を当たり前のように返すメル。この反応、俺が知らないだけでリエルの行動にも何か意味があるのかな?気にするのは止めて残った敵の数でも確認するか。
『角の鳥の動きがバラバラで狙いにくいけど、もう少し数が減れば俺の技で一気に片付けられると思う』
「うん、分かった!行こう!」
ヤル気満々のメルと共に乱雑に飛び交う三体のモンスターの間を縫って飛び斬り倒してもらい残り六体を“ダークハンド”で一掃する。そんなイメージだ。
『スゥー、プハァ!よし!一気に行くぞ!!』
「うん!」
んっ――――!?
突然、飛行機が近づいてくるかの様な風を切る高音が響き渡るった。
音の方を向くと、確かに西から凄まじい速さで何かが飛んで来る、しかもトマス達の方へ一直線に向かっている。
「クァーッカッカッカ!調子に乗るな、東の者共ヨ!」
えっ――!?新手のモンスターか!?いや、何か言葉を喋っていた気がする。って事は新手の魔族か?
トマス達が心配だが、割って入るにはちょっと距離がある。つい脳裏に嫌なイメージが沸いてしまう。
トマスがトマトの様に……もとい、トマスケチャップになってしまうのでは!そんなイメージが。とにかく超加速で助けに行くしかない。
『メル、すまん!負担かけるぞ!!』
「うん、急いで!」
ゴオオオォッッ――――!!
『ッ!?今度は何だ!?』
突如として轟音と共に出現した巨大な火の玉が、舞い散る木の葉を巻き込みながら、かなりの速さで新手の敵に向かい飛んでゆく。
火の魔法……?――リエルかっ!!
リエルがいち早く敵に気付いて魔法を使っていたのだ!俺は心が震えるのを感じた。これが、仲間ってやつなんだ!!
巨大な火の玉は風の影響を受けること無く、敵の方へと飛んで行く。
ゴオオオォッッ!!
「ナニィッ!?馬鹿なァッ!!」
ズッ……ドドォッッオオン!!
「ギャッピッィィィィィイイ!!」「ピャギィィィィィィィイ!」
爆音の中で、断末魔の叫びが響く……。
ゲームやアニメに出てきそうなちゃんとした攻撃魔法ってのを初めて見た気がするけど、実際目の当たりにすると壮絶だな。
…パキ…パラ……。パラ…。炎の爆発で舞った塵の雨が収まると、強力な魔法の餌食となったボロボロの姿が露となった。
ボロボロになったトマスとノートの姿が。って、ええーっ!?
「ッッな、ナンじゃコリャー!!」
新手の敵も予想外の光景に思わず叫び、その叫び声は俺の心をとても強く揺さぶった。だって、そうなるよな。




