#30 来訪者は…。イカ略。
村へ戻ってきた俺達は、ミルザの居る教会へと集まっていた。
食事を長テーブルに並べたりと、せっせと動いている村人達。そこにはエリスの姿もあり、にこやかに配膳するエリスの顔を見ては、男共が鼻の下を伸ばしている。
天使族の五人や、疲労の大きな自警団の連中はそんな中で食べ物をつまみながらあれやこれやと話していた。
「いやぁ、すまなかった!一瞬反応が遅れただけであの様だったよ、リエルが受け止めてくれなきゃ死んでたかもな!あっはははっ!」
ミルザの回復魔法を受けすっかり元気を取り戻したアリエスが用意された果実の飲み物を片手に笑う。その横ではククアが物静かに果物の皮を剥き、小さな口へと放り込んでいる。
なんて対照的な二人なんだ。アリエスのは話は笑い事じゃないし、しっかし回復魔法ってのは凄い魔法だな……ん?そういえばミルザは何処に行ったんだろう。
まぁ良いか、何処かには居るだろ。
「私は戦いについていけなかったから、少しでも役に立てたなら良かったです……」
申し訳なさそうな顔で言うリエル。だが、その手に持つ皿には既に大量の食べ物が乗せてある。
「リエルはまだ良いだろ、俺達こそまだまだだな!最後はメルとルベルアに頼りきってしまったし、鍛え直すか!」
「ああ、あれでは皆に迷惑をかける」
トマスとノートは食事に手を付けずに、反省をしている様だ。ワプル常駐組のリーダー的存在としての不甲斐なさを感じてしまったのだろう。
『どうなるかと思ったけど、結果的に皆が無事で良かったよな』
「うん、本当に良かった。私ね、結構強くなったと思ってたんだけど、まだまだ足りなかった」
『いや、メルも頑張ってただろ。いつの間にか剣技も使えるようになってたし、カッコ良かったよ』
「あー、うん。ずっと村長とミハエル様に剣を教えてもらってたからね。本当に感謝しかないよ」
『俺は四日だけの付き合いだったけど、メルは八年もミハエルと付き合いがあるんだもんな。ずっと村とメルを守ってくれてさ、また会えたら俺からもお礼しないとな』
「ミハエル様ならお礼なんて必要無い!とか言いそうだけどね」
俺とメルが話していると、リエルが大量の料理を持ってトコトコと近づいてきた。
「メル、お疲れ様!大活躍だったみたいだね。ルアさんもお疲れ様です!メルを守ってくれてありがとう」
可愛らしい笑顔でお辞儀をくれたリエル。お皿の食べ物が落ちないように、もの凄~く慎重に頭を下げている。
『おう!リエルもお疲れ様!』
「お疲れ様!リエル、それ全部食べるの?」
「勿論食べるよ?あ、少し分けてあげよっか?」
お皿に乗る食べ物の量にメルが眉をしかめたが、それを知ってか知らずか、幾つもの果物を選びながら手に取り始めた。果物の下からはハンバーグに似た料理も顔を出しているが、盛り付けのセンスはどうなっているのだろう。
「あーっ!いや要らないよ!私、ちょっと今は何かを食べる気になれなくて」
リエルの挙動を見ていたメルが慌ててそれを制止した。俺にはメルの食欲が無い理由が想像ができた。
「そう?美味しいもの沢山あるのに……」
呟くと、手に取った果物を口の中へギュウギュウに押し込み、やがて頬をパンパンに膨らませたリエルは踵を返し、トコトコと長テーブルの方へ戻っていった。
あれを一気に食べるとは……喉詰まるぞ!?
―――ッカンカンカン!!
和やかな空気を切り裂く様に鳴り響く鐘の音――
ワプル村に設置された鐘は、見張り台にある一つだけ。この鐘の音は、恐らくこの場に居る全員に嫌な予感を走らせたであろう。
村人達はビクリと肩を震わせ、天使と自警団はバッと立ち上がり険しい顔をした。
マジかよ!もう黒ノ王は倒したじゃねぇか!何者か知らんが、今日はもう勘弁してくれよ!そう思った矢先、“ドタン!”と教会のドアが開けられ自警団の一人が飛び込んできた。
「ツナウ山脈の方から何かが近づいて来ています!すみませんが天使の方々、自警団と共に警戒に当たって下さい!メルも来てくれ!」
飛び込んできた自警団の言葉を聞き“やはり敵襲か”と、この場に緊張が走る。おまけに“ツナウ山脈の側から”と言うことは、敵の発見から鐘を鳴らすまでに幾ばくかの時間を要した筈だ。
となれば、敵が村に到着するまでに要する時間は多く無いという事になる。けれど、俺の名前は出て無いし、行かなくても良いって事かな。
「また来ちゃったんだ……メルちゃん、気をつけて行ってらっしゃいね!お母さん、応援してるから!」
エリスはそう言うと、小さくガッツポーズをして見せた。エリスだけは緊張が全く感じられないのは気のせいか?
「仕方ないよね、ルアさん行こう!」
『はぁ………だな!』
エリスに応援されたのが余程嬉しいのか、手早く戦闘装備を身につけて明るく言うメル。俺も促されるままに腹を括ったが、アリエス達と自警団は既に教会を飛び出して防衛ラインへと向かった様だ。
ツナウ山脈側を警戒するとなると教会から六キロ程北へ向かった所にある広場に集まれば良いのだろう。
『飛んでくぞ、乗ってくれ』
「うん!」
北の広場へむけ飛び始めてすぐに自警団の連中に追い付いたがバースの姿は見えない、そういえば教会でも見掛けなかったし、既に北の広場で待機しているのであろうか。
北の広場へ残り三キロ位の所でアリエス達にも追い付いた。 五人ともかなりの速さで走っている、やはり人族よりも天使族の方が身体能力が高いようだ。
「先に行ってます!」
「ああ、頼んだ!」
「はい!」
メルが追い越すなかで声を掛けると、アリエスはグッと親指を立て、悪そうな笑みを返してきた。
「んふー!ふぐー!んふー!ふぐー!」
ん?なんだ今の声は。走っている皆の方をチラリと見ても天使の皆が真剣な表情で走っているだけだが……いや、真剣なのは四人か。一人だけ頬がパンパンになってる奴が居たのね。あれはさぞ呼吸がしずらいだろう。
よし、行こう。
◇◆◇
北の広場へ到着した俺達は、すでに警戒体制をとっている自警団に話を聞こうとしたが、近くに居た自警団が先に話しかけてきた。バースだ。
「メル、来てくれたんだね!疲れているところすまない!見張り台に居る視角強化魔法を使える仲間が、北から何かが向かって来るのを見つけたんだ!」
「そっか、確認するからバースは待ってて。ルアさんお願いっ」
「お願いします!」
『お、ちょっと待っててくれ』
俺はメルを下に残し一人で浮き上がった。近くにモンスターの影は無いみたいだけど、怪しい影ってのは何処に居るんだ?
「ルアさん、何か見えたぁー!?」
『もうちょい待ってくれ!視角強化』
視角強化を使ってツナウ山脈の方角を眺めると、確かに何かが向かってくるのが見える。数は多くないが、ドレオンよりも大きいのが真っ直ぐに此方へ飛んで来ている。
んっ!?アレって!何故ここに?まぁ、理由は会ってから聞けば良いし、とりあえず降りるか。
「何か見えた?」
「どうでしたか?」
『ククク。安心して大丈夫だ、敵じゃない』
◇思いがけない来訪者だったが、安心と久しぶりに会える嬉しさでルベルアの顔は緩み、黄色の目は歪に吊り上がり、赤い口は大きく裂け広がった。そのニヤケ顔を見てバースの顔は恐怖で引き吊った◇
「もしかして、天使族の応援?」
『天使族が一人……あっ、二人か。後二分もあればここに着くと思うが、まだ誰かは言えないなぁ。ククッ』
俺が意味深に伝えると、メルは目を細め北の空を見たままブツブツと考え出した。きっとドキドキとワクワクで胸がいっぱいになっていることだろう。
「えっ!?もしかしてミハエル様とテスタントさん?けど、ミハエル様は浮遊城から離れられないんじゃ……」
『えっ……ええっと……』
ちょま、サプライズのつもりだったのに思いっきりバレてんじゃねぇか!俺のわくわくを返してくれ!
アリエス達も広場へと到着した様で、バースが慌てて敵じゃない事を伝えに向かった。リエルの頬がスッキリしているところを見ると、走りながら食べ終えたらしい。
それから程なくして聞こえてきたドラゴンの羽ばたく音、俺達が居る広場へと降り立ったテスタントドラゴン。悠々とした姿は以前と変わらないが、どこか慌てた様子だ。
というか、さっき視角強化で見た時にはミハエルが乗ってる様に見えたけど、テスタント一人だったのか。
「テスタントさん、ワプル村に来るなんて何があったのですか?」
『久しぶり!俺の居ない間も色々とメルを見てくれてありがとう!』
「話は後で!皆さん少し離れて場所を開けて下さい!」
『何を慌ててるのか知らないけど、テスタントはドラゴンのままでも喋れるから楽で良いよな』
「うん、他のみんなもそう出来たら良いのにね」
テスタントドラゴンは翼を箒の様に使い周りを払うことで自警団の連中を遠ざけ始めた。なにやら慌てている様子だ。
そんなテスタントドラゴンを他所に俺とメルは気の抜けた会話をしていたのだが、気の緩んだ俺達の目の前で何かが空から落下してきた。
――ヒュッ!ッッドッオッオオオォォン!!
「プギィィィィィィィィィイッ!!」
『「――――ッ!?」』
立ち込める砂埃、突然の出来事にメルも俺も絶句した。立ち込めた静寂を破るように砂埃の中から響く声、その男の覇気が舞い上がった砂埃を吹き飛ばした。
「ガーッハッハッハ!驚いたであろう人族よ!余が天使王、ミハエル・カーライルである!」
あの……言いにくいんですが……。




