#31 サプライズと提案。
「あの……ミハエル様……その……」
「ガッハハハ!どうした、驚きのあまり声も出んか?」
サプライズ大成功!といった顔でミハエルは笑っているが、皆の視線はミハエルではなく、その足元へと集中している。だって、だってね。ミハエルの忠臣が悲惨な事になってるんだもん。
『ミハエル、久し振りに会った所悪いんだが、その……足元を見てくれないか?』
再びミハエルと会えたら真っ先に様々な事に対するお礼をしよう、そう思っていた訳だが、目の前の光景がそれを許さない。
「むあっ!?おのれ魔族め!何故こんなところに貴様のような輩が居るのだ!」
「きゃっ!ミハエル様!?」
『おおっ!?ちょっと待ってくれ!俺はルベ――』
いきり立ったミハエルは問答無用に腰の剣を抜き放ち戦闘体勢をとった。慌てて誤解を解こうとしたが間に合わず、有無を言わさぬ大剣が水平に振り払われた。
「プギッ!」
――ッギィン!
俺は咄嗟に体を硬質化させ一撃を耐えたが、ミハエルの力強い踏み込みは確実にテスタントへとダメージを与えている。
しかし、足元には目もくれず、弾かれた剣に振り回される事も無く、ミハエルは剣を返して上から下へと鋭い剣先を振り下げた。
「プギッ!」
――ガキィン!
硬質化状態の俺に刃は通らないが、剣がテスタントに当たりそうな事の方が恐ろしい。早く誤解をとかなければ、テスタントがあまりに危険である。
『俺、俺だよ俺!俺だってミハエル!』
「魔族と話すことなど無いわ!」
警察に事情聴取されそうな言葉で制止を試みるも、俺の言葉に聞く耳を持たぬミハエルは、振り下げた剣の重みを意に介せず力任せに跳び上がると、剣を両手で握り渾身の力で振り下ろした。
『だから話を』
「むぅんっ!」
『聞いてくれっ』
「黙らぬかっ!」
まさに暴走状態、このままミハエルが本気になってしまったら最終的に辺り一帯の地形が変わることになってしまうだろう。
テスタントの為にも一旦距離を取ることにして、攻撃を受けずに全力で後方へ移動した俺は、連続攻撃を止めるべく新たに覚えた使い方で得意魔法を発動させた。
『特大っ、防壁陣!!!』
「むっ!なんだコレは!防御魔法を相手に使うとは小癪なっ!」
発動させた防壁陣が、少し歪な球体となってミハエルの全身を包み込んだ。
慌てて魔法を放った所為で、防壁陣には隙間が目立つが、動きを止める事には成功した。その瞬間、メルが大声で叫んだ。
「ミハエル様!落ち着いてください!ルアさんは魔族じゃ無いですよ!!悪魔ですよ!!」
「ブフッ!」
説得の効果か、防壁陣の中からギラギラと発せられていたミハエルの殺気が収まってゆく。というか、メルももっと良いフォローの言葉はあるだろ、中から吹き出す音が聞こえたぞ。
「その声は、メルだな?余が盟主と認めた者であり、友でもあるお前に問うが、其奴が魔族では無いと言ったのか?」
「はい、前と違って声も姿も確認できますが、ルアさんです」
『俺はルベルアで間違いないよ。俺の事も友として認めてくれたはずだよな?ミハエル、鈴の音じゃないと分からないか?』
うひぃ、怖えーっ!相手がスーパーお爺ちゃんとはいえ「え?何それ?ルベルアって美味しいの?」とか言われたら正直ショックだぞ!
覚えてて……トクン……くれてるかな?……トゥクン…トゥクン。
――――カンッ!
『痛たっ!』
越えてはいけない線に足を踏み入れかけた瞬間、頭に何かをぶつけられた様な……ん?これは……カツミ?クルミに似た木の実“カツミ”が地面に転がってる。
木の実が飛んで来た方を向くと、そこには二投目を投げようと大きく振りかぶっていたリエルが居た。
えっ!そんなガチで振りかぶって投げたんかい!伝説のピッチャー“ノーモ”のハリケーン投法かと思ったわ!
『あの、リエル?どうしてぶつけ』
「やっ!」
――カンッ!!
『痛だっい!』
結局投げるんかい!!
「ごめんなさい、ルアさん。何故か投げなきゃいけない気がして」
『別に良いけど、もう投げないでくれよ』
深々と頭を下げたリエル、きっと自身が怒られそうな時の返事とお辞儀に絶対の自信を持っているのだろう。
三球目は来ないと信じてミハエルの方へと向き直った丁度その時、防壁陣の効果が切れ、暴走天使王が中から解放された。
「ガッハハハ!どうであったか!驚いたであろう!なかなか遊びに来てくれんから余の方から来てやったぞ、ルベルアよ。お主の腕が鈍っておらんようで安心したぞ」
『えええぇーっ!?』
サプライズドッキリのつもりだったのか!?この人騒がせな王様め!毒でも盛られて二日くらい寝込めば良いのに!と思ったけど、口には出すのは止めておこう。
自警団の連中も初めて見る“天使王”のイメージが強烈に焼き付けられたようで、皆が皆、唖然としている。
「もう、ミハエル様酷い!悪趣味だよ!」
「む!そうか!それは悪いことをした!戦士達からの報告でルベルアが戻ってきた上に姿や声も確認できると聞いてな、つい会いに来てしまったのだ、許せ!」
「ハァ、困った王だな。そんな事より、メルは早くテスタント様を回復してやってくれないか?」
ため息混じりに歩みでて来たアリエスは、自分の王の言葉を“そんな事”と切り捨てると、テスタントに触れドラゴン化を解除した。
「ああっ!ごめんなさいっ、すぐに!」
「むっ!?テスタントよ、お前は何をしているのだ!」
「王が落ちてきた時に踏み潰したぞ」
「なんと、真か?だとすれば悪いことをした!許せ!ガッハハハハ!」
何でもかんでも“許せ!”で済むと思うんじゃないよ!俺よりアンタの方がよっぽど悪魔だっての!勿論、俺は思っただけで口には出さないけど。
慌てて近寄ったメルが直ぐに回復魔法を唱えテスタントの命は無事に繋ぎ止められた。起き上がるまでに少し時間はかかったが、どこにも異常は無い様で一安心だ。
「すみません、助かりましたよ。我が主よ、お恥ずかしい所をお見せしましたが私は大丈夫です。して、本題の用件はもう伝えたのですか?」
コイツの忠義は何があっても揺るがないみたいだが、実はお仕事ロボットか何かなのだろうか。
「テスタントさん、本題っていうのは何ですか?」
「そうであったな、では話すとしよう。メルにルベルア、そして余を含む天使の精鋭達で黒き鳥ノ王を叩こうぞ」
『黒き鳥ノ王ならもう倒したぞ』
「ガッハハ!面白い冗談を言うでないか!余の遊びへのお返しか?」
『いや、本当に倒したんだよ。原型は無くなってたけどさ』
「うっ、ルアさん……それは言わないで」
『すまん』
「むぅ、冗談ではないのか?ならば何か勘違いをしているのだろう。千年以上前に見たときの姿しか知らぬが、黒ノ王がこの辺りで討伐されたのなら一目で分かる筈であるぞ。奴はとてつもないデカさだからな!」
「だが王よ。王やルベルアが桁違いに強いとしても、こんな戦力で倒せる相手では無いだろう、勝算はあるのか?」
腕を組んだまま訝しげな顔をするアリエスの言葉にトマスとノートも大きく頷いた。ミハエルの体が大きいお陰でイメージは崩れにくいが、態度だけならどちらが王なのか分からない構図だ。
「うむ、余が居れば問題無い!と言いたい所だがそう簡単な相手ではないだろう。だが案ずるな、ベクールにも使者を向かわせてあるからな。大きな災いが起こる前に共闘をして解決しようではないか!と書状を持たせてやったわ」
「そうか……まぁ、仮にも一種族の王からの書状ならば無下にされることも無いか。不安要素はあるが、王は言い出したら聞かないだろうし、納得しとくよ」
“渋々”ミハエルの提案を飲んだアリエス。メルは一応“盟主”の筈なのだが、話は二人の間でトントン拍子に進んでいく。
「決まりである。善は急げ、明日にでも出発しようぞ!」
「んー、放っといたらいつまでもこの辺りがモンスターに襲われちゃうのか……。分かりました、私も精一杯頑張ります!」
ミハエルがこれ以上ないってくらいのドヤ顔で腰に手を当て言い切ると、メルも強く心に決めたようだ。メルが心に決めたのなら、俺の選択も一つしかない。
『よし、悪魔らしく暴れてやるか!!』
こうして俺とメル、ミハエルに天使の戦士達、もしかしたら来てくれるかもしれないベクールで活動するローグ達で“黒き鳥ノ王討伐”が決まったのである。




