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#23 その時、俺ハ。

 ◇◆◇時は少し遡り◇◆◇


 光に包まれて全てが真っ白になった。


 この感覚は前にも二度経験がある。


 気付くと俺は小鳥の声がさえずる森の中に居た。


「ギャアアアス!」

「クワァアア!」

「ギイィイイイ!」


 いや、これ、さえずるとか言うレベルじゃねぇ!なんか小鳥ってより馬鹿みたいに強面な鳥だし。てかモンスターじゃね!?いや、今はそんなことより俺の体がどうなってるかだ。


 確認できる部分は……っと、影だ。影のような黒い手と体、足と腕は……無いか、顔は見えないけど間違いない。戻った!悪魔の体だ!俺はこの世界に帰って来たぞ!!


 くぅー!このなんとも言えない感覚、愛しかったぜ悪魔ボディい痛だだだ!


 エンドルゼアへと戻った喜びに浮かれていた俺の肩(的な部分)に、突然小さな痛みが走った。見ると鳥型のモンスターが俺の肩に止まり、せっせとツツいている。


「キィエエエエエエエエエエエ!!」


 うるさっ!耳元(耳は無いが)で鳴くんじゃないよ!


 チチチチチチチチチチチチチチチチ!!


 鳥型のモンスターは奇声をあげ、休むこと無く俺をツツいている。


 チチチチチチチチチチチチチチチチ!!


 親の仇のように俺をツツいている。


 チチチチチチチチチチチチチチチチ!!


 それはまるでマシンガ……っ痛てぇっつってんだろ!


 あまりにも執拗なツッツキ攻撃に俺の我慢も限界に達し、右手を振りかぶり、力任せに振り切った。


 ッパァン!!「ギャピッ!」


 鳥型のモンスターは渾身の張り手により、吹き飛んで落ちて行く。


 はぁ、まったく……人の喜びに水を差しやがって!しかし、メルはどこにいるのかな?全く分からん。いつもならメルの居場所は感覚で分かるはずなんだけど、メルと離れすぎてるってことか?とりあえず飛んで周りを見てみるか。


 『よいっ、しょ!!』


 ――ズシン!!ん?確かに飛んだはずなのに、直ぐに落ちたぞ。


『なんでだ?もういっ、ちょ!!』


 ――ズシィン!!一回目と同様に、ほぼ浮き上がることなく地面へと逆戻りする体。飛べない……そんな……。二ヶ月人間として過ごしたから、この体での感覚が鈍ったか?


 嫌な感覚を覚え、改めて自分の体を触って確認すると、明らかに以前との違和感に気付いた。


 太ったか?ってか、俺デカくね?おかしい、何かがおかしい。そういえばモンスター鳥が肩に止まってる時点で変なのかも。


 ガサガサッ!


 お?考え込む俺の足元(足は無いが)で何かが動いたかと思うと、草陰から小さな動物が飛び出した。ああ、ただのウサギだ。


 って!?ウサギちっちぇぇーーー!!胡麻みたいな大きさじゃねぇか!イヤ、胡麻は言い過ぎか……米粒?うーむ……まぁ、そこはどうでも良いか。


 改めて周りの景色と比べると、体が前よりも遥かに大きくなっているじゃないか。


 俺は低スペックの思考回路をフル回転させ答えを導き出そうとしたが、マドカが言っていた“あの瞬間には戻れない”という言葉に鍵があるのかな?という推測が限界だった。なんかよく分からんけど、向こうでリハビリしてる間に世界の状況も俺の体型も変わっちまったって事だな。


 もしかしてメルの居場所が分からないのもその所為か?無事だと良いんだが……。とりあえずはメルと会えるかもしれないし、ワプル村で情報を集めるとするか。けど、村に行くにもここが何処か分からないんじゃ話になんねぇよな。やっぱり跳んで場所を確認するのしかないか。


『うおぉぉおおっ!とうっ!!』ドッシィィン!!


 思いっきり気合を入れたつもりなのに、ビックリするくらい情けないジャンプだ。ソファから転げ落ちる様な鈍臭い猫でももうちょい跳べるぞ。


 でも見えた!間違いない!今見えたアレはワプル村だ、やっぱり村の近くだったか!ドラゴンみたいなのも見えたけど、あの白さからして天使族が変身したドラゴンだよな。この鳥型のモンスターから村を守ってくれてるのか?前はこんなの居なかったのに……とにかく行ってみれば分かるか。


 ワプル村の方向を確認できたことで俺の心は高鳴った。やっとメルに逢えるかもしれないと思った途端に重くなった体が嘘みたいに軽くなった。


 ズリ……バキッ……バキィ……ズリ……メキメキ……。

 まるでカタツムリのように下半身を引きずりながら木を薙ぎ倒して進んだ。自然破壊も甚だしい迷惑な悪魔だよな。いつの日か募金と植樹をするから、今は勘弁してくれ!


 進みだしてからそれほど時間は経っていない筈だが、思っていたよりも早くに村の手前へとたどり着いた。お世辞にも俊敏とは言われないだろうに、大きいモノが進めば小さいモノよりも目的地に速く着くって事なのかな。


 そりゃそうか。人間とゾウでも歩幅の違いで同時にトコトコ歩けば確実にゾウの方が早いもんな。しかも、ゾウは時速四十キロ以上で走ることができるらしいし……よく考えたら前の体の大きさで空を飛んだ方が断然速いや。


 村の手前へ着き、くるりと回りながら辺りを見渡すと、遠くから見たよりもずっと多くの鳥型のモンスターが確認できた。


 しかし、先ほど見えた天使族と思しきドラゴンはこの場所へ近づく途中でパッタリと見えなくなっていた。


 休憩時間にでもなったのかな?こんなにモンスターが居るのに随分と余裕があるもんだ。


 仕方ねぇ、メルが何処に居んのかも分かんねぇし、天使が休憩してる間は俺が代わりに働いといてやるか!村のレディー達が襲われたら可哀想だしな、助けてくれてありがとう!


 なんつって抱き着かれたりしたらどうしよう!グフフ。


 さぁて、モンスター共!悪いが俺のリハビリ・パートツーに付き合ってもらうぞ!


 飛び交う鳥型モンスターの動きに注意しながら体の感覚を確かめる。えーと、指を伸ばすイメージで。


 ヒュッ!ドスッ!「ギャャアア!」


 よしっ!大丈夫だ。


 ヒュンッ!グサッッ!ビュッ!ドシュッ!


「クワァアア!」「ギェェエエ!」


 うん、体の調子は悪くない、思った通りに動いてくれる。


 鳥型モンスターを何体か倒した時、俺は自分に向けられる視線に気付いた。それはワプル村に設置された見張り台からのモノ。


 前はあんな見張り台無かったんだけど――ん?なんだ、天使の奴等居るんじゃん。休憩が終わったならあんな所で見てないで一緒に戦ってくれれば良いのに。大変だろうと思って手伝ってるんだからサボるなよ。


 文句を言ってやろうかと思ったが、俺の居ない間にワプルを守ってくれていた恩があるので、気持ちを切り替えモンスター狩りを続けることにした。


 ヒュヒュンッ!シュッ!!ドドッ!トスッ!!

「ギェェエエ!」「グルゥアア!」「ガアアゥウ!」


 何だかんだで結構片付いたけど、まだ居るな。ちょこまか飛び回るからチョコ松と命名しよう。


 くだらない事を考えながらモンスターを狩りつつも、見張り台から一向に動かない天使を不満に思っていたその時、俺は大きな落とし穴に気がついた。


 良く考えたら俺の姿を知ってる天使族って、ミハエルとテスタント、ドラゴンになって戦ってた名前も分からない兵士達しか居ないじゃん!


 そりゃビビるよなぁ、いきなりこんな化け物が現れたんじゃ。あれ?そもそもなんで俺の姿が見えてるんだ?木もすり抜けられなかったし。


 うーむ、関係あるとしたらやっぱりマドカの一件だよな。まぁ、どうせ考えても分かんないか。もしかして声も聞こえるのかな?物は試し、ダメ元で見張り台の天使に声をかけてみよう。


『聞いても良いか?お前達、天使族だよな?』


 話しかけた途端に天使族は酷く動揺し、仲間と顔を見合わせたり武器を握りしめたりしている。


 聞こえ……てるよな?反応がちょっと気になるけど……。


「消えてもらおうか、愚かな天使族よ……?」


 えっ?なんて?あの体格の良い天使族は俺の言葉を復唱したのか?リピートアフタミーなんて言ってないのに、鸚鵡(オウム)返しにしては性能が悪すぎるぞ!


 他の天使はオロオロ騒ぎだし、俺を指差して敵とか皆殺しだとか言う者や、村の方を指差す者、遠くの空を眺めたりしている者も居る。


 どうしてこうなった!?ちょっと聞いただけなのに!ほんと、泣くぞ!!悪魔だって一生懸命に気を使いながら生きてるんだぞ!!とにかく、体型の良い天使(アイツ)の聞き間違いだと教えてやらなきゃ!


『おいおい、待てよ少しは!聞き間違いじゃないか!』


 俺の言葉を聞き、天使の表情が凍りつき、その顔を見た俺の心も凍りついた。天使達が悪い方向に勘違いしたのは確実だ。固まっていた天使達は急になんのかんのと動きだし、武器を手にしたり、ドラゴン化したりと戦闘体勢を整え始めた。


 マジかよ、完全にやる気満々じゃねぇか。しゃーない、なんとか防御だけでやり過ごそう。怪我をさせるわけにもいかないし、鳥型のモンスターからも守ってやらなきゃいけないな。見た目が悪魔ってのも大変だなぁ。


 スゥー……ハァ……良しっ!気を取り直して――――ッ!!今、確かに……。ほんの僅かだけど、やっぱり感じる!!ため息をついた時……?イヤ違う、息を吸ったからか!


 そうだ、忘れる訳も無い筈なのに忘れてた。これも里帰り(・・・)の影響か?この体は空気の中に含まれる魔素を吸うことで力を出せるんだった。ククク、たった二ヶ月しか経ってないのに忘れるなんて。


 メル!今なら何処に居るか分かる!近いぞ、きっとメルも俺を感じてるはず!感動の再開に余計なモンスターは邪魔だよな!


 俺は四方八方で飛び交う鳥型のモンスターの全ての位置を魔力の流れから把握し、間髪入れずに魔力を解き放った。


『ダークハンド!!』


 体から無数に伸びた影の手が、迫るドラゴンナイト達を避けながら鳥型のモンスターだけを握り潰した。それとほぼ同じ瞬間、ダークハンドの間を縫って綺麗な白毛のドラゴンに乗った少女が空から駆けて来た。


 話しかける間もなく、乗っていたドラゴンの背を蹴り俺の体目掛けて真っ直ぐに飛び込んできた少女の不思議な色の眼からキラリと一つの雫が落ちるのが見えた。


 飛んできた少女を受け止めた俺にも熱い感情が溢れた。


 メル、ああ……変わってなくて良かった!


「おかえり……!ルアさん……!!」


 ◇◆◇


『ダアアダアアイバァァアメエエラウ!!』

(ただいま、メル!)


「ヒィッ!!なにその声!!キモすぎ!!」


 感動の再開は何処へやら、何故かメルが毛虫を見るような眼で俺を睨み付けた。


 ◇これが悪魔・ルベルア再誕の瞬間であった◇


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