#24 調子に乗るとロクな事にナラナイ。
◇ 覇王歴千三百九十一年魔光粒星・エンドルゼア。この世界で八年振りに出逢った二人が感動する中、ワプル村付近では地獄の亡者の呻き声というか、一度マイクを握ったら二度と離さない中村部長(仮)の地獄のリサイタルというか……。その声がモンスターの襲撃から隠れている村人達をガタガタと震え上がらせた。
目の前で何が起こっているのか分からずに固まっていた天使族のドラゴンナイトも、不安を感じ武器を握り直す。諸悪の根源は勿論、メルとの再開に喜び興奮するルベルアである◇
『アニイイツデエエダアヨオオオオ!』
(逢いたかったよ!)
「ヒィィ!ゾワゾワするぅ!」
メルは喜んでいない。それどころか、口をへの字にして嫌がっている。
なんだろう、この反応は。ほんの少し見ない間でメルにも反抗期が来てしまったのか。
もう!お父さんの洗濯物と一緒に洗わないでって言ったじゃない!!とか言う歳になっちまったのかな。
まぁ、子供が居なかったから言われたこと無いけど。
だが甘いぜ!こんな事でへこたれる俺じゃないんだよ!
『ドボオオオジダアドオオエラウウ!!』
(どうしたんだ、メル!)
「だから、何言ってるのか分かんないってば!」
メルはまるで悪い事をした子供を叱る親みたいに腰に手を当てて怒っている。
巨大な悪魔が可愛らしい少女に叱られている姿は周りの天使達からすれば、さぞ不気味な光景として映っているだろう。
うーむ、何言ってるのか分からないとは、言葉が通じなくなったって事か?いや、俺にはメルの言ってる事が分かるのだからそれは無い筈。
怒られている理由が分からず悩んでいると、メルの乗っていたドラゴンが木の枝に止まり、可愛らしい天使の女の子へと姿を変えた。
この子には見覚えがある……。そうだ、リエルじゃないか!少し成長してお姉さんになったな。
『オボボボ!リデエエドウウ!!』
(おお!リエル!)
知った顔の登場に嬉しくなり、意気揚々と“やぁ!”と手を上げて見せたが、その所為で無駄に巨大な右手が周りの木の枝をバキバキと散らした。
「キャァアーーーッ!」
「こらっ!ルアさん!いい加減にして!!」
リエルが絶叫し泣いた事でメルの怒りも急上昇してしまった。ちょっと俺も泣きたくなってきたんですけど。
というより、もし涙があるのなら既に号泣してるわ。
俺とメルのやり取りに業を煮やしたのか、スラッとした女騎士が、ドラゴンに乗ったまま目の前までやって来た。
「メル、そいつはお前の知り合いなのか?危険が無いなら他の仲間と避難した村人達を呼びに行ってくるが」
女騎士は落ちてきた折枝を受け止め、その枝で自分の肩をトントン叩きながら言った。声は可愛らしいのに性格はちょっとキツそうだ。
「あっ!アリエス様。うん、大丈夫です!こんな見た目だけど、他のモンスターが来ても守ってくれると思うから!」
メルは自信満々に答え“グッ”と親指を立てて見せた。
この人はアリエスっていう名前なんだな。とりあえずメルの中で俺の信用自体が失われた訳じゃ無さそうで少しホッとした。
「ふはっ!そうか。気持ち悪い巨大なモンスターかと思ったが、メルの信頼は厚いようだな」
『ギボデデエエデエ……』
(気持ち悪いって……)
リエルを除いた他の天使達に村へ行くように指示を出したアリエス。
村へ向かって行く仲間を目で追った後、そのまま俺へと向き直り査定でもしているかのようにジッと見つめてきた。
天使族だってのは見た目で分かるけど、綺麗なのに男みたいな喋り方をする人だな。
なんかさっきからジロジロ見てくるし、俺の事を舐め回すように……はぁ…舐め……回すように…はぁ…はぁ…見てくる…んはぁ。
おっと、うっかり昨今の環境問題について考込んじまった。
「なぁ?こいつ、以前は普通に喋れたのか?」
『イバボボオサバエルルウオオ!』
(今も喋れるよ!)
「ちょっと!ルアさんは黙ってて!シャラップ!えっとね、前は私にしか声が聞こえなかったんだけど、ちゃんと喋れたよ!」
俺に対する当たりが非常に強く感じるんだが、気のせい……じゃないよな。
ん?前は喋れたよ?さっきから何が言いたいんだ?
「そうか。なら今そいつは喋れてないって事に気付いて無いんじゃないか?」
アリエスはメルに向かって、そう言い残すと跨がっている美しい白竜へ「ククア、行こう」と伝えワプル村へと向かって行った。
この場に残った天使は泣き止んだリエルだけとなったが、我関せずといった様子で呑気に木の実を食べている。
あのアリエスの言い方、もしかして俺が上手く喋れてないってのか?
「ルアさん?私の言ってることは分かるんだよね?」
アリエスの言葉で僅かに不安を覚えたのか、メルはしがみついたまま、体がスッポリ入りそうな俺の目をのぞき込んで問いかけてきた。
メルがとっても近い、目クソとか付いてなきゃ良いけど……ちょっと恥ずかしいや。ともあれ、俺が喋れてないってのは確定みたいだな。
『ボボボボ』
(分かるよ)
「うーん……どうしたら良いのかなー。このままじゃ大きすぎて、建物とか壊しちゃうだろうから村にも浮遊城に入れないし」
俺は解決策を探るでもなく、目の前でブツブツと呟きながら悩むメルの様子を観察することにした。
何せ、ちょっと見なかっただけで随分と成長したもんだ。
元々可愛いかったけど、さらに可愛くなってるんだもん。
女の子は父親に似やすいと聞いた事があるけど、メルはエリス似で良かったよ。
「そうだ、ルアさん。沢山、たぁーっくさん息を吸ってみて?」
メルが一生懸命悩んだ末に出した答えだが、俺と大差ない思考回路だ。
それは既に試したから息を吸ってもダメだと思うけど、また怒られるのは嫌だし言うことを聞いておくか。
俺は巨大な体を限界ギリギリまで大きく凹ませ、全力で空気を吸った。
スゥゥゥウウ!ズゥアアアアアア!!ズズゥゴゴゴゴゴ!!辺りには、とんでもない轟音が響き渡っている。
周りの空気が竜巻のように渦を巻いたが気にせず吸い続けた。
シュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!――シュポッ!シュポポッ!!
うっ、小鳥を三羽吸い込んじまった。
一部始終を脇で見ていたリエルが小鳥の最後を目の当たりにし恐怖を感じたのか、吸い込まれまいと必死に木にしがみついた。
俺に張り付いているメルの顔もブルブルと波打ち、今にもお婆ちゃんになってしまいそうだ。
「ヒィィィィィ!や、やりすぎィィィ!」
――シュポンッ!!あっ、メルを吸い込んじまった!
「キャアーッ!メル!!」
慌てて息を吸うのを止めると、口から無事に小鳥とメルが出てきたが、酔っぱらいのようにフラフラしている。
その後、落ち着きを取り戻したメルとリエルにはこっぴどく怒られた。
しかし、莫大な量の吸気を行ったからなのか、全身の隅々まで力が満ち始めたのを感じる。
体が巨大になっていた分、超大量の魔素が必要だったということなのだろうか。
ググ……!グググ……!!巨大な体が鈍い音を立てながら引き締まっていく!
『ウオオオォオオ―――ップハァ!戻っ……たぁー!』
体は元の大きさに戻った。
それどころか以前よりも引き締まっている。逆リバウンドダイエットとして本にすれば売れるかもしれない。
『メル、俺の言葉が分かるか?』
「うん……うん!分かるよ!ルアさん!!」
「えーと、この人………この悪魔さんがルベルアさんだったのね?本当に居たんだ」
「あっ、うん!そうだよ!これがルアさんだよ!」
メルもリエルも髪がボサボサだけど、ププッ竜巻にでも巻き込まれたのかな。
あ、いやスマン、反省してるよ。お陰さまでメルを持ち上げたままでも楽々浮かんで居られるぞ。
『リエルにも迷惑かけて悪かったな!こんな姿だけど宜しく頼むよ!』
ボサボサの髪を手櫛で整えるリエルへ挨拶をすると、にっこりと可愛らしい笑顔が返ってきたもんだから、照れを誤魔化して頭の角をポリポリ掻いてしまった。
「はい!こちらこそ宜しくお願いします!」
『ああ!』
腰を垂直になるくらい曲げたモノ凄い深いお辞儀だけど……なるほど、意外と真面目な娘なんだな。とても良い子じゃないか。
「じゃあ、村に行こっか!皆が心配してるかもしれないしさ!リエルもルアさんに乗って!」
俺の背に乗ったメルが“さぁ、どうぞ”と手招きをすると、リエルが木の枝から飛び乗ってきた。
美少女二人を背中に乗せるなんて、夢みたいだな!ムフフ……おっと、ボロが出る前に行くとするか。
『じゃあ行くぞ、適当に掴まってくれ!……と言っても村はすぐそこなんだけどさ』
村では俺………メルの帰りを待っている村人達が中央広場に集まっており、そこにはアリエス達の姿もあった。
メルとリエルは軽やかに広場の地面へと降り立ち、それをモルドーとエリスが出迎えた。
「メル!一ヶ月振りじゃないか!もっと帰って来てお父さん達に顔を見せてくれよ!」
モルドーが興奮気味にメルへと近づいてきた。雰囲気は変わっていないが、少しだけ老けたか?
「お帰りなさい、メルちゃん!リエルちゃんも元気そうね!んもうっ、髪の毛ボサボサじゃない!女の子なんだからもっと気を付けて。せっかく可愛いんだからね、ふふ」
笑いながらメルの髪を手でとかすエリス、こっちも相変わらずの様だな。まだまだ若いお母さんだ。
けど、少し見ないうちに以前よりもモルドーとエリスの釣り合いが取れていない気がする。やっぱりモルドーは老けたみたいだ。
天使族となにやら話していた村長のジジイもメルの元へ歩いてきた。相変わらず弄り甲斐のありそうなジジイだ。
「メルよ調子はどうじゃ?腕は上がったかの?」
ウチのメルを変な目付きで見やがって、このエロジジイめ!
しかし、皆がメルを囲ってワイワイするばかりで、俺にはあまり反応が無い。
俺とてこんな見た目だから期待してた訳じゃないけど、反応が薄すぎるのは少し寂しいぞ。
『なぁ、メル。ワプル村のみんなには俺が見えていないのかな?』
「いんや、おぬしの事は見えておるよ。話しかけて良いものか迷っておったが、ミハエル様から聞いておりましたでな。長く姿を見なくなったと聞いておりましたが、戻ってきたのですな?」
メルへ問いかけたつもりだったのに、村長のジジイがやけに改まった口調で返事をした。
ついでに気になっていたであろう事も尋ねてきたけど、村長のジジイは一体どこまで知っているんだ?
“戻ってきたのですな?”ってことはつまり使い魔うんぬんって話の事か?……えっと。
「うん!ミハエル様の使い魔が居なくなってしまったから、代わりにミハエル様の友人が私の守護者になってくれる約束だったんだけど、やっと用事が終わって来てくれたの!」
俺の方をチラチラと見ながら説明口調で話すメル。その不自然な口調に、村長のジジイは少し首をかしげた。
「うん?メルに聞いた訳ではないのじゃが。ともあれ、メルを守ってくれると言うのなら有難い話ですじゃ。しかし、天使王であるミハエル様の友人と聞いておったが、随分と悪………ゴホッン」
シジイめ、最後に何を言いかけたんだ。まぁ、メルのお陰で自分の大体の立ち位置は推測できたけどさ。
要は一度姿と名前さえ認識してもらえば、それ以上は騒ぎになら無いように根回ししておいてくれたということか。
ミハエル、気が利くじゃないか。確かにそういう話なら俺とメルが一緒に行動しているのも不思議じゃないもんな。ワプル村やメルの事を守ってくれてたり、俺の為の根回しとか色々してくれて……。
浮遊城にもお礼に行かないと、だな!まぁ、今日のところは戻ってこれた事をゆっくり噛み締めるとするか。
「お帰りなさいメル。前にあげたローブ、そろそろボロボロになる頃だと思って新しくローブを作っておいたのよ。是非持っていって」
静静と歩いてきた女性がしっとりとした喋りでメルに手作りのローブを手渡した。緑の髪に伊達眼鏡、口元のホクロがセクシーな女性が――。
……って、ミルザじゃないか。全然変わってないな!
ミルザをギュッと抱きしめ、お辞儀をしたメルは手渡されたローブを広げた。赤い色の綺麗な可愛らしいローブだ。
「わぁ!このローブ凄く可愛いっ、ありがとうミルザさん!!大切に着るね!」
ミルザからもらったローブを大切そうに抱き抱え大喜びしている笑顔の可愛いこと。
折角声が聞こえるようになったんだし、俺もミルザと話をしたいな。生まれた時からの顔馴染みだし、挨拶くらいはしとかないとな。
クク、そうだ。つまんない悪魔だと思われるのも嫌だし、後ろから近付いて“だ~れだ!”でもしてやろう。
一方的ではあるが、転生した瞬間から知っていたミルザと初めて交流できる事をワクワクしながら、俺は定番の悪戯を仕掛けた。
『だぁ~……れ』
「えっ?」
『だっ?』――ポインッ!
あれ?この柔らかい感触は………?
「ッキャァーーーーーッ!!」
振り向いたミルザは顔を赤くし、俺に向かって右手を大きく振りかぶッ――ピッタァァアン!!
「この!変態!!」
モノの見事にミルザに嫌われた。
◇◆◇




