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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
九章 破滅の王の遠い影
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恩返しの一つの形

 理由はガス欠。いつもの事である。

 俺はてっきりライバードが連れて来てくれたのだと思っていたが、実際には自分の精神力を使って、ピシェトの孤児院に移動をしたらしい。

 理屈は不明で原理も不明だが、先に見た物は幻覚では無い。

 それに今、目にしている天井も、かつては見慣れた天井だった。

 俺はここでしばらくの間をユートと共に寝起きしていた。

 つまり、ここはまだそう言って良いのか、孤児院の中での俺の部屋だったのだ。

 まず思うのはかび臭いという事。あれから誰も使ってないのだろう。

 それから思うのは暗いな、と言う事で、窓の外は真っ暗だった。


「ま、廃人にならなかっただけ良かったのかな……」


 ――あれから十年が経った。

 ……とかなら、流石にそんな事も言ってられないが、おそらく一日も経って居ないと思い、体を起こして一人で呟く。

 部屋の中には誰も居らず、ユートの姿も確認できない。

 だが、ここにはピシェトの他に、ユートが見えるライバードも居る。

 そのどちらかにくっついていると思って、右脚をベッドの横へと出した。


 時刻的には二十時位か? 腹が減ったな……と不意に思う。

 何時間寝ていたかは不明であるが、最低でも昼から夜にかけての六~八時間は寝ていたはずで、予測の通りなら夕食等はとっくに終わってしまっているだろう。

 かと言って我慢が出来るかと言えば……

 腹の虫達は暴動の真っ最中。騒ぎを鎮圧しようとしていた空腹大王を簀巻きにしている。

 あまつさえ皆で大声を出して「何か食わせろ!!」と訴えて来て居る始末だ。 

 これを放置すれば大王が殺される。というかそんな奴は居ないのであるが、普通に我慢が出来そうにないので、俺はベッドから左脚も出した。


 ドアが開いたのは直後の事で、懐かしい顔がすぐにも見える。

 横顔を明かりに照らされる人物は、かつて俺を兄と呼んでくれた、黒髪の少女のリースであった。


「あ!」


 起きて居る事に気付いたようで、まずは両目を大きく見開く。

 それから何かを持ったままで走り、俺の視界から姿を消した。


「あれ……? もしかして忘れられた……?」


 感動の再会はどこへやら。それが真実なら大いに凹む。子供の事だけにありえる話なので、俺は一応の覚悟を決める。

 二十秒程が経っただろうか。リースが誰かと入口に戻る。

 それから誰か――ピシェトを先頭に、ライバードとリースとユートが入って来たのだ。

 まるで背の順で少しおかしい。

 こうして見るとライバードは、ピシェトと十㎝も変わらないようで、老人の割には大きく見えた理由は、本当にそのままの大きさなのだと分かる。


「目が覚めましたか」

「あ、はい……すみません、いきなり迷惑をかけて……」


 聞いて来たのはピシェトで、きっとそうとは思わない事は知っているが、マナーの為に一応返す。

 案の定、ピシェトは「いえいえ」と言い、笑顔を見せて横へと移動。

 代わりにライバードが目の前に立ち、隙間からリースが伺うような図になった。

 見れば、トレーのような物を持ち、パンとスープとバナナ(のようなもの)を乗せている。

 そして、それを隙間から押し出して「あ、これ……夕ご飯」と、困ったような顔で俺に言って来た。


「おぉ、すまんの。邪魔じゃったかな」


 言葉に気付いたライバードが避け、トレーを持ったリースが出て来る。


「お、おかえりなさい。お兄ちゃん」


 それから少し照れたような、それでいて満面の笑顔で言って、トレーを俺に手渡すのである。

 嬉しいような、照れ臭いような、なんとも不思議な感覚だ。

 ただ、少なくとも嫌では無いのは、俺が一人っ子だからだろうか。


「ホッホッホッ」

「ヒッヒッヒッ」


 ライバードとユートがイヤらしく笑う。

「オニイチャンって言われて嬉しいのオニイチャァアン?」と、言わんばかりの顔である。

 一体何が言いたいかは謎だが、だとしたら中坊的な思考だと言える。

 そんな中でピシェトに気付く。二人とは違って純粋な笑顔だ。

「早く答えてあげて下さい」と、そんな事を言っているように思えて、俺は右手で眉毛を掻いてから、リースに対する返事を発した。


「た、ただいま……」


 と言う訳では無いのだが、「まだただいまじゃねえし」と正直には言えない。

 ぎこちなく言うとリースははにかみ、その顔のままで一歩を下がった。

 百点。とまでは行かなかったようだが、少なくとも六十点よりは上だと思う。

 ……百点の為にはどうしていたら良かったのか。

 ただいま+抱き締めて、頭を撫でると百点行ったのか?

 

「まぁ、とりあえず夕食をどうぞ。折角リースが温め直してくれたので」

「あ、はい。じゃあいただきます」


 半端なくくだらない事ではあるが、考えているとピシェトに言われ、ベッドの上、そして人前だが、行儀を気にせず食事を始めた。

 温め直したスープと言うのは、正直ぬるかったが気持ちが嬉しい。

 パンは相変わらずメチャかただったが、懐かしい味に心が安らいだ。


 あの時があったから今の俺が居る。今、生きて居るからそう思える。

 そんな事を思っていると、両目が涙でじわりと滲む。

 慌ててそれを拭った俺だが、皆にはどうやら見られたらしい。

 そう思った理由はユートの質問。皆は見逃してくれたのだろうが、「あれ? どこか痛いの?」と、ユートが見逃さずに聞いて来たからだ。


「いや、懐かしい味だなと思って。ていうか、俺が倒れた理由って、やっぱり精神力不足ですか?」


 それには一応の答えを返して、空気を切り替える為にライバードに聞く。

 すると、ライバードは「そうじゃな……」と言ってから、逆に俺に聞いて来たのだ。


「精神力を鍛えるつもりはあるかね?」


 と。

 つもり……は無いが、一方で、鍛えた方が良いのは分かる。

 たまーーー……にだが、魔法を使う事はあるし、その度に全力放出をして、気を失っていては話にならない。

 せめて、最悪、思った通りの魔法を放てる程度にはなりたい。

 炎を纏った岩を思って、燃え盛る巨石が出て来る等論外。

 炎の連矢を思った癖に、丸太が出て来る事等論外だ。


「まぁ、出来る事なら……」


 それ故に苦笑いをして質問に答えると、ライバードは「よろしい」と頷くのである。


「ならばワシが鍛えて差し上げよう。何、そんなに難しい事は無し。

 ひと月の後には思った通りの、魔法を生み出せるようになっておるはずじゃて」


 それから笑って髭を擦る。

 そして、「毎日一本! 健康飲料!」と、ユートが後ろから言った後には、二人で再び拳を突き上げて、「牛乳! 牛乳!」と連呼し出すのだ。

 それを見るピシェトは笑顔であったが、一言で言うならリースは唖然。

 リースにはユートが見えないのだから、それは当然の反応と言える。

 きっかけも無くいきなりの連呼。誰だってそんな人には恐怖を覚える。

 やがてはピシェトの足へと近付いて、そこにしがみついて怯えた目を見せた。


「あぁ。そう言えばミスターヒジリ。例の書類を返して頂けますか?

 私の神を信仰すると言う事を約束して下さる書類です」

「え? あ、ああ、はい」


 唐突に、ピシェトが言って来る。

 送ろうかと思って忘れていた為に、直後の俺は少々焦る。

 しかし、責めては居ないようなので、セキュアから呼び出して無言で渡すと、ピシェトはそれに目を通した後に、「ありがとうございます」とまずは言ったのだ。

 そして、何も言わずにライバードに手渡し、ライバードが羽ペンでそれにサインする。


「ほいよ」


 それからなぜか、その書類は再び俺へと返されるのである。

 俺が布教の主では無いし、マジェスティコレクション(マジェコレ)を始める気も無い。

 なぜ、どうして戻って来たのかと目を瞬かせて疑問していると。


「持って居て下さい。

 あなたの方が、マジェスティと会う機会が多いようですから。

 そしてもし、機会があれば、サインをしてくれるようにお願いしてくれますか?」


 ピシェトが横から言って来たので、俺は「あー」と納得するのだ。

 少々図々しい願いと言えるが、それだけの恩義がこの人にはある。

 それを加味すればむしろ容易い事なので、「分かりました」と続けてセキュアに送る。


「ん?」


 直後に気付くのはリースの視線。急に消えた事に不思議がっているようだ。


「手品だよ」


 と、嘘を言うと、目を大きくして「ウワァ」と言った。多分、純粋にも信じたのだろう。

「えっ?! セキュアに送ったんじゃないの!?」と、驚くユートはアホだと思うが、純粋さに関しては通じる物がある。


「それはそうと、ミスターヒジリは学校を作りだしたとか。

 聞いた子供達が大騒ぎですよ。どうして近くに作ってくれなかったのかと。

 おそらく真っ先に言われるでしょうから、今から言い訳を考えておいて下さいね」


 その事はまだ話して居ないので、ユートかライバードが言ったのだろう。

 参ったなと思いつつ「はいぃ」と返すと、俺の頭に電撃が走る。

 現実では無く、比喩としての、閃きに近い電撃である。

 ここには子供が沢山居る。皆、教育を受けられないような子達だ。

 そして、その父親役のピシェトは、身体能力が人より高い。

 と言うか、俺より多分高いので、人並み外れたバケモノと言える。

 そんなバケモノ……と言うのは悪いが、ピシェトに適任の仕事があった。


 それが学校の運動系の教師。

 理系と文系の教師はいるが、運動系は見つかっておらず、それならいっそ、子供達と共に島に来て貰おうと俺は思ったのだ。


「だったら……いっそ来ませんか? ここの子供達全員と。

 住む場所だったら何とかしますし、学費なんかは気にしなくて良いですから」


 それこそまさに恩返し。子供達が嬉しいなら俺も嬉しい。

 ピシェトは驚いたような顔を見せてから。


「そうですね。それは楽しそうです。早速、子供達に聞いてみましょう」


 自身としては賛成的な、前向きな答えを返してくれた。


「わたし行きたい! ヒジリの学校に行く!」


 直後のそれはリースの言葉で、「一人は賛成ですね」とピシェトが撫でる。

 翌日の朝食で聞いた結果、全員が「行きたい!」とほぼ同時に言い、ピシェトと孤児院の子供達の島への移住が決定されたのだ。

 現状ではまだ住む場所が無い為に、それが完成してからとなったが、必ず迎えに来ると約束して、俺達は見送られて孤児院を去る。


 そして、その翌日から、ライバードを師としての精神の鍛錬が始まり、俺は少しずつ、少しずつだが、魔法への練熟を高めて行った。


このライバードが出ている作品があるのですが、公開できる日があるか無いか(汗)

一応戦記モノで、この世界からはかなあぁぁああああり後のお話になります。現状では三分の二程が完成。十年以上前の作品なので、直すべき所が山ほどあります……

いつか、もし上がっていたら、読んでやってくれると喜びます。



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