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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
九章 破滅の王の遠い影
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見えて来た海

 それから数日後。

 未明頃に、俺はいつもの場所に来ていた。

 花畑が見える庭。小舟が置かれた川。背後には扉が開いた教会がある。

 言うまでも無くPさんの空間だ。正式名称は不明であるが、そういう名前で呼ぶ事にする。

 そう、今日は審判の日。

 最初はそれこそガクブルものだったのに、最近では全く緊張感が無くなった。

 危なくなればユートが騒ぐらしいので、それを信じている気持ちもあるが、慣れとは本当に恐ろしい物である。

 空間の主のPさんは、最初は花に水やりをしていたが、俺に気付くとそれをやめて、じょうろを消して声をかけてきた。


「やぁ。一ヵ月ぶり。毎回同じ場所でも何だし、今日は川下りと洒落こもうか?」


 言うなり歩き出し、小舟に向かう。嫌も応も無い流れであったので、苦笑いをしてからその後を追う。


「足元に気を付けて」

「あ、はい。すみません」


 待っていてくれたので礼を言う。いつもの事だが考えると紳士だ。

 もっと傲慢でも良い立場なのだが、だからこそ俺は好意を持ったのだろう。

 俺が乗って、Pさんが乗り、対面に座ると船が動き出す。

 前回と同じく俺が下流側で、Pさんが上流側に座ると言う図だ。


「いや、今回は驚かされたよ。ハッキリ言って快挙と言って良い」


 突如の言葉に「ハ?」と言う。どの辺りの事かがサッパリ分からない。

 だが、少し考えてから、アンティミノスのしもべの事だと気付き、謙遜から「あぁ……」と言葉を発した。


「だけど現場を見損ねちゃって、知ったのはヒジリ君が倒した後だったんだ。

 早くに知って居れば弱点だけでも、どうにかして教えて上げられたんだけどね。

 そこは素直に申し訳ないと思うよ」

「いやいやそんな! とんでも無いです!」


 相手は神様……のような人だ。謝られてもこちらが困る。

 上から目線で「そうですよー」なんて、俺のキャラでは流石に言えない。

 故に慌てて言葉を返すと、Pさんは「すまないね」ともう一度だけ謝った。

 それからすぐにメニューを出して、「今回は凄いよ」と俺に言うのだ。


「判定は合格。それはそうだけど、得られたポイントは二百六十一Pだ」

「にひゃ!?」


 思わず垂直にぶっ飛びそうになる。いや、物理的には不可能なのだが、気持ち的にはそんな感じだ。

 今までは一番でも四十ポイント位だったから、あまりに多さにパニくってしまう。


「前回の余りが九Pあるから、それを合わせると二百七十Pだね。

 いっそ全てをモトセカに突っ込んで、一か八かの勝負をするかい?」

「いやー……ちょっと迷いますね……」


 笑って聞かれたので一応答えたが、現状では俺はまだ帰れない。

 帰りたいが、やる事がある為に、それを放って帰れないのだ。

 本音こそ言わなかったが未練は残り、故に俺は苦笑する。

 だが一方で本当に帰りたいのか? と、自分に疑問したのもこの時の事だった。


 こちらの世界にはナエミが居るし、大切に思う人達が多く居る。

 元の世界には友人に親。大切と言えば大切だったが、秤にかけて釣り合う物なのか。

 いや、そもそもそういう物を秤にかける事自体が間違いなのだろう。

 何よりそこは生まれた場所だ。十七年生きて来た本来の世界だ。

 帰れるとなったらきっと帰るはず。

 何だかんだであちらの事を、俺は今でも夢に見るのだから――


 この時の俺はそう考えて、渡されていたメニューをようやく開いた。


 魔法六 魔法効果++ 三十P

 真実六 マジェスティ制度の根本的部分 三十二P

 特能七 特能四に於ける習得物の強化 三十二P


 変わって居た物は特能の七。特能四と言うと……何だっただろう?

 疑問に思ってそれを聞くと、Pさんは説明を始めてくれた。


「毒、或いは麻痺耐性で、ヒジリ君は確か毒を選んだね。

 今回はそれの強化版。つまり、毒を無効化出来るようになる。

 でも、もし麻痺耐性が欲しいって言うなら、そちらを選んで貰っても良い。

 そこはヒジリ君の気持ち一つだね」

「なるほど……分かりました」


 返事をするとPさんは「よろしく」と言ってから景色を見始めた。

 少し時間がかかる事を予測した上での行動だろう。

 毒耐性。取るには取ったが、今まで役に立った覚えが無い。

 もしかしたらどこかで毒ってたのかもしれないが、露骨に毒々しい敵は居なかった。

 それの無効化。果たして居るのか?

 食べ物や飲み物にも影響するのなら……或いはありがたい物なのかもしれないが。


 そう思ったが故に質問すると、「影響するね」とPさんは言った。

 つまり、無効化を取ったとしたら、毒を飲んでも平気な訳だ。

 ビックリ人間大集合とかで毒(と言う前提の何か)を飲んでも平気な人が居るが、トリック無しでアレをやっても「何か?」と言う顔でカメラが見れるのだ。

 いや、まぁ、そんな事はやらないが、そう考えると凄いスキルで、中途半端に耐性があるより、特化した方が良いと思って、俺はそちらを選ぶ事にした。


「じゃあ毒無効化で。その上で全部をお願いします」


 魔法と特能と真実全て。計算するのはもう面倒だ。


「はいはい。じゃあ残りの百七十六Pはどうする?」

「あー……じゃあ来月への貯金でお願いします」


 だが、Pさんが計算してくれたので、「そんなに残るのか」と思いつつ、来月の為の保険に回した。

 そうだ。こうして貯金をしておけば、帰りたい時にいつでも突っ込める。

 これからは少しずつでも貯金をして行こう。

 この時になって俺は初めて、そういう考えを持つに至った。


「真実六。マジェスティ制度の根幹的部分。

 これから僕が話す事を、決して誰にも話さないように。

 もし、承知した上でそれを破った場合、君の命の保証は出来ない」


 Pさんが更に言葉を続ける。忘れていたがそんなのもあった。

 カレルと違って知識欲が低いので、正直、あまり興味が無いのだ。

 だが、「なら良いです」と言う程でも無く、折角なので頷きを返す。

 Pさんは「分かった」と言った上で、なぜか小さくため息を吐く。


「まずはヒジリ君に謝らなくちゃいけない。

 ずっとそうしたいと思ってたんだけど、真実をここまで進めてくれないと、そうする事が出来なかったんだ。

 本当にゴメン。僕が愚かで、短絡的だった」


 それからいきなり頭を下げるので、それを見た俺は困惑するのだ。


「ちょ、やめて下さいよ! 良いですから! 良く分かりませんけど! 良いですから頭を上げて下さい!」


 理由は先にも言ったように、Pさんの立場が重すぎるから。

 ここでも「あ?」と言える程に、俺の精神は豪胆では無く、故に、とりあえずは頭を上げて貰い、その上で「何なんですか?」と先を促した。


「うん……まずは根本的な事なんだけど、マジェスティに選ばれる人間には、ある程度の強さが求められる。

 強さと言っても力や技だけじゃ無く、心を含めた人間の強さだ。

 それらは順番に前に言った、電話帳みたいな物に掲載されている。

 その人の死期も考慮された上でね。そして、それまで色々あって、ついにヒジリ君の順番が来た。

 だけど君の死ぬ予定はまだまだ――まだまだ先のはずだった。

 でも、僕はそれに構わず、力を持ったマジェスティが欲しくて、君をこちらに呼んだ訳さ」


 それはつまり……どういう事だ。

 順番としては上だったのだろうが、死ぬ予定はまだまだ先だった?

 という事は俺は――


「そう。殺させたんだ。

 僕が君の幼馴染を使ってね。

 ナエミちゃんが君を殺した理由は、僕に操られたからだったんだ。

 ……君を殺したのは、つまり僕さ」


 ……言葉が出ない。

 怒り? いや、違う、衝撃が大きすぎて思考が止まっている。

 怒るべきか、呆れるべきか、笑うべきなのかがさっぱり分からない。

 ただ一つ言える事は、ナエミがそのせいで罪悪感から自殺をしたと言う事である。


「まさかナエミの自殺もPさんが……?」

「いや、それは彼女の意思だよ。止める事は……出来なくは無かったけどね」


 辛うじて聞くとPさんはそう答えた。

 嘘は言わないだろう。だからこそ、ここで全てを話してくれたのだ。

 腹が立つ。その事に対しては。止められたのなら止めて欲しかった。

 そうすればナエミは死なずに済んだのに。

 そう思っていると川が終わり、滝を背に船が降下を始める。

 慌てて振り向くと以前は闇だった風景に、新たな景色が加えられていた。

 川。そして、遙か先に海。或いは湖なのかもしれないが、輝くそれは海に見える。


「あの頃の僕は君達人間を道具のように思っていたのかもしれない。

 だけどヒジリ君。キミに会ってから、僕は少しずつ変わっていると思う。

 いや、昔を思い出しているのかな……

 ナエミちゃん事はすまないと思うよ。勿論、キミを殺した事もね。

 だけどもし、自殺を止めて居たらナエミちゃんはどうなっていただろう。

 異世界で生きて居るなんて思わないから、ずっと罪の意識を引き摺っていたんじゃないかな?

 少なくとも、僕はそう考えた。だから、敢えて止めなかった。

 君とナエミちゃんを会わせてあげたい。そう考えて止めなかったんだ。

 その後の事は知っての通りで、君とナエミちゃんは再び会えた。

 元はと言えば僕のせいだけど、せめてもの罪滅ぼし。その時はそう思ったんだよ」


 海を眺めてPさんは言った。その顔は申し訳なさそうに見える。

 考え方がズレては居るが、俺か、或いはナエミの気持ちを少しは考えてくれたのかもしれない。

 だが、それを許せるかと言うと……正直な所は微妙と言える。

 人間同士ならまず許せない。それこそ命で償って貰いたい。

 最悪、対面に腰かけて居ないで、土下座でもしろよと俺もキレるだろう。

 しかし、Pさんはおそらく神様で、実際問題俺達の命等、路傍の石以下の価値として認識しているかもしれないのである。


 それにPさんが言った通りに、ナエミがただ、自殺をして居たら。

 こちらで会えなかった事も間違いでは無く、それは借りだと言えなくもない。

 故に、俺にはPさんを貶す事も、礼を言う事も出来なかったのだ。

 ただ一つだけ言える事は、今までの好意が揺らいだ事で、友情に近い感覚の感情に、ヒビが入った事も確かな事だった。

 そっちが勝手に抱いた感情、と、言われてしまえばそれまでの物だが……


「ヒドイ事をしたのは分かる。出来る事なら帰して上げたい。

 でも、この星の中に住んで居る以上は、ルールに従って貰うしかないんだ。

 君だけじゃない、僕自身もまた、そのルールに従うしか無い立場に居るから」


 船が水面に着くと同時に、Pさんがその場にすうっと立ち上がる。


「海か……あそこまでは、まだまだ遠い感じだね。

 一つ、お願いしたい事があったんだけど、それは妖精に伝えておくよ」


 そして、俺からメニューを受け取り、「今月も頑張ってね」と言って姿を消すのだ。

 Pさんへの好意が揺らいで居た俺は、その言葉にも何も返せず、周囲が闇に包まれて行く中で、「頑張れる訳ないですよ……」とだけ小さく呟いた。


ちなみにイサーベールがだいいいいぶ前に言った

「個人の心理が強く出る場所」

と言うのは、Pさんの空間にも適応されます。

つまり、最初に懺悔室に居たのは、ヒジリに対して若干ながらにも、やましい気持ちがあったからなのです。

途中から少しずつ心を開いて、場面は教会の外へと移動。

ついには海が見えて来たのですが…ここから先はどうなるか、ですね。

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