意外な形で守られたもの
ライバードは異世界から来たと言った。その点は俺と同じである。
だが、死んだと言う訳では無いらしく、「次元の渦」とやらに呑まれたらしい。
元の世界では戦争をしていて、アルサスと言う国王に仕えていたが、とある戦いの最中に、その渦に呑まれて異世界に転移。
辿り着いた場所が森に囲まれた祭壇の前だったと彼は話した。
そこでライバードはイサーベールに会い、色々と状況を教えて貰う。
そして、こちらの世界に住み出したある日に、俺達を助ける指令を受けたのだ。
つまり、イサーベール曰くの「手の者」は、龍では無くてライバードだったと言う事で、即ちそれはライバードが、水魔法に長けている者だと言う事だった。
「いやいや、水魔法だけと言う訳では無いぞい。
このライバードは四属光闇、知識全般にも通じておる。
火、水、土、風、光、闇。風に区分される雷に関しては、並ぶ者無しと自負しておる程よ。
……こちらの世界の歴史と地理は、来たばかりなので赤子並じゃがね」
出会いからの翌日。時刻的には昼前。
俺の島への上陸の最中、そんな事を言ってライバードは笑った。同行するのはユートのみで、カレルは仕事で来られないと言った。
それにはギースが悲しむと思ったが、無理は言えないので、三人だけで来ていた。
ライバードの言葉に愛想笑いを見せて、小舟の上から浜辺に降り立つ。
それからライバードが降りた事を見て、学校に案内する為に海岸を歩いた。
四属光闇。ライバードはそう言ったが、マジェスティならば魔法は一つだ。
最初に選んだ属性だけ――俺の場合は火になるが、現状ではその一属性しかマジェスティならば使え無い筈。
だが、異世界から時空を飛び越えて来たライバードには、それは適応されないのか。
いや、そもそも死んでいないのだから、ライバードはマジェスティでは無いのかもしれない。
となると普通の魔法使い。それも相当の使い手だろう。
実力を目にした訳では無いから、言う事を信じるのなら、と言う前提になるが。
「ふむ……」
そんな事を思っていると、ライバードが背後で一言を発した。
振り向くと、左手の森の方を見ており、訝しげな顔で髭を擦っている。
そちらの方には学校は無いし、人が入り込む事もまずありえない。
ある物と言えば丸太の修行場と、そこに住んで居ると考えられる謎の老人が一人居るだけだ。
不思議に思ってどうしたのかと聞くと、ライバードは「いや」とまずは言った。
「気のせいじゃろう。
素晴らしい島じゃが、少し変わった存在が居るような気がしてな。
……最近は牛乳を飲んどらんで、感覚が鈍って来たのやもしれん」
「牛乳! 毎日一本健康飲料!」
その後の言葉にユートが絡む。それにはライバードは「ほほう!」と喜び、「お前さんはよう分かっておる!」とユートを褒める。
挙句には二人して拳を突き上げ、「牛乳! 牛乳!」と連呼をし始め、俺の精神力を削り出すのだ。
ユートだけなら「うるさいよ!」で済むが、ライバードが居るとそうも行かない。
故に黙って耐えて歩き、建設現場の近くに着いた。
「おおーーー……」
三人揃ってまずは驚く。驚いた理由は思っていたより、学校が完成に近づいていたから。
門はすでに完成し、ロータリーもほぼできあがっている。
そこには「小便禁止!」と言う、謎の立札があるがこれは無視した。
ロータリーの左手には体育館があり、組み立てた足場で壁を塗っていたが、天井等はまだなのだろう、現在も作業を継続している。
右側には部室などに使う予定の別館の基礎だけがとりあえず完成。
そして、ロータリーを越えた正面にある、学校の本館は完成済みなのか、そこで作業をしている者は、門から見る限りは誰も居なかった。
色の指定はしていなかったが、どうやら茶色に塗られたらしい。材質が木ゆえに仕方が無いのか、しかし、落ち着く良い色に思える。
予定ではまだまだ先のはずだが、ギースとニースが手伝ったお蔭か。
ともあれ、予想外の進捗ぶりに、俺とユートは茫然としていた。
「良いー雰囲気の学校じゃあ。これなら勉強も捗ると言う物。
作業の邪魔にならん程度に、回りの様子を見て来ても良いかな?」
「あぁ……はい。白い髪の子、生徒になる予定の子供達なんですが、ギースとニースと言う子が居るかもしれないんで、もし見つけたら声をかけてやって下さい」
一応に言うと、「了解した」と言い、ライバードは悠長な動きを見せて、学校の中へと向かって行った。
直後に作業員の一人に捕まるが、何事かを展開してそこから脱出。
すぐまた別の作業員に捕まり、苦笑いを見せて何かを言っていた。
「いい加減キレて魔法を使わない? 出来上がった学校吹っ飛ばされちゃうよ?」
「いやいや、一体何者なんすか……」
思わず敬語でユートに返す。どんだけ短気ならそうなると言うのか。
もしもそんな性格だったなら、元の世界の人達は一安心しているだろう。
流石にそれは無いと思って、今の内にギース達の小屋を訪ねる。
或いは現場に居るのかもしれないが、そちらに居ないと考えて、ライバードを紹介する為に迎えに行ったのだ。
だが、二人はそこには居らず、奇妙な人形がぶら下がっていただけ。
若干、ダナヒに似た顔のそれは、まるで殴ったり、蹴られたりしたかのように、ズタボロの状態で吊るされており、思う所は色々あると考え、見なかった事にして現場に戻った。
「あ! 居た! 何やってんだよヒジリー!!」
戻って来るなりギースに呼ばれる。どうやら現場の方に居たようだ。
右隣にはニースが立って居て、後ろには笑顔のライバードが居る。
自己紹介はお互いに終えたのか、遠慮をするような妙な空気は無い。
「人質に取られた!?」
「だから何者だよ……」
ユートの言葉に一応答え、それから三人の前に立つ。
「学校の先生してくれるんだって! すげえな! いよいよって感じだな!
あと一か月位か!? それとも半月!?」
即座にギースが言ってきたので、若干引きつつ「う、うん」と答える。
引いた理由は彼の髪の毛。興奮した時に逆立つアレだ。
まさか攻撃はしてこないだろうが、思い出したが故に警戒したのだ。
その後に少し冷静になり、ふた月位かなと、俺個人は判断。
それを改めて口にすると、「ふた月かァ……」と、少し凹んだように見えた。
まだ四か月位は先だと思っていたので、それでも十分早いと思うが、現場で実際に働く二人には、長い思える期間なのだろう。
「勉強自体はどこでも出来る。学ぼうとする心さえあればの。
ワシ自身も君らに学びたい事がある故、明日からでも始めてみるかね?」
直後の言葉はライバードのもの。聞いた二人が驚いて振り向く。
それからニースはギースの顔を見て、無言で何かを伝えたのである。
兄を立てたのか、内気故の行動か。そこは俺には分からなかったが、ギースはすぐに「お願いします、先生!」と言い、ライバードに「こちらこそじゃ」と返されるのだ。
「え? じゃあ三人で住むの? あの小屋だとちょっと狭くない?」
ユートの言葉に「うーん……」と言う。ギースとニースには聞こえないので、出来るだけ小さく絞った声だ。
だが、ライバードには聞こえて居た為に、「いやいや、何を。自宅から通うとも」と言う、奇妙な発言が返されて来た。
どこにあるのか不明であるが、少なくともダナヒの街よりは遠い筈。
そうでなければ指示された日から、街に来たまでの日にちが謎になる。
「えっと……結構近いんですか?」
そう思った俺が一応聞くと、「普通に行けば三日くらいかの」と、当たり前のようにライバードは言うのだ。
「ええと……」
これはギースで、妹のニースも「ちょっと意味が……」と困惑している。
それはそうだ。三日かけて来るなら、帰る時にも三日がかかり、一週間に一度も授業が出来れば上々と言う結果に終わる。
それならもう泊まりなさいよ。ていうか泊まって下さいよ。
そう言わんばかりの表情が、ギースとニースの二人には伺える。
「ふむ……まぁ丁度良いかな。雇って貰った恩返し。
理事長には一つ良い物を伝授して差し上げる事にしよう」
理事長とはつまり俺の事らしい。創設者なのだからそうなのかもしれないが、何だか異様にこそばゆい。
「ちょっと、その呼び方は……他の生徒にバレたくないんで……」
知られたらどうなる?
一定の距離を置かれるか? もしくは逆にモテモテだろうか?
理事長、アーン♡
なんてたまらない図だが、男子からの友情は壊滅的だろう。
理事長居るし、スーパーゲロヤバス。
とか言われて、そそくさと逃げられる図も相当ショックだ。
ここは隠して置くのが一番。役得は無いが害も無い。
考えた上でそう言うと、ライバードはまずは「ふむ」と言った。
「ではヒジリ君でええのかな?」
「あ、はい。特別扱いはナシで」
その上でそう質問して来たので、俺は苦笑して答えたのである。
「うむ。ならば理事長改め、ヒジリ君に良い物を伝授して上げよう。
これからワシが呟く言葉を、決して間違わずに続けて欲しい。
その際には自分が行きたい場所を、しっかりとイメージしておくようにな」
良く分からないが「はい……」と言う。「決して」の部分が何だか怖い。
それに、行きたい場所と急に言われても、そう簡単には思い浮かばなかった。
「ああ、元の世界は残念ながら駄目じゃ。この世界の事と限定して欲しい」
言われてみれば確かにそこだ。自分の部屋。そして家。
行きたいと言うより帰りたいと思う場所である。
だが、駄目じゃ、と言われては考えるだけ辛いので、直後に浮かんだピシェトの孤児院に行きたい所を固定して見た。
「決まったかな?」
「はい。一応は」
もしかしたら魔法で連れて行ってくれるのだろうか?
そう思ったのはこの時の事。フリとしては完璧にそうだが、もし出来るのなら凄まじい人である。
「ヴィヴィアンの寝室にレッツゴー!」
「違うし男だろ……」
ユートも薄々を察しているのだろうが、イメージした先はまるで違った。
元の世界よりも、孤児院よりも、真っ先に行きたい所がヴィヴィアンの寝室。
俺は一体ユート(こいつ)の中で、どういうキャラとして根付いているのか。
「それでは同じ言葉を繰り返すのじゃぞ?
ウム・ベルク・ラルスラード・ギルス・バーラル・フォーレスカ……」
そんな中でライバードが呟き出したので、ユートを放置してすかさず真似た。
「決して間違うな」と言う部分が恐ろしく、同じ言葉を慎重に呟く。
「訪れし場所! 記憶を辿り、我を今、その場に導かん!」
「訪れし場所! 記憶を辿り、我を今、その場に導かん!」
そして、全てを言い終えた時、俺の視界は不意に途絶え、一瞬後にはかなり前に見た、見慣れた風景が広がっていたのだ。
二反の畑。それに荒野。一人の男が畑に見える。
男は逞しい上半身を露出して、鍬を両手に畑を耕していた。
忘れるはずが無い。その筋肉を。忘れてはいけない。受けた恩義を。
その人物は俺の恩師で、命の恩人ピシェトであった。
「ピシェトさんだ!? 相も変わらず逞しいお筋肉!」
「ミスターヒジリ!? それにミス・ユート!?」
ユートの言葉にピシェトが気付く。直後には何人かの子供が気付き、家の中から飛び出して来る。
「ピ」
シェトさん! と言おうとした俺だが、直後に異様な脱力感を覚え、「ピ」の口のままで地面に倒れ、意識を失ってしまうのだった。
必ず戻る、と言う約束ですな。
ちなみに詠唱を間違った場合、移動時に体が四散します。
割りに怖い移動魔法…(震)




