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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
五章 世界一下品な祭り
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ドーラスの変化

 演習はそれから二日後に、首都の近郊で開始された。

 背後は森で目の前は平野。

 それから川を挟んだ向こうが、漆黒の騎士団が構える平野で、こちらの新兵約二千人に対して、約千人が動員されている。

 指揮を執るのは話の通り、副団長のリーロと言う男で、ドーラスはどこに行っているのか、本当に参加をしてないようだった。


「各隊の準備が整いました。訓示をお願いいたします」

「分かった」


 ヤールに答え、馬を動かし、居並ぶ新兵の前に進み出る。

 その後に大きく吸い、訓示の為に口を開いた。


「王国の未来を支える者達よ!

 望む、望まぬに関わらず、今日、この場に集まってくれた事に、私はまずは感謝をしたい!

 諸君達こそが王国の盾であり、守るべき者達の希望の剣だ!

 だが、その刃は今は鈍く、盾は触れられれば崩れる程に脆い!

 鈍さを磨き、脆さを鍛えるには幾多の訓練を経ねばならぬ!

 その一度目となるのが今日こんにちの演習だ!

 諸君らに望む事は僅かに三つ!

 一に、進めと言われれば進み、退けと言われれば即座に退く事!

 二にこれは演習であるが、戦場の雰囲気をその身を以て学ぶ事!

 最後の三は生き残る事だ!

 この三つを心に刻み、この後の演習に臨んでほしい!」

「オォォォォー!!」


 大歓声が直後に上がり、新兵達が腕を突き上げる。

 どうやらうまく行ったようだと、そこでは小さく息を吐き、その後に右手を上に上げて、「演習開始!!」と、大声で伝えた。

 こちらが動いた事を見て、遙かな先であちらも動き出す。

 そこからは各隊の隊長に従って新兵達は進んで行った。


「いやはや、実にお見事です。

 自分も新兵の頃を思い出して、何やら身震いをしてしまいましたよ」


 ヤールの言葉に「そうか」と答え、進軍して行く兵達を見る。


「どれくらい前の話だ?」

「あー……そうですね……レナス様が生まれた頃じゃないですか?」


 何気無く聞くと、ヤールが言うので、「それは無いな……」と返して笑った。


「いやいや、実際それ位ですよ。自分が十五くらいの時だったんで。

 レナス様がもし二十五以上なら、それは無いな、になりますけどね?」


 ヤールも同じく笑って言ったが、それには何も返さなかった。

 実際の所はそれ以上ではあるが、私も女。詳細は秘めたい。


「両翼を渡河させて中央を攻めさせろ。

 数による優位を生かさない手は無い」

「あ、はっ! 両翼を渡河させろ! その後に中央を攻めさせるんだ!」


 代わりに指令を伝えると、ヤールがそれを伝令兵に伝えた。

 それを聞いた三名の兵士が「はっ!」と答えて馬を走らせる。

 向かうは中央、左翼、右翼の指揮を執っている隊長の元だ。


「案外、そのまま押しきれたりしませんか?」


 直後にヤールが聞いて来たので、それにはまずは「いや」と言う。


「流石にそれは無いだろう。

 団長の性格に難があるだけで、漆黒の騎士団は実力者揃いだ。

 その団長すら実力だけはある。今はこちらに合わせてくれているだけだ」


 それから続けると、「確かに」と言い、ヤールも前線を見るのであった。


 しばらくの後に渡河が終わり、左翼が中央を狙って動く。

 だが、右翼は渡河に手こずり、前衛が待機をしたままだった。

 騎士団の後詰がここで動き、右翼の前衛部隊を攻撃。

 前衛部隊はそれで押し戻されて、右翼の攻撃は失敗に終わる。

 その後に敵は逆に渡河し、中央の部隊を横から攻め寄せ、自軍の中央の部隊と連携し、徐々に中央を浸食して行った。


「脆すぎますな……と言っても、新兵だけではこんなものですか」

「死者が出なければそれで良い。

 敗因がはっきりとしていれば、それを次回に生かす事も出来る。

 ここからは防御に専念するぞ。全兵力を後退させてくれ」

「はっ!」


 その命令はすぐにも伝えられ、伝令兵達が残らず走る。


「手間取っているようですな……」


 それからしばらく静観していたが、兵達はなかなか戻って来なかった。


「指揮系統もボロボロと言う事か……すまないがヤール、行ってくれるか?」

「承知しました!」


 やむを得ずにヤールに頼み、立て直しの為に向かって貰った。

 ヤールの馬が着いた頃から、兵達は少しずつ落ち着きを取り戻し、十分程が経った頃には全軍が徐々に後退を始めた。


 一方の騎士団は兵を纏めて、中央突破の様相を取っている。

 おそらくこれは防ぎきれない。だが、経験にはなる事だろう。

 そう思ったが為に見守っていると、背後の森から殺気を感じた。


 直後に飛んで来たのは石の礫で、剣で払った以外のモノは、乗っていた馬の体に刺さる。

 馬が倒れ、飛び降りた時には、何者かがこちらに駆けて来ており、私が誰かと聞くより前に空中に飛んで斬りかかって来ていた。


 僅かに下がってそれを避け、一歩を踏み込んで剣を薙ぐ。

 相手はそれを受け止めたものの、剣を砕かれて後ろに吹き飛び、うまく着地をする事が出来ずに、地面の上を激しく転がった。


「うああっ!!?」


 そして、木に体をぶつけ、舞い落ちる葉の中で何とか立ち上がり、剣が砕かれていた事に気が付いて、柄を投げ捨てて逃げて行くのだ。


「何者だ……どうやら女の声だったようだが……」


 森を見ながら呟いて、安全を確認して剣を収めたが、相手の正体は分かるはずも無く、有耶無耶とした気持ちの中で、私は指揮を続けたのだった。




 演習の結果は当然の負けだった。

 前線はあの後すぐに破られ、新兵が離散した事で演習は終わった。

 死者は五人で、重軽傷者は後々に判明して三百五人。

 数千人規模の演習に於いては、これでも少ない方ではあったが、出来れば死者は出したくなかったので、個人としては無念な事だった。


「それでは解散。皆、ご苦労だった」


 黙祷が終わり、解散を告げると、漆黒の騎士団の数名が現れる。

 街へと向かう兵士達をかき分けて、私の方へと近付いてきた。


「最初の攻撃は予定外ですぞ! どう説明をされるおつもりか!」

「実戦形式とは言え死者を出した事には、責任を取って頂けるのでしょうな?!」


 どうやらあちらにも死者が出たようで、その事に対する苦情のようだ。

 当然、それは私の責で、私が受けるべき苦情であったが、ヤールが間に割って入り、彼らの前に立ちはだかった。


「レナス様はお疲れですので、ここは私が聞き受けましょう。

 どのような状態で死者が出たのかも、報告書を書く為には知って置くべきですからな。むしろこれは副官たる、私が聞き受ける事かと存じます」


 それから言って、顔だけを向け、私に行けと目配せをする。


「(すまんな)」


 正直な所はどちらでも良いが、折角の好意を無にするのも悪い。

 それ故にこの場はヤールに任せ、兵達と共に街へと戻った。

 それから王宮の執務室に向かい、待って居たゼーヤと顔を合わせる。


「どうでしたか? 勝ちましたか?」


 と、質問されて、「まさか」と答えて隣室に向かった。


「出て来るなよ」


 言葉の対象は妖精だったが、今は姿を見せてはいない。

 当然、答えも返って来ないが、それに構わずノブを捻る。

 そして、部屋の中へと入り、ドアを閉めてから剣を置く。

 鎧を脱いで、下着姿になり、制服を着る為に右手を伸ばした。


「いやっ?! あの! 今は駄目ですよ!?」


 そんな声が外から聞こえ、疑問に思って動きを止める。


「!?」


 直後にドアが「バン!」と開けられ、私は意識せず体を隠した。


「レナス殿! 我が騎士団に、死者を出させたそうではない……っ……か……?」


 現れたのはドーラスで、言葉の途中で私に気付く。

 目を見開いて口を開け、上から下にと視線を移し、


「ほぉ……これは……」


 と言った後には、私の胸辺りで視線を止める。

 まじまじと見ている。どうするべきか。

 悲鳴をあげて突き出すべきか。


「男勝りの小娘かと思っていたが……なかなかどうして素晴らしい物を……

 あぁ! いや! 何でもない! すぐにでも出て行こう!」


 そう思っていると、そんな事を言うので、何かが「ぶちり」とキレた気がした。

 背を向け、去ろうとするドーラスに向かい「いや」と言って動きを止めさせる。

 そして、肩を「がしり」と掴み、「ドーラス卿……」と言って口の端を曲げた。

 それはおそらく暗黒的な、汚い笑みだと自分で分かり、直後には左手を拳に変えて、勢いをつける為に後ろに引いていた。


「はぎゃあっ!?」


 それがドーラスの後頭部に当たるのは、その声から数えて一秒後の事。


「落ち着けっ!? れなっ!? レナス殿ぉぉぉ!?」


 と、足掻くドーラスを捕らえたままで、制裁という名の暴行を加える。

 一体どれくらい殴っただろうか、


「レナス様マジでヤバいですって!!」


 と言うゼーヤの声で我に返り、捕まえていたドーラスを見たのであるが、その時にはドーラスは鼻血を流し、青ざめた顔で気絶をしていた。


「……しまった。カッとなってやりすぎたか」

「スゲエっす……レナス様マジスゲエっす……オレ、オレ、今超幸せっす」


 私が呟き、ゼーヤが言った。


「!?」


 直後にはゼーヤの視線に気付き、ドーラスを離してドアを閉める。


「(しかし、これは本当にマズイな……この男の事だ、下手をしたら、一生この事を根に持つだろう……)」


 口に手を当てて考え込むが、やってしまったものは仕方ない。

 とりあえずの形で制服に着替え、ゼーヤを呼び入れて隣に運ぶ。

 ソファーに寝かせてしばらくすると、ドーラスはどうにか目覚めたのだが、第一声が「ヒイッ?!」であったので、口汚い言葉を私は覚悟した。


「あ、ああ……なんだ夢か……そうだな……うん。

 きっと夢だ……邪魔をしたなレナス殿」


 が、ドーラスはそれだけを言い、文句も言わずに部屋から退出し、ゼーヤと私は目を点にして彼の背中を見送ったのである。


「打ち所が……悪かったんですかね……?」

「いや、或いは一時的な記憶障害かもしれん。

 そうだとしたらすぐにでも引き返して来て、私を口汚く罵るはずだが……」


 ……だが、ドーラスは戻っては来ず、翌日の朝には「おはよう」と言い、私を更に困惑させた。

 一体ドーラスに何があったのか。

 恋愛等では無い別の意味で、奴の事が気になり始めた瞬間だった。


暴力から始まる恋だってあるさ

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