見つけたメモと怪しい物音
洞窟の内部はかなり暗く、入った直後にダナヒはこけかけた。
それは二度、三度と続き、心配になった俺が「代わりましょうか……?」と聞いたが、ダナヒは「じきに慣れる」と言って、間接的にそれを拒否した。
思う所はスキルの取得。せめてセキュア位は取った方が良い。
そう思ったが故に忠告すると、ダナヒは「イラネ」とまずは言った。
「取るとアレだろ? 相棒妖精だかに、四六時中ついて回られるようになるんだろ?
こちとらプライベートなタイムが多いし、いちいち説明するのもメンドクセー。力を貰わねぇと世界が滅びる、なんて事にならねぇ限りは、俺様は自分のスタイルを貫くぜ」
好意で言うと、ダナヒは答え、「慣れて来た」と話を切り上げるのである。
それでも尚も押そう物なら、無言の屁でもかまされ兼ねない。
場所が場所故に遠慮したいので、俺は最悪でも説明書だけ――
つまり、こちらでのルールの事だけでも読んでくれるようにダナヒに頼むのだ。
知らずにやらかしても評価は下がる。俺の女装がまさにそれだった。
知らずにやらかしてダナヒが消えたら。それは本当に寂しすぎる事だろう。
「まぁ、気が向いたらな」
そんな気持ちが伝わったのか、屁をかまさずにダナヒは言った。
その後には若干、怪しい足取りで進み出し、躓かなかった結果振り向いて来る。
そして、「ほらな?」と言う満足そうな顔で、見えて来た事を証明するのだ。
まるで子供だが油断をしてはいけない。
「えらいえらい」なんて褒めよう物なら、即座に「あ?」とやくざの顔だ。
それ故に俺は少し考えて、「ですね」と言う事でその場を凌いだ。
ダナヒにそれは見えているのか。通路の高さは三m程で、横幅はおそらく四m程。
壁や床の材質は不明だが、色はどうやら黄土色のようだ。
通路はその後に階段に変わり、下へ下へと俺達は降りて行く。
「どこまで降りるのー!? 長いよこれー!」
と、ユートが騒ぎ出した頃に、階段はようやく通路に戻った。
深さにするなら三百mか、四百mは下っただろうか。
兎に角、割と深い所に俺達は降りて来てしまったらしく、周囲の空気もいつの間にか、うすら寒いものになっていた。
「オメェは幽霊とか信じる派?」
また何かを言い出した。突拍子が無いのはいつもの事だが、ハッキリ言って意味が分からない。
一応の形で「割と……」と、答えると、ダナヒはジリリと、体を退かせた。
「いっ!?」
その先に見えたのは遺体であった。見れば、脇にも一体が座っている。
それは、完全に白骨化しており、まるで何かから逃げるような形で、俺達が来た方に体を向けていた。
遺体の発見はその後にも続く。不規則ながら相当の数だ。
その度に驚く俺とユートだったが、ダナヒはどうも楽しそう。
「いかにもだよな。今にもこう、起き上がって攻撃して来そうじゃねぇか?」
言った後に振り向いて、不気味な笑顔をこちらに向けるのだ。
肝試しとかで急に大声を出すタイプ。すぐにも思うのはそんな事である。
「やめてくださいよ……」
と、真剣に頼むと、「ははは」と笑って顔を戻した。
「にしてもコレ、何なんですかね……? 何で骨が転がってるんですか?」
「行き倒れには見えねぇな。肋骨が欠けてる奴も居る。誰かに殺られた、って考えちまうが、実際の所は分かんねぇな」
思わず聞くが、ダナヒも分からず、そこからは無言でしばらく進む。
「ズバリ墓! 墓ですよここは!」
二十秒程が経っただろうか、ユートが唐突に言った為に、俺は「ヒィ!?」と言う驚きの声を出すのだ。
「何だいきなり……」
俺のその声に驚いたのだろう、しかめっ面でダナヒが振り向く。
「いや、ユートが……」
と、言い訳をしてから、「いきなり声出すなよ……」と、ユートを叱った。
罪悪感は無いのだろうが、それだけにたまーーに最悪の性質を出す。
そうさせない為には教える事だろうが、何が分からないかがそもそも分からない。
「ゴミンゴミン。でも当たりだよね? 賞品は何かな? イチゴハルル?」
それには一応謝りはしたが、ユートはなぜかの賞品を要求。
「はいはい……」と、それをスルーすると、若干の不満を感じているようだった。
「客観的に見たら病気だな。やっぱイラネーわ。相棒妖精は」
これはダナヒで、「ボソリ」と言って、顔を戻して歩き出す。
「ヒドイーー!! それは相棒妖精のジンケンシンガイだよー!」
直後にユートが抗議をしたが、聞こえないダナヒはそれを無視した。
「ほら! ヒジリも何か言ってよ!」
「あ、ああ……」
頼まれた為にとりあえずは言い、
「厄介事も多いですけど、居たら居たで寂しくないですよ」
と、特に考えずに本音をぶちまける。
「ひ、ヒドすぎるー!?」
それにはユートはそう叫び、「もー知らない!」と言葉を続けた。
そして、その後にダナヒを追って飛び、残された俺が小首を傾げるのだ。
一応褒め言葉のつもりだったのに。と。
「ん……?」
直後に何か物音が聞こえた。流石にダナヒの屁では無い。
顔を顰めて場所を探ると、左手の壁の向こうに思えた。
例えるなら金属が床を擦るような、そんな音が聞こえたのだが、そこにはドアも通路も見えない。
「(気のせいか……)」
結果としてはそう思い、顔を戻してダナヒを追ったが、それが気のせいでは無かったと言う事を、もう少し後になって知る事になるのだ。
それからしばらく進んだ所で、俺達はひとつの部屋を見つけた。
場所としては通路の右手のドアが完全に壊れた部屋で、入るなりに俺達は、緑の壁を目の前に見た。
そして、入口の両脇に伸びる、僅か数段の階段を見つけ、とりあえずの形で左に降りて、右に広がる光景を目にする。
天井が高く、部屋の中はかなり広い。
テーブルがいくつも並べられており、宛ら食堂のようにも見える。
全体の色はおそらく緑色。しかし、かなり暗い色なので、ダナヒにはあまり見えて居ないだろう。
「どうなってんだ?」
「食堂かもしれません」
やはりはあまり見えない様子のダナヒに聞かれて俺が答える。
「食堂? こんな洞窟の中にか? 一体全体何だってんだここは?」
聞いたダナヒが歩き出し、椅子に躓いてこけかけた。
それには耐えたが腕骨を踏み、ダナヒは「ちっ」と舌打ちをするのだ。
ここにも遺体が転がっている。一体何があったと言うのか。
「ちょっとテーサツしてきまーす」
屈んで遺体を調べようとすると、ユートが言って飛んで行く。
「気を付けろよ」は間に合わなかったが、まぁ、見えないのだから大丈夫だろう。
それはそれとしてユートに任せ、状況を知る為に捜索を開始。
やはりは元は食堂らしく、床にはそれらしき容器が転がり、ざっと数えた限りではあるが、五~六人分の遺体があるようだった。
「何かがあったのは間違い無いですね……」
眉根を寄せて呟くと、ダナヒが「みたいだな」と短く答える。
「こんなもの見つけた!」
と、ユートが戻るのは、ダナヒが答えた直後の事だ。
どうやら何かを持っているようで、「何だそれ?」と言ってユートを迎える。
「ほい」
渡されたのは小さなメモ帳で、ダナヒを右隣りにそれを開いた。
「(うわ……これは……)」
すぐにも思ったのは無理だと言う事。
今までに見た事が無い文字だったので、読める訳が無いと考えたのだ。
「あれ……おかしいな?」
だが、どういう訳かそれが読め、不思議に感じて両目を細める。
「オメェも読めるのか?」
と、ダナヒが言って、「ダナヒさんも?」と、俺が聞いた。
「こんな文字は見た事ねぇがな。どういう訳か読めちまう。書けと言われたら無理だとは思うが」
それには俺も同感だった。読むだけならば可能であるのだ。
リクツは謎だがどうにも気持ち悪い。興味はあるが、やめようかとすら思う。
「早く読んでよー!」
「分かったよ……」
閉じかけていたが、ユートに急かされ、仕方が無しにメモに向かった。
それからゆっくりとメモを読み出すと、ダナヒがテーブルの上に座り、一方のユートは少しを移動し、俺の左肩の上へと座る。
そんな中でメモを読み進め、いくつかの事を判明させた。
まずは持ち主。
この人は男性で、傭兵のような仕事をしていたらしい。
らしい、と言うのは想像の為で、
「今回の仕事は報酬が安い」
と言う一文が、その想像の理由となった。
性別に関しては「俺」口調なので、俺っ娘じゃなければ間違いは無いだろう。
そして、家族とは離れて暮らしていたようで、「早く家に帰りたい」と言う文が、そこら中で確認出来た。
それに加えて「いつになったら帰れるのか」と言う、疑問のような文も良く見られ、彼の当時の環境を想像する事を難しくしていた。
「で、ここにそれがあった理由は?」
そこら辺の事には興味は無いのか、座ったままでダナヒが急かす。
その為に、ページを一気に飛ばすと、血の滲みで固まった部分が現れた。
何とかそれを剥がそうとするも、失敗してページを破いてしまい、うまく開けたページにしても、破れた紙片が付着していた。
「ここに来たのは失敗だった……慢心していたと言わざるを得ない。
結局俺は……へは? ……る事は出来ない……?」
それでもなんとか読んでみるが、残っている部分では意味が分からない。
「最後の足掻きであいつを……した? 誰かが助けに来てくれると良いが……を見た者へ忠告を残す……ら……に、攻撃は殆ど通じない。
狙うのならば腹を狙え……そこを切り落とせば奴らの……は? 数十秒後には停止する……?」
更に続けてページをめくり、「帰りたかった」と言う最後の文字を、俺は両目に入れるのである。
「死んじゃったんですかね……このメモの人」
メモを閉じて呟くと、「そうかもな」と言ってダナヒが立ち上がる。
何があったかは予測できないが、何だか気の毒な最後と言える。
「いっ!?」
そんな事を思って視線を動かすと、奇妙な物が視界に入った。
悪寒が走り、顔が強張る。間違い無く言える事は人外の物だ。
場所としてはダナヒの背後。
入口から見て右手の壁から、何者かがこちらを眺めていたのだ。
どうやら人間の顔のようだが、目は窪んでいて頬は扱けている。
色は青白く、髪はボサボサ。白い首は異常に長い。
こちらに気付いて首を引っ込めたが、それは明らかに異質の者で、その為に言葉を失っていると、ダナヒが「どうした?」とそちらを向いた。
「なんか居んのか?」
その時にはすでにそいつは居なかった。故に、ダナヒが疑問する。
「気のせいじゃないです……ここにはやっぱり何かが居ますよ……」
少し前に聞いた金属が床を擦るような音は、俺がダナヒにそう答えた後に、入口の向こうから聞こえ始めた。
メモ帳の持ち主については後に察する事が出来ます。
覚えて居れば…の話ですが。




