レイラの島の奇妙な洞窟
ダナヒの街へと帰還をしたのは、それから二日が過ぎた後の事だった。
報告を済ませるとダナヒは喜び、ギース達の受け入れも認めてくれた。
俺達はその足で島へと向かい、学校建設の現場を見学。
「お、オレ、ちょっと手伝ってくるよ! 迷惑じゃないよな!? 聞いて来ても良いよな!?」
と、やたらとはしゃぐギースを目にし、ニースと共に笑うのである。
ちなみに現場の状態は、地均しがようやく終わったと言う所で、作業員達の殆どは出て来た土等を運搬していた。
残りの少数は線を引いて、建物の基礎作りに入っているようで、近寄って来たギースに対して、線を踏まないように警告していた。
結局の所ギースは離れ、土を運んでいた作業員に接触し、そこでどうやら受け入れられて、嬉々として土運びを開始したのだ。
「お兄ちゃん凄い嬉しそう……あんな顔を見たのは初めてです」
ニースの言葉に「へぇ……」と言い、走り過ぎて行くギースを眺める。
その顔は確かに輝いており、決められている場所に土を置くと、すぐにもダッシュで戻って行った。
戦いでは無い所で力が使える。そういう喜びがあったのかもしれないが、いずれ、自分達が通う事になる学校の建設に、力を貸せる事も嬉しかったのかもしれない。
「もうここに置いて行けば良いんじゃない? 完成が一か月くらい早まったりして」
これはユートで、その言葉には「確かに……」と、苦笑いで小さく返す。
「わたしも何か手伝ってきます」
と、ニースが言って歩き出したので、「ダメダメ!」と叱ってニースを引き止めた。
邪魔になる、ならないは問題では無く、ニースの体が心配だったからだ。
「だ、駄目ですか……ごめんなさい……」
「あ、いや、ゴメン……」
腕を掴まれたニースが謝り、俺も謝って手を離す。
「ほら、邪魔だとかそんなんじゃなくて、ニースの体が心配だから」
と、誤解をされないように説明すると、ニースの顔が若干綻んだ。
「分かりました。じゃあお兄ちゃんの近くで応援だけしてきます」
続けて言って、そちらに向かうので、それならと思って黙って見送る。
結局の所、しばらくすると、お茶やら掃除やらでコキ使われていたが、本人が嬉しそうな顔をしていたので、文句を言う事は出来なかった。
ダナヒの街へと戻ったのは、完全に陽が落ちてからの事で、夕方近くまで手伝ったと言うのに、二人は実に元気であった。
「オレ達時々手伝いに行くから! 街の中に居なくても心配すんなよな!」
「今日は本当に楽しかったです。わたし達を連れて来てくれてありがとうございました」
宿屋の前で立ち止まり、ギースとニースがそれぞれに言う。
「いやいや、本当に体には気を付けて」
と、どちらかと言うならニースに答え、二人の仮の住まいを後にした。
「カレルさんも来れば良かったのにね?」
「うーん、まぁ仕方ないんじゃないか。なんかダナヒさんが用があったみたいだし。ていうかアレだな。
カレルさんも俺達の学校に来たりするのかな? 年齢的には小学生だし」
歩き出すなりユートが言って、疑問に思った俺が聞く。
「ショーガクセー? なんか臭いの?」
うぉぉ……と思うが仕方が無い。
ユートは何も知らないのである。
故に、「悪い……」と謝ってから、そこからは一人で考えてみた。
「(でもなぁ、小学生の勉強なんて「馬鹿にしてるの!?」ってレベルだろうな……ま、今度機会があったら来るかどうか聞いてみようか)」
思った直後に腹が鳴り、聞いたユートが「ワッショーイ!」と喜ぶ。
それには「何だそりゃ……」と言葉を返して、ダナヒの館への歩みを早めた。
それから七日の時が過ぎて、ダナヒの館に客がやってきた。
客、と言っても知らない者では無く、レイラとスラッシュの二人であり、廊下で偶然会った俺は、そこで立ち止まって挨拶をする。
「デイラー王国での話は聞いたぞ。流石はカタギリ、見事なものじゃ」
直後のレイラの反応はそれ。
謙遜から「いえ……」と言葉を返すと、スラッシュと共にレイラは微笑む。
そして、少しの間を佇んだ後に、二人で執務室へと向かって行った。
「知ってる。こういうのコミュショーって言うんだよね? もっと話を膨らませなきゃー」
「こ、コミュ障!? いきなり何言い出すんだ?!」
それを見ていたユートが言って、突然の言葉に俺が驚く。
「だって二人とも明らかに「えっ? それだけ?」みたいな顔してたよー。 その後の沈黙でも「何か言えよ……」的な、待って居る感が見て取れたけど、ヒジリは分かって無かったっぽいね?」
「い、いや、だって話す事が無いし、無理につまらない事を言ってもアレだろ? っていうかむしろ、向こうの方から何か言うんじゃないかなと思って、俺の方が待ってたんだけど……」
続けた言葉に言い訳すると、ユートは「ふーん」と小さく唸った。
「まぁ、それがヒジリのコセーだし、無理に変えても仕方が無いよね。
ウケとタチならウケって事で、ガンガンに攻められるのが好きなんだねー」
それから言って飛び出したので、「タチ……?」と言って疑問する。
「うん。掘る方」
直後の返答がそれだったので、「何読んでんの!?」と顔色を変えた。
ユートの知識は主に本。それも漫画と決まっているからだ。
「え? 亡国の王子とローズ公国の王だけど……?」
それには「今すぐ読むのを止めろ……」と言い、消滅を図る為に部屋へと向かった。
「えー! 今良いとこなのにー! ラストが「このままでは屈服してしまう……ッ!」だよー? 屈服するかどうかが気になるでしょーよ!」
「なるけど駄目! 良くない本なんだ!」
正直気になる。怖い物見たさである。
だが、ユートをこれ以上低俗化させたくないので、そう言いながらに部屋に着き、ユートの案内で本を見つけた。
一応ペラペラとめくってみると、
「もう良い……どうなっても……気持ちが良ければ……っっっ!!」
と言う、屈服したらしい場面は見えた。
責める王子? も「共に堕ちよう……快楽の坩堝。薔薇の世界へ!」等と言っている。
「ううん!!」
それを読まなかった事にして、ゴミ箱の中に本を投げ捨てた。
ユートは「あーあ……」と残念がったが、強行して読む気は無さそうである。
「ていうか何でこんな漫画が置いてあるんだ……
元々は誰の部屋だったんだ……?」
「えっ? 違うよ? さっきの本はカレルさんの部屋から借りてきたものだよ」
一人でボヤくと、ユートがそう言い、まさかの事実に言葉を失うのだ。
「(腐ってたのか……)」
ああ見えて、実はかなりの腐女子だったらしい。
外見上では十才なのだから、まず、誰も疑わないだろう。
しかし中身は三十五才。正直、相当に進行している。
「返して来るんだ。そっとな……」
だが、知られたくない事の一つや二つ、誰だって心に抱えているものだ。
驚きはしたがそう考えて、本を拾いながらにユートに言った。
「らじゃー! そっと置いて来ます!」
何も知らないユートが言って、本を抱えて飛んで行く。
「開けてよ開けてー」
と、ドアの前で止まるので、開いてやって背中を見送る。
「ああ、ヒジリ君丁度良かった。ちょっと執務室に来てくれますか?」
直後の声はデオスのものだった。場所は背後で距離は十歩程。
振り向いた上で「ああ、はい」と返すと、「にこり」と笑って戻って行った。
「ま、言わなくても分かるよな……?」
アレでもユートは相棒妖精だ。居場所位はすぐに分かるだろう。
顔を戻してぼそりと呟き、ドアを閉めてから執務室に向かった。
「俺です。入ります」
辿り着いた後にドアを開けると、座っているダナヒの背中が見える。
その正面にはレイラが座り、右にはスラッシュが立っている。
デオスはこちらには戻ってないようで、部屋にはその三人が居ただけだった。
「おっ、来たな。んーじゃ、早速行くとするか」
それはダナヒで、顔を向けるなりその場に立って伸びをする。
「ど、どこへですか……?」
と、質問すると、「楽しそうなとこ」とだけダナヒは答えた。
レイラはそれには無反応で、スラッシュはどこか楽しそう。
何となく嫌な予感がしたので、俺は薄らと眉間を狭めた。
「では、案内をお願い出来ますか」
ダナヒの言葉でレイラが立ち上がる。
「承知しました」
それからそう言って、スラッシュを連れ、俺達を案内するようにして歩き出した。
ダナヒの街を出てから一時間。
俺達はレイラ達の島に着いた。
そこはユーミルズ王国から逃れて来た人達が移住している島であり、現在はかなり開拓されて、村らしきものが出来上がっている。
「住民の数は五百人に達し、戦える者もその半分は居ります。
いざと言う時には駆けつけますので、その時には遠慮なくお声掛け下さい」
「そいつは頼もしいな。アテにしてるぜ。
もし、何か足りないものがあれば、そっちも遠慮なく言って来てくれや」
通りを進みつつ話をするのが、先を行くダナヒとスラッシュの二人。
内政に関わるもののようなので、俺は敢えて距離を置いており、レイラと世間話をしながら二人の後ろを歩いていた。
「デイラー王国での話じゃがな。カタギリは誰かを連れて来たらしいな? そやつは何じゃ? 友人か? それとももっと親しい仲か?」
村の外れに辿り着いた頃、話題を変えてレイラが聞いて来る。
先程までは鶏が逃げたとか、水切りで石が十回跳ねたとか、割と反応に困るものだったので、渡りに船として質問に応じた。
「そうですね……友人……になるんですかね? どちらも歳が離れてるから、ちょっと実感は湧きませんけど」
その答えにはレイラは「ふむ」と言い、「カタギリは歳の差は嫌なのか?」と聞いて来る。
「えっ……? 嫌……じゃないですよ。ただ、多分、慣れてないだけです」
そう答えると、今度は「そうか」と言い、「嫌では無いのか」と、こくこく頷く。
「ならばわらわが十六になった際には、そなたを夫として迎えても良いな?」
「ぶっ!?」
直後の言葉には鼻水を噴き出すと、スラッシュとダナヒが振り向いて来た。
「何やってんだヒジリ……きったねぇなオイ」
ダナヒに言われて「すびばせん……」と謝り、鼻水を拭く為の何かを探す。
「ほら」
と、ハンカチを出してくれたのはスラッシュで、好意に感謝してそれを借りた。
普通の身嗜みだが俺は持って居ない。勿論ダナヒも持って居ないだろう。
男としての質の差が分かる瞬間だ。
「あ、洗ってから返します。ありがとうございました」
「ああ」
ハンカチをしまってそう言うと、スラッシュとダナヒが再び歩き出す。
「答えを聞かせぬか!」
どうやらレイラは立腹しているらしく、腕を掴んでそう言ってきた。
「えーっと……それって今から十年後の話ですよね……?
その頃にはきっと王女にも、本当に好きな人が出来てると思うんです。
もし、そうなって断られたら嫌なんで、十年後のその時にまた話をしませんか?」
はっきり断ると可哀想なので、考えた上で答えを返す。
聞いたレイラは少し考えて、「良かろう……」と、一応の納得をしてくれた。
レイラは可愛いし、逆タマなんて凄い話だが、流石に今から唾を付けて置くのはレイラの為にもよろしくは無い。
それに子供の言葉を信じて「結婚するんだ!」と思い込むのも危険で、裏切られたらそれこそ人生を棒に振る事もありえるだろう。
「だが、それまでカタギリは恋人を作るな。わらわも作らぬ。
これで平等じゃな?」
「あー……はぁ……」
それにははっきりとした答えを返さず、曖昧な答えで何とか乗り切った。
「えーっ! 小さいとケッコン出来ないんでしょー!
レイラちゃんだって小さいじゃーん! だったらボクのが早かったんだし、レイラちゃんとのケッコンは今すぐ破棄してよー!」
ユートが耳たぶを引っ張って来る。しっかりと覚えて居たらしい。
それには状況的に何も言えず、「勘弁してくれ……!」と心の中だけで叫んだ。
「着きました」
不意に言ったのは前を行くスラッシュで、隣を歩いているダナヒが止まる。
それに気付いてユートは黙り、「ナニナニ?」とそちらに興味を移した。
基本的には短絡的なので、興味が他に移るのも早い。
「(助かった……)」
そこには素直にそう思いつつ、辿り着いた場所の景色を見てみる。
場所は岩場で、目の前は森。
森の入口と見られる所には太いロープが渡されている。
勿論、潜ればその先には行けるが、明らかに「入るな」と言う意味合いであり、どうしてここにやって来たのかが分からず、どちらかの説明を黙って待った。
「それでは私達は失礼します。何があるかは分かりませんので、くれぐれも油断はなさらないで下さい」
が、そこへの説明をせず、スラッシュが言って帰り始める。
「それではなカタギリ」
と、レイラも帰り出し、困惑しつつも二人を見送った。
「な、何なんですか? どういう事なんですか?」
「だから言ったろ。楽しそうなとこに行くって。
見てみろよこの先、いかにもだろーが?」
ダナヒに聞くと、そう答えるので、両目を細めて先を見る。
すると、そこには一部が壊れた、封鎖されているような洞窟が見えた。
壊れているのは右下のようで、せいぜいが女性が通れる程の細さ。
扉の色は灰色で、それによって厳重に封鎖されている。
一言で言うなら結社のアジト。そう例えるに相応しい外観である。
「開拓の途中で見つけたんだと。律儀に報告してきた辺りは、敬服すべき人間性だな。俺様だったらその日に開けてるぜ」
そう言いながらにダナヒが進み、ロープを潜って奥に行く。
「ちょっ、ダナヒさん!」
やって来た理由がようやく分かり、それに遅れて後ろに続いた。
おそらくは探検。或いは調査だが、ダナヒとしては前者であろう。
故にワクテカした表情を見せ、嬉々として未知の物に近付くのである。
「キングカーメンがめっさ出て来る!!?」
「出ない出ない、絶対出ない」
ユートに言って、ダナヒと歩き、洞窟の前に辿り着く。
どうやら扉にはノブが無いようで、かと言って押してもずらしても開かなかった。
「そんじゃ仕方ねぇ、こいつで行きますか!!」
やむを得ずに斧を振り上げ、ダナヒが洞窟の封鎖を破る。
それから俺達は中へと入り、洞窟の探検を開始したのだ。
ユートは何気にキングカーメンがお気に入り




