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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
三章 ゲンナマを求めて
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レイラの提案

「見つかったのか? 良かったじゃねぇか。あとは金と人手だな」


 日付が変わって翌日の朝。

 学校を建てる場所が見つかった事を話すと、ダナヒはそう言ってパンを取った。

 一方の俺は「は???」と言い、スープを飲む手を止めたままだ。

 後は金と人手だな、と言われても、意味が分からないのが原因である。


「は??? じゃねぇよ。金と人手だよ。

 金が無けりゃ人は動かねぇし、人を動かすには金が要るだろ?

ま、俺様位のレベルになると、金じゃなくジンボーで動かせるけどな?

オメェにゃまだまだ出来るとは思えねーし、素直に金か、その代わりのモンを用意するしかねーだろうがよ」

「口先三寸とも言いますけどね」


 ダナヒが言ってデオスが笑う。

 笑われたダナヒは「オイオーイ……」と、眉根を下げて不満そうだ。

 俺はと言うとそれにも構わず、手を止めたままで呆然としていた。


 その理由は単純に、「俺がやるの……!?」と引いていた為。

 甘えていたと言えば甘えていたのだが、そこの部分はダナヒかデオスが何とかしてくれると思っていたのだ。

 なのに、まさかそんな部分まで十七歳の子供にやらせる等とは、一体誰が思うだろうか。

 そんな大金を稼ぐ方法など、エフエッ〇スくらいしか思いつかない(ネットが無いのでそれも無理だが)。


「その代わりと言っちゃあ何だが、その後の収益はオメェにくれてやる。

 だが、収益が出なかったからと言って、泣きついてくるのは一切ナシだ。

 あの島の事はオメェに任せた。やる、っていうのはそう言う意味だ。

 ……って訳で自分で何とかしてみろや」


 パンを千切って口に入れ、それを噛みながらダナヒが言った。

 冷たい事は分かって居るのか、視線は俺から敢えて外している。


「ま、いよいよになったら助けますよ。きっと、分からないようにこっそりとね。だから色々と考えてみて下さい。海王陛下はそういう気持ちをこそ、あなたに望んでいるのですから」


 続くデオスの言葉には「うっせぇな!」と言って少々切れた。

 その顔が若干赤らんでいる辺り、デオスの言った事は的外れでは無いのだろう。

 何だかんだと言いながら本当に困れば助けてくれる。

 言葉と柄が少し悪いが、基本的にはツンデレなのだ。


「お金ならヒジリも持ってるじゃん? あれじゃ駄目なの? 足りないの?」


 ユートが言うが、それには「全くね……」と、引きつった笑いで答えを返す。


「じゃあまた働こう! サーカス団サーカス団!」


 腕まくりをしてユートが言うので、脳味噌の単純さを少し羨んだ。


「募金活動とかやって見る? 学校が出来るって言う事だったら、みんな結構協力的かも?」

「そうだな……じゃあやって見るか」


 これはナエミで、他には案も無く、とりあえずの形でそれに同意した。


 食事を終えて準備に入り、看板を作って外へと繰り出す。

 看板のタイトルは「学校作ります! 寄付をお願いします!」と言う奇をてらわない物。

「生か死か! うまく行ったら五倍返し!」と言う、ユートの案は却下となった


 それから三人(ユート込み)で夕方まで頑張ったが、集まったお金は千四百三十五ギーツ。

 飲食店でバイトした方がよっぽど多いという結果に終わる。


「みんな結構財布が固いね……」

「多分、子供が居ないからじゃないか?」


 ナエミが言って俺が言う。確信は無いが実際にはそうだった。

 時間と場所が悪かったのか、仕事をしている人が殆どだったのだ。


「駄目だよヒジリー、ドゲザしないと。本当に人にお願いする時には自然にそうなるって何かに書いてたよ?」

「重いんだけど……」


 どこで仕入れた情報なのか、重い事をユートが言ってくる。

 一応、一言を返しはしたが、その後はユートに構わずに、翌日にはヘールくんを着た上で、沿岸沿いの村に行く事を決めた。

 こちらの方がダナヒの街より子供の割合が高かったからだ。

 そして翌日。


「ヘールくんキタァァ!!!」

「ヘールくんカッケー!!」


 村に行くと、以前と全く態度が違った。

 ヘールくんは子供達に大人気で、抱き付きとパンチの連打であったのだ。

 子供達を救った事で、きっと有名になったのだろう。 

 それに釣られて大人も集まり、募金額への期待が高まる。


「ありがとうございましたー!!」

「頑張ってね。応援してるわ」


 三時間程頑張っただろうか、最後の親子連れが俺達から離れた。


「どれくらい集まったかな?」


 と、ナエミが箱を開け、中身の金額を確認し始めた。


「あの……ちょっと、ヒジリ…」

「ん???」


 呼ばれた為に近付いて、見せられた箱の中身を覗く。


「なっ……!?」


 そこにはジャガイモやらタマネギやらという、所謂「現物」が詰められており、誰が入れたのか牛肉(切れ端)の下に、申し訳程度に十ギーツがあった。


「じゅ、十ギーツ……!!」


 酷すぎる結果だ。三時間で十ギーツ。自動販売機のつり銭漁りでもした方が、まだ実入りが良いような気がする。

 あまりの事にたたらを踏むと、ナエミが「大丈夫!?」と俺の腕を掴む。


「だ、大丈夫……精神的なダメージがちょっと……」


 と、それに答えて復帰して、改めて中身を覗きこんだ。


「いやぁ、助かるねー。ありがたいよねー」


 これはユートで、募金自体を良く分かって居ないらしく、そう言えば説明をしていなかったので、注意をするのはよしておく。


「ルーがあればカレーが出来るよ……十ギーツで買えって事で良いのかな?」

「いや、無いし、買えないでしょ。偶然だよ偶然。にしても……」


 ナエミの言葉にはそう答え、「にしても、全く集まらないな……」と、心の中で言葉を続ける。

 これなら本当に働いた方が早く、そう思った俺は考えを変え、この地方で一番大きな街であるコールドの街を訪ねる事を決めたのだった。




 相も変わらずのフリーダムさ。

 コールドの街を表現するなら、そういう言葉が最も相応しい。

 住民達はタバコに酒瓶、武器と女を片手に歩き、男も女も殆ど裸で、当たり前のような顔で生活していた。


「おういらっしゃい……? ん? あんたは確か……?」


 ナエミが働いていた酒場を訪ねると、振り向いた店主が顔を顰めた。

 こちらを威嚇しているという訳では無く、おそらく、誰だったかを思い出している為だ。


「ああー! 異文化の子の幼馴染の!」


 どうやら思い出してくれたらしく、それには「はい」と言葉を返す。


「しかし、生きて帰って来たって事は……」


 それには店主が残念そうな顔をしたので、「いえ」と言って説明をした。

 ナエミと会えた事、そして今、島で暮らしている事等をだ。


「ほぉぉ! そうか! そいつは良かったな! こっちも少し気が楽になったよ。で、今日はどうした? まさか報告に?」

「親父! ビール追加だ!」


 話そうとしたが注文が入り、店主がそちらにグラスを持って行く。

 店内の埋まりは四割程度か。以前に比べると半分程だ。

 アルバイトの子が見えない辺り、あの時がもしかしたら稼ぎ時だったのかもしれない。


「おぉ、わりぃな。で、どうした? 幼馴染の子が居ねぇのも気になるんだが?」


 ナエミは今日はダナヒの街で募金活動を頑張っている。

 俺がこの街を訪ねた理由は大きな仕事をする為だった。

 例えばそう、魔物退治とか、山賊退治とかの仕事である。


 要するに、昨日の募金活動で俺は心が折れてしまい、募金を続けるより他の仕事をこなした方が早いと考えたのだ。

 酒場を訪ねた理由もそれで、情報が集まる場所であれば、そういう事を教えて貰えると予測した上での行動だった。


「あー、そういう事か……だが生憎だな。

 ここらにゃそういう依頼は全くねぇんだ。

 人に頼るより自分で解決ってな。この地方の住民の気質って奴だな。

 だからそういう仕事がしたけりゃ、もっと北か、中央の方が良い。

 それこそエイラスから来たんだっけか? あそこが一番便利だろうな」


 が、亭主にそう言われ、諦めから「そうですか……」と言葉を返すのだ。

 そう言えば長の娘さんも「昔から国が無かった」と言っていた気がする。

 その結果として、自分の事は自分で解決すると言う考えが、この地方の人達に浸透したのだろう。


「ま、いくら稼ぎてぇのか知らねぇがな。ダナヒの旦那の所に居るんなら、海賊稼業を手伝うのが一番早いと俺は思うぜ?」


 聞いた亭主はそう言って、俺の目の前に金貨を置いた。

 その数は二枚。一万ギーツだ。


「募金の足しにしてくれや。おっと、俺からの募金じゃねぇぜ?

 随分前に飲みに来た、あんたそっくりの客が忘れて行ったもんだ。

 俺はあの子を雇ったが、拾ってやったつもりはねぇ。

 働いて貰った分は楽させて貰ったし、そこに恩義を持たれてもこまらぁ」


 亭主が言って背中を向ける。好意のつもりだったが失礼をしたらしい。

 それには「すみません……」と頭を下げて、金貨を受け取って酒場を後にした。


「でも困ったねー。お金が全然集まんないよ。ダナヒさんに頼んで海賊やっちゃう?」

「うーん……いや、それはちょっと……手段がどうこうの問題じゃなくて、それだと結局ダナヒさんに手伝って貰ってるのと変わらないだろ? 第一に多分、断られると思うし」


 店を出てからユートが言って、それに対して俺が答える。


「じゃあどうするの? ヒジリンやっちゃう?」

「それは絶対やりません!」


 封印したドアが開きかけたので、そこには慌ててモノを置いた。

 一体いつまで引っ張り出す気か。いつまで経っても忘れられない。


「ぶー、ざんねん!」


 と、残念がるユートを肩に乗せ、仕方なくダナヒの街へと戻った。


「おお、戻ったか、カタギリ」


 そこで俺達を待って居たのは、先日、同志になったばかりの王女レイラとスラッシュだった。

 ダナヒの館の前に立って、俺が帰るのを待っていたようだ。


「そなたが学校を建てると聞いてな。協力してやりたくて訪ねて来た。

 ちと危険な事にもなるが、わらわの話を聞いてみるか?」


 それには「はい……?」と言葉を返し、俺達は近くの店へと移る。

 そして、そこでレイラの話を聞かされる事になるのである。




「ミルク風味ハルルをひとつ頼む。カタギリはどうする? 何か食べるのか?」

「あ、いえ、俺は良いです」

「ではそれ一つだ。手間をかけさせてすまんな」


 店に入り、レイラが注文し、一礼した後に店員が下がる。


「(ハルル人気あるな……)」


 と、思いつつ、レイラの続く言葉を待った。

 協力してやりたい、と言っていたが、どういう風にしてくれるのか。


「協力とは言ったが、わらわはカタギリに情報を教えてやる事しか出来ぬ。

 つまり、わらわの祖国であったユーミルズ王国の財宝の話じゃ」


 レイラの続く言葉はそれで、そこの時点では意味が分からず、「財宝ですか…?」と短く返した。


「そうじゃ。つまり金の話じゃ。財宝を売れば金になる。金になれば学校が建つ。学校が出来ればわらわも行けるしで、皆にとって良い事尽くしじゃ」


 レイラが言って「ニコリ」と笑う。


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 俺にはまだまだ意味が分からず、複数の疑問から右手を突き出す。

 それを見たレイラは「何じゃ?」と言って、幼い顔を顰めるのである。


「あの、まず第一に財宝ですけど、それって誰の物なんですか?」

「ふむ……元はと言えば国民の物じゃが、納められたからには国の物。

 つまり、わらわ達王族の物と言っても問題なかろうな」


 それにはレイラはそう答え、右手のスラッシュが小さく頷いた。

 そういうものなのか、と、第一には納得。


「じゃあ第二に、その財宝を俺にどうしろって言うんですか?」


 これにはレイラは「決まっておろう」と言い、


「取ってくるのじゃ。寝かせておいても勿体ないだけじゃ」


 と、若干冷めた目で言葉を続けた。所謂ジト目だがどこか心地いい。

 もしかしたら俺はMなのかもしれない。


「ミルク風味ハルルお待たせしましたー」


 そこへ、注文の品が届けられ、レイラの冷めた目に輝きが戻る。

 直後には「任せた」とスラッシュに言い、スプーンを右手にそれを食べ出した。


「うむ。美味。実に美味だ」

「良いなぁー……」

「(やっぱり俺の味覚がおかしいだけなのか……?)」


 レイラとユートの言葉を聞いて、言葉には出さずにそう思う。

 或いは食べ方に問題があるのか。そんな事すら考えてしまう。


「要するに王女は、君の作る学校に通って見たいと思われているのだ。

 その為の資金……形としては財宝だが、その場所を君に教える代わりに、財宝の内のごく一部と、学校に通える権利と言うのかな……?

 そういうものを貰いたいと、考えておられる訳なのだ」


 考えていると、スラッシュが言ったので、そちらの方には「なるほど……」と言い、ハルルに夢中のレイラを見つめた。

 年齢としては六才位だから、入るとしたら小学校か。

 だとしたら小中高を含めた、一貫した学校を作るのが良いのかもしれない。


「どうだろう? 王女の願いを叶えてくれるかな?」

「え、ええ。それはまぁ……でも、一人で大丈夫ですかね?

 財宝なんかがある所って、罠とか、謎解きとかがありそうなイメージなんですけど……」


 カウボーイスタイルの映画がそれだ。俺が見たのは悪霊が出て来る奴だが、その他にもつり天井が下がってきたり、肉食の虫が出てきたりと散々だった。

 それを資料に質問すると、スラッシュは「大丈夫さ」とまずは言った。


「君一人では行かせない。案内役に私がついて行く。現状、あそこは敵地だからね。地理に詳しい人間が居ないと」


 それから続け、そう言ったので、「そ、そうですか」と言葉を返しておいた。

 論点が少しずれている気がするが、俺の伝達力が足りなかったのだろう。


「それじゃ決まりだな。出発は明日。昼頃に館を訪ねるよ。

 準備なんかはそれまでに済ませて置いてくれるかな?」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 そう言うと、スラッシュは「ああ」と頷き、「すみません!」と唐突に店員を呼んだ。


「何でも良いんだが酒はあるかな?」


 そして、メニューも開かずに聞き、店員に「いえ……」と、困惑されるのだ。


「あ、ああ、そう……それは失礼。そうか、酒は置いてないのか……

 いや、良いんだ。気にはしないで」


 そこでは紳士的に振る舞ったスラッシュだが、俺は何となくその光景に嫌な予感を覚えたのである。


 それが現実の物になるのは、それから三日が経った後の事。


 旧、ユーミルズ王国に侵入し、財宝の洞窟を見つけた後の、とある試練の最中の事だった。



嫌な予感程良く当たるもの…

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