異世界で始める学園生活
それから二日後が審判の日だった。
懺悔室では無く、花畑の中に居て、俺は茫然とその場に立っていた。
時刻は夜か、もしくは未明。空には星が瞬いている。
「やぁ、元気かいヒジリ君?」
背後からの声に振り向くと、一人の男性がそこに居た。
髪は白で、服も白。
瞳は水色で、黒メガネをつけている。
見た目の年齢は二十五~六才。
身長としては俺と同様、百七十㎝位の男性だった。
体の淵にオーラと言うのか、白い気のようなものを湛えており、右手に持ったジョウロの水を草花にかけて回っていた。
男性の背後には教会が見え、入口の扉は開け放たれている。
「ああ、外で会うのは初めてだったね」
と、男性が微笑んだ事により、声も合わせてこの人がPさんである事に俺は気付いた。
マッドサイエンティスト。何となくだが、そんな雰囲気を薄ら感じる。
もしくは病院の患者だろうか。兎に角アウトドアでは無いような感じだ。
「は、初めまして……で、良いんですかね……? 今日はどうして外なんですか?」
あくまで個人的なイメージであるので、それを言わずに別の事を言う。
Pさんは「あはは」と笑った後に、「気分だね」と、笑顔で続けた。
「それにいつまでも顔を見せないのも、君に対して失礼だからね。
前にも言ったけど僕は君に結構な好意を抱いているんだよ」
そこには少々の照れを感じ、「はぁ……」と短く言葉を返す。
最近BL物にハマり出したユートが居たら危なかった所だ。
「ま、立ち話もなんだから」
水やりを終えたPさんが歩く。目的地は不明だが後ろに続く。
やがて、教会の裏手に辿り着き、そこに置かれていたテーブルを見つけた。
テーブルの材質は茶色の木のようで、二脚の椅子が対面に置かれている。
「さ、どうぞ」
と、着席を勧めてPさんが座ったので、その正面に俺も座った。
庭は左手。正面はPさん。そして頭上には花棚がある。
「何の花ですか?」
「さぁね」
聞かれたPさんが和やかに笑う。
どうやら知らずに育てているようで、そこがおかしくて俺も釣られる。
「じゃ、そろそろ本題に入ろうか」
そう言ってメニューを出してきたので、俺も表情を元に戻した。
「言うまでも無く合格だ。闘技大会がアツかったね。
ポイントは三十一Pになったから、先月と併せて三十五Pだね」
「結構ありますね……」
「努力の結果だよ。見ている人は見ているのさ」
見ていると言ってもPさんだけでは?
それとも他に誰かいるのか。
そこには小さな疑問があったが、小さく笑ってメニューを開いた。
変わったものは言語と特能で、以下のように変化していた。
言語四 その他の人間語 十P
特能三 次元セキュア 九P
「次元セキュア!」
ついに来た、と思った為に、思わず声にしてしまう。
「便利だよね」
と、Pさんが言い、「らしいですね」と、俺が答えた。
魔法二 治癒魔法(治癒力の促進。自己に限る) 五P
真実三 生き延びた果て 九P
前回からの引継ぎは以上。しかし取る物は決まっている。
「じゃあとりあえず特能三で」
「分かった」
便利な事この上無いだろう、次元セキュアが最優先である。
Pさんに言って、それを取得し、残りのPの使い道を考える。
「この、魔法二なんですけど、具体的にはどういうものなんですか?」
魔法二、即ち治癒魔法の部分に興味を持ってPさんに聞く。
普通に考えれば傷なんかが癒えるんだろうが、対象も効果も不明だからだ。
「治癒力の促進。そのままの意味さ。
回復がもっと早くなる訳だね。ヒジリ君はあまり魔法を使わないけど、これ位は覚えておいた方が良いかもしれないよ」
言われるまでは忘れていたが、確かに俺には魔法もあった。
それなのに直接攻撃に偏っているのは、おそらく性格のせいなのだろう。
でも、Pさんの言う通り、これ位は覚えておいた方が良さそうだ。
物理を鍛えて殴るだけなら、元の世界とほぼ同じである。
「じゃあ魔法二もお願いします。これで残りは二十一Pですよね?」
「そうだね。じっくりと悩むと良いさ」
と言っても真実と言語しか無く、どうするべきかじっくり悩む。
「ひとつ、聞いて良いかな?」
不意に、Pさんに質問されて、間抜けな顔で「へ?」と返した。
「ナエミちゃんに会えた時、ヒジリ君はどう感じた? やっぱり嬉しい? それとも怒った?」
「あー……そうですね…普通に嬉しかった…と思いますけど」
そのはずである。その他は何だろう。自分で勝手に誤解していた為か、或いは少しだけ気まずかったかもしれない。
「そこに怒りは感じなかった? だってヒジリ君は殺されたんだよ?」
「なんか理由を覚えて無いらしいし、また会えたんだしでその辺は別に。
流石に殺されるとは思ってませんでしたけど、あいつは昔からとんでもない事する奴でしたから」
素直に言うと、Pさんは「へぇ……」と言って静かになった。
とりあえずは納得をしてくれたらしい。
「あ、逆に良いですか?」
と、質問すると「良いよ」と小さく返してくれる。
以前に聞こうと思った事を質問したのはその後だった。
一つ目は同じマジェスティである、ダナヒにユートが見えない理由。
これにはPさんは思った通り、「真実を進めて行けば分かるかもね」と言い、おそらくそうなると思っていた為、俺も「そうですか」と納得をした。
二つ目は貰った島の中に、大学、もしくは学校のようなものを作っても良いかと言う事で、これにはPさんは「面白そうだね。大丈夫だと思うよ」とお墨付きをくれた。
「(よし! じゃあやってみるか!)」
と、決意をしたのはこの時の事で、異世界でのまさかの学園生活に、俺は心を躍らせるのだ。
「どうする? 残りは取って置く? 使い切る必要は確かに無いしね?」
「そうですね……今回は取っておきます。来月の評価が低いかもしれないし」
何となくだが魅力を感じない。何があるかは分からないので、来月の為にポイントを取って置く。
Pさんは答えを聞いた後に「あはは」と笑って右手を伸ばした。
メニューを渡すとそれを受け取り、「僕はね」と、唐突に言葉を発す。
「多分、人間が好きだ。だけど、どうして好きなのか。だから、どうしたいのかが自分でも分からない。
でも、君と触れ合っていると、何だか答えが出そうな気がする。
これからも君らしく頑張ってね、ヒジリ君」
それからそう言い、「ニコリ」と笑うと、俺の目の前から姿を消した。
やっぱりこの人は神様か何かなのか。
そう思った俺の周囲は、いつもの闇に変化していた。
「はぁん? 学校なぁ? 良いんじゃねーの? 長い目で見りゃぁ国の為にもなるしな」
その日の朝にはダナヒに話し、学校建設の許可を貰った。
「早速、下見に行って見ますか? と言っても、本当に何も無い島ですが」
と、デオスが横から聞いて来たので、それを受けて下見にも行って見た。
「えーと……探検でもするんだったっけ……?」
時刻は昼。森の手前。
連れて来たのはユートとナエミで、上陸後の一言はユートが出したもの。
「あまり奥には行かねぇで下せえよ。何が居るか分かりやせんから」
とは、俺達を島まで連れて来てくれた海賊の男が言ったものだった。
目の前に広がるは深い密林。
遠くに大きな山が見えるが、そこと僅かの浜辺を除けば、島の殆どは森である。
「(学校どころかジャガイモ畑も無理だろ……)」
俺の第一感想はそれ。今にも原人が飛び出してきそうだ。
「あ、でも、ここじゃない場所に、人が住めそうな所があるかも? ちょっとだけ奥に行って見ようよ?」
しかし、ナエミがそう言ったので、仕方が無しに森へと踏み入った。
「自然は豊かだね! 川もあるよー!」
踏み入るなりに見えたものは、左手に流れる綺麗な小川。
そこには魚も泳いでおり、ユートが嬉しそうにその上を飛ぶ。
ブラックバスでも居たらアウト。ユートは即座に奴の胃の中だ。
だが、基本、俺以外には見えないので、余計な心配はしないで置いた。
「とりあえず真水は確保、だな」
「水があるって事は動物も居るのかな?」
「まぁ、これだけ広い島だし、何かは居ると思うけどね」
それを見ながらナエミと話し、聞かれた事への答えを返す。
聞いたナエミは「だよね」と言って、「とんでも無いのが居なければ良いけど」と、ゾッとするような言葉を続けた。
ナエミはそのまま歩き出し、小川に沿って上流に行く。
俺も遅れて後ろに続き、ユートも川の上を飛び、並行して上流に向かい出した。
「(そうだな……何かが居ないとも限らないな……)」
ちなみに今は丸腰で、武器になるものは持っては居ない。
こんな島だと分かって居れば、持って来たのだが仕方のない事だ。
「(てことは、あまり深入りしない方が良いか?)」
安全の為にもそう考えていると、ユートが左で「あっ!!」と叫んだ。
「どうした?!」
何かが居たのか? 焦って見ると小川の向こうの老人を見ている。
見た目の年齢は七十程の、背筋が「ぴしり」とした背の高い老人で、緑のローブをその身に纏い、小高い丘の上からあちらも見ていた。
白髪に白髭、例えるのなら、仙人のような雰囲気の人物だ。
「ていうか無人島じゃなかったのか……」
そう言いながら川辺に近付き、「すみません!」と声をかけてみた。
「……」
が、老人が言葉を返さないので、もう一度大きな声で呼ぶ。
「……何かな?」
ようやく老人が言葉を返し、安心した俺が小さく笑った。
言葉は通じる。という事は、習得の範囲内での住民なのだろう。
「あ、あの、こ、こんにちは!」
その後に続く言葉が出ない。そう言えば何も考えて無かった。
とりあえずの形で挨拶をすると、された老人は「ふむ……」と言い、自身の顎髭を右手で擦る。
「この島に何をしに来たのかね?」
と、その後に逆に質問をされ、聞かれた俺が理由を話した。
「ほう……ガッコウ? 察するに学び舎か……それ自体は奨励出来る事だが……」
老人が言って考え込んだ。
「(もしかしてこの島の持ち主なんじゃない? ダナヒさん達が知らないだけで、実はちゃんと持ち主が居たとか)」
その隙にナエミが耳打ちして来たので、或いはと思って老人に聞いてみた。
即ち、「もしかしてこの島はあなたのものなんですか?」という質問だ。
老人はそれには「うむ……」と一言。
「それは違うな。我もまた、この島に勝手に住みついておる者に過ぎん。
故にお主らがしようとしている事に、口出しをする権利は持たぬ。
だが、ひとつだけ頼めるのなら、川のこちら側には来んようにしてほしい。
賑やかな事は苦手なのでな。頼めるのなら、という事で、覚えて置いてくれるとありがたい」
それから言って、背を向けたので、「あ、はい……」と、小さく言葉を返す。
自ら隠遁しているのだろうか。あまり人とは関わり合いたくないらしい。
「島の東は割と平坦だ。何かを建てる事もそこならば出来よう。
それではさらばだ。達者でな」
老人は最後にそう言って、丘の向こうに姿を消した。
変わった人だが悪い人では無いようだ。とか言ってて島の東側が毒の沼地だったら笑うしかないが。
「何か変なおじいさんだったね……?」
「ああ、でも、不思議に怖くは無いな。なんていうか、逆に安心するような気分?」
「分かる分かる。神社の神主さん的なね?」
「ああ、それか。分かる気がするなぁ」
ナエミと共に話していると、「何々?」と言ってユートが飛んで来た。
「カンヌシって何?」
と、ちゃっかり聞いて居て、質問してきたので説明してやる。
「ピシェトさんみたいなもんか」
と、納得したので、「それはちょっと違うかな……」と、一応突っ込んでやっておいた。
その後に島の東に向かい、老人が教えてくれたように、割と平坦な大地に辿り着く。
俺達はそこを調べて歩き、背後に山、右手に浜辺と言う、何となく良い風景を発見するのだ。
「良いなぁここ。なんとなくだけど、学校のビジョンが見えるって言うか」
「あの辺が校舎で手前が噴水、で、そこが門って感じ?」
「おぉ~、良いねぇ。流石ナエミ。創作家」
話し合った結果、そこに決定し、場所を覚えて船へと戻る。
本当にこれからの事ではあるが、この世界で生きて行く事が少しずつ楽しみになって来た瞬間だった。
満潮時にはまさかの海の中。




