ヒジリの島
彼らが子供を攫った理由は、王女の遊び相手を作る為だった。
王女、レイラは立場上、外に出る事があまり出来ず、退屈そうにしている所をスラッシュ達は度々見ていた。
そんな折に賊を退治し、例の集落で歓待を受け、そこで絡んできた子供達にレイラが笑顔を見せていた事から、遊び相手になると考えて、こじつけで彼らを攫ったのだそうだ。
「こちらから訪ねると言う手段もあったが、安全の為には仕方が無かった。
子供達の親にはすまない事をした」
全てを話したスラッシュは、そう言って深く頭を項垂れた。
根っからの悪人では無かったようなので、俺は彼らを誘う為に、例の話をレイラにしてみた。
つまり、新国家の建設に協力してくれるなら、住む場所と、食べ物等を保障すると言う話をである。
「うむ。良く分からんがそなたを信じよう。海王とやらにはよしなにな」
レイラが言って頭を下げたので、俺も慌てて頭を下げる。
そして、レイラが頭を上げた事を見て、俺もゆっくりと頭を上げた。
「(うわぁ……)」
引いた理由はレイラの背後。数十人の兵士が頭を下げている。
「王女を頼みます」「期待を裏切らないで下さいよ」
そう無言で言われているようで、責任の重さを今更に感じる。
ダナヒの許可を得てからの方が良かったか、とも思うが、それは後の祭りであった。
「そなたの名前は?」
レイラが聞いて来た。それを機会に兵士達が一斉に頭を上げる。
無言の重圧から解放されたようで、俺はとりあえず息を吐いた。
「……あ、カタギリ・ヒジリです。よろしくお願いします王女様」
「カタギリ? 何やら変わった名じゃな。わらわの事はレイラと呼ぶと良いぞ」
「あ、はぁ……」
それから名乗り、レイラに言われる。
フレンドリーな王女様だが、流石にいきなりの呼び捨てはマズイ。
もしもその通りに呼ぼうものなら、本人は兎も角彼女を主とする周りが良い顔をしないであろう。
そう考えて俺は王女、もしくはレイラ王女と呼ぶ事にしたが。
「では行くか。カタギリよ」
レイラはそっちで呼び捨てにする気らしい。
年下からの「ヒジリ」はキツイが、苗字と言うのもかなりキツイ。
幼稚園児に「カタギリー! カタギリー!」と、なぜか馬鹿にされた事があったが、何でかそれに近いものを感じる。
まぁ、それは道場を知っていて、変わり者の爺ちゃんを知っていたせいだろうから、レイラのそれは好意的に受け取る事にして、彼らのアジトの片づけを待っていた。
時間にするなら一時間弱。アジトの片づけが早々に終わる。
それから俺達はアジトを出発し、ナエミを拾って島へと戻った。
到着したのは翌日の朝頃で、俺は一人で館に出向いた。
「……という訳で連れて来ました。
協力の見返りに求める事は、ユーミルズ王国の再興だそうです。
それが無理ならレイラ王女を生涯国賓として遇する事。
その両方を受け入れてくれるなら、騎士団長以下、二十六人は新国家の樹立に協力するそうです」
そして、ダナヒに成り行きを報告をすると、「なるほどなぁ……」と、まずは言い、頭を「ポリポリ」と掻かれるのである。
場所は客室。ダナヒの居る位置は俺の正面のソファーの上だ。
副官のデオスは左手に居て、デスクで書類に目を通していた。
「何か……マズかったですかね……?」
あまり喜ばしい反応では無いので、もしやと思って聞いてみる。
ダナヒは「あー……いや」と言いはしたが、やはりはどこか微妙そうだ。
「ハッキリ言うと大物過ぎるのです」
これは左手のデオスからの声。
「ど、どういう事ですか?」
と、質問すると、デオスは答えを教えてくれた。
「ユーミルズ王国は滅ぼされました。
その国の王女が居るという事は、反ヨゼル王国の旗印を手に入れた事と同様なのです。
大義名分と言うのですかね。こちらにはヨゼル王国に攻め入る理由が出来た訳で、あちらにしてみれば放置出来ない目の上のタンコブが出来たも同然。
最終的には望む所でしたが、一気に王女は大物過ぎました」
説明されるとなるほどと分かる。確かにヨゼル王国からして見れば、これは見逃せない事なのかもしれない。
だが、今更「帰って下さい」では、あまりに非道というもので、ダナヒ自身もそれが分かるので、微妙な反応を見せたのだろう。
「ま、連れてきちまったもんは仕方ねぇ。王女を連れて来るなとは言って無かったからな。オメェのせいじゃねぇ、気にするな」
ダナヒが言って「ニヤリ」と笑う。
それには「すみません……」と、一応謝罪し、レイラ達をどうするのか質問してみた。
まさか「ヨゼル王国にプレゼントしちゃう♡」なんて事は言わないだろうが、彼女達の成り行きには責任がある。
「国賓として遇するさ。島をひとつやろうと思ってる。
オメェが前に言ったように、地方ごとの特色って奴か? アレを先行してやって貰うのも、おもしれーかなと思ってな」
「そうですか……いや、良かったです」
「ついでなんだがオメェにもやるよ」
流石はダナヒ。器がデカイ。
とりあえずの形で「そうですか」と言い、直後に気付いて「ハァ?!」と言う。
レイラ達への処置に感心し、その後の事を良く聞いて無かったのだ。
「いや、だから、オメェにも島をひとつやるってんだよ。
広報大臣に領地がねーってのは、国としてはおかしいだろうが?」
「いや、それはおかしいかもですけど……」
十七の子供に島をやるという、その考えもかなりおかしい。
子供同士の取り決めで「ここ俺の島なー!」「じゃあここは俺のー!」と言う、ノリでは無くて真剣な話だ。
「半径何キロつってたっけ?」
「十三、五キロですね。約」
「そうそう、約十三、五キロ。諸島の中で二番目にデケェ島だ。
こいつをオメェにくれてやる。今はなぁ~んにもねぇ島だが、オメェの好きなように使ってくれや」
デオスに聞いて広さを知って、それを伝えてダナヒが笑う。
「やったねヒジリ! ジャガイモ植えよ!」
と、なぜかジャガイモ推しをしてくるユートにも、ダナヒに対しても「いや……」と言い、突然の事に俺は戸惑い、その後の言葉が続けられないで居た。
どうすんのそんなの……と思うが故に。
「で、どうしたの? 断っちゃったの?」
その日の夕方。
街の軽食店で、俺はナエミに成り行きを話し、それを聞いたナエミが言って、ケーキらしきものを口へと運ぶ。
料理の名前は「イチゴ風味ハルル」で、「ハルル」が何かは分からないものの、デザートとしてお勧めしていた為に、二人で注文したものだった。
「いや……一応貰う事にはしたけど、好きにしろって言われても、何をして良いのかが分かんなくてさ」
答えながらにそれを切り、答えた後に口に入れる。
「んげぇ……」
自然に出て来た言葉はそれで、例えるなら冷蔵庫に入れすぎた豆腐に、砂糖と苺ソースをかけたような、極めて微妙な味わいだった。
「あーそうなんだー……じゃあ何か育ててみたら? ジャガイモとか」
一方のナエミは普通の顔で、淡々とハルルを食べ続けており、ユートと同じ事を言ってきたので、二つの意味で「マジかよ」と返した。
「食べないなら貰っちゃうよ? 良い?」
これはユートで、「やめておいた方がいいと思うぞ……」と、一応言って皿を動かす。
聞いたユートは「わーい!」と言って、スプーンを抱えてハルルを食べ出した。
「うん! おいしい! イケルイケル!」
「(もしかして俺の味覚が変なの!?)」
まさかの反応にそう思い、怪訝な顔でユートを眺める。
ユートもナエミも美味しそう。女性にしか分からない味なのだろうか。
「それか何か建てちゃうとか?」
そこへナエミが言ってきたので、「建てる……?」と、顔を突き出して聞いた。
「うん。例えばそうだな、武器屋とか? なんだったら私が店番やるよ?」
「いやいや、売る物が何も無いでしょ」
「だから、例えばって言ってるじゃん。でも、どうせ建てるなら、この辺に無いものを建てると良いんじゃない?」
その言葉には「うーん……」と答え、少し真剣に考えてみた。
この辺に無いもの。
具体的には一体何が無いのだろうかと。
それは元の世界のような、近代的な建物はあるはずは無い。
だが、生活をしていく上でなら、必要なものはそれなりにある。
市場に酒場、それに雑貨屋。
俺達にとっては武器屋も重要で、それらはこの島にきっちりと存在し、人々の生活を支えている。
ナエミが言ったナエミーランド(仮)も、ダナヒとデオスが進めているし、そこに横入りしてヒジリーランドを作るつもりも沸いては来ない。
「(やっぱりすぐには思いつかないな……ていうか別に、ジャガイモでも良いか……)」
考えた結果、何も浮かばず、諦めた俺がそう思う。
島中に広がるジャガイモ畑。ダナヒは間違いなく「地味だな……」と言うだろう。
「アレ作れば良いじゃん」
不意に言ってきたのは、ハルルを食べ終えたユートであった。
「アレって?」
聞くと、ユートが「何だっけ……」と言うので、それにはすぐに「オイオイ」と突っ込む。
だが、すぐに思い出した様子で「アレだよ!」と再び言ってきた。
「ほら、ダイガク? ダイガクシボー?
ヒジリそこに行きたいって言ってたよね? アレってガッコーなんでしょ? カレルさんに教えてもらったよ!」
「ああ……そうなんだ……」
確かに大学はこの辺に無い。
と言うか、こちらの世界に来て以来、そういうものは目にしていない。
学校自体が無いのかもしれず、それなら余計にアリだと思うが、その反面で、「元居た世界の文化を持ち込むな」と言う、ルールに反して居ないかと思う、俺の反応はあまり冴えない。
「あれ? なんだかビミョーな反応? 却下です? ボクの案却下です?」
「いや、却下じゃないんだけどさ。強いて言うなら保留かな? そもそもあるのかが疑問だしね」
「意味不明ー!」
ユートに言って、保留にし、ナエミに「何?」と質問される。
それにも一応説明すると、ナエミは「良いんじゃない? 楽しそう」と、ユートの案に乗り気であった。
「(これもPさんに聞いてみるか……勝手にやってサヨウナラじゃ、正直たまったものじゃないし……)」
そう思った俺は「考えとくよ」と言い、学校の件を保留にしておいた。
「(でも、学園生活がまた送れるなら、それはそれで楽しいかもな。異世界転生で学園モノと来れば、なんだかありふれた感じもするけど)」
続けて思ってほくそ笑み、テーブルの上にあるレシートを手に取った。
ハルル二つで千百ギーツ。
正直、それを美味しいと思わない俺には、ボッタクリなレベルの値段な気がした。
デザート類は総じて高い。
でもパフェとかってうまいですよねー…




