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突撃のヘールくん

「別に何もありませんな……あなた方の誤解でしょう」


 家を訪ねてナエミが聞くと、集落の長は素っ気なくそう言った。

 見た目の年齢は七十くらい。枯れ木のような老人である。

 何か困った事はありませんか? と、聞いた直後の答えがそれで、


「話がそれだけなら、お引き取りを」


 続けて言って「ずい」と立ち上がり、俺達の目を見ずにそのまま歩き出す。


「あ、待って下さい」


 そして、ナエミが止めるのも聞かず、応接間から長は出て行った。

 パタリ、と、ドアが閉められたのは、質問から僅かの十秒後の事。

 誤魔化すにしてもやり方があるだろうに、それでは却って怪しく映る。


 友達が家に来てエロ本を探し出して「枕の下だろ?」と聞いて来たとする。

 それを無視してそこに寝転がり、口笛を吹いてチャンネルを変える位怪しいと言えば分かり易いか。


「何か怪しいね……」


 ともあれ、ナエミもそう思ったか、ドアを見ながら同意を求める。

 誰が来るかは分からないので、俺は無言でそれに頷き、頷いた直後に現れた女性に驚いたが為に体を震わせた。

 年齢としては三十中盤。飲み物を乗せたトレーを持って居る。

 部屋に入って「あら?」と疑問し、その後に「お父さんは?」とすぐに発した。

 どうやら長の娘さんのようだ。


「あ、どこか行っちゃいました……」


 答えたのはナエミ。俺は見ている。


「あー……そうなんですか……すみません」


 と、聞いた女性は謝罪して、テーブルの上に飲み物を並べた。

 テーブルは四角で、入口から見て左に俺が座っており、その正面にナエミが座り、先程までは左の上座に、長が座って話を聞いて居た。

 だが、現在は誰も居らず、対角線には女性が立っている。


「お父さん何か言ってました?」


 と、困った顔で聞いて来たので、言われた事をナエミが話した。


「やっぱり我慢するつもりなのね……」


 女性はそう言った。意味は分からないが。

 若干、怒気が篭っているので俺達はそれを疑問に思う。

 流れから推測するのであれば、父親に対して怒っているのか。


「……あの、良かったら教えてくれませんか? 一体何を我慢するんですか?」


 それを聞いたナエミが言うと、女性は無言でしばらく考えた。


「……どうにもならない事だけど、気晴らしの為にも聞いてくれますか?」


 それから少ししてから言って、俺とナエミが頷いた事を見てから、集落の現状を話し出したのだ。


「この地域には昔から、国と言う物が存在しません。

 だからここに住んでいる者達は、自分の身は自分で守って来ました。

 それが出来ない者達は物とお金で折り合いをつける。

 私達の集落は後者の方で、この一帯を支配している、ならず者達に金品を支払って日々の生活を守って来ました」


 そこまでを言った女性が息を吐き、俺とナエミが顔を見合わせる。

「そうなんですか」と言うのは軽いし、「それは大変ですね」と言うのも他人事。

 つまり、何と言って良いかが分からない故の、一つの逃避行動だと言えた。

 悩む俺達に反してユートは「えらいこっちゃ……」と言ったきりで続きを待っており、聞こえないのはこういう時は良いな、と、俺は素直にそれを羨んだ。

 

「ですが、つい、ふたつき程前に、ならず者達のアジトが襲われたのです。

 襲った者はどこかの国で騎士や兵士をしていた者でした。

 彼らはアジトを強奪し、私達は喜びから彼らを迎えました。

 それが、間違いの始まりだったのです。

 彼らは国を復興する為に、物資と人が必要だと言いました。

 そして、集落の子供達を攫い、育ててやると言ってきたのです。

 それが本当かどうかはともかく、これでは人質を取られていると同然……

 私達は彼らを養う為に、男も女も関係無く、必死で働かざるを得なくなったのです……」

「そんな……酷い……」


 第一声はナエミの物で、言葉には出さないが俺もそう思う。

 子供を攫って居なかった分だけ、前の賊の方がいくらかマシだ。


「おかしいでしょそんなのー!」


 ユートが怒る。俺も同感だ。「その通りだ!」と声に出したい。

 だが、今の俺はヘールくんで、それを貫くと誓ったばかり。

 声を出す訳には行かなかったので、テーブルを叩いてその場に立った。


「!?」


 そして、皆の前で決め技を見せ、「やる気なの!?」と言うナエミの声に、大きく頷いて見せるのである。

 

「ダメダメダメダメ! どうしたのヒジリ! この人何も悪い事言って無いでしょ! なんでやる気!? なんで侮辱!?」

「(いや、その人に対してじゃなく……)」


 ユートの誤解には首を振り、ナエミには「大丈夫」と親指を立てる。

 マジェスティの力はこういう事にこそ使うべきだと俺は思うし、ダナヒがこの場に居たとしたら、絶対に黙って見過ごさないだろう。


「う、うん……分かった」


 そんな気持ちが伝わったのか、ナエミが頷き、アジトの場所を聞いてくれる。

 俺とユートはその場に向かう為に、すぐにも足を動かすのである。


「ちょ、ちょっと待ってヒジリ! わたしも行くよ!」


 追い付いて来たナエミが言うが、それには俺は首を振った。

 おそらく一人でイケるだろうし、ついて来て貰うと危ないからだ。

 一人なら全く負ける気はしないが、ナエミを守りながらだと話は別になる。


「そう……だよね……分かった。じゃあここで待ってるから」


 ナエミもそれを分かってくれて、何も言わなくても引き下がってくれた。

 以心伝心……とまでは行かないが、幼馴染の利点は無駄なやりとりを少しは省ける事なのだろう。


「あ、っていうか、そのままで行くの? ここで無理ならどこかで脱いで、身軽になった方が良いと思うよ?」


 その忠告には素直に頷く。流石にこれでは戦えないので、集落を出た後に着替えようと思う。

 最後にナエミにもう一度頷き、俺とユートは長の家を後にした。


「いやーでも、そっちの方がオイシイよね? すっごい宣伝になると思うよ」

「そ、そうか?」


 集落を出るなりユートが言って、聞いた俺が聞き返す。


「なるなるー! ヘールくんエーユーになっちゃうよ!

 昼間みたいな冷ややかな目で見られる事はもう無くなるよ!」

「そうかぁ? じゃあこのままで行っちゃうかぁ!?」

「いったれいったれー!!!」


 ノせられ易い性格なのか。それとも暑さで頭がやられたか。

 俺はユートの言葉にノせられ、着ぐるみを脱がない決意を固めた。

 そして、ヘンなテンションのままでアジトを見つけ、そのまま突入を開始したのだ。


「なんだこいつ!!?」


 と、驚く奴らに、ダナヒ直伝の決め技を見せた時、「あ……これはちょっとアガるわ……」と、ヘンな扉をまた開いた事を俺は強烈に自覚するのである。




「こ、こんな奴に……!」

「ありえねぇ……」


 見張りの四人をあっさりと片付け、俺達はアジトの中へと踏み入った。

 山の麓に穿たれた洞窟は、例えるなら鍾乳洞のようなもので、ならず者達が改装したのか、はたまた後にやって来た、彼らが改装したのかは知らないが、あちこちにベッドや棚が置かれた生活臭溢れるアジトとなっていた。


 中は当然薄暗かったが、暗視を持つ俺には問題は無く、気配探知の特能のお蔭で、不意打ちにも事前に対応出来た。

 中に入って数分が経ち、五人程を倒して広い場所に着く。

 そこは明るく、布が敷かれた、広間のような空間で、テーブルについてトランプをしていた二人を見つけて近付くのである。


「うぉぉ!?」

「ぎゃああ!?」


 おそらく光沢のせいなのだろう、不気味なヘールくんにまずは恐怖し、それから二人は武器を抜き、掛け声と共に斬りかかって来た。


「つ、つぇえ!?」


 が、すぐにも剣を弾かれて、二人は揃って奥へと逃亡。

 二つ見えている穴道の左の方へと走って行った。


「(まぁ相当不気味だな……)」


 ある事を思い出し、心の中で言う。

 それは高一の夏の事で、その時の俺は友達の家から帰っていた。

 時刻は確か二十二時頃か。ゴミ捨て場の前に何かがあったのだ。

 ふと見ると世界的に有名なハンバーガーチェーン店の人形が立っており、笑顔で右手を上げていたので、俺はしばらく動けなかったのだ。

 もし、チェンソーでも持って居たら、俺はおそらく漏らしていただろう。

 あの不気味さと恐怖感は今でもトラウマレベルのもので、多分、それと似ていただろう、先程の兵士の気持ちは分かった。


「(何で思い出した……)」


 少し後悔し、暗闇にビビリつつ左右を伺う。


「……俺は左に行く。右の方を見てきてくれるか?」

「あいよぉ! お任せ!」


 それからユートに頼んだ後に、左を選んで更に進んだ。

 頼まれたユートは右へと向かい、警戒もせずに飛んで行ったようだ。

 まぁ、見えないので問題ないだろう。そう思って進むと階段を見つけ、降りた先では湖を見つけた。

 それは左手に広がって居て、右と正面には空間がある。


 百mばかり離れた正面には上へと上がる階段があり、右には椅子やテーブルが見え、料理が乗った皿等もテーブルの上に置かれてあった。


「……」


 そこには一人の人物が座り、背中を向けてワイン(らしきもの)を飲んでいた。

 おそらくこちらにも気付いているのだが、動くのがどうにも億劫そうだ。


「あいつです!」

「なんだぁ!? テメェはぁ!?」


 正面の階段から人が現れ、剣を抜きながら近付いてくる。

 その数はざっと見で十人前後。


「(やれるか……?)」


 と、思いつつ腰を落とすと、


「居たよ居た!! 子供居た!!!」


 と、背後から突然ユートが現れた。


「よ、よし、ご苦労さん。戦いになるから離れてて」


 心臓に悪い。ド〇ルドがまた出て来る。

 危うく「わぁ!?」と言いかけたが、それを飲み込んでユートに伝えた。


「あーい! 頑張れー!」


 聞いたユートはそう言って、湖の方へと飛んで行った。


「はああっ!!」

「(おっと!!?)」


 すぐにも一人が切りかかって来たが、それをかわして小手を入れる。

 相手は武器を落とした上で、右手を押さえて一歩を下がった。


「こ、こいつつええぞ!?」

「だから言ったじゃないっすか!」


 武器を弾かれた男が言って、先に逃げていた男が言った。


「っ?!」


 直後に奴らは合図も無しに、一斉に攻撃を仕掛けて来た。

 反撃の隙の無い連続した攻撃だ。

 しかし、かわしきれない事も無く、俺は冷静に対処をして行く。



「なんと……! 我等の連携がこうも容易く……!!?」


 全ての攻撃をかわし切ると、相手の誰かがそう言った。

 だが、流石の連携である。こちらにも反撃の余裕は無かった。

 流石は元は国に仕えていた騎士や兵士という事なのだろう。


「……お前達は下がれ。私が相手をする」


 男達の向こう、置かれたテーブルの近くから誰かの声が不意に聞こえた。


「はっ、し、しかし……」


 男達がそちらを向いた事で、そこに居た人物が立った事が分かる。


 髪の色は赤色で、長さは腰に届くほど。

 身長は俺より少し高く、百七十五㎝位だと思われる。

 身に纏う物は茶色の鎧で、これはおそらく皮の鎧。

 こちらに向いた事で分かった事は、その目が緑という事と、年齢が二十五前後という事。


 そして最後にかなりの美形。

 同じ男として羨ましい限りだが、この人物は女性と見紛う程の、美形と言っても問題無かった。

 男はゆっくりと剣を抜き、ふらふらとした足取りで近付いてくる。


「だ、団長……」


 等と言われている事から、元の役職も伺い知れる。


「……勝負だ。どこぞのマスコット君よ」


 呂律の回らない口調でそう言い、男が直後に斬りかかって来た。

 素早い動きに重い一撃。


「(強いな! この人は!?)」


 と、気付いた時には、俺は防戦の一手になっていた。

 武器が槍で、着ぐるみで無ければ、おそらくそこまで押されなかったが、現実、今がそうである以上、言い訳をしても仕方ない。


「ちょっとヒジリ! ヤバくない?! 着ぐるみとか着てふざけてるからー!!」


 猛プッシュをしたの誰だったのか。ノった俺にも責任はあるが。

 突っ込みたくなるようなユートの言葉だが、文句を言う訳には行かなかった。


「やるなマスコット君! だが、これはどうだッ!!」


 男が言って、一瞬屈む。

 着ぐるみの中からはそこが見えず、やむを得ず俺は後退をした。


「ウォエエエ!! ウォォプ!!」

「……」


 映ったものは男の頭。


 見えなかった所で四つん這いになり、地面に「ピシャピシャ」と嘔吐をしており、二人の男に背中を擦られ、肩で「ゼェゼェ」と息をしていた。

 とりあえずの形で剣を向けると、「参った……」と、地面を見たままで宣言。

 もしかしたらそれは降伏では無く、現状に対してのものかもしれず、それを聞いてもしばらくは、俺は剣を下げなかった。


「参ったよ……完敗だ……現実逃避で酒を飲み過ぎた……」

「(最後のは俺には関係ないな……)」


 そうは思うが降伏されたので、向けていた剣をようやく下ろす。

 何だか微妙な幕切れだったが、正直、少し助かった気もしていた。


「で、君は一体何なんだ……? 私達を皆殺しにする為に来たのか……?」


 顔を上げて質問されたので、事情を話す為に頭に手をかける。

 流石に決め技を見せる訳にはいかない。

 そう思ったが故の判断だった。




 戦いが終わってしばらくの後。

 俺と男はテーブルに着き、向かい合う形で話をしていた。

 男の部下達はその後ろに立ち、俺の話を黙って聞いており、彼らの目には見えないユートは、テーブルの端っこでハムを食べている。


「そうか……私達を懲らしめに来たか……それはそうだ。納得は出来る」


 成り行きを聞いた男が言って、頭を俯けてテーブルを見る。

 男の部下達も地面を見つめ、申し訳なさそうな表情をしている。


「あの、どうしてこんな事を? ならず者達を退治した所までは、俺も普通に分かるんですけど」


 この人達は悪人では無く、根本的には善人なはず。

 そう思った俺が質問すると、男は「はは……」と小さく笑った。


「道を踏み外した。まさにそれだ。

 私達も当初は復興を夢見て、弱き者の為に尽力していた。

 それがどこで間違ったのか、夢は忘れ、酒に堕落し、働きもせずに生きて行ける事を享受していたという訳だ……

 今日、君に負けなければ、私達は一生このままだったかもしれない。

 ユーミルズ王国騎士団長として、改めて君に礼を言いたい」

「い、いや、そんな、気にしないで下さい……ていうか子供達は無事なんですか?」


 旧ラーク王国がやられる前にヨゼル王国にやられた国の名だ。

 理由は知らないし、情報も曖昧だが、元の立場に敬意を表して、男のお辞儀を右手で阻止する。


「それは無論だ。子供には手は出さない」


 質問に対しては男はそう言い、頭を上げた後に部下を呼んだ。

 そして、攫っていた子供達を集落に帰すように伝えたのである。


「遅れたが、私はスラッシュと言う。スラッシュ・モードノフが正式な名だ」

「あ、俺はカタギリ・ヒジリです」

「カタギリ……ファーストネームがカタギリで良いのか?」

「あー……良く分かりませんけど、ヒジリで良いですよ」


 自己紹介に応えると、男、スラッシュは「そうか」と言った。


「それにしても強いな。どこで習った?」


 と、続けて質問をしてきたので、それには「父さんに……」と、苦笑いで答えた。

 心の方は爺ちゃんだったが、技の方は父さん仕込みだ。

 それには爺ちゃんはケチをつけていたが、習わしと言う事で納得もしていた。

 一子相伝……と言う事も無いのだろうが、父が子に技を教えるのは、ウチの一族の習慣らしい。


「父上か? カタギリという名でそれ程の者が居る事を、私は今まで知らなかったが……いや、世界は広いという事だな……」

「(その世界の外の事ですからね…)」


 そうとは言えず、心で呟き、満腹状態のユートと目が合う。


「チョーシに乗って食べ過ぎちった……」


 食い過ぎである。妊婦さながらだ。

 腹を隠して言い訳をするユートを若干呆れて見つめた。


「その、首から下の着ぐるみなんだが、それにはどういう意味があって?」

「あ、こ、これですか……」


 不意の質問に顔を向け、聞いて来たスラッシュに事情を話す。

 即ち成り行きで着て居た物で、いつも着ている訳では無いと言う事を。


「もし良かったらどうですか? 海王も人手が欲しいでしょうし」


 話すついでに勧誘して見ると、スラッシュは「うむ……」と考え込んだ。


「私としてはありがたいのだが、伺って見ない事にはな……」


 そして、続けてそう言って、「誰に……?」と、俺を疑問させるのだ。

 そこへ、先に消えた男と、一人の女の子が姿を現し、その子を見るなりスラッシュが立ち、他の男達も体を向けた。


 女の子の年齢は六歳程度。

 髪は金で瞳は緋色。

 見た目には普通の子供であるが、それを見る男達の視線と態度が、どうにも普通とは思えない。


「ユーミルズ王国の唯一の生き残り。第四王女のレイラ様だ」

「王女様!?」


 スラッシュの紹介で身分が分かり、俺はとりあえず椅子から立った。


「わらわのわがままで迷惑をかけたな。こやつらは何も悪くないのだ」


 しっかりしている。子供なのに。ある意味セフィアより王女をしている。

 だが、どことなく無理をしているような、子供の部分も垣間見えており、彼らが子供を攫った理由を、何となく察した俺であった。


ありがとうございました。

ここからの投稿は1日1回で、月~金の間にする事にします。


ストック自体は30万文字まであるので、少なくともそこまでは滞る事は無いと思います。

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