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家電は本来戦わない  作者: ぬいみねね
エンカウント
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2

 廊下を走り、洗面所に着く。そこには何故か絶句している桜屋がいた。流星は棒立ちの桜屋の脇に立ち、お風呂場を覗く。

「何事! だ?」

 勇んだ調子から一転、その場で起きている事象が理解出来ず、頓狂な声を上げる流星。

「それは私が聞きたいわ……」

 流星と桜屋の目の前の光景は、身の丈二メートル近い冷蔵庫が湯船に浸かっている、という珍奇なものである。

 流星は先ほどの通信と眼前の光景からこう推測する。レイが気分良く入浴しているところにスマ子の通信が入る、それを聞いてすぐに何者かが風呂の戸を開く、咄嗟に姿を見られぬために冷蔵庫の姿をとる。人間の形態をとっていなければセーフだとでも考えたのだろうか。より複雑な状況になってしまったような気がする流星。しかし、状況の説明をしないと収まりがつかないと判断し、またもや下手な言い訳を開始する。

「いやー後でお風呂に入ろうと思っててさ。やっぱり風呂上がりには牛乳だよね」

 そう言いながら流星は、湯船に窮屈そうに浸かっている冷蔵庫姿のレイの扉を開き、冷えた牛乳パックを親指で指示する。誰もが何もそこに置かなくても、と思うこと必定。桜屋はやはり納得をしていないようなので流星は恥の上塗りを繰り返す。

「委員長は家電にあまり明るくないから知らないかもしれないけど、今の冷蔵庫は丸洗いが可能なんだ」

 さすがに無理がある。そもそもさっきと言っていることが違う。

「なるほど……とでも言うと思った? そもそも私がお風呂場に入ったのは鼻歌が聞こえてきたからよ。淀橋君は一人暮らしのはずよね? 今度は最近の冷蔵庫は鼻歌を歌う、とでも言うの?」

 鼻歌交じりとはどうやらレイはお風呂が大変お気に召したようだ。それは今、どうでも良いことだ。流星は桜屋の詰問からついつい現実逃避をしてしまう。

「いやえっとその……」

 流星は二つの考えに板挟みになる。一つはいっそのこと全てを打ち明けてしまうというもので、もう一つは嘘をでっちあげるというものだ。

レイ達の変身を直に見れば、桜屋も納得せざるを得ないだろう。しかし、それは桜屋を事態に巻き込むことになる。ヴァイストロンがゼントロンの正体を知っている人間を関係者とみなせば、何らかの危害を加えられることになるかもしれない。

 嘘をつくことも考えたが、勘の鋭い桜屋のことだ、きっと流星は見破られてしまう。そもそも流星は嘘があまり得意ではない。それに出来れば桜屋には嘘はつきたくない。

 悩んだ末に流星が出した答えは――

「これはさっき言ってた人には言えないことに直接的に関係することなんだ……。だから詮索はしないで欲しい……。委員長もさっきその件はおしまいにするって言ってたし……」

 流星は桜屋の目を見てこの台詞を言うことが出来なかった。

 しかし、桜屋は違った。流星の目をしっかりと見据え、流星の言葉に返答をする。

「確かにさっきはそう言った。けど状況が変わったわ。この件を捨て置くことは出来ない」

 流星は思わず桜屋の方を向く。その目は覚悟を秘めており、流星は驚きで言葉を失う。

「ここに冷蔵庫がある点は、今は置いておきましょう。どう考えても真っ当な理屈がつかないから。さて、私は淀橋君の家に入る前にあることに気付いたの。それは家の壁に釘が何本も刺さっていたこと、物置が不自然な壊れ方をしていること、庭の土が妙に荒れていたこととかね。どれも淀橋君本人がやるには意図不明ね。淀橋君の眠れる暴力衝動が目覚めたという可能性もあるけど、それは起こる確率の低い可能性の一つに過ぎない。むしろ誰かにやられて淀橋君は迷惑を被っていると考える方が自然ね。他にも、私の出した課題をやる時間をとれなかった、なんて迷惑もかけられたんじゃない? 根は真面目な性格だと思うからやらなかったのにはそれなりの理由があると私は考えるわ。長々とお喋りしてごめんなさい。私の推論の結は、淀橋君はある人、もしくはある人達を匿うかして家に招き入れ、それを狙う何者かに家を荒らされた。この推測はどれくらい合ってる?」

 流星は桜屋の推測が、招き入れた人達が宇宙人という事実以外は間違っていないことに驚愕する。状況証拠のみでほぼ真実を当てられるとは流星も全く思っていなかった。

「大体合ってる……」

 名調子につい本音が出てしまう流星。慌てて口を噤むが、発した言葉は取り消せない。

「そう、赤っ恥をかかずに済んだのね……」

 ほっと息を吐く桜屋。どうやら彼女といえども先ほどの結論に絶対の自信があったわけではなかったようだ。

 ここまで真実に近づかれたら最早言ってしまっても良いのではないかと思う流星。

 ここでふと流星の頭に考えが浮かぶ。どちらにせよ、自分の一存で決めることではない。

「……委員長ちょっと席を外してもらえる?」

「ええ、いいわよ。さっきの部屋にいるわね」

 桜屋はあっさりと引き下がり、お風呂場から退室する。

「さてどうするか……。レイ、スマ子、もう喋っても大丈夫だぞ」

「ふー☆」

「もういいのか?」

 そう言いながらレイは人間形態に姿を変える。お風呂に入っていたのだから、もちろん全裸である。健全な思春期男子である流星の両目が一糸纏わぬレイの姿に吸い寄せられる。仄かに上気した肌の上を玉のような水が流れ落ちる。濡れた髪がレイの顔に張りつき、常にない色気を生み出している。なだらかながらも大きな曲線を描く豊満な胸――のあたりに視線が移ったところで、流星は何とか理性を取り戻す。

「服をッ! 服を着ろ!」

「ここで服を着たら濡れてしまうじゃないか」

 全くの正論。

「そうですね! 俺が出ます!」

 そそくさと廊下に戻る流星はコソ泥の如き有様である。

「いやー今の光景は目の保養になりましたなー☆」

「お前はどこぞのおっさんか……」

「先ほどからの緊張を解そうと……」

 廊下に出て間もなく、いつもの服装のレイが現れる。

「さて諸々説明してほしいんだが」

「その前にみんなを俺の部屋に集めてくれ。まとめて話をする方が効率的だ」

「お任せを☆ あーみなさん、流星さんがお話したいことがあるようなので、流星さんの部屋に集合してください☆ あと居間には近づかないでください☆」

 スマ子が気を遣って一文を付け足す。

 流星はスマ子とレイを伴い自室に移動する。流星の部屋にはハコとCPが既におり、ピリピリとした空気が充満していた。

「さて集まってもらったのはある問題が起きたからなんだ」

「その問題ってのは何?」

 さっさと終わらせてCPがいない場所にでも行きたそうなハコが質問を投げかける。

「実はある地球人にお前たちのことがばれそうになってる。その責任は俺にあるから非難するならしてくれてもいい……」

 出来れば誰にも責められたくはないが、されてもおかしくない失態だと流星は考えている。

「我々に気付きそうな地球人というのが、現在階下にいる桜屋という人物なんだな?」

「そうなんだ。って何でCPが委員長のことを知ってるんだ?」

「不肖このわたしが知っている情報の共有化を図りました☆」

「それは説明が省けていい。この一件に対してどうするかをみんなと話し合いたい」

 流星は記憶を一瞬で消す超科学なライト的なものを持っている可能性を期待する。

「先に言っておくが、我々に地球人の記憶を改竄する権限はないからな」

 流星の心を読んだような事を言うレイ。

「最近は銀河協定の締め付けが厳しくなりましたからね☆」

「銀河協定? 何だそれ?」

「惑星間航行が可能な生命体が遵守しなければならないものです☆ 開発レベルの低い惑星を植民地にしたりしないように制定されたものです☆ 破ると怖い人が飛んできます☆」

「そんなのがあったのか、知らなかった」

「まあ抜け道なんて幾らでもあるがな……」

「主旨がずれているぞ。桜屋女史への対応について話し合うのだろう?」

 レイが横道に逸れかけている会話を修正する。

「そうだった。誰か意見はあるか?」

「はいはーい!」

 意外にも真っ先に手を挙げたのはハコだ。てっきりこういう場では面白くなさそうに壁の染みを数えていそうなタイプなのに。

「じゃあハコ、意見を言ってくれ」

「うん。えっと、流星はどうしたいの? あたしは流星がしたいようにすればいいと思う」

 ハコの言葉は流星の心の深奥に突き刺さる。

「私も同意見だ。桜屋女史のことをよく知っているのは流星だけだ、君が決めるといい」

 レイもハコの意見に同調する。それで場の空気は決まる。結論が出た。

 しかし、流星は自らがどうしたいのかを考えていなかった。流星は改めて思考する。

 ………………

 しばらくの時、結論を出す流星。

「俺は……委員長には全てを話していいと思う。彼女はそのことを吹聴して回るような人間じゃない。巻き込むことは本意じゃないけど、嘘をつくよりかはずっといい」

「決まりだな」

「じゃあ全員で挨拶に向かいますか☆」

 スマ子が楽しげに言う。流星は楽しい、という感覚はあまり理解できない。勝手な考えで彼女を渦中の人物にしてしまうわけだ。どちらかと言えば申し訳ないという気持ちが強い。

「委員長に会う前に各自その恰好を何とかしろよ。一般的な地球人の女性が着ていそうな服になってくれ」

「りょうかーい」

 一同は間の抜けた返事を返すが、しっかりと装いを改めてくれる。

 服装を変えた面々がぞろぞろと階下に向かう。階段を下りている途中でレイが流星の耳元で囁く。

「安心しろ、流星。彼女に危険が及ばないように私たちが守る。約束しよう」

「……頼んだ……」

 レイとの会話の後、流星は思う。俺にも誰かを守る力があれば、と。

一介の地球人で高校生の流星は、自らの無力さを味方に思い知らされた。


「思ったより早かったわね、淀橋君」

 桜屋は教科書とノートを居間のテーブルに広げ、明日の予習を行っていた。

「客人を長時間待たせる訳にはいかないからね」

 いついかなる時も勉強のことを考えているからこそ委員長はあの成績なのだな、と感心する流星。

「それでそちらの方々が例の?」

 桜屋は流星の後ろにいるゼントロン御一行様をちらりと見やってから言う。

「こちらの方々が例のアレです」

 真実を言うとは決めたが、流星はどのように紹介をしたらよいのか決めあぐねている。

「どうも、私がゼントロンのリーダーを務めているレイです。よろしく」

 レイが機先を制し、堂々と桜屋に握手を求める。

「私は淀橋君のクラスメイトの桜屋麻耶です」

 そう言いつつ桜屋はソファから立ち上がり、レイの手をしっかりと握り返す。

「君のことは流星から聞いているよ」

「性格のきつい眼鏡女とか?」

「いや、信頼に足る女性であると」

「そ、そう……」

 レイはどうも恥ずかしいことを臆面もなく言ってしまうタイプのようだ。そういった人の対応に慣れていないのか、桜屋は戸惑いと羞恥の表情を隠せない。流星もまた少し頬が熱くなるのを感じるが、掘り下げることはしない。流星は気恥かしいのでさっさと紹介を終わらせようと引き継ぐ。

「で、そっちにいる緑色の髪をしたのがハコ。無愛想な感じのがCP。それで最後に……」

 ハコとCPが桜屋に会釈をする。

「最後? もうみんな済んだんじゃない?」

 怪訝な表情で流星を見る桜屋。流星としてはここからが肝である。これからここにいる人達はみんな宇宙人なんですよ、と伝えなければならない。

「いや実のところ終わりじゃないんだよね……」

 そう言いつつシャツの胸ポケットに待機していたスマ子を摘まみ上げる。

「どーもー☆ わたしはスマ子と申します☆ よろしくです☆」

 挨拶をしながら桜屋にウィンクを投げかけるスマ子。

人間と遜色ない動きをし、喋る手の平サイズの何者かを見て桜屋は唖然としている。桜屋ほど博識でなくとも、そのレベルの動きをするロボットは現代の技術では未だ製作出来ないことがわかる。

茫然としている桜屋を見るのは初めてなので流星は笑いそうになるが、こうなることも仕方ない、むしろ実に自然な反応なので説明をつけることにする。

「先に言っておくとこれは良く出来たおもちゃとかじゃないんだ。厄介なことに自立した意識を持った生命体なんだ」

 流星は摘まんでいたスマ子を桜屋の前に置く。

「やっぱりびっくりしてますねー☆ にわかには信じがたいことだと思いますが、わたしたちはいわゆる宇宙人なんです☆」

 その情報を出すのはまだ早いだろう、と流星は思う。けれど今更取り消せない。

「今そこのスマ子が言ったようにみんなは俺達の言葉で言うと宇宙人なんだ。といっても信じられないだろうから今からその証拠を見せようと思う。みんな頼む」

 流星は未だ呆けたような表情の桜屋を納得させようとゼントロン一同を振り返る。コクリと皆が頷き、声を合わせて叫ぶ。

「「「「デフォルメイション!」」」」

 一同の姿が光に包まれ、光が消えるとそこには多種多様な電化製品が散らばっている。

「とまあみんなはゼントロンっていう地球外生命体で、俺の家電・電化製品を基に体を構成しているんだ。同居してるのはそういった理由。俺個人としてはさっさと出ていってもらいたいんだけどね……」

 初期ほどはそう思ってはいないにせよ、最後の文を言っておかなければ調子に乗らせてしまうかもしれないので、流星は念を押しておく。

「ひどいですー☆ ところでもういいですか?」

「ああ、いいよ」

「「「「フォルムチェンジ!」」」」

「どうかな……?」

 真実をありのままなるべく理解しやすいように伝えたつもりだが、事が事なので全く取り合ってもらえないという可能性も流星は考えている。

 桜屋は何も言わない。まだ頭の中で情報を整理しているのだろうか。固まっていた桜屋はおもむろにテーブルの上のスマ子を手に取る。

「いや~ん☆」

 桜屋はスマ子を矯めつ眇めつ観察する。ひっくり返してスカートの中を覗いたり、肘や膝の関節部に注目したり、無理矢理口を開けて口腔内を調べたり。

「ほこはヒャメェ~☆」

 じたばたともがいて桜屋の手から逃れ、流星の元に走ってくるスマ子。そのままテーブルから流星の体に飛び移り、器用に体をよじ登り胸ポケットに収まる。

「えっと、やっぱり信じられない?」

「……信じ……ない……訳にはいかないわね……」

 深くソファに身を沈め、ふーと息を吐きながら天井を見つめる桜屋。

「ほんとに!?」

 意外にもあっさりと理解を示す桜屋に驚く流星。

「微細だけど人間とは違う構造してるわよ、その子。それに今の変身? も見ちゃったし」

「委員長の理解力には参るね」

「ところでいくつか質問してもいい?」

 座りなおして桜屋が真剣な表情で聞いてくる。

「私たちが答えられることなら何でも」

 レイがリーダーらしく物怖じすることなく聞く体勢に入る。


「つまりあなた達はゼントロンという機械生命体で、ヴォルテカを探しに地球にやってきた。淀橋君の家電を基に体を構成しているのは単なる偶然。元はゼントロンと同じ種族だったけど主義主張の違いから袂を分かったのがヴァイストロンという敵対組織で、一度ここに襲撃に来た。ヴォルテカの所在は不明で敵の手に渡ると地球もただではすまない、ということなのね」

 大方の質問を終えた桜屋が答えを反芻する。ゼントロンとヴァイストロンが元は同じ種族だということは流星にとっても初耳だった。

「今日知ったことは誰にも言わないで欲しいんだ」

「言っても誰も信じてくれないわよ。私だってまだ半信半疑よ」

「それはそうだろうな。この星の公の記録には異星人との接触はないとされている。我々もすぐに信じてもらえるとは思っていないよ。だがこれだけは覚えておいてくれ。ヴァイストロンがヴォルテカを手にしたら、この星は姿を変えることになる。恐らく最悪の形で」

「現実感が今一つ湧かないけど……レイさんは嘘をつくような人ではなさそうね」

「私は嘘をつかないことと、約束を違えないことに関しては自信がある」

「……決めたわ。私も微力ながら手を貸すわ。地球がなくなったら困るし」

「そんなことしたら委員長もヴァイストロンに狙われるかもしれないよ?」

「そうしたら淀橋君達が助けてくれるんでしょ?」

「請け負った。何か問題が発生したらすぐに私たちに連絡してくれ」

 そんな安請け合いしていいのか、と流星は思う。しかし、助力の提案を拒むほどこの場で権限がある流星ではない。

「なんか巻き込んじゃってごめん……」

「いいのよ。私が自ら首を突っ込んだんだから。それに地球側の協力者が淀橋君だけじゃちょっと不安だし」

「それはひどくない!?」

「冗談よ。私はあなたが思っているほどあなたを過小評価していないから」

「それはそれですごいプレッシャーだ……」

 そう思ってくれる理由が流星には思い当たらないが評価されているならそれに報いたい。

「淀橋君達なら何とか出来そうな気がするの」

「気がするって……根拠とかは?」

「女の勘」

 眼鏡の奥の瞳が見たことのない光を宿す。

「根拠になってないね」

「そう? 十分でしょ? 私の勘は意外と当たるのよ」

 こういう面もあるのかと思いながら話していると、ふと時計が流星の目に映る。

「委員長、もう結構な時間だよ。帰らなくても大丈夫?」

 辺りはとっぷりと夜に沈み、学生はうろついていると怒られる時間だ。

「実は私の家ここからかなり近いの。ちょうどそこの坂の始まりの辺り」

 生まれてこの方流星はこの地に住んでいるが、幼い頃に桜屋の姿を見た記憶はない。

「淀橋君はいつも遅刻ギリギリだから朝に会ったことはないわね。それに私、今はバスで通学してるし」

「これからはもう少し早く学校に着けるように努力します……」

「そうしてくれると委員長の私としても嬉しいわ。それじゃあ予習復習をしないといけないからそろそろ帰るね。えっと、ゼントロンの皆さんもまた」

「それじゃあまた桜屋女史」

 レイに続いて一同も口ぐちに別れの挨拶をする。

 荷物をまとめてから席を立った桜屋を玄関まで送る流星。

 先日戦闘が開始された門周辺で流星と桜屋は少し話しをする。

「それにしてもクラス委員長ってのは大変だね。一クラスメイトの面倒までみなくちゃならないなんて」

「それでエイリアンとお知り合いになるとはさすがに想像の範疇を超えてるわ」

「えーと、その、ごめんなさい」

「怒ってないから、むしろちょっと嬉しいくらい」

「それはまたどうして?」

「私ってそこそこ頭良いから大体のことが想像出来ちゃうのよね。これからの人生の先々で起こる事とか……」

 それなりの進学校で、更に学年で五指に入る成績をそこそこ頭良いで済まされては流星の立場はない。

「まあ宇宙人が家にいるってのは想像できないよね」

「全くよ。今日もどうせそこらへんのしょうもないチンピラに脅されるとかしょうもないことになってるんじゃないのかな、って思ってたの」

 結構な毒を吐くなぁ、と思ったがまあそれは以前からだったと思い直す流星。

「だから今回は久しぶりに心底驚いた。もうほんと衝撃的。久しぶりに価値観が揺らいだ」

「頭が良い人にも良い人なりの苦労があるんだ」

「やっぱり先が見えすぎると、ああこんなものなんだ、って思っちゃうからね……」

 流星は、なんだか今までしたことのない類の深い会話をしている、と思う。秘密を共有して一つ壁がなくなったのだろうか? ならばこちらも真摯に返事をするべきだと考える。

「委員長はさ、きっと決めつけてるだけだよ。この先きっとこうなってこうなって結局こうなってって。本当はこれから先どんな人生を歩むか、ってことは自分で選べるはずだよ。一つしかないなんてことは絶対にない。委員長に本気で変える気があったら、どんな未来でも手繰り寄せられる、と思います……」

 後半少し恥ずかしくなってしまった流星はついつい照れ隠しに敬語を使ってしまう。

「……もしかして励ましてくれてるの……? ぷっ! あははは!」

「笑うのはひどい……」

「違う違う! またまた想像を超えたものだからついね。…………ありがとう。今日は淀橋君の家に来て良かった」

「住人が増えたので狭い我が家ですがいつでもどうぞ」

「家も近いしここで勉強会するのもいいかもね」

「勉強会は続行ですか……」

「当たり前でしょ。次のテストの成績で結果が出るまでやるわよ」

「次って期末テストじゃないか! 結構先だよ……」

「勉強する時間がたくさんあって良かったわね! それじゃあバイバイ」

 反論する間もなく、桜屋は膝丈のスカートを翻し立ち去っていった。

「バイバイ……」

 心許ない外灯に照らされる桜屋の背を見ながら流星はぽつりと呟く。


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