8 名付け
お店のオープンの準備は着々と進んでいる。
「《席数、少なくないか?》」
「とりあえずよ、とりあえず」
二人がけのテーブルが五卓。カウンター席が七席。ピアノ側に子供用の小さな椅子を一席。
「ちなみにここ、アーサーの席ね」
「《!?》」
カウンターの一番端の席に、王冠マークの彫られた椅子を用意していた。これは背もたれだけ残して座席が取り外せるので、お客が間違って座ることはない。なんだこの椅子? と、言われるのはまあ仕方がない。そしてそれは、ピアノ側の小さな椅子も一緒だ。
「《ボクの!?》」
「そーだよ」
ピョンピョンとバルのブラウニーは飛び跳ねていた。最近はこのブラウニーともすっかり打ち解けているので、実質カフェの従業員。このカフェのオーナーとして、彼らの福利厚生くらいは考えなければ。
「《仕込みも片付けもまかせてよっ》」
「助かる~~~!」
ブラウニーは小さなこぶしに力を込めていた。彼のお陰でかなりカフェ運営がスムーズにいきそうなのだ。
「《メニューは決まったのか?》」
専用の椅子の座り心地を確認しながら、アーサーがご機嫌な声で尋ねてきた。
「だいたいね。予定通りショーケースで並べて置けるタイプのものを中心にするわ」
余裕があればもちろんアレコレ増やすつもりもあるが、小さなカフェだ。選択肢が多くても、頼むお客が少なければ材料分赤字になってしまう。
レジカウンター横に並んであるショーケースは保冷機能のあるものと、常温のものがある。メニューの幅は広げられるように改装してもらっていた。
「種類は少ないけど、目新しくって味は間違いないわよ!」
「《そうだな。それは妖精王のオスミツキだ》」
ブラウニーがどういう意味? と頭を傾けている。アーサーはこうして時々、私が教えたこの世界では”独特の表現”を使うのだ。
「《妖精王様が保証した味ってこと!》」
「《なるほど》」
真面目な顔をして頷くブラウニー。ドヤ顔の妖精王。最近はこの流れをよく見るようになった。
「アナタが仕込みも手伝ってくれるから、かなり時間の余裕ができたわ」
「《ボク、お菓子の匂いもコーヒーの匂いも好きだよ》」
遥か昔から、”お手伝い妖精”と人間に呼ばれていただけあってか、ブラウニーは本当に器用だ。正直、修行して来た私より手際がいい。まあ、私とは年季の入り方が違うのはわかっているが……。
(見た目に惑わされたらダメなのよね~可愛いけど、私よりずっと年上だし)
話を聞くと、このブラウニーはどうも百年くらいは生きているようだった。
「《うーん》」
私たちの会話を聞きながら、アーサーがなにか考え込んでいる。
「《よし! お前の名前を決めてやろう!》」
「《え!?》」
ギョッと妖精王の方を見ていたブラウニーだが、正直私もその方がいいと思っていたので何も言わずに経過を見守る。
ブラウニーは同族同士でも名前で呼び合わない。二体以上で同じ場所にいることがほとんどなく、単独行動ばかりなので、個体名を必要しないようだった。
(屋敷には三人いたけど、持ち場が違うのか、一緒にいるとこ見たことないしなぁ)
いいとも悪いとも言わず(言えず?)、ブラウニーはじっとアーサーの口元を見つめている。
「《何がいいかなぁ~元バル、現カフェのブラウニー……》」
うーんうーんと悩み続けていた。思い付きで発言したが、なかなか着地できないようだ。迷った表情のまま、パチリ、と私と目が合った。
「ピアニッシモは?」
とりあえず、意見を出しておく。ピアノが大好きということだからそこに関係する名前はどう? と提案してみるも、
「《安直だな!》」
「失礼な!!」
だが、この方向性は気に入ったようだ。閃いたぞ! と、アーサーはブラウニーをシルフィを使って浮かばせた。
「《フォルテにしよう! 力強くいこうじゃないか!》」
えぇ~イメージと違わない? と、意見しようとしたが、
「《フォルテ!》」
本人から嬉しそうな声が聞こえてきたので、慌てて口を閉じる。本人が気に入るのが一番だ。
従業員の名前も決まったことだし、メニューも決まった。ついにあとはオープンを待つだけというところまで来たのだ。
心強い”ご意見番”は、
「《さっさと店を開けよう!》」
と、私以上に楽しみにしてくれている。
(ああ、ドキドキしてきた……!)
果たして、この妖精付きカフェにお客は着てくれるだろうか。




