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帝都不可思議カフェ綺譚―婚約破棄は自称妖精王と共に―  作者: 桃月 とと


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12.5 共犯者

 ランドルフ家の豪奢な応接室はシンと静まり返っていた。


(どうして……)


 いつも穏やかな微笑を浮かべるベンジャミンだが、今回ばかりは青ざめ頭を抱えていた。いったい何が嘘で何が本当なのか、彼にはもうわからない。


「どうして嘘をついたんだい……モニカ……」


 子供が出来たからこそ、ベンジャミンは例え世間が何と言おうと、どんな批判を受けようと、モニカと結婚したいと思ったのだ。

 善良な元婚約者を傷つけることはわかっていた。だが、それでもモニカと自分の子供を選んだ。

 不貞腐れたような新たな婚約者モニカは表情を崩さず、


「あなたと結婚したかったからに決まっているじゃない!」


 そう言っていつものように泣き始めた。そうなるとベンジャミンは何も言えなくなるのを知っている。


「あなたが……こうでもしないと……いつまでもお義姉様と別れないから……!」


 煮え切らないベンジャミンにモニカはうんざりしていたのだ。彼女から見ても、オリヴィアとベンジャミンは仲のいい友人同士に見えた。だからこそ簡単に付け入ることができた。なのに、いくら自分と結婚しようと言ってもグダグダと言い訳を並べて実行しようとしなかった。


(バンディッド夫人がまさかあんなにあの女を気に入っていたなんて……それにライオネルまで……!)


 ギリッと小さく歯ぎしりをする。

 義姉とベンジャミンの婚約破棄騒動の後、身籠っているにも関わらずすぐに結婚できなかったのはこの二人の反対が大きかったからだ。バンディッド伯爵さえ押さえてしまえばこちらのものだと思っていたモニカ側の計算は大きく狂い、結局嘘がバレてしまった。


(なんであの女ばっかり!! あんな虚言癖の気持ち悪い女がいいって言うの!?)


 溢れ出す怒りを含んだ妬心が表情にも表れていた。歪みきった唇を見て、ベンジャミンは確信する。


 モニカは自分を愛していたわけではない。バンディッド家の遺産が狙いなのだと。


 一番恐れていたことが現実になった。

 家督を継ぐ兄程ではないが、彼も富豪の息子としてなかなか周囲の人間を信じ切れずに生きてきた。金づるにしか見られていないような気がして。 

 これまでモニカは一度も財産の話はしなかった。もちろんそれは作戦で、彼にどんな言葉をかければいいか理解していたからだ。御しやすいと思ったからこそ、ライオネルではなくベンジャミンを狙った。ついでに、いけ好かない義姉に嫌がらせも出来る。


「……記者に話したのは君か?」

「……なんのこと?」


 一瞬だけ間を置いて、モニカは答えた。目を合わせまいと、斜め下に視線を落とす。すでに涙は見えない。

 ここ数日、妙な記者がバンディッド家の周囲をうろついていた。


『バンディッド家はランドルフ家の二人の令嬢を誑かしたあげく、二人共捨てようとしている』


 そんな噂の調査だと言って。

 幸いなことに、オリヴィアの元にその記者は行っていないようで裏取り不足なのか、まだ記事にはなっていなかった。

 だが噂の出所をバンディッド家が調べ上げた結果、やはりと言うべきか……ランドルフ家の名前が上がったのだ。


「噂を消して回るために、父も兄も……母も必死になってるんだぞ! そんなことで世間を味方につけようとしているのか!? 君がオリヴィアから僕を奪ったという事実は変えられな……」

「そんなこと疑って私を責めるの!?」


 ベンジャミンが最後まで喋ることをモニカは許さない。


「婚約破棄したのもあなた! 私を選んだのもあなた! なのに世間体を気にしているのもあなた!!」


 今度はモニカはしっかりとベンジャミンと視線を合わせていた。


「私のせいにしたいのかもしれないけれど、あなたもしっかり当事者なのよ?」


 それを忘れないで。と最後は穏やかな声になっていた。


「あなたには私だけ。私にもあなただけ。いい加減、理解して」


 初めて抱く恐怖と後悔に、ベンジャミンの口から、ほんの少しだけ息が漏れる音がした。


 もう逃げることはできない。


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