前途多難
いつの間にか真悟の後ろにいたアリッサが、トコトコと前に出てくる。
「戦闘フィールドの外から見ていたけど、強かったわね」
美希が、どや顔になる。
「まあね」
まさか、武闘家と踊り子のペアで敵をやっつけるとは思ってもみなかった真悟は、妙な気分におおわれる。とりあえず、そのまま先へ進むことにした。
道中、みんなはレトロットの町に到着するまでに、モンスターと数回におよび戦った。戦闘を重ねることによって、おのおのレベルが上がってゆく。
美希がやけにおとなしくなり、武がそんな彼女に声をかけた。
「どうかしたのか?」
「え? いや、別に」
真悟も、ちょっと心配になる。
「なにか悩みでもあるんですか」
真悟が美希の顔をのぞきこむと、美希は「んふふふふっ」と、不気味な笑い声をあげるのだった。
「いや、さっきの戦いで『サマーソルトキック』というスキルを覚えたんだけど」
美希の声が弾んでいる。
「一度、使ってみたいと思ってね」
それを聞いた武が、言葉をはさんでくる。
「おまえ、運動オンチだもんな」
「う、うるさいわねっ」
美希が無言で念じれば、彼女の頭の中でイメージされるこのスキルは、バック転しながらキックを放つという、格闘ゲームでもよく知られる技だ。
踊り子にしては、かなり威力の高い攻撃技だ。運動オンチと馬鹿にされる人には、ある意味あこがれるスキルではあるだろう。
前を歩いていたアリッサが、足を止めて美希の方をふり返る。
「いま『サマーソルトキック』って、いわなかった?」
「いったわよ。それが、どうかしたの?」
「変ね。あのスキルは、もっとレベルが上がらないと修得できないはずなのに」
なにかがおかしいと感じるアリッサである。
しかし、美希に「都合の悪いことでもあるの?」と訊かれると、いまの段階では「ううん、なにも」というしかない。
レトロットの町は、もうすぐだ。アリッサは一抹の不安を抱えながらも、町に向かって歩を進める。
その不安は、あとあとみんなを飲み込んでゆくことを、アリッサをはじめ、いまは誰も知らない。
レトロットまで、あとひと息というところで、二匹のモンスターがあらわれる。
みんなは戦闘フィールドに移行して、モンスターとの戦いがはじまる。
モンスターは、毛むくじゃらなネズミと、メタボに肥えたカエルが一匹づつだ。
マリナは防御に専念している。最初の戦闘のときから、真悟にそうするように告げられている彼女は、そのとおりにしている。
武がカエルの方へ向かって駆け出して行った。
「おりゃあっ」
ドガッと飛び蹴りが決まり、カエルの体力の大半を奪いさる。
武はゆっくりと地上に降り立つ。スローモーションというほどではないが、着地までの滞空時間が長い。地球とこの世界では、重力がちがうのだろう。
次に、美希がズイッと前に出る。
「じゃあ、行くわよ」
突進しようとする彼女を、真悟があわてて止めようとする。
「いや、このまえもいったけど、踊り子は防御も体力も低くて……」
「だりゃあああああ!」
「だから、なんで人のいうことを聞かないのかな、あの人はっ」
美希は真悟の忠告を無視して、カエルではなくネズミのモンスターに向かって突進する。
モンスターの手前までくると、体を低くかがませる。そして、「やあっ」と飛び上がりながら放つ蹴りが、モンスターを上空へ吹き飛ばした。サマーソルトキックだ。
空中高くにいる美希はクルッと後ろに一回転し、着地の態勢に入った。
みごとに決まった美希のサマーソルトキックは、強烈だった。モンスターは体力がすべて奪われ、跡形もなく消えてゆく。
着地しようとする美希のスカートが、めくれ上がる。
武よりも体重の軽い美希は、本当にスローモーションのようにゆっくりと降りてくる。
その間、真悟と武は、パンツをはいていない美希のあらわになった下半身を見せつけられる。
「あと一匹ね」
ぶじに着地した美希が、真悟と武の方をふり向いた。
「あんたたち、カエルに……」
真悟と武に「カエルにトドメをさして!」と告げようとした美希だが、その二人はガクッと両膝を落として左手を地につき、血がドバドバと吹き出る鼻を右手で必死に押さえている。
美希は、なぜ二人が鼻血を吹き出して苦しんでいるのか、理解できずにいる。まさか自分が原因であるとは、これっぽっちも思っていない。
そして、いままでひたすら防御しかしていなかったマリナは、なにをすれば良いのか全然わからず、ぼーっと突っ立っているのだった。




