はじめての戦闘
アリッサについてゆく真悟たち一行は、「はじまりの村」を出て目的地の町へ向かう。
入手すべき貴重なアイテムが、その町「レトロット」に関係しているのだ。
先頭を歩くアリッサに、美希が話しかける。
「ねえ、アリッサちゃん」
「なあに?」
「要は、この世界で最後まで冒険を進めて、クリアすれば良いのよね」
「そうよ」
「だったら、このゲームの世界を作った五人の人たちを呼んだ方が、はやいんじゃないの?」
もっともなことだ。
「それが、ね」
アリッサは、ちょっと困ったという顔を美希に向ける。
「彼らは、この世界に入りたくても入れないの」
アリッサが歩きながら話す説明は、妙にややこしい。
異次元にいるゲームクリエイターたち五人の魂は、別の異次元に好き勝手に入れるわけではないという。
もっとわかりやすくいえば、こういうことになる。
「例えば、あなたたちは漫画を読んでも、その漫画のなかには入れないでしょ」
当たり前だが、そのとおりだ。三次元に住む人間は、二次元である漫画のなかには入れない。
同じように、五人のゲームクリエイターたちも、いま彼らがいる次元から別の次元へ移行するのは、不可能なのだ。
「そういうことよ。わかった?」
一応、納得した真悟だが、不意に疑問が浮かびあがる。
いま、アリッサが話したことは、異次元における法則なのかもしれない。しかし、それは自分たちにも当てはまるのではないか?
真悟はその疑問をアリッサに投げた。
「アリッサ、それならぼくたちは、どうやってこの世界にきたの?」
アリッサは、感心した目で真悟を見つめる。
──なかなか鋭いわね
そう思い、ふたたびくわしい説明にはいるのだった。
「五人のクリエイターたちは、この世界とあなたたちの世界をつなぐパイプを作ったの」
「パイプ?」
「そう。厳密にいうと異次元トンネル、異次元から異次元につながる『出入口』といえばいいかな」
まず、真悟たちの世界に『入口』を作り、クリエイターたちの作った亜空間に誘いこむ。
次に、『出口』をいま真悟たちがいるゲームの世界に作り、誘い出した真悟たちを送って行ったのだ。
「彼らは、あなたたちに触れることはできないし、他の次元に移動することもできないの」
「………」
「あなたたちは五人の誰かに会っているはずだけど、覚えてないわよね?」
「うん」
それも異次元における法則のようだ。
「彼らは、自分が遊びたくてゲームを作ったんじゃないのよ。彼らが望むのは……」
アリッサの声に、哀しみが帯びる。
「自分たちが作ったゲームを多くの人たちに遊んでもらって、楽しんでもらって、最後までクリアしてもらうことなのよ」
生前、果たすことがかなわず、いまでもかなえられない彼らのやるせない想いが、アリッサの瞳にやどる。
「物語の主人公は、あくまでもあなたたちよ」
アリッサは、きっぱりといいきった。
アリッサたちは、森のなかに足をふみ入れる。先頭を歩くアリッサが、後ろにいるみんなの方をふり向いた。
「そろそろ、モンスターがあらわれると思うので、気をつけてね」
真悟は、ふと思い出したようにアリッサに話しかける。
「モンスターとの戦闘になると、アリッサはどうやって戦うの?」
「あ、言い忘れたけど、わたしは戦闘には参加しないから」
「え?」
「わたしは単なるシステム案内役だから、戦闘フィールドには入れないの」
モンスターがあらわれると、まわりの景色が左回りにぐるっと一回転する。その一瞬の間、みんなはモンスターともども、亜空間へ移動する。というか、飛ばされるのだ。
この亜空間を、アリッサは戦闘フィールドと呼んでいる。いわば、戦闘専用の闘技場へワープするようなものだ。
多くの場合、まわりの景色は移動するまえと変化がなく、闘技場という感じがしない。
そして、アリッサは戦闘フィールドには入れない。だが、アリッサはフィールドの外から、みんなの戦う様子をうかがうことができるのだ。
とりあえず、アリッサは戦闘フィールドでの戦い方を、みんなに教える。上手くできるかどうか、最初はやはり気にかかる。
「一応みんなに話したけど、モンスターが……!」
アリッサが話している途中で、一匹のモンスターがみんなの前にあらわれた。
アリッサはみんなの後ろにさがり、武がズイッと足をふみ出す。
「ようし、一丁やるか!」
まわりの景色が、瞬時に左回りにヒュンッと一回転して、もとの景色にもどる。
真悟は後ろをふり向いて、アリッサに声をかけようとする。
「アリッサ……あれ?」
アリッサの姿は、すでにここにはない。モンスターと戦うにあたって確認したいことがあったのだが、間に合わなかったようだ。
真悟は仕方ないと思いながら、アリッサがいっていたとおりに無言で「データ」と念じてみる。すると、自分をふくめた仲間の体力などのデータが、頭の中に表示される。
──ええと、HPは体力で、SPはスキルポイントっていってたな
体力をあらわすHPは、敵の攻撃を受けると減ってゆく。これがゼロになるとゲームオーバーとなる。
SPであらわされるスキルポイントとは、各自のスキルを発動するために必要なものである。
スキルとは、たとえば真悟なら攻撃力の高い魔法であり、武なら威力絶大な必殺技となる。
威力の大きいスキルほど、使用するSPも多くなる。HPもSPも、彼らの頭の中では数字とグラフであらわされるので、わかりやすい。
味方のデータだけでなく、敵のデータも表示されるのは、ふだん真悟が遊んでいるゲームと同じだ。
いま、みんなが真悟と同じことをやっている。
武がモンスターに向かって、ふみ込んで行った。
「俺から行くぜ!」
無言で「スキル」と念じれば、いまの自分が使えるスキルが、イメージとともに頭に浮かんでくる。
武は、毛深い猿のようなモンスターに「直進突き」というスキル攻撃を発動させる。
武の右中段突きが、ドガッとモンスターにヒットし、敵の体力は大きく減ってゆく。
みんなの頭の中で、そのデータが示される。
真悟が、思わず感嘆の声をあげた。
「すごいっ、敵の体力がほとんどのこってない!」
だが、武の顔は不満げだ。モンスターを一撃で倒すことができなかったからだろう。
美希が右腕をグルグルと回しながら、モンスターに近づいて行く。
「次は、わたしがやるわ」
それを聞いた真悟は、あわてたように美希に近よって行った。
「いや、踊り子は体力も防御も低いから、むやみに攻撃……」
「でやあああああっ」
美希は、真悟にはおかまいなしに、モンスターに向かって突進して行く。
「えいっ」
コンッ
美希の一撃が、瀕死の重症を負ったモンスターにトドメをさした。モンスターはシューッと音を立てて消えさるのだった。
そこには、置き忘れたかのように宝箱がのこされていた。宝箱には鍵はなく、開けると中には「きずぐすり」のラベルを貼ったドリンクが入っていた。
まわりの景色がギュンッと一回転して、真悟たちは戦闘前の場所にもどる。
美希は両手を腰にあてて、自慢気に微笑んだ。
「えへっ、どんなもんよ」
そういう彼女を見た真悟は、声に出さずに思うのだった。
──この先輩は、人の話を聞かない人なのね……




