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ローデス  作者: 左門正利
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冒険のまえに

 山の方へ向かうアリッサたちは、小さな村に到着する。


 平和そのものといった村の様子に、美希は率直な感想が口に出る。


「ずいぶん、のどかな村ね」


 アリッサは美希の方をふり向いた。


「本当は、みんなは真っ先に、ここへくる予定だったのよ」


 アリッサの言葉に、みんなは目を丸くする。


「そうなの?」


 美希の問いに、アリッサは「うん」と答える。


 いままで何度も、人間の世界からこの世界にきた冒険者たちを案内しているアリッサだ。

 しかし、この「はじまりの村」以外の場所に冒険者が飛ばされたのは、はじめてだ。


 ──みんなの潜在能力が予想以上に高すぎたために、狂いが生じたのかな?


 アリッサは、そう考えた。


 村のなかを歩いていると、アリッサが「こっちよ」と、みんなを導く。

 そこには、白くて丸いテーブルに五つの椅子が用意され、紅茶の入ったティーカップが置かれている。まるで、お茶会の準備が整っているかのようだ。


 みんなが椅子に座ると、アリッサがこの世界についての本格的な説明にはいった。


「あなたたちは、これから冒険をするんだけど、敵となるモンスターを倒しながら進んで行くの」


 真悟にはピンとくる。


「RPGだね」


 アリッサは「うん」とうなずいた。しかし、武には「RPG」の意味がわからない。


「RPGって、なんだ?」


 真悟が答える。


「ロール・プレイング・ゲームです」


 RPGとは、ゲームで遊ぶプレイヤーが主人公となり、敵と戦いながら数々の謎を解いたり、ミッションをクリアしながら物語を進めて行くゲームである。


 ──RPGを知らないなんて、めずらしいな


 真悟がそう思っていると、アリッサが真悟の方に目を移す。


「このメンバーのなかで、ゲームで遊んだことのある人は、あなただけよ」

「ええっ、本当に?」

「うん」


 真悟は驚いた。誰もが、一度はゲームで遊んだ経験があるだろうと、当たり前のように信じていた。


 自分の思っている常識は正しいとは限らないという事実を、たったいまここで学ぶ。

 中学二年生の真悟には、衝撃的な出来事である。


 武が、妙に疑問に思うことをアリッサに投げた。


「ゲームをやったことのない俺が、この世界で役に立つのか?」

「それは、だいじょうぶ」


 アリッサは自信満々に答えた。


「ゲームが好きな人を連れてきてるわけじゃないの。そういう人は、むしろ少ないわね」


 ここまで話を聞いていた美希は、非常に気になることがある。


「以前、この世界へきた人たちは、どうなったの?」


 そういう大事なことに頭がまわるあたり、さすがは学級委員長だ。このことは、他の三人も気になるところだ。

 みんなの顔が不安の色に染まってゆく。


 だが、アリッサの言葉が、みんなの抱く不安を払拭するのだった。


「以前にここへきた人たちはゲームをクリアできなかったので、みんなぶじに、もとの世界に帰ったわ」


 ちなみに、こっちの世界でどれだけ時間が経とうとも、真悟たちには影響はないという。

 つまり、もとの世界に帰るときは、こちらの世界にきたときと同じ時間、同じ場所に帰されるのだ。


 武がその顔にホッとした想いを浮かべる。


「それを聞いて安心したぜ」


 アリッサは、自分の説明に加えるべきことを語る。


「みんなが人間の世界にもどるときは、この世界での記憶はなくなるけどね」


 それは、異次元の世界での決まりごとなのだろう。


 アリッサは、個々のキャラクターについて説明しようと、まず最初に武に目を向ける。


「赤い服を着たあなたは、武闘家のキャラね。誰よりもパワーがあるわ」

「まあ、俺は現役の空手部だしな」


 美希が武に顔を向けると、観察するように武を見る。


「全然、違和感がないわね。実際、こんな顔で、こういう体つきだし」


 そういう美希に、アリッサが告げる。


「あなたは踊り子、ダンサーよ」

「ダンサーのわたしは、なにをすればいいの?」

「あなたは敵を眠らせたり、敵を動けなくするスキルをそなえてるの」


 ただし、そういうスキルは冒険を続けて成長していかないと、身につかない。

 また「強運」ということも踊り子の特徴ではあるが、この運の良さにしてもレベルが上がらないかぎり、みんなとたいして変わらない運となる。


 踊り子というキャラについての説明を美希に話したアリッサは、マリナに視線を移す。マリナは、レモンの香りがほのかに漂う紅茶を、おいしそうに味わっている。


「紅茶を飲んでいるあなたは、クレリックというキャラよ」


 真悟の思ったとおりだ。


「回復魔法でみんなのケガを治したり、体力を回復させるのが、あなたの主な役割ね」


 すでに真悟からそういう話を聞いているマリナは、アリッサのいうことが、すんなりと耳にはいる。


 最後は真悟だ。


「あなたは、いうまでもないわね。がんばってちょうだい」

「いや、あの、なんでぼくだけ説明がないの?」


 マリナたち他の三人は、そんなことなどどうでもいいという感じで紅茶をすすっている。


 アリッサは、真悟のことを「攻撃魔法でガンガン敵を殲滅せんめつする、頼りになる魔法使い!」と話すことなく、さらに説明を続けるのだった。


 彼女の話は、だいたいにおいて真悟が遊んでいるゲームと通じるものがある。

 ゲームの世界なので当たり前といえば当たり前なのだが、そうではない部分もあり、アリッサは注意をほどこすのを忘れない。


「敵のモンスターの攻撃を受けると、実際に身体にダメージを感じるから気をつけてね」


 真悟は、マリナに杖で殴られたオデコをさすった。


 ──たしかに痛かったな


 美希の表情が、ちょっと固くなる。


「そんなに痛いの?」

「いいえ、痛いというより『しびれる』といった方がいいかな」


 どうやら、そこまでたいした痛みを身体に感じることはなさそうだ。真悟を除くみんなはそう思い、安心するのだった。

 しかしアリッサは、みんなを油断させることはなかった。


「ただ、体力がゼロになるくらいの攻撃を受けると、気絶するほどのショックがあるわ」


 全員が顔をひきつらせる。さらに、次に話すアリッサの言葉が、真悟を驚かせた。


「それから、ひとりでも体力がゼロになると、ゲームオーバーよ」


 ふだん遊んでいるゲームとちがう点だ。


「ちょ、ちょっと待って、アリッサ」


 真悟は、ここではじめてアリッサの話に疑問を抱いた。


「死者を生きかえらすための『教会』とか、そういうシステムはないの?」


 真悟の話す「死者」というひびきに、武の顔が真剣な表情に変わる。


「死者って……体力がゼロになると、俺たちは死ぬってことか?」


 その場の空気が、一瞬で凍りつく。武のいったことを聞いたマリナと美希は、顔から血の気がひいてゆく。


 こういう雰囲気をやわらげるのも、アリッサのやるべきことだ。


「みんな、落ち着いて」


 みんなに死の恐怖を抱かせたまま、冒険をはじめることはできない。


「体力がゼロになっても本当に死ぬわけじゃないから、心配はいらないわ」


 武がホッとした顔をして、ため息をついた。


「なんだ、そうか。脅かすんじゃねえよ、真悟」


 美希は目をつりあげて、真悟に向かって憤る。


「びっくりしたじゃない!」


 マリナは軽蔑のまなざしで真悟を見ている。


「久松くんのイジワル」


 なぜか真悟が、やり玉にあげられる。


 ──いや、ぼくは……


 真悟がなにかを話そうとするまえに、アリッサが先に口をひらいた。


「ひとりでも体力がゼロになると、ゲームは終了。みんなは、もとの世界へ帰されるわ」


 アリッサはそういうと、真悟の方をふり向いた。


「あなたの遊ぶゲームなら、戦えなくなったキャラを蘇生するシステムがあるんでしょうけど」


 やはり、ちがうらしい。


「この世界では、そういうシステムは存在しないの。蘇生魔法もないわ」

「な、なんで?」

「たぶん、異次元の世界のルールに引っかかっているんだと思う」


 真悟には、よくわからない。異次元の世界にきたのははじめてだから、無理もない。


 アリッサが説明するには、こういうことだ。


 この異次元の世界は、死後の世界と同じ感覚でとらえることができる。

 例えば、真悟たち人間が自分たちの世界で命を失うと、死後の世界に向かう。その人間が死後の世界で、ふたたび命を落とすということは、ありえない。


「だから、この世界で死亡フラグが立ったときは、自然にもとの人間の世界へ帰されると思うの」


 アリッサは、「わかった?」といいながら首をかたむける。


 理解できるようでできないような、ただ、なんとなく納得のいく話ではある。


 アリッサはひととおり話し終えると、席を立った。


「じゃあ、さっそく冒険をはじめましょう。みんな、わたしについてきてね」


 彼らの本格的な冒険が、いま、はじまりを迎えるのだった。



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