アリッサ
不意にあらわれた少女の存在に、四人は呆然となった。
マリナは、ピンクのワンピースを着ているその少女の前までくると、腰を落として目線を等しくする。
「あなたは、だあれ?」
「わたし、アリッサ」
真悟の目が少女を見すえる。
──アリッサ……
その名前に聞き覚えがあると思った。それも、つい最近のことのような気がする。
確かに聞いたことがあると思うのだが、どこで耳にしたのかは思い出せない。
真悟だけでなく、ここにいる四人全員が、記憶の片隅にアリッサの名を置き忘れている。
アリッサは、ふわふわした栗色の髪をなびかせながら、みんなに向かって口をひらいた。
「あなたたちは、このゲームをクリアするために、ここへ呼ばれたのよ」
みんなの目が点になる。
美希はアリッサのそばまでくると、体をかがませて、アリッサの青い目を見て微笑んだ。
「えーと、もうちょっとわかりやすく話してくれないかな」
美希は、武を指さして言葉を続ける。
「あのお兄ちゃん、頭が悪いから、いきなりそういうことをいわれても理解できないの」
それを聞いた武は、右手の人差し指をビシッと美希に向けて声をはりあげるのだった。
「おまえも全然、理解できてねえだろうが!」
「うるさいわねっ」
真悟とマリナが、そういう二人を「なにいってるんだか」と思いながら見ている。
ともあれ、アリッサは美希の言葉に「わかった」というべく、くわしく説明するのだった。
少女の話は、真悟たちの生まれるまえに遡る。
いまから三十年前の夏、とある街でビル火災が起こり、多数の死傷者が出た。
その死傷者のなかに、「ナッツ」というゲーム会社の社員五人がふくまれていた。
彼らが作っていたゲームは、ほぼ完成した状態にあった。しかし、ゲーム会社「ナッツ」は火災後に倒産しており、このゲームは商品化にはならず、世に出ることのないままに終わる。
火災で亡くなったゲームクリエイターたち五人の魂は、その当時から異次元に漂流している。しかし、そんな彼らの無念の想いが、ある次元に異変を呼びこんだ。
彼らのいる次元とは別の次元に、このゲームの世界が現実のものとして存在することとなったのだ。
「それが、いま、あなたたちのいるこの世界よ」
にわかには信じられないアリッサの話に、みんなは声も出ず、石のように固まってしまう。
このゲームの世界を最後までクリアできなければ、ゲームクリエイターたち五人の魂は、魂本来の住処に帰ることができない。
そうなると、彼らはひたすら何百年、何千年と異次元空間をさ迷い続けることになるのだ。
話の途中で、美希が割り込んでくる。
「それじゃあ、いままでにもわたしたちのように、ここへ連れてこられた人たちがいるっていうの?」
「うん。もう何回もこの世界に人間を連れてきて、ゲームに挑んでるんだけど……」
アリッサの表情に陰りがさす。そんな彼女に、真悟が一歩、近づいた。
真悟は、アリッサに聞きたいことが山ほどある。そのうちの一つを、アリッサに投げた。
「ぼくたちは、なぜこの世界へ連れてこられたの?」
「このゲームの世界をクリアするためよ。さっき、いわなかった?」
「いや、そうじゃなくて。そうだけども」
マリナがよこから口をはさんだ。
「久松くん、頭わるい」
美希があとに続く。
「あんた、バカでしょ」
武も会話にのってくる。
「おまえ、バカだろ」
みんなから馬鹿だという目で見られる真悟は、かなり焦ってくる。
顔から変な汗を流しながら、どうすれば自分の伝えたいことを伝えられるのか、必死で考える真悟である。
「いや、ぼくがいいたいのは『なぜ、ぼくたちが選ばれたのか』ということなんだ」
アリッサが真悟の顔をじっと見る。
「けっして、適当に選んだわけじゃないのよ」
アリッサはそういうと、その小さくてかわいい指を武に向けて説明する。
「たとえば、赤い服を着ているこの人は攻撃力の強いキャラだけど、ただ強いだけじゃないの」
アリッサは視線を美希に移した。
「彼は幼いころから、そこの彼女を守るんだって、ずーっと思ってるんだよね」
武がドキッとする。
一瞬、唖然となった美希は、いたずらっぽい笑みを武に送るのだった。
「へー、守ってくれるんだ」
「う、うるせえっ」
まさか、こんなところで本心を暴露されるとは思ってもみなかった武は、顔が赤くなる。
アリッサはそんな武にかまわずに、美希の方を見ながら話を続ける。
「そこの彼女は、頭の回転がはやいうえに強運の持ち主なの」
美希は自分を指さしながら、目を丸くする。
「わたしが?」
次にアリッサは、マリナの方をふり向いた。
「白い服の彼女は、誰にでも優しくて、まわりの雰囲気を良いものにしていくわ」
だが、真悟はアリッサの言葉に対して疑問に思う。
──ぼく、杖で殴られたんだけどな
真悟は心の中で、そうつぶやくのだった。
武が美希を見ながら、素直な感想を口に出す。
「マリナちゃんは、おまえとは大ちがい……」
バゴッ
美希のパンチが、武の顔面にヒットする。この二人は、仲が良いのか悪いのか。真悟は不安を隠せない。
──このパーティー、こんなんで大丈夫だろうか?
真悟は不安な想いを顔に浮かべながら、アリッサにたずねた。
「アリッサ、ぼくはどうして選ばれたんだろう」
真悟は自分で思う。
「ぼくには、なにも取り柄がない」
これといった才能があるわけでもないし、なにをやっても中途半端に終わる。
自分でわかっているつもりだ。
アリッサは真悟の顔をじっと見つめる。
「あのね、今回ふたたび冒険をはじめることになったのは」
アリッサは、断言するようにその理由を伝えるのだった。
「あなたを見つけたからなのよ」
「ぼくを?」
「うん」
真悟は「なぜ?」と、不思議に思う。
「あなたは、この世界でみんなで戦っていくうえで、とても大事なものをもっているの」
アリッサにそういわれる真悟だが、自分では全然ピンとこない。
しばらくの沈黙のあと、美希がアリッサに話しかける。
「アリッサちゃん、あなたはどういうキャラクターなの?」
「わたしは、みんなの案内役よ」
ふつう、いきなりこの世界へ連れてこられた人たちは、どうすれば良いのかわからない。ゆえに、いまは魂だけの存在である五人のゲームクリエイターたちが、そういう人間たちの案内役としてアリッサを選んだのだ。
アリッサは、右手の人差し指を山の方へ向ける。
「まずは、あそこへ行きましょう。そこでいろいろと説明するわ」
アリッサはいうべきことをいうと、山に向かってトコトコと歩きだした。アリッサのあとを美希、マリナ、真悟そして武と続く。
真悟は、歩きながら思った。
──これがゲームなら、ならぶ順番が逆なんだけどな……
真悟は頭の中でブツブツとつぶやきながら、黙ってついて行くのだった。




