表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ローデス  作者: 左門正利
6/60

アリッサ

 不意にあらわれた少女の存在に、四人は呆然となった。


 マリナは、ピンクのワンピースを着ているその少女の前までくると、腰を落として目線を等しくする。


「あなたは、だあれ?」

「わたし、アリッサ」


 真悟の目が少女を見すえる。


 ──アリッサ……


 その名前に聞き覚えがあると思った。それも、つい最近のことのような気がする。

 確かに聞いたことがあると思うのだが、どこで耳にしたのかは思い出せない。


 真悟だけでなく、ここにいる四人全員が、記憶の片隅にアリッサの名を置き忘れている。


 アリッサは、ふわふわした栗色の髪をなびかせながら、みんなに向かって口をひらいた。


「あなたたちは、このゲームをクリアするために、ここへ呼ばれたのよ」


 みんなの目が点になる。


 美希はアリッサのそばまでくると、体をかがませて、アリッサの青い目を見て微笑んだ。


「えーと、もうちょっとわかりやすく話してくれないかな」


 美希は、武を指さして言葉を続ける。


「あのお兄ちゃん、頭が悪いから、いきなりそういうことをいわれても理解できないの」


 それを聞いた武は、右手の人差し指をビシッと美希に向けて声をはりあげるのだった。


「おまえも全然、理解できてねえだろうが!」

「うるさいわねっ」


 真悟とマリナが、そういう二人を「なにいってるんだか」と思いながら見ている。


 ともあれ、アリッサは美希の言葉に「わかった」というべく、くわしく説明するのだった。

 少女の話は、真悟たちの生まれるまえにさかのぼる。


 いまから三十年前の夏、とある街でビル火災が起こり、多数の死傷者が出た。

 その死傷者のなかに、「ナッツ」というゲーム会社の社員五人がふくまれていた。


 彼らが作っていたゲームは、ほぼ完成した状態にあった。しかし、ゲーム会社「ナッツ」は火災後に倒産しており、このゲームは商品化にはならず、世に出ることのないままに終わる。


 火災で亡くなったゲームクリエイターたち五人の魂は、その当時から異次元に漂流している。しかし、そんな彼らの無念の想いが、ある次元に異変を呼びこんだ。

 彼らのいる次元とは別の次元に、このゲームの世界が現実のものとして存在することとなったのだ。


「それが、いま、あなたたちのいるこの世界よ」


 にわかには信じられないアリッサの話に、みんなは声も出ず、石のように固まってしまう。


 このゲームの世界を最後までクリアできなければ、ゲームクリエイターたち五人の魂は、魂本来の住処すみかに帰ることができない。

 そうなると、彼らはひたすら何百年、何千年と異次元空間をさ迷い続けることになるのだ。


 話の途中で、美希が割り込んでくる。


「それじゃあ、いままでにもわたしたちのように、ここへ連れてこられた人たちがいるっていうの?」

「うん。もう何回もこの世界に人間を連れてきて、ゲームに挑んでるんだけど……」


 アリッサの表情に陰りがさす。そんな彼女に、真悟が一歩、近づいた。


 真悟は、アリッサに聞きたいことが山ほどある。そのうちの一つを、アリッサに投げた。


「ぼくたちは、なぜこの世界へ連れてこられたの?」

「このゲームの世界をクリアするためよ。さっき、いわなかった?」

「いや、そうじゃなくて。そうだけども」


 マリナがよこから口をはさんだ。


「久松くん、頭わるい」


 美希があとに続く。


「あんた、バカでしょ」


 武も会話にのってくる。


「おまえ、バカだろ」


 みんなから馬鹿だという目で見られる真悟は、かなり焦ってくる。

 顔から変な汗を流しながら、どうすれば自分の伝えたいことを伝えられるのか、必死で考える真悟である。


「いや、ぼくがいいたいのは『なぜ、ぼくたちが選ばれたのか』ということなんだ」


 アリッサが真悟の顔をじっと見る。


「けっして、適当に選んだわけじゃないのよ」


 アリッサはそういうと、その小さくてかわいい指を武に向けて説明する。


「たとえば、赤い服を着ているこの人は攻撃力の強いキャラだけど、ただ強いだけじゃないの」


 アリッサは視線を美希に移した。


「彼は幼いころから、そこの彼女を守るんだって、ずーっと思ってるんだよね」


 武がドキッとする。


 一瞬、唖然となった美希は、いたずらっぽい笑みを武に送るのだった。


「へー、守ってくれるんだ」

「う、うるせえっ」


 まさか、こんなところで本心を暴露されるとは思ってもみなかった武は、顔が赤くなる。

 アリッサはそんな武にかまわずに、美希の方を見ながら話を続ける。


「そこの彼女は、頭の回転がはやいうえに強運の持ち主なの」


 美希は自分を指さしながら、目を丸くする。


「わたしが?」


 次にアリッサは、マリナの方をふり向いた。


「白い服の彼女は、誰にでも優しくて、まわりの雰囲気を良いものにしていくわ」


 だが、真悟はアリッサの言葉に対して疑問に思う。


 ──ぼく、杖で殴られたんだけどな


 真悟は心の中で、そうつぶやくのだった。


 武が美希を見ながら、素直な感想を口に出す。


「マリナちゃんは、おまえとは大ちがい……」


 バゴッ


 美希のパンチが、武の顔面にヒットする。この二人は、仲が良いのか悪いのか。真悟は不安を隠せない。


 ──このパーティー、こんなんで大丈夫だろうか?


 真悟は不安な想いを顔に浮かべながら、アリッサにたずねた。


「アリッサ、ぼくはどうして選ばれたんだろう」


 真悟は自分で思う。


「ぼくには、なにも取り柄がない」


 これといった才能があるわけでもないし、なにをやっても中途半端に終わる。

 自分でわかっているつもりだ。


 アリッサは真悟の顔をじっと見つめる。


「あのね、今回ふたたび冒険をはじめることになったのは」


 アリッサは、断言するようにその理由を伝えるのだった。


「あなたを見つけたからなのよ」

「ぼくを?」

「うん」


 真悟は「なぜ?」と、不思議に思う。


「あなたは、この世界でみんなで戦っていくうえで、とても大事なものをもっているの」


 アリッサにそういわれる真悟だが、自分では全然ピンとこない。

 しばらくの沈黙のあと、美希がアリッサに話しかける。


「アリッサちゃん、あなたはどういうキャラクターなの?」

「わたしは、みんなの案内役よ」


 ふつう、いきなりこの世界へ連れてこられた人たちは、どうすれば良いのかわからない。ゆえに、いまは魂だけの存在である五人のゲームクリエイターたちが、そういう人間たちの案内役としてアリッサを選んだのだ。


 アリッサは、右手の人差し指を山の方へ向ける。


「まずは、あそこへ行きましょう。そこでいろいろと説明するわ」


 アリッサはいうべきことをいうと、山に向かってトコトコと歩きだした。アリッサのあとを美希、マリナ、真悟そして武と続く。

 真悟は、歩きながら思った。


 ──これがゲームなら、ならぶ順番が逆なんだけどな……


 真悟は頭の中でブツブツとつぶやきながら、黙ってついて行くのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ