仲間たち
数分後──仰向けに寝ている真悟に、マリナが声をかける。
「久松くん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫。ありがとう雪本」
真悟は「きずぐすり」のラベルを貼ったドリンクをマリナにもらい、それを飲んで回復することができたのだった。
あとで気づいたが、真悟のコートのポケットにも、ひとつ入っている。
真悟が上半身を起こしてマリナに礼をいうと、踊り子スタイルの女性が呆れた顔をする。彼女もマリナと同じように、流暢な日本語を話す。
「こんなことで鼻血を出すなんて、純情ねえ」
真悟のかわりに応じたのは、彼女の連れの男だ。
「いや、あれはかなり刺激が強かったぞ」
すると、マリナが二人の会話に「あの」と割り込んでくる。
「おふたりは、どちら様でしょうか?」
踊り子と思える彼女が、思い出したようにいった。
「そういえば、まだ名前も知らないままだったわね」
さっそく、赤い空手着の男が己を名のる。
「俺は日野武、辺賀高校二年の空手部だ」
彼の名前を聞いて驚いたのは、マリナだった。
「日野武!」
マリナは目をみはりながら、武に問いかける。
「辺賀高校の日野さんって、たしか前回の空手地区大会決勝戦で、惜しくも反則負けとなった、あの日野さんですか?」
「おおっ、俺のこと知ってるの!」
武はうれしそうにマリナに微笑んだ。
真悟は不思議に思う。
──なんで雪本が、そんなこと知ってるの?
武の連れの女性が、マリナにたずねた。
「あなたも高校生?」
「いえ、わたしは織音中学の二年生で、雪本マリナといいます」
それを聞いた武が、真悟に顔を向ける。まっすぐで曲がったことが大きらいな性格が、その黒い目にあらわれているようだ。
武は真悟の顔を見るなり、口をひらいた。
「ということは、おまえも中坊か?」
「はい。ぼくは雪本のクラスメートで、久松真悟です」
真悟は、リアルでの武の顔をまったく知らない。しかし、この世界で見る武の精悍な表情は、リアルの武と変わらないような、そんな気がする。
自己紹介が終わった真悟は、まだ名のっていない女性を指さして、武にたずねた。
「あの人は、日野さんの彼女ですか?」
武ではなく、その女性があわてて答える。
「ちがうわよ!」
両手を腰にあてて怒った顔をする彼女は、かなり気が強い性格のようだ。
「武とは、ただの幼なじみなのっ」
武が、そういう彼女を紹介する。
「こいつは枝川美希といって、俺と同じ辺賀高校だ」
「わたしも二年生だけどね」
「美希は、俺のクラスの学級委員長だよ」
それを聞いた真悟が、大きく叫んだ。
「学級委員長!」
「なによ」
美希が不機嫌な顔をして、眉をよせる。
ふたたび、真悟が叫んだ。
「学級委員長!」
「な、なによっ」
美希は、自分が学級委員長をするのがそんなに悪いのかと、顔をしかめる。
真悟は美希を指さし、彼女ではなく武に訴えた。
「学級委員長が、あんなエロい格好をしていいんですか?」
武は、すぐには言葉が出てこない。彼は胸のまえで腕を組み、じっと美希をながめる。
しばらく黙っていた武は、首をちょっと左にかたむけながら、つぶやいた。
「確かに、そうだよなあ」
憤る美希が、声をはりあげる。
「好きでこんな格好してるんじゃないわよっ。あんたたちだって、そうでしょ!」
美希の声に、武が答える。
「俺はこの格好きらいじゃないぞ、美希」
武のあとに真悟も続く。
「ぼくもです」
武と真悟は、いま自分が着ている服をけっこう気に入っている。
武は、ムスッとしている美希にかまわず、真悟の方をふり向いていった。
「この服、カッコイイよな。ええと、誰だっけ?」
「久松です」
「いや、下の名前で呼びあおうぜ」
「真悟です」
思ったよりもフレンドリーな先輩だ。そんな武は、マリナの方へ視線を移した。
「あの子は、マリナちゃんだよな」
それを聞いた真悟は、口には出さずに思うのだった。
──ぼくの名前は忘れても、雪本の名前はしっかり覚えてるんですね……
自己紹介が終わると、真悟はまわりをキョロキョロと見渡し、誰にいうでもなくつぶやいた。
「ここは、どこなんだろう?」
すると真悟の後ろから、女の子の声が伝わってくる。
「ここは、ゲームの世界よ」
「やっぱりゲームの世界……て、え?」
真悟が驚いて背後をふり向くと、いつの間にか自分のすぐそばに、小学一年生ぐらいの女の子が立っている。
少女は真悟の顔を見て、ニコッと微笑んだ。




