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ローデス  作者: 左門正利
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約束

 その後──美希が両手を頭のうしろで組みながら、ブスッとした顔で聞こえよがしにいい放つ。


「ホントにもう、情けなくて言葉もないわ」


 美希のあとを、下を向きながらトボトボと歩いている真悟と武は、美希にかえす言葉もない。


 前回の戦いは、結果としては勝つには勝った。美希とマリナが、鼻血を吹き出す真悟と武をほったらかしにして、メタボなカエルをど突きまわした。

 敵のHPがゼロになるまでそれを繰り返して、勝つことができたのだった。


 彼女たちが戦っている間、鼻血を出すしかなかった真悟と武は、男子の面目丸つぶれである。

 美希が、女を守れない男は無用とでもいうように、吐きすてる。


「全然、役に立たないんだからっ」


 カチンときた武は、右手の人差し指をビシッと美希に向けると、声をはりあげた。


「おめえの技は、味方にもダメージを与えるんだよ!」


 真悟がビジネス口調で、武に続く。


「サマーソルトキックは封印していただきますよう、よろしくお願いいたします」


 美希が眉をよせる。


「わかったわよ、もうっ」


 彼らの不毛な会話をいさめるかのように、アリッサが美希に声をかけた。


「よく、あのスキルを出せたわね」

「え、なに?」

「本当なら、サマーソルトキックはまだ出せないんだけど」

「なんで?」

「いまのあなたのレベルでは、SPが全然たりないの」


 モンスターとの戦いを積み重ねることで、みんなのレベルは上がってゆく。レベルが上がると、HPそしてSPも増えて、新たなスキルを覚えるようになる。


 以前に修得したスキルより強力なスキルを覚えることになるのだが、その分、消費するSPも多くなる。


 本来、サマーソルトキックは、もっとレベルが上がらないと修得できない技である。

 さらに、いまの美希では、サマーソルトキックのスキルを発動しようにも、SPが全然たりないはずなのだ。


 アリッサは、美希がいまの段階では修得できないスキルを覚え、SPがたりないのにそのスキルを発動できることに、やはり違和感を覚えざるをえない。


 真悟がアリッサの顔をのぞきこむ。


「ひょっとして、バグでも起きているの?」

「そうかもしれない」


 くわしいことはわからない。


 武が、なにも考えてなさそうな顔でいった。


「まあ、俺たちに不利にならないのなら、それでいいんじゃねえの」


 彼らの潜在的な能力が、いままでの冒険者たちにくらべると、はるかに高いのは確かだ。


 ──そういうことも、あるかもしれない


 アリッサは無理に己を納得させて、レトロットの町に足をふみ入れるのだった。



 レトロットは、おっとりした田舎町である。

 しばらく歩いていると、NPC──ノン・プレイヤー・キャラクターである三人の主婦たちが、なにやら噂話をしている所に出くわした。


 みんなは、話をしている主婦たちのそばに歩みよる。真悟がみんなを代表する形で、彼女たちの話に割り込んでゆく。


「すみません、なんの話をしているんですか?」


 主婦のひとりが答える。


「ムーレンさんの孫が、キノッコ村から帰ってこれないらしくてね」

「どういうことですか?」


 彼女たちの話によると、ムーレンさんの孫であるムーファンという男の子が、キノッコ村に向かったという。

 パナンというおじいさんの家にお使いに行ったらしいのだが、その家のなかに入ったきり、家のまわりをモンスターたちが取り囲んでいるらしい。


 ムーファンは、その家から一歩も外へ出ることができないみたいだと、彼女たちは話すのだった。


 次にやるべきことが、なんとなく予想できる真悟である。


「ムーレンさんの家はどこに?」

「あっちよ」


 主婦たちは、噂の中心となっている家の方向に指をさしながら、そういった。

 彼女たちに「ありがとうございます」とお礼をする真悟に、美希が話しかけてくる。


「次は、ムーレンさんのおうちに行けばいいのね」

「そうです。じゃあ、行きますか」


 真悟たちは、ムーレンさんと呼ばれるおばあさんの家に向かうのだった。



 すれちがう人たちに話を聞きながら、くわしい場所をつきとめた真悟たちは、どうにかムーレンさんの家にたどり着いた。

 小さなログハウスの赤い屋根が、よく目立つ。


「やっと着いたわね」


 美希がそういって、ドアをノックする。ガチャッとドアが開くと、小柄なおばあさんが顔をのぞかせる。


 この人が、ムーレンさんらしい。あまり顔色がよくない。


「どちら様でしょうか」


 声に力のない彼女に、真悟が答える。


「旅の者です。お孫さんが帰ってこれないという噂を聞いたので、力になりたいと思いまして」

「そうですか、どうぞなかへ」


 みんなは家のなかに入らせてもらった。客人用の椅子は二つしかなく、マリナと美希がその椅子に座る。


「キノッコ村に、わたしの知人でパナンというおじいさんが、おるのじゃが……」


 そう切り出したムーレンさんの話は、ここへくるまでに耳にした噂話とちがわない。

 だが、それ以降、なにか進展があったようである。


「警備隊の人と町の有志たちが、十五人ぐらいでパナンじいさんの家に行ったんじゃ」


 美希が「それで?」と、ムーレンさんに話の続きをうながす。


「ある程度の怪物は、やっつけたようなんじゃが」


 そこまで話したムーレンさんは、がっくりと肩を落とした。


「こちらもケガ人続出だという連絡が、先ほど入ったばかりでのう」


 武が、ニマッと笑みを浮かべる。


「わかった。俺たちにまかせてくれ」


 しかし、パナンじいさんの家がどこにあるのかわからなければ、話にならない。

 真悟が身をのり出すようにして訊いてみる。


「お孫さんが向かったというパナンさんの家は、どこにあるんですか?」

「北ですじゃ。町を出て北へ進めば、キノッコ村に着きますじゃ」


 ムーレンさんが教えてくれた話では、パナンというおじいさんの住んでいる家は、キノッコ村の入り口から見える場所にあるらしい。


 武が、心配いらないという顔をムーレンさんに向ける。


「あんたの孫を、必ず連れて帰るよ」

「お願いしますだ」

「約束するよ」


 真悟たちは、ムーレンさんの家を出てキノッコ村をめざす。


 美希が頭のうしろで手を組むと、みんなに聞こえるような声で、ひとり言をつぶやいた。


「これで、もう安心ね」


 真悟は思う。確かに、いままでの敵は余裕でやっつけることができた。

 しかし今度の敵は、おそらくミッションが絡んでいるため、そう簡単には倒せないだろう。


 たぶん、ムーファンをキノッコ村からぶじに連れて帰ることが、今回のミッションである。

 ミッションクリアにあたり、これまでにない強いモンスターが、自分たちを待っているにちがいない。


 ──このゲームの、最初のボスが出てきそうだな


 そう考える真悟は、美希のように楽観的にはなれない。


 不意に、美希が真悟の方をふり向いた。真悟は一瞬、ギクッとする。

 まるで、真悟が思っていることを鋭く察知したかのようだ。


 美希は平然とした顔で、真悟にいうのだった。


「武はね、自分から交わした約束を破ったことは、一度もないのよ」





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