復活したローデス
魔物は真悟たちの存在に気がつくと、バッとふり返った。
みんなは、その敵が牛のような顔であることに驚いた。体型は、人間というよりゴリラを直立させた感じで、胸板が異様に厚い。足は短いが、かなりがっしりとしている。
全身が、薄汚れたような黒っぽい毛でおおわれ、鋭くとがったしっぽが、この敵が非常に危険な生物であることを知らしめているようだ。
魔物が真悟たちに向かって、野太い声をあげる。
「貴様ら、彼の地の民族か?」
彼の地──ザノーアのことをいっている。
武が射るような目で魔物をにらんだ。
「この倒れているモンスターどもは、おまえの仲間じゃねえのかよ」
魔物は、鼻で笑った。
「フフン、仲間だと? こいつらは、我が復活のための餌にすぎない」
モンスターどもは真悟たちの敵とはいえ、魔物の言葉に虫酸がはしる。
牛のような顔をしたその口が、ほくそ笑むように歪んだ。
「ちょうどいい。おまえたちの魂も、我が力の糧にしてやろう」
武が声をはりあげる。
「できるもんなら、やってみろ!」
みんなは戦闘フィールドに移行する。
瞬く間に戦いがはじまった。武も桃子も、最初からスキル攻撃で飛ばしてゆく。
美季のエンチャントスキルで彼らの攻撃力はアップし、真悟も魔法攻撃でたたみかける。
絶大な威力の技が、魔物につけ入る隙を与えることなく炸裂する。
魔物は、拍子ぬけするほど簡単にやっつけられた。
武が、肩すかしを食らったような顔になる。
「思ったよりも、あっけなかったな」
そういう武に、真悟は警鐘を鳴らすように注意を施すのだった。
「まだです」
みんなが真悟の方をふり向いた。桃子が真悟にたずねる。
「どういうことだ?」
「復活します。まだ死んでない」
その言葉どおり、ゼロになったはずの敵のHPが、あっという間に満タンになる。
倒れていた魔物はゆっくりと起き上がると、胸をはるように両腕を一気に開いた。
衝撃波が真悟たちに襲いかかる。それに耐えたみんなが魔物に目を移したとき、魔物の姿は変貌していた。
牛かと思った顔は、悪魔を彷彿とさせるようなゲッソリとした禍々しい顔になり、身体全体が余分な筋肉を削いだように細くなっている。
その背中から、三匹の巨大な蛇が頭を出している。左から緑色、黄色、赤茶色の蛇が目を光らせながら、真悟たちをにらんでいる。
身体が細いわりには手が大きく、そこからのびる爪が、この魔物の残虐性を訴えているようだ。しっぽが鋭くとがっているのは、変身するまえと変わらない。
全体的に紫色をおびた灰色の身体が、やはり異世界の存在だからか、この世界にいまひとつ馴染んでいない。だが、明らかに強くなったことだけは、うかがえる。
武が、思いついたように声に出した。
「アリッサが伝えたかったのは、このことか!」
美季も桃子も、そしてマリナも納得するが、真悟は妙に引っかかる。
──ちがうような気がする……
最後のボスが、倒されたあとに復活するのは、真悟の遊ぶゲームではお約束というほどの常識だ。
ただ、今回の敵は、ひたすら攻めるだけでは攻略できない感じがする。
真悟は懸念する。アリッサは、みんなに告げていた。「強さという一点においては、魔物よりもアールドットの方が強いでしょう」と。
強さ以外に、なにかある。真悟は、それがどうにも引っかかるのだ。
魔物が、地の底からひびくような声を放った。
「貴様ら、彼の地の民族ではないな」
真っ黒な空気が渦巻くような不気味な雰囲気が、じわじわと漂ってくる。
「もしや、おまえたちは」
魔物は気づいた。
「我と同じ、ローデスか?」
口元にいびつな笑みを浮かべた魔物は、ギラッと目を輝かせた。
「おもしろい。このゾルダーナと貴様ら、どちらが最強のローデスか試してみようではないか」
桃子が冷静沈着な声で応じる。
「そんなことに、興味はない」
ローデスの魔物ゾルダーナは、桃子の言葉を無視して第2ラウンドの火ぶたをきるのだった。
「一人のこらず、亡き者にしてくれる!」
ゾルダーナの本格的な攻撃がはじまった。鋭い爪が、真悟たちを引き裂くように襲ってくる。それをマリナのバリアが、どうにか防いだ。
敵の背後にいる赤茶色の蛇の口から、火炎が放射される。これも防御したものの、その直後にバリアがパキーンと砕け散る。
武と桃子がスキル攻撃で攻めるが、まったくダメージを与えられない。真悟の魔法攻撃も、完璧に弾き返された。
ゾルダーナは空中に飛び上がると、みんなに向かって蹴りを放った。ゴムのように長くのびる足が、真悟たち一人一人を確実にとらえようとする。その攻撃は、マリナが急いで発動したバリアに阻まれる。だがバリアにヒビが入り、耐久がもたない。
敵の攻撃力は、かなり強力で凄まじい。確かにアールドットほどではないが、いままで戦ってきたミッションのボスクラスの敵とくらべると、その強さは桁違いだ。
また、防御も完璧で、真悟たちはゾルダーナに全然ダメージを与えることができないまま、同じパターンを何度も繰り返す。
緑色の蛇だけは、いくぶんダメージを与えられるが、ゾルダーナには回復スキルがあり、結局はもとの木阿弥となる。
真悟の懸念が現実味を帯びてくる。やはり、ただ攻めるだけでは、この敵は倒せない。
みんなもだんだん焦ってきている。武が真悟に向かって大きな声を出す。
「真悟、俺たちはどう戦えばいいんだ!」
「少し時間をくださいっ」
武にそう答えたものの、なにをどうすれば良いのかさっぱりわからない。
攻略の糸口は、どこにあるのか?
真悟は、まず敵をよく見ることにした。
──いままで戦ってきたモンスターと、なにがちがう?
大きなちがいは、やはりゾルダーナの背後にいる三匹の蛇だろう。
それらの蛇は、ときおり目を一瞬だけ光らせ、赤茶色の蛇がゾルダーナとともに、バリアがもたないほどの強力な攻撃をしてくる。
だが、左側にいる緑色の蛇と真ん中の黄色い蛇は、まったく攻撃してこない。
そして敵の防御が、やたら硬い。こちらの攻撃が、まったく通じない。
攻撃してこない蛇……一瞬だけ光る目……強力な攻撃……そして異様に硬い防御……。
──もしかすると
真悟は、武たちが戦う様子をじっと見る。
すると、あることに気づいた。蛇の目が光るときには、ある種の法則のようなものがある。
それを数回、確認したとき、真悟は確信した。
「わかった!」
この敵を倒すには、手順がある。それが、アリッサの伝えたいことだったのだ。




