決着
美希が、ふたりの女子に声をかける。
「マリナ、桃子」
呼ばれた彼女たちは、美希の方をふり向いた。
美希は彼女たちに目を向けると、意味ありげに微笑むのだった。
「頼んだわよ、あんたたち」
そういった後、必殺スキルの名称をとなえる。
「エンジェル・プロミネンス!」
美希の服が、ダンスの衣装に変わる。赤と黒の色彩が入りまじり、スカートはひらひらして長く、足にはストッキングを履いている。
そういう姿に変わったのは、美希だけではなかった。
マリナも桃子も、身に着けている装備が、美希と同じ衣装に変化する。
こうなることを、まったく予期していなかった桃子の目が丸くなる。
「み、美希、これは?」
美希を真ん中に、その両脇を桃子とマリナが占める。すると、「天国と地獄」の曲が流れてくる。
美希はもとより、桃子もマリナも自然に身体が動きだす。
三人娘が音楽に合わせて踊るのは、カンカンダンスだ。
三人そろって息をあわせるように、スカートを両手にもって左右にひるがえし、足を高く上げる。
以前から何度も述べているが、彼女たちは下着をまったく身に着けていない。
武が冷や汗を流しながら、心の底から思った。
──真悟が、あいつらの前にいなくて、本当に良かったぜ……
冗談ではない。もし、真悟が彼女たちの前にいれば、彼らの冒険は終止符を打たれ、終わりを迎えたことだろう。
アールドットは彼女たちの踊るダンスを呆然となって見ていたが、ハッと我にかえると、のこり少ない魔力で彼女たちを蹴散らそうとする。
「なんのつもりかわからぬが、わが魔法で……っ!」
魔法が使えない。魔力を封印されている。しかも、封じられたのは魔力だけではなかった。
「か、身体がっ?」
身体がジンジンとしびれ、まったく動くことができない。身体の自由までが奪われている。
美希の満タンになったSPを全消費する必殺スキルは、桃子とマリナが加わることによって、その幻術効果が三倍にはね上がっている。
さすがのアールドットも、究極奥義の魔法を放って疲れがピークに達している状態では、いまの美希たちによる幻術スキルを弾き返せない。
いまやアールドットは、美希たちのカンカンダンスをおとなしく見ているだけの、ただの観客にすぎなかった。
危うい予感が、アールドットの頭をよぎる。そして、その予感は的中するのだった。
美希たちのダンスがフィニッシュを迎える。彼女たちはアールドットに背を向けると、スカートをバッとひるがえした。
激烈なウェイブキャノンが、アールドットに襲いかかる。アールドットは、まるで砲弾の直撃を食らったかのように吹っ飛んでゆく。
「ぐああああっ!」
この一撃で勝負はついた。みんなは戦闘フィールドから、パナンじいさんの家のなかへもどる。
それと同時に、みんなのレベルが上限まであがる。この戦いで、真悟たちは最高レベルに達したのであった。
テーブルが壁際までひっくり返され、椅子があちこちに倒されている部屋で、アールドットはパナンじいさんの姿に変わり、床に仰向けに倒れている。
マリナが彼のもとへ急ぐ。彼女は、倒れているパナンじいさんを抱きあげた。
「ごめんなさい。おじいさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……あいたたた」
いつものパナンじいさんだ。
「お嬢ちゃんは、優しいのう」
そばまできた美希が、不思議そうな目をしてパナンじいさんにたずねた。
「なんで、おじいちゃんの姿にもどっちゃうの?」
彼は、困ったような顔をして答える。
「魔道士のままだと、まわりのみんなに威圧感を与えてしまうようなんじゃ。自分ではわからんが、かなりの圧力を感じるらしいのじゃよ」
真悟たちには、よくわかる。あれほどの威圧感を味わうことは、リアルの世界へ帰っても、おそらく二度とないだろう。
マリナが、パナンじいさんを抱きかかえながらいった。
「おじいさん、ザノーアへ帰りましょう」
ザノーア最強の魔道士である彼は、その顔に困惑と悲しみをたたえている。
「ザノーアの民は、わしをゆるしてくれるだろうか」
「大丈夫ですよ」
「わしは……」
「大丈夫」
マリナは、ギュッとパナンじいさんを抱きしめる。
彼は、久しく触れたことのない愛と呼ぶに等しい温もりに、涙がこみあげてくるのだった。
やがて、パナンじいさんは立ち上がる。
「さて、ザノーアへ帰るとするか……」
彼はそういうと、両手の掌を合わせて目を閉じる。数秒後、パナンじいさんとまったく同じ姿をした分身があらわれた。
「この家は、わしの分身にまかせれば良いじゃろう」
帰る準備をしっかり整えたパナンじいさんは、部屋のドアを開ける。
外へ出ると、パルモが待っていた。
彼女は、パナンじいさんの前でひざまずく。そんな彼女に、パナンじいさんが声をかける。
「パルモか。久しいのう」
「はい」
「おぬしには、わしのせいで要らぬ苦労を背負わせてしもうたのう」
「いえ、国王様」
パルモは顔をあげる。その目には、涙があふれている。
「今日という日を、どれほど待ちわびたことでしょう」
パルモは立ち上がると、魔法陣を出現させる。
「国王様、まいりましょう。みなさまも、いっしょにどうぞ」
みんなは、パルモの魔法陣のなかに入った。亜空間トンネルの出口は、以前と同じザノーアの草原である。
桃子が、思っている疑問をパルモにとなえる。
「なぜ、王女の部屋に直接行かないんだ?」
それに答えたのは、パナンじいさんだった。
「パルモの魔法陣に便乗して、ザノーアの要所へ、のり込もうとする輩がおらんとも限らんでの」
ゆえに、ワンクッションおいて、異常がないかをこの場所で確認するわけである。
「なるほど、わかった」
桃子が納得すると、パルモはふたたび魔法陣を出現させる。
今度の出口はザノーアの城、王女の部屋だ。王女エルレアは、パナンじいさんを見るなり駆けよってくる。
「お父様!」
エルレアは、お年寄りの姿をした父親に会うなり、ギュッと抱きしめた。実に百年ぶりの再会である。
父親である彼は、もうしわけなさそうに娘に向かって口をひらいた。
「すまんのう、エルレア。おまえには、しんどい思いをさせてしもうた」
「いいえ、お父様」
歓喜の涙が、エルレアの頬をつたう。
「この日がくるのを、信じておりました。わたしだけではありません。ザノーアの国民みんなが、お父様を待っていたのです」
「すまなかったのう、エルレア」
エルレアは、父を誘う。
「お父様、こちらへ」
彼女は父親を連れて、部屋からバルコニーへ出る。
そして、テレパシーでザノーアの全国民に、国王の帰還を伝えるのだった。それは、真悟たちの頭の中にも聞こえてくる。
『ザノーアのみなさん、わが国王アールドットが、ザノーアへ帰ってきました』
結界が張られた城のまわりに、ザノーアの民が魔法陣を通じて集まり、歓声があがる。
パナンじいさん──もといアールドットは、国民に向けて、己の意思をテレパシーで伝えるのだった。
『ザノーアの全国民よ、すまなかった。みんながわしを受け入れてくれるのであれば、わしはふたたび全国民のために、国王としての責務を果たそう』
ザノーアの城が、歓喜の渦に包まれる。
国王アールドットの帰還により、ザノーアは百年ぶりに、本来あるべき体制にもどるのであった。




