最強の魔道士
戦闘フィールドである亜空間は、戦場の跡地だった。
目の前にいる最強の魔道士アールドットの姿が、この荒れ野原にあまりにも似合いすぎる。
みんなは、すぐにピンときた。この場所こそ、ザノーアの国王アールドットが、ローデスの魔物と戦った場所なのだ。
悲壮感が漂う雰囲気のなか、武が勇んでアールドットに先制攻撃をかける。
「おりゃあっ」
小手調べの直進突きは、なんなくガードされ、通常攻撃程度のダメージしか与えられない。
続いて桃子も三段攻撃で攻めるが、これも当たり前のようにガードされる。
アールドットは左腕を右肩までまわし、身体を右にひねる。そして身体をひらくと同時に、左腕を外側に払うように、ふりまわした。
マリナが素早くバリアを張る。燕の形をした多数のエネルギー弾が、光を発しながらこちらに向かって飛んでくる。
ガキキーンと、バリアがアールドットの攻撃を防いだ。
真悟が魔法攻撃で攻める。アールドットに命中したが、それほど威力の高くない魔法とはいえ、ほとんどダメージを与えられない。
やはりザノーアの民族は、魔法に対して非常に強い耐性がある。
相手に探りを入れるような序盤の攻防が終わると、戦いは徐々にヒートアップしてくる。
美希は苦心する。アールドットほどの強敵になると、敵を眠らせたり麻痺させたりする幻術スキルが、さっぱり効かなくなる。
使うなら、エンチャントスキルしかない。だが、エンチャントスキルはSPの消費が激しく、考えて使わないと大事なところでSPが空になったまま、なにもできずに終わってしまう恐れがある。
SPを補充するスキルバーも、無限にあるわけではない。武や桃子にしても、ここぞというときにSPが足りなくて必殺技が出せないと、敵を倒すどころか、こちらの方が全滅になる危険がある。
真悟は真悟で、考えあぐねる。自分の攻撃が、思った以上にアールドットには通用しない。
──ぼくは、どうすればいい?
時間が経つにつれ、真悟は己の無力さを思い知らされる。
同時に、アールドットの攻撃が激しくなってくる。
それでも武と桃子が、がんばってアールドットの体力を半分以下まで削った。
だが、アールドットが己自身に気合いを入れると──
「ハアッ」
体力が、一気に九割まで回復する。いままでの苦労が、水泡に帰した。
心が折れそうになる。だが、ザノーアの王女の願いをかなえるために、落ち込んではいられない。
それにしても、やはり国王をつとめていたほどの魔道士である。強さが半端ではない。
ここまでの戦いで、彼はまだ本気を出してはいないのだ。それは、真悟たちにもわかる。
五人を相手に戦っているアールドットからは、余裕さえ感じられるのだ。
長期戦になると、スキルバーがたりなくなるので、できるだけはやく倒したい。しかし、この強敵を倒すにしても、突破口が見つからない。
真悟の胸に、不安が渦巻く。
──まずい。これは……
勝てる要素が、ないに等しい。美希の幻術スキルが効果を発揮すれば、まだ勝ち目はあるのだが、アールドットにはいっさい通用しないのだ。
彼らの戦闘が、佳境に入る。アールドットが感心したような面もちで、真悟たちに言葉を放った。
「なかなかやるな、ラディストスの勇者よ」
「………」
「おぬしたちに恨みはないが」
みんなの表情が厳しくなる。
「そろそろ終わりにしよう」
ここからが、真の戦いだ。アールドットが本気を出してくる。
「ゆくぞ」
上下に開いた左右の腕を、円を描くようにゆっくりとまわす。胸のまえでクロスさせると、バッとよこに開いた。
次に、両手の掌でなにかをはさむように、胸のまえでビタッと止める。
掌と掌のあいだに、エネルギーを凝縮した球体があらわれ、光を放っている。アールドットの両腕は、渾身の力をこめているように震えている。
突然、アールドットの身体が真っ赤な炎に包まれる。
真悟に戦慄が走る。
──くるっ!
アールドットが、究極魔法の名をとなえた。
「ギガ・フィアンマ!」
百年前、ローデスの魔物を葬り去った必殺技である。
アールドットが凝縮していたエネルギーの球体が、火炎弾となって発射される。
マリナが発動したバリアが、受け止めきれない。バリアが破壊されたうえに、真悟たちは多大なダメージを被った。
彼らは、けっして油断していたわけではなかった。だが、すぐさま第二段の火炎弾が迫ってくるのは、みんなの頭にはなかった。
マリナのバリアが間に合わない。というより、いまの彼女はまったくの無防備だ。
真悟が悲痛な声をあげる。
「雪本っ!」
桃子が、すかさずマリナの前に移動する。桃子には自らが強力な盾となり、仲間の一人を無傷で守るスキルがある。
みんなは防御に徹っした。次なる火炎弾もまた、強烈だった。
真悟も武も、また桃子も、体力が一気にレッドゾーンに突入する。
そして美希は──
「きゃあああっ」
みんなが美希の方をふり向いた。美希の体力は、レッドゾーンからさらにゼロを目指している。
武が叫んだ。
「美希!」
そのとき、パキーンという音がひびいた。美希の首にかけてあるペンダントの透明な石が、はじけるようにバラバラに砕け散ったのだ。
ラーゼからあずかった守護石が、美希を守ったのである。美希は、どうにか命を救われたのだった。
マリナが急いでみんなの体力を回復させる。だが、アールドットの攻撃は、これで終わりではなかった。
真悟たちは驚愕する。
「ま、まだあるのか?」
アールドットをまとう炎が、彼を中心にぐるぐると回転している。それは、ただまわっているだけではない。炎が回転することによってエネルギーを凝縮し、さらに凝縮しきれない絶大な破壊のエネルギーが、周囲に流れている。
ザノーアの同胞の多くは、アールドットのまわりにだだ漏れるような、この破壊エネルギーにより、命を失ってしまったのだ。
真悟たちはじっとしていても、どんどん体力が削られてゆく。
アールドットが、真悟たちに告げる。
「さらばだ」
最大出力の火炎弾が、猛獣の形となって真悟たちに襲いかかる。
真悟の頭に、ひとつの考えが浮かんだ。
──ぼくの魔法で、あの攻撃を相殺するんだ!
だが、真悟とアールドットでは、魔法エネルギーの差は歴然としている。はたして、アールドットの攻撃を、真悟の魔法で相殺することができるのか。
いや、不可能だとしても、やるしかない。
ここで、美希が機転をきかすように、真悟に攻撃力倍増のエンチャントスキルをかける。
真悟がスキル攻撃を発動する。攻撃力が倍になった魔法攻撃アクア・ローザが、アールドットの猛獣に扮した火炎弾にぶつかってゆく。
ズドドーンと、凄まじい轟音がひびきわたる。もくもくと煙が立ちのぼるなか、佇んでいるのはただひとり、アールドットだった。
「終わったな……ゆるせ、ラディストスの勇者よ」
彼は哀れな目をしてそういうと、踵をかえす。次の瞬間、まさかと思うことが起きた。
「ゲホッ、ゴホッ」
アールドットがその声に驚いてふり向くと、晴れてゆく煙のなかで、ひざまづいている五人の影が見える。
その影は、ゴホッ、ゴホッと咳をしながら、ゆっくりと立ち上がるのだった。
「ば、馬鹿な!」
信じられない現実を目の当たりにしたアールドットは、思わず声に出す。
「あの攻撃を受けて、まだ生きてるだと? あり得ん!」
確かに、魔力の大半を費やした彼の究極奥義は、想像を絶する威力だった。真悟たちは気絶する寸前まで体力を奪われて、いまや虫の息である。
マリナが気力をふりしぼり、みんなを全回復する。
驚愕して唖然となっているアールドットに、スキルバーをかじってSPが満タンになった美希が告げる。
「今度は、わたしたちの番よ」
彼女には、とっておきの必殺スキルがあった。




