説得
真悟たちは、パルモの魔法陣からタケノッコの村に舞い降りた。
パルモがみんなに頭をさげる。
「どうか、よろしくお願いします」
彼女はそういうと魔法陣のなかに入り、この場を去った。
ここからだと、もうパナンじいさんの家が見える。真悟たちは、やや緊張した面もちで、彼の家に歩みよって行く。
到着すると、美希がドアをコンッコンッ、とノックする。パナンじいさんは、笑顔でみんなを出迎えた。
「よくきたのう。まあ、なかへ入って座りなされ」
真悟たちはテーブルを前に、おのおの椅子に座った。
これから話そうとしていることが重大なことだけに、妙に気が重い。しかし、いつまでも黙ったままの状態でいるわけにはいかない。
美希が思いきって、口火をきる。
「おじいちゃん、あのね、このまえザノーアに行ってきたんだけど」
パナンじいさんのニコニコした顔から、笑みが消える。
「王女様と、国王の話をしてたんだけどね」
ここからが問題だ。ふつうに、ザノーアに帰るように話したところで、このお年寄りが素直にしたがうとは思えない。
アリッサがベストな方法を知っているにちがいない。しかし、アリッサはなんのヒントも与えてはくれないことは、もうわかっている。
──どう話せばいいのか……
美希が考えている矢先に、武がストレートに突っ込んだ。
「じいさん、あんた、ザノーアの国王だろ?」
あまりにも直球ど真ん中の武の言葉に、となりに座る美希が恐い目をして、武をにらみつける。
直球すぎたことは確かだが、愕然とした顔になり、ピクリとも動かぬ石像と化したパナンじいさんの様子は、武のいったことは真実であることを物語っている。
パナンじいさんは、動揺しながら返答する。
「わ、わしは、ザノーアなんか知らん。行ったこともないし」
マリナが優しい声で説得につとめる。
「ザノーアの国民は、国王様に帰ってきてほしいと願っているそうですよ」
それを聞いても、彼はシラをきりとおす。
「ザノーアの国王なんて、知らんもん」
桃子も、理解を求めるように話しかける。
「わたしたちは、ザノーアの王女から話を聞いたんだ。彼女は、あなたの娘だろう。あなたは、自分の娘に会いたくはないのか?」
さすがに「娘」という言葉には、パナンじいさんもビクッと反応する。それでも彼は、まだがんばろうとするのだった。
「エルレアは、わしの娘じゃない。そんな娘、わしは知らん」
思わずボロが出た。すかさず、真悟が突っ込む。
「王女様の名前が『エルレア』だと、なんで知っているんですか?」
パナンじいさんは、目を見開いた。しまったと思ったものの、もう遅い。彼は必死で頭をはたらかせる。
「こ、このまえ、小鳥さんがわしに教えてくれたんじゃ。ザノーアの王女の名前はエルレアだと、教えてくれたんじゃ」
美希が、残念な顔をしていった。
「ラディストスの小鳥は、言葉を話すことはできないわよ」
パナンじいさんは冷や汗を滴らせながら、必死で粘るのだった。
「て、テレパシーで教えてくれたんじゃ。言葉ではなく、テレパシーで」
マリナが、かわいそうな目を彼に向ける。
「ラディストスの人々は、テレパシーを使えません。テレパシーを使えるのは、ザノーアの国民だけだと思いますが……」
パナンじいさんは呆然となる。
武が、しびれを切らしたように声をひびかせた。
「じいさん、こうしようじゃねえか」
なにをいうかと思えば、武はとんでもないことをいい出すのだった。
「俺たちと戦え」
みんなが一斉に武の方へ顔を向ける。できるだけ穏便に、話し合いで事を進めようと努力しているのに、それを一気にぶち壊すのか。
憤る美希が、武に吠える。
「武っ、あんたねえ!」
武は美希に顔をよせて、ボソッと伝える。
「心の傷が、深すぎる」
武は、けっして無神経な男ではなかった。
「これ以上、話し続けて説得しようとしても、じいさんの傷口をひろげるだけだ」
「…………」
「そうなると、連れもどすのは難しくなるぞ」
武の正論に、美希は言葉を返せない。
「戦うしかねえんだよ。やるしかない」
武は、パナンじいさんの方へ向きなおった。
「じいさん、俺たちと戦えよ。俺たちが勝てば、ザノーアへ帰ってもらう」
しかし、パナンじいさんは武の誘いにのりそうにない。そこで、武がわざとらしく挑発する。
「このまえ、賢者の秘宝が盗まれて、けっこう大変だったんだぜ」
「…………」
「まあ、あんたの娘が、またザノーアのみんなが、どうなろうが知ったこっちゃないってんなら、そのまま自分だけ平和に暮らせばいいだろうけどな」
そのときだった。ドンッと、パナンじいさんから、ものすごい威圧感が放たれる。
真悟たちは、思わず椅子から立ち上がった。
「おぬしらに、なにがわかる……」
パナンじいさんの身体が、ズオッと青白い炎に包まれる。魔道士のオーラだ。
アリッサは思った。
──虎の尾をふんだわね
パナンじいさんの声が別人のように変わり、凄味を帯びてくる。
「わが魔法に巻き込まれた多くの同胞……そういう彼らを失った、家族の者たちの悲しみ……それを悲嘆する余の想いが……」
彼の身体が、ズズズッと徐々に大きくなる。
「おぬしらに、わかるというのか」
押しよせてくる威圧感が、半端ではない。リアルでも感じたことのない威圧感は、身体の芯にまでとどくほどに強烈である。
桃子は戦慄を覚え、背中に冷たい汗が流れる。
──眠れる獅子を起こしたか
ザノーアを統治してきた者として、すべての国民を守ってきた責任感。その両肩にのしかかる、様々な重圧をはねのける強靭な心の強さが、ビリビリと伝わってくる。
──これが、国王たる者の存在……っ!
パナンじいさんは、その面影が完全に消え失せている。
みんなの前に立つのは、二十代後半に見える若々しい姿をした、ザノーア最強の魔道士アールドットだ。
「よかろう。余を、ザノーアに連れもどしたければ」
ひときわ強い威圧感が、ズドンッと体当たりするかのように、真悟たちに襲いかかる。
「かかってくるがよい。ラディストスの勇者よ!」
みんなは、戦闘フィールドに移行する。




